表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/300

学園




正直…


…戻ってこれるとは思っていなかった

昨年度一年間過ごした場所が、

見慣れた光景がそこには広がっている


そして何日間かぶりの日下…

心地よい風と日向(ひなた)

それを全身で感じながら、感慨にも似た感情に身を任せていれば


「オリゼ、置いていくぞ」

数歩先に歩き始めていた殿下の声にハッとする


「…はい」




歩き出せば、

もう社交的にも噂にも広がっているのだろう

周囲を見渡せば同じく始業式に向かう学生達…


その中に混じり進んでいく殿下

名前に反応したんだろう…

居心地の悪い訝しげな視線に晒されながらも、後ろを付いていく



気にしないようにするのは難しい

噂になっていることは、

表立って悪口や行動を起こしてこないのは殿下が目の前にいるからだ…

その視線も空気も、

俺に分かって殿下が感じていないわけはない。


それでも躊躇なく、

背中を見せて進んでいく姿に俺も続いていく





「オリゼ」

「分かっております、殿下」


声を掛けられた、

講堂に着いたからだろう…


少し俺の様子を伺って、

自身の席に向かっていくのを眺める

組が違うので俺と殿下の席は離れていて遠いのだ。


強くなる視線

それに晒されても何も回避する手段はない

ここに連れてきた意図は、出席しろということ。

欠席はさせてくれないらしい…

まあ、

ここで逃げれば噂は更に長引く上、

俺の評価が、学園での生活態度も評価に含まれるクラスが上がる可能性を少しでも上げたいのだろう…

初めから回避すれば、

今学年…俺の心的な覚悟がなくなると、足を引っ張るだろうと殿下は知っているからか…

難儀なことだ、

出来の悪い友人…加えて侍従にしてまで俺の事を気に掛けている。

自分自身とて、

色々と手一杯なこと…いや、そこまではないか?

皇太子として十分であると、

そして何処かで余裕があるから陛下が俺と過ごすことを認めたのだろう



仕方ない、

始業式を済ませる…か。

新入生として去年はまだ僅かに希望をもってここに座っていたな…


一つ学年があがって、

在校生側に俺の席はある。

居心地の悪い目が向けられながら、所定の席に座った


目を閉じてただ待つ

時間にして10分もない開始時間までが長かった…

待ち望んだ、

式が始まれば俺から周囲の注意が反らされる。


ほっと、溜め息をついた

去年も聞いたような、

…碌に聞いてなかったから分からない。

そんなつまらない、

教授陣や来賓の貴族の挨拶やらを存分に聞き流しに聞き流せば漸く終わった様だ







講堂から列になって出れば、

クラス章を教師陣が手分けして渡してくる…



褒められるどころか…最悪の生活態度に上がるわけもないクラス

前を見れば受け取った章を皆が一喜一憂している


どこか他人事のように眺めながめていると自身の番




…予想通り

変わらずのKクラスか

刻印されたその文字を確認して胸元につける


寮に向かう人の流れに乗りながら手渡された紙に書かれた寮部屋の番号を再確認

クラスが変わらなければ原則は変わらないとは聞いていたけれども…

やはり変わらない102号か…


と900の使用人部屋2

…さてどちらに向かうかな

2部屋あるとは想像していなかった…からだ。


きっと俺が殿下の侍従になったからだろう

基本的に休みの2日しか使用人部屋は使わないが…


そうもいってられない。

契約上そうでも周りからすれば見習いの紋を刻んでいるのだから…

もう普通のここの学生として、貴族子息として普段から振る舞うことはきっとない。

重くなってきた頭を抱えながら

自室の鍵を差し込む




デスヨネ

なにもない


アコヤは荷物を移動させたと言っていた

…クローゼットも開けてみるもののなにもない

基本的に侍従見習いとして、

使用人部屋で過ごせということだろう…

侍従というのは休みでも何かあれば主人の呼び出しに応えるものだからな



9階に向かうしかない


滅多にいかなかった9階だが、900の部屋に行く訳じゃない

使用人部屋だ。

殿下の部屋を経由して行くわけにもいかない

確か使用人通路が…

一階の俺の自室にも使用人部屋はあるが一室のみ。


そこから使用人通路に出て行けば、

たどり着くだろうと見きり発車したのが間違いだった。





102の使用人部屋から通路に抜けて上に上がるが入り組んでいてさっぱり…


現在地もよく分からない…

学生の部屋とは違って部屋番号もかかれていない素朴な扉が続いているだけ…

それを確認するために片っ端から開けるわけにもいかない。


多分これ以上上がる階段はなかったから9階なのは確か

1階に戻っても部屋番号もかかれていない同じ光景しかないだろう…

自身の自室の使用人部屋ですら戻れないだろう




…寮監に聞けばよかった。 

そう思っていると


通りかかった侍従が驚いたような顔で足を止めた

…そういえばそうか、制服を着たままだった。


「…申し訳ないが1つ尋ねても宜しいですか?」

背に腹は変えられない

見習い以上に決まっているだろう侍従に問いかければ



[…]


「…900の使用人部屋2に行きたいのですが…

分かりますか?

お手数でなければ案内していただけると幸いなのですが…」


固まったままの侍従に言葉を重ねる





[…使用人…部屋?]



「…先日見習いになったオリゼと申します。ご迷惑お掛けすると思いますが宜しくお願いします」

頭を下げながら更に言い重ねる


[…]

更に目を見開いたまま動かなくなった




貴族が使用人に名を名乗るはずがない


…ましてや頭を下げることなど皆無

敬語などほぼ使わない

そもそも自分のことを見聞きして知っていれば尚更

入学してから粗野な言葉使いしかしていないのだから…



「…」

 


[…殿下の見習い…使用人部屋2…]


硬直から回復しつつある目の前の侍従を見ながらどうしたもんかと待っていると

隣の扉が開く




また硬直した侍従が増えるかと目を向ければ…


『…オリゼ、何をしているんですか?』

…漸く部屋の目星がつきそうだ



固まった侍従と自身を見比べながら、

状況が分からないと言うような表情の


…アコヤがそこにいた





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ