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昇級11





何をするでもない、

ただぬくぬくしながら読書をするだけだ…



玄武には早く休めと追い返した…

昨日早く寝ろと言った筈だが、やはり舞踏会や誕生日会の事後処理に加え通常業務で立て込んで居たのだろう。


繕い切れていなかった…

玄武程の力量を持っていても、俺が察することが出来る程の…うっすらとだが隠しきれない疲れが顔に滲んでいた






対して俺は早めに寝たせいか、疲れが取れて居る。



…これ以上、

疲れているのに手間を…俺の我が儘の為に手間取らせてはいけない。


心配させてはならないと、

八咫に褒美をくれてやってからは心にそう決めたのだからと言い聞かせて…

身体を休ませている。


その後、交代の狢が来てからも

軽く軽食を摘まみ気分を切り替えるために風呂に入り…

ベットに逆戻りしてタオルケットの肌触りを堪能しつつ、

教本片手にゆっくりと昼食まで寛いだのだった







「貴台」


「もうそんな時間か」


楽しい一時は直ぐに過ぎ去っていく、

父上の呼び出し…嫌なものは嫌だが行かなくて済む事ではない。


溜め息を吐きながら…

傍で待っている侍従のためにもと、緩慢な動きでベットから這い出せば…

手際よく狢の手によって着流しから、

仕立ての良いシャツとパンツに着替えさせられる。




「狢、川獺のあれを着ていく」


「畏まりました」


クローゼットから持ってこさせた、

川獺が作った吸血鬼仕様の外套をガウン代わりに腕を通す。

これで、父上の前に身を置ける格好になる…

少しラフではあるが、

屋敷の中だ…問題はないだろう



そう、

支度が出来上がってしまった…

仕方なく、

…気が重くも父上の書斎に足を向ける


付いてくる侍従に…

そう言えばと口を開いた。





「昨晩は伝言有り難う」

「いえ、容易い御用でしたよ」


担当侍従のうちの一人に言っておけば、

あいつにも伝わる筈だとそう狢に言えば…

やはり即答で返ってくる。


会の片付けやらで忙しいなかでも、

思った通り…コミニケをしっかり取っていたらしい…な



「そうか、ああ…昨日の今日で皆…仕事が溜まってるんだろ?

どうせ父上は夕食まで解放してくれなさそうだ、その間やるべきことをしておけ…玄武にも言ったがお前も休息が足りていないぞ?」


「…貴台もその様にお見受けしますが?」


流石、

俺の主治医兼任だ…

顔を見なくても分かる、

ついてくる狢の…その後ろから聞こえてくる返答の声は刺々しい。


はあ…

しらばっくれたとしても、

疲れが取れていたとしてもだ…

俺の体調があまり思わしくないことは隠しきれはしない…


だが、

父上の呼び出しを止めない。

…恐らく、俺の限度は越えていないと見ている筈だ




「疲れが完全に取りきれていないのは分かっている。

それに…俺が倒れた時、お前まで倒れていたら駄目だろうが」


「その前にお止めしますが…

まあ、私めへの心配は有り難く頂戴致しますよ」


「そうしてくれ」



きっと、

呆れながらも笑ってくれているのだろう。

刺々しさが消えた…

振り返りはしないが、肩を揺らしているだろう雰囲気を後ろから感じる…


俺は良くてお前には許さないと、

その理由がこんなことでは面白くて…そして筋が通っていない言い草、普通ならば腑に落ちはしないだろうそれ

…だが俺がそう言えば説得力はあることはお互い分かっている






「もう戻れ、ここまででいい」

「畏まりました…」


扉の前、

言い放てば言葉の通り引いていく気配



「狢…夕食は弟が喜びそうなものにしてくれ」

「くふっ…承知しております」


振り返り、

忘れていた事を伝えれば足を止めて此方に直る。

その表情は…

そう俺が言うことが分かっていたような口振りだった








…コンコン


「…父上、失礼しても宜しいでしょうか」


八咫の姿が見えなくなってから、

いつにも増して重厚に見える…

時に威厳すら感じるその扉をノックすれば返事代わりにそれは開いていく



…正面に座る父上

執務室の机、

そこに座している…


やはり公的な事だ。

私的な事で怒られることならばソファーに座っている筈


…今回はそうではない。

ならば、やはり昨日の件での詰問か。

王族や、例の令嬢の件について…俺が制御を外れ傀儡と成り得なかった部分について把握するのは至極当然のこと。

眉間に皺を寄せて手を組んでいるのは…


叱られるにしても、

あまり良くない兆候だ




「…父上」

「あれだけの振る舞いをしておいてお咎めがないのが不思議でならない、寧ろ不穏ですらある」



腕組みをしながら、

眉を潜めて俺を刺すように見つめてくる。

開口一番の言葉がこれか…


いよいよ、不味いことになった…




「王族の件でしたら、もう対価は払いました」

「ほう?」

「図書委員になれとの条件で、壁になってくれると…」



入室してから下がりかける頭をとどめ、

正面を切って受け答えするも…父上の目の鋭さは増すばかり。



…怖い、

逃げたい


だから父上、

後悔するって…

そんなこと分かりきってた筈でしょうに…


俺みたいな不出来な息子、

会に出させる判断に間違いがあったと…やはりそう思っているのだろう

後悔、

なさっているに違いない。



意地で、

必死に上げていた筈の…保っていた頭が容易に落ちていく…








「…図書委員、だと?」


「はい、学園の書庫に本を借りに行くたび、前々からならないかと御声はかかっていましたが…

勉学に割く時間が無くなるからと辞退していたのです」


「司書と学生の立場であるからと、断っていたのか…

そうか、奇特なあの御方のことだ…それ以上でも以下でもあるまい」



溜め息を吐きながら安堵する気配、

その雰囲気に恐る恐る面を上げて確認すれば、頭を抱えつつも鋭さは消え去っている…


やはり一番の悩み事はこれだったようだと確信を得た

一山越えた、か?


少なくとも、

取り敢えずの溜飲は下がったようだ…





が、これで話しは終わる筈がない。

厳しい顔つきは保たれたまみ…ならば次は夜会の件、

令嬢か…



「御令嬢のことは陛下からお聞きと思います。

御命令通り、踊りましたが…何かあったのですか?」


「陛下からは何もない…

ただあの御令嬢の申し出を断ったのだろう?一旦返事を持ち帰りもせず、よくも独断で判断したものだ」


「猶予を頂けましたので…

次は持ち帰ります、今回のみは…しがらみや家の圧力なく私の意思を尊重した返事が聞きたかったようです」




「…そうか」


「っ、はい」


嘘だ…

そう提示される前に俺は口に出した。

否定する言葉を口にしていたのは事実…

確かにあの場で令嬢は権力は使わないからと返答を俺に促した、

が…その前に俺は口に出してしまった。


自制出来ずに、

結婚する気はないと…"貴女(あの令嬢)と"とは言わなかったものの、

する気はないと言ったのだから断ったも同然



訝しげに、

間をおいてそうかと確認するように父上は聞いてきた…


…つい、

そうだと保身で答えてしまった…





「まあいい…格上の、それも容姿端麗才覚に恵まれた御令嬢だぞ?

何故断った…」



冷や汗が流れる…

それを拭うことも出来ず、繕うことも隠すこともなく額から汗が滲み…

頬を伝っていく感覚。

父上の目に、

それが映っていない筈はない…


視線が、

俺の汗が伝う触感の動きをなぞるように動いた。





「っ…それ、は」

「それは?」



…間髪入れず、

良い淀む俺に猶予を…口を紡がせる気はないと催促する言葉




空気を裂くように放たれた、

その攻撃に回らない…回したくもない思考を稼働させていく…


確かに、

家柄も令嬢自身の資質にも折り紙付き。

婿に…

この男爵家と縁続きに伯爵家がなれば利は多いだろう、

次男の俺をそのために行かせるには最適…


それも申し出は相手からだ、願ったり叶ったりの好条件。

それでも断ったのは、

二の次でも断れたのは…社交辞令であれど俺の意思を問われたからだ。

そして、

次はそう行かないことも

父上とて当主として適切な判断で俺に了承の返事をするように仰られる筈…だ



それでも、

我が儘だろうと…

一度は断りたかった。

僅かでも、

猶予を引き伸ばしたかった…


そう…

それは…



「結婚する気がないからです」

「なれど…」


言い淀む父上の声、

それはそうだろう…格下の当主が断れる筈もない。

正式に相手の家から申し出があれば、俺を婿に差し出すしかない


…あの令嬢は、

別れ際にまた機会があればと言ったのだから。


そして、

その機会は貴族社会では一般的に…上の者が作り出すものだ

今回は、

伯爵家が男爵家に対して…




「分かっております…家のためならば、喜んでこの身を御使いください」

「オリゼ!」


「…申し訳ありません、

次はないと分かっております」


声を荒げる父上…否、当主に

深く、

深く腰を折って頭を下げる。




…相手の当主に、

何か言われたのであろう。

このように荒げた父上の様子から察するに、

やはり小言で済む訳がなかったのだ…


例え令嬢が…

家柄を使って答えを強要してこなかったとは言え、

それを娘を可愛がっていると評判の当主が好ましく思う筈がない。




何か圧力でも掛けてきたか?

次は息子の俺に、

必ず色好い答えを言わせろと…でも父上に強要したのだろうか…




「頭を上げなさい…」


「…はい」


「大事にはなっていない、

確かに手間を食いはしたが…思い詰めることはないからな?オリゼ」


「申し訳ありませんでした」



「はあ…仕方の無い愚息だ。

彼方の当主は本人の意思に任せると言ってくださった、

面目を潰されたにも関わらずな…だが次はない。分かっているな?」



「…っ、承知しております」


「どうやら勘違いしているな…

私を通して断りなさいと言っているんだ」






…勘違い?


断れ…ん、断って良い?

は?


父上を通せば、

今後も断れ…大事にはなっていない?


何故?



「…父、上?」


「伯爵家の当主が、

その令嬢とお前の意思に委ねると言っているんだ。

令嬢にも言っているそうだ、オリゼを初等科期間に手に入れなかった場合は指定の者と婚約することを条件にしていると…」



「あの…父上は良いのですか?

血の繋がりを持つには最適な「なんで私が怒っているのか分かっていないようだな?」…はい、断って良いのでしたら何故…」


「色恋に興味を持て…少しは己の身を大切に扱いなさい」




「は、…い?」


この人は何を言い出すのだろう?

色恋等、政略結婚をする上で邪魔以外の何物でもない

それを勧めてくるのが当主であれば、

理解に苦しむ…家のためならばと言っても怒られる

手順さえ間違わなければ断っても良いと言う…


己の意思を通して申し出を断った…

それは己の身を大切に扱いなさいと言ったそれには当たらないのだろうか?






「結婚をする気はないと、令嬢に対してもそう言ったそうだな?」

「…ええ」


「好きな相手でもいるのかと思ったが、それもないようだ」

「その様なものにかまけている暇は御座いません」



怒っている、

それでも当主の顔は無くなった。


…ならば、

何故?


何故?


大事にはならなかったのだろう?

それならば、何故こんなに父上は怒っているのだろう…

そんな、

俺を心配するような顔で怒るのだろう…





「…お前が良いのであれば、断った事に怒りはしない。

だが、何故結婚を生涯しないと迄…何故その様な啖呵を切った?」

「必要性を感じません」




確かに…相手方は俺の非礼を許してくれた、


だが、それでも令嬢に猶予はまだあると言うのに。

次に確約を求められた際にも、

父上は断っても良いと…そこまで許しを貰ってきたらしい。

伯爵家の怒りを、

買うことも…そのリスクまで背負いこんでまで…


だが、

それはそれ。


父上は…あの令嬢が俺を容易く諦めるとは思わないらしい、

初等科を卒業する迄…まだ数年残っている。


…その間、何度断ることになるのだろう?

許しを得たからと言って、

何度となく断れば…怒りを買うことは疑いようがないじゃないか

そう、

リスクはどんどん大きくなっていく…

そして、罷り間違って俺が令嬢の策に落ちて結婚すれば…

結局は結婚せざる終えなくなるのは変わらないのではないか?






「今そうであっても、もし今後したくなるような相手を見つけたらどうするのだ…

相手方には上手く撤回しておいたが…断り文句がああであれば、本当に出来なくなっていたのだぞ?」

「構いませんでしたのに…」




…見つけたとしても、

それはただの邪魔になるだけだろう…

あの令嬢と結婚することに変わり無い、

もし恋情にかまけることがあればそれは障害になるだけだ…



この人は…何を考えているのだ?

そもそも、

父上は男爵家当主として願ったり叶ったりではないのか?


色恋など、

貴族子息に…利益がある相手ならば時期当主ならば万が一に許しても

…家の繋がりや、

利を堅牢にするために次男以下にそんな家と結婚させるのは普通だろう?




結論、俺はきっとあの令嬢と結婚せざる終えないのだから…


ならば…

ならば、結果が変わらないのであれば…リスクは取る必要がない。

そして…色恋に興じろなどと

相手方の婿になる俺がそんな行動を取れば眉を潜められる。


俺が、もしも…もしも万が一、

そんな邪魔で無駄な感情を持てば面倒なことになると想像に難くないだろうに…

だから…

今…父上は

ただ、一言俺に命じれば済む話。


俺の万が一にも起こり得る失意と、

令嬢と婚約や結婚する前に浮き名をとどろかせる前に。




それなのに…




「もしや、次男が子を成しては問題が起こるとでも思っているのか?アメジスに遠慮した行動であると言うならばまた部屋に閉じ込められるぞ?」

「…それは父上が伝えなければ済む話です」


…考えなかった訳ではない

だが、それが主軸の理由ではない。


だから、

…否定もしなければ嘘にはならない。


そして

問題にもならない筈…




「あの会場で…お前から少し離れたところでアメジスならば同席していたが?

そして、会話の内容を聞いて出した結論は…俺と考えることは同じだった。否定しないならばやはり推測は当たっていたな」


「っ!」



…不味い

兄上、が聞いていた?



あの場に…

テラス近くには誰の気配も無かった。

姿も無かった…


その上会話の声も響かないようにしていた、

そして届きえる範囲には、常に人影や気配がないか注意を払っていたのに…



「因みに…今も隣の部屋にアメジスは居るが?

俺がオリゼに苦言を呈するだけでは理解しないと言って、聞かなかったからな…まあ、それは承知していたが…甘くしすぎるのも良くないことだと思っていたところだ、この(あと)のお前の処遇はお前の兄に引き継ぐ事にする」



「…っ父上」

「叱られてきなさい」



…ああ

先程ついた嘘が、

バレる…いや、そもそも父上にもバレていた…


先程、そうかと…

確かに父上は流してくれたが、兄上が流す筈がない。




怒られる…

いやだ、


いやだ…

でも、それは仕方がない。

俺が悪いから…


それよりも問題は、

何も悪くない弟を悲しませる事になるのだけは避けなければ…


…兄上の叱咤で部屋に閉じ籠られれば数時間で済む訳がない、



これでは…約束が反故になる

ジェイデンとの、夕食が…


玄武曰く…弟が楽しみにしていたと言っていたその時間が…失われる。

狢に弟のためにと好物を用意させた手間隙が、

疲れているのに指示したものが無駄になる…


心配を掛ける、

手間取らせてはいけないとつい先程心に決めた筈なのに…

口も乾かぬ内にこの様だ、


情けない…



情けない…


それに弟は悪くないのに…


俺が、

俺が悪いばっかりに…





「…父上」

「なんだ、オリゼ?」


「今晩…夕食は弟と約束しているのですが、それは叶いますか?」

「知らぬ」



「父上!」


「お前が弟を可愛がるように、アメジスもお前を可愛がっている…少々過度にだがな…お前はお前の幸せを掴みなさい、それが成されるならばアメジスの行動を止めはしない」


「…父上」


「入ってきていいぞ、アメジス」



恐怖で身体が震えていく


気付くことが出来なかった、

父上の寝室の扉がゆっくりと開かれる…



途端、

反対側の…通路に続く側の扉に視線が動く

一歩、


そう…

そちらに逃げようと


回避しようと足が動いた





「…っい…っ」


痛い…

動けない


濃度の高い、

魔力が背中から当てられて足が止まる





「逃げない、オリゼ駄目だよ?」

「っ…あに…上」


反射、

駄目だと…悪手であると知っている。


身をもって分かっている筈なのに身体が動いた、

掛け続けられる圧力が増していく


学園で、

錬度を上げてきた…

自衛するために魔力を纏っていくも、

それを越えてねじ伏せられていく…敵わない


努力、

したのに…敵わない




「…やはりそうでしたね」


「聞いていたのだろう?」


「オリゼは変わりませんね…」


「そう言ってやるな、

少しは変わった所もあるだろう?」

「…まあ、少しは成長したようではありますが」


「魔力操作か?

いや、言いたいのは素直にならないということだろう?」


「ええ」


「大目にみてやれ」

「…善処、致します」


「しないつもりか…」

「オリゼ次第ですね、父上もお分かりでしょう?」



「…話は終わった、連れていっていいぞ」


「有り難う御座います、父上。

では失礼します…オリゼ、いこうか?」







「…」


「オリゼ」


いこうかと、

そう言うと共に兄上からの魔力圧力が止められる。

視線の先に、

黙っていれば兄上が姿を現す…

そして、俺の名前を呼び…それと共に俺の方に手招きをする。



いつの間に…?

…いつの間に控えていたのだろうか?

これまた、

気配も姿もなかった筈の白虎が扉を開けて兄上の進路を確保している…




…行きたくない

ついていけば、この身がどうなるかなんて想像が易くつく。

怒られるのだ、

兄上の部屋から出して貰えなくなるのだ…


そんなの…


そんなの、嫌に決まっている!






「…父上」


自由の利くようになった

身体をギシギシと動かしながら顔を後ろに向ける


助けを求めて口を開き…父上を仰ぎ見ても、

頭を横に振るだけで止めてくれない。

何されるか分かったものではない、

それも部屋に閉じ込められるぞとまで言ったのだ…兄上にその許可を出したに等しいのだ。




「父上…」


「オリゼ、行きなさい」

「いや…だ、

夕食後ならば…何でも言うことを聞きますから…」


「…」


…黙殺、

今度は首を振ることもなく、言葉も発することなく父上の視線に射される

決死の言葉を、


言いたくない言葉を口にしたのに…

弟の、

狢達の為に…頑張って言ったのに…




「駄目だよ、

それでは仕出かした事に反省することが出来ないだろう?

己の失態が、何の悪さもしていないジェイデンの楽しみを奪うと…類が及ぶ事を覚えさせることにはならないからね?

ですよね、父上?」



「お前は…まあいい、

そうでもしないとオリゼは反省しないだろうからな」

「ええ…父上方の、そして俺の心配も省みれないでしょうからね」


「はぁ…まあ、お前の好きにしなさい」

「有り難う御座います、父上。さ、オリゼいこうか?」




「…いかな「オリゼ…魔力も切ってあげたんだ。動けるだろう?此方においでと言っているんだ、分かるね?」…うっく」




「…っ」



父上は、

…傍観に徹する様だ。

すがるように目を向けても、首を横に振るだけ…

俺の味方は何処にも居ない…

…針の(むしろ)とはこの場の事を言うのだろう…な



そんな俺に、

いつまで経っても動かない俺にしびれを切らしたのだろう…

兄上が、

出口の扉から此方に近づいてくる…






「オリゼ」

「…」



「…オリゼ」

「…っはい」


遂には、

…肩に手を回された。

ここまでされれば逃げることも出来るわけがない、仕方なく…


…仕方なく、

兄上に付いていったのだった








「オリゼ?

そんなに警戒しなくても酷くはしないつもりだよ?」

「…そう…であって欲しいですね」


「可愛いげがないなあ…いや、それでも可愛いけれどね?」




ここに来るまでに、

ゆっくりと歩いた…


弟を落ち着かせる為に、

素直になりにくいオリゼの口を開きやすくするためだ。




その甲斐があってか

通された部屋で、ソファーに座る弟


大人しく、返事もするし…

逃げもしない。

出された紅茶に手を伸ばし見慣れた琥珀糖を摘まむ姿はここ数年前よりも成長し精悍な顔つきになってきた。

学園での経験も、

勉学に励み知識もついてきたらしい…



父上の言う通り、

そろそろ色恋に興味をもっても良い歳だろうに…

全くその様な噂も行動も見受けられない所を見るとなにか理由があるのではと邪推してしまう


俺に遠慮して…

先程の父上の問いではぐらかしたのは御家騒動の懸念。

それは一つにあるのは分かっている…

当主相続の原因になるかもと子を成さない為だと言う理由は除いてだ。





「それで?

貴族社会に留まりたくないと、結婚したくないことは薄々感じてはいた。

だけどね、…結婚相手は貴族の御令嬢に限ったことではないんだよ?」

「それで…も、するつもりはありません」


「どうして?」

「どうしてでも、です」




「父上も言っていた通り、俺に遠慮してならば怒るけれど?」

「…それも1つの理由であることは否めません」


「なら、他に理由があると言うんだね…それは何かな?」

「…何故、

何故兄上に言わねばならないのですか!」





やはり、頑固者だね…

確かに何も事が起こらなければ、

起こさなければ…俺に言う義務は無いけれど。


聞かなければならない、

今回の件がまた起こるとなれば父上の叱責も大きくなるだろう…

今のうちに把握しておかなければならないのだ。

だから、

それもあって父上はオリゼが"それ"をまだ言い出しやすいようにと俺に預けたことは…

この愚弟には分かっていないらしい。



…いや、

分かっていても同じ行動をとるかな?

その反骨精神を湛えた目付きは、

やはり折ってやらねば口を開かないだろう

ここのところ素直になってきたと思ったのにね…

仕方ない



「そう…手加減しようと思っていたのにね、

青龍、試してみたいことがあるんだったな?」

「若…許可を出して下さるのですか?」


「良いよ、好きにやって構わない」

「有り難う御座います」



そう指示をしていれば、

不穏な動きと霊力の発現…

体に纏い始めたその行動は、口を紡ぐ覚悟があるという示唆


余程言いたくないか、

俺の怒りを買うような事だろう…

だけどね、武力抵抗をさせるわけにはいかないんだよ?

しても良いけれど…

それに正攻法で対抗する手段はあまり取りたくない。


力を付けてきている弟に、

万が一にでも傷1つ付けたくない…




「…ああ、1つ言い忘れていたよ。

抵抗しなければジェイデンとの夕食は確約しよう」


「兄…上!?」




「俺としてはどちらでも良いけれど」

「…ちっ、しなきゃいいんだろう?

酷く結局はするんだろうが…やりたきゃやれば良い」


一瞬怯んだ…

発露しかけた霊力も収め、手も外套から引き抜いて膝に直った。



が、その代わりに繕っていた言葉使いが元に戻るのは面白いね?

その虚勢を矯正させれば、

少しは素直になってくれる…無駄なのにどうして反発しなければ気が済まないのか…

そこが可愛いとも言える俺の感性も、

ブラコンと言われる所以なのかもしれない




「ふふっ…だそうだよ?」

「では…オリゼ様お手を」


「抵抗しない事と協力的であることは同意ではないな」


「またその様なことを…まあ良いでしょう。

好きにやらせて頂きます」




攻撃的な青龍が、

どうするのかと思えばこれは拷問に近いかもね…

決して傷が付きはしないけれど、

長時間耐えられるものでもなさそうだ。



「流石は青龍…鬼畜だね?」


「そうでしょうか、手心は加えたつもりです。若の大事になされている方ですから」

「そう?それでもこれは…まあもう涙目になっているのを見ると落ちるのは早い、それが長時間苦しませないと言う思いやりかな?

青龍、手腕…見せ所だね?」


「…御満足頂ける様、腕を振るいましょう」


その青龍の言葉にびくりと…

体が反応するオリゼを見ながら、

甘い砂糖菓子を摘まみ口に広がる甘味を堪能した。




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