昇級10
…
「何かお飲物を?」
「ええ、少しお話でもいかが?」
「…私などで良ければお付き合い致しますよ」
一曲、一曲とその楽しげに踊る令嬢の姿にひきつられ…
当初はワルツだけで終わらせようとしたのにも関わらず、沢山踊ってしまった。
が、それもそろそろやめ時だ…
相手の疲れが出始めた様子に、
漸く躍り終えた何曲目かが終わる間際で踊りながらも声を掛けたのだ。
正直、
こんな誘い文句を紡ぐつもりはなかった、
…そのまま、別れて壁に同化しても良かった。
だが…まだ足りないと、俺を繋ぎ止める雰囲気を隠すこと無く発露させてくる…
その令嬢の意図を組んでエスコートをしている。
フロアの外に掃けながらも、
休憩…
ヒールで疲れただろうと相手の足を休ませる為にも人が疎らな壁際のテーブル近くに手を引かせて貰った
「…先程は、情緒もない誘い方で申し訳ありませんでしたね」
「いえ、多少強引でも良しとされる流行ですわ」
直ぐ傍にはテラスが、
椅子を引いて座らせた後…俺も対面に、椅子に腰を落ち着かせる。
踊り疲れた…
元気な令嬢だ、体力もあるのはきっと鍛えているから。
その手のひらの硬い感触が裏付けている
外の欠けた月を眺めて言葉を紡ぐ、
一瞬吹いた風…生ぬるいそれでも、怒濤の圧力に熱を帯びた身体を夜風が優しく冷やしていくのには事足りている
「お気に召されましたか?」
視線を令嬢に戻せば、
近くにいた侍従の川獺が飲物を差し出してくる。
2つ取って…令嬢にその一つを差し出せば嬉しそうに笑みを浮かべる
…本来、
この様に時間を無駄にしていていい御令嬢ではない。
令嬢としても才覚もあると評判も良かった筈だ、
家柄としても、引く手あまた…
このように俺を相手にしていいものなのだろうか?
「ふふっ…視線を汲み取っていただけるとは思いませんでした」
「正直に申し上げれば…実は助言を頂いて気付いたのです」
「知っておりますわ」
外面、
その為の仮面だけではない笑みを浮かべながら
承知であったと言い切る令嬢…
歯に衣を着せない所は、
好感触ではあるが…俺がその助言を避け得なかったことを考えると少し腹も立つ
「良く、私の人となりは御存知のようで…」
苦笑混じりに、
その手の事に関しては不得手だと…
そして仕方なくこうして踊ったのだと滲み出てしまう表情
…それを隠せずに言っても笑顔は絶えない。
知っていると言うのは…やはり
きっと陛下と殿下、
そのお二方の視線と共に俺が目を向けた一場面の会話を推測したのだろうか?
いや、
俺の負の感情を嗅ぎ取れない筈はない、
ならば予め助言が俺に下ること…そうなることが分かっていた?
それでなければ…
この平静さは説明が付かない。
その助言を…陛下や殿下にさせ仕向けたのは…この令嬢?
…策か?
…いや、
流石にそこまで手はまわさないだろうと、
嫌な考えや、浮かんだ思考を止める…
「人気の貴方様と気付けば気の行くまで踊ってしまいました。
ふふっ…私、一人占めしてしまいましたね」
「それは…私の台詞ですよ。
私の様な者が貴女をこのように一人占めしては、今後夜道が怖くなります」
「ふふ…やはり面白い方、
実際は背中を守って下さる護衛も優秀な侍従もおられるではないですか」
「比喩ですよ、お分かりのとおり冗談でもあります…私の父が雇う人間は誰でも優秀ですから」
「ええ、その様ね。
そして貴方もそれを従えるだけの優秀な御方」
「くくっ…冗談が御上手でいらっしゃる、
本当にそうであるかのように一瞬錯覚してしまいましたよ」
「あら…注目も噂もされていることをお知りではないのですね。その実態を知りたいと思うのは、はしたないことかしら?」
「良い意味合いでは、無いでしょう」
「いえいえ、私と交流のある子爵令嬢が貴方を茶会に誘ったのにと…残念がっておりました。そして私の招待も御忙しく御断りに…
他のライバルの招待も断っていらっしゃらなければ自身に魅力が足りないのかと凹んでいるところですもの」
…成る程、
素行や叔父上の件での悪い評判からの興味ではないらしい。
ならば…利益を求めてか
苦笑が漏れるのを、
顔面を叱咤しながら穏やかな笑顔を貼り付ける。
ひりついた喉元、
脅しとも取れる言い回しにやはり可愛らしいだけではなかったと…
この令嬢の頭の良さと優秀さの評判はここから来るのかと合点がいく
他の令嬢の動向の把握、
俺がお茶会の招待を全て断ってきたこと。
それを棘をひっそりと…
ここ迄…俺を?
いや、そんな筈はない…俺に魅力等ありはしな…っ!
…っ、そうか
俺自身ではなくその周りに興味があるのだな…
ならば、俺を囲い込むその労力と調査、
それに殿下を動かす策まで労したのは…
「確かに私には兄が、そして周囲には有望な子息様達が居られますからね。
…私個人にまで御興味を持っていただき、有り難う御座います」
「…その、謙虚な所好ましいですわ」
その顔に讃えていた筈の薔薇の花弁に、影が落ちる。
棘が引いていく様な表情…
まさか、な…
「…それの根源がどの様なものであってでも、ですか?」
「ええ、勿論です」
暗に俺の周りの友人、
それに近づくために俺に興味を持っているのだろうと含みを持たせて言ってみたが…それに乗る様子もない。
否定もしなかったが…
ただ俺のその言葉を、それを謙虚であると…俺自身の評価をするような発言
…
まるで俺個人に…
本当に興味を示しているように思うのは勘違いであって欲しい。
それに…"謙虚である根源"、
つまり俺がひねくれた原因を暗に知っていると示す返答…
俺に関する噂や情報を入手している、
…やはり下調べがついている上でこうして探りを入れてきているのだろう。
ならば、本来の俺が粗野で貴族然としていないことも…
そして記憶が繋がった、諦め悪く再三招待状を送ってきた伯爵令嬢はこの人だ。
口調や言い回しが、格式を崩した招待状の内容と被る
その茶会は断ってきた。
高級レターセットが無駄になる行為をしてきた、
それはこの人に限らず…誰であっても非公式な学園であるからと遠慮無く全て断ってきたのだ。
招待状普通の子息らしく…令嬢に興味を示していないことも知っている筈
なのに何故興味を持つ?
しがらみ、権力…伝を得るためのこの様な場に興味はない
その上、俺自身には立場的にも素養的な意味でも旨味もない
殿下やオニキス達に近付くためでもないのならば、
何らかのそれ目的があったとしても、
どんな意図で近づいてきたとしても何の利もない筈だ。
何の力もない俺に…
ただ、そうだとしても…
俺とて今はそうでも今後、利用や悪意をもって利用しないとは限らない。
不用意…
弱味や付け込む要素を提供するなど酔狂にも程がある
「失礼を承知で御聞きします。
…何故、手袋を…されていないのですか?」
「流行と言っても納得はされなさそうですね」
「…それが貴女様の答えならば、納得致します」
「そう…単に貴方の興味を惹くためと言ったらどうするのかしら?」
「どうも、致しませんよ…それとリスクを負うような事はお勧めできません」
「私の心配をして下さるのですね?」
「口を紡がせられる些末な相手であっても…
どの様な理由であろうとも気を引く為につけこまれる情報は見せるべきではありません」
「貴方…そうするおつもりかしら?」
「私はただ、この様な手段をとるのは最後であるべき…そうと言いたかっただけで御座いますが…致しませんよ、爵位も継げぬ…しがない次男ですので」
口をつむがせ得る人間、
それが俺だ。
伯爵家の次期当主と、
男爵家の次男…権力差は歴然だ。
俺程度、
相手が本気で俺によって伯爵家当主に機嫌を削がれたと言えば…
たちまち、
近日中に…"不慮の事故"や"病"で俺は今生を失うことになる、な
「思った通りのお人柄…ふふっ、やはりお優しいのですね」
「思い違いでしょう、私はその様な輩ではありません」
優しい…ね、
こうして身を弁えている振りをするのも己が可愛いからだ。
陛下の傀儡になっているからだ…
笑わせる…
心配?
慈善事業?
そんな親切心を持ち合わせるほど俺に余裕も器もない。
…この令嬢は頭が良い、
俺の注意を引く為だけだというならば愚策にも程がある。
俺の弱味を握るだけにしておけば良かった、
…態々、もっと利用価値がある己の醜聞になりえる材料をこれ見よがしに俺に提示する理由はない…
「またまた…社交に興味はなくとも私の利用価値は分かっています。
なれど、注意した上に知らなかった事にしようとする…紳士以外の何物でも御座いませんわ」
「己の身が大切なだけです、上辺だけの言葉を判断基準にするのもお勧めできませんね」
「上辺ならばそう致しますわ、
冷たくあしらいながらも、繕いきれていません。本音から案じての言葉に間違いはありませんもの」
…試された、のか?
その知り得た醜聞を悪用しないかと…
俺の性格を覗き見ようと、甘い罠を仕掛けたのだと言うのか?
ちっ…
腹黒ければ何かしらの手を用意していたに違いない。
口を塞ぐ手段はあると分かった上で、
俺が下手な動きをする人間…性根を持っているかみきわめたかったと?
…
俺は感情が表情に出やすい。
それは有名な噂で事実…
それを踏まえて試金石代わりの罠を与えられたようだ
…何処かで、
侮っていたようだ。
見透かすような言葉に、目の奥を見ているような視線…
鋭く矢継ぎ早に交わしていく会話。
その流れの雲行きが怪しくなってきた…
ここで目をそらせば、
言葉を区切れば…相手に完全に軍配が上がる。
そう、
得策ではないと分かった上で…
思わず視線から逃れるために目を瞑りながら温くなった葡萄酒、
そのグラスに口を付ける
これが見極めならば、
それをクリアしたのならば本題がある筈…
俺に何を聞きたい?
…要求は何だ、
此方から聞くことは相手に絡め取られることだと知りつつも気になってしまう。
ここで話を区切り
逃げ出せば、それが一番の回避策であるのに…
…気にかかったままでは気持ちが悪い
無駄な拘りがむくりと頭をあげてくる、
興味本意での行動を止める理性は働かない…
…
「…本題はなんでしょうか」
「婿になる気は御座いませんこと?」
「はっ…?」
話題を促せば、
相手の土俵に引き刷り込まれたその上で浴びせかせられた衝撃の台詞
表情など、
繕う余地もなく…阿呆面を晒す
「ふふっ…そんなに意外でしたでしょうか?」
「…私は、生涯結婚する気は御座いません」
「ええ、その噂を知った上で御伺いしているのです」
「…それは、御家の…はたまた個人の意思でしょうか」
「敢えて申し上げるつもりはありませんわ、
ですが…父や家柄の持つ権力やしがらみ、圧力を利用して手に入れても楽しくありませんもの…私自身の力で、そして生涯の伴侶ともなればどうせならば心も手に入れたいのですから」
「ならば、先程の言葉を繰り返すだけです。
魅力的な貴女様のことです…他に適任な子息等沢山居られましょう」
「今回は残念ね、少しの時間でしたけれど…楽しかったわ」
「…此方こそ御相手させて頂き光栄で御座いましたよ」
今回、は…
成る程、
家の意向か個人の独断か…それを敢えて言わないのは
家の権威を借りることも出来るということ。
信じられないが、
この伯爵令嬢はその当主に確定でなくてもこの勧誘をする事に了解を得ている。
伯爵家が、俺を婿に迎い入れることを…
次期当主になるこの令嬢の意向を汲んでいるらしい
そして…噂か、
話を通しているのかは知らないが王族の知るところにもなっている。
それは、
突拍子な殿下や陛下の発言から…推測したくなくても出来る。
繋がった…
本人は力を利用しないと言っているが、当主や家は分からない。
そしてそれがなくとも伯爵令嬢が茶会の招待状を出す行為、
それも再三断られても出し続ける行為は噂になる。
…その影響は、本人の力だけではない。
付いて回る家柄も含まれている、
そして断り続けていた俺がこうして今夜、
長々と踊り…こうして会の最後まで話し込んでしまっている。
くっついたと、
俺がこの令嬢に遂に落ちたと噂になっても仕方がない
…絡んだ蜘蛛の糸
からめとられ、食われるのは時間の問題だな…
「また、お誘いしても宜しいかしら?」
「…機会がありましたら、是非に」
心臓に悪い…
分が悪いと"無いであろう本題"を問えばあった本題、
ぼかすことなく突き付けられた言葉
あの言い方…
まどろっこしいやり取りを嫌う事も下調べ済みか?
俺が好むと知っていてあんな貴族らしくない問いかけにしたのだろう。
そして、権力を傘に着る事なく
俺自身の返事を求めたことも…ある意味恐ろしくも好ましい
そうでなければ、
一旦も…額面上で断ることなど出来はしなかったのだから
次もあると、
何の誘いであるかはわからないが世辞であろうと
定型文の返答を返したのは…
少しでも俺が靡く要素があったから。
断ればいいものの、
誤魔化せばいいものの…
次は断ることなど出来ないかもしれないと言うのにな
それでも、
ほだされた
俺も甘いな…
付け込まれながらも、去り際…確かに言質は取りましたよとあの片目を瞑る茶目っ気のある反応に
自然な笑みが漏れるほどには牙城を崩された自覚だけが残った
…
…
「お疲れ様でした」
「玄武」
「ジェイデン様であれば、"舌鼓を打たれて"御休みになられました」
「そうか、ならいい」
「見繕って来ました」
「捨てるには忍びない…出来る限りは本来食べるために奪った命。腕を振るったシェフ達の苦労にも報いなければな」
「貴台…」
夕食代わりのメニューは、
絢爛豪華であれど
歯に衣を着せない言い方をすれば会場の残り物
保存の利かないものから食べるに越したことはない
他の貴族はどうだか知らないが、
その考えは父上達もあるときから理解してくれている
使用人や玄武達侍従だけでなく
父上や兄上もこうして腹を満たしている
母上は嬉しそうに快諾してくれたこともあるのだろう
暫くは茶請けの菓子は
あの膨大な量の砂糖菓子や焼き菓子になる
「何が言いたいのかは分かる、
明日は父上に呼ばれるのだろうな…」
「ええ…午後書斎に来られるようにと伝えるよう言い遣っております」
疲れ切った声を出している。
歩く動作も緩慢で、
お気に入りのソファーに身体を沈ませるだけの挙動も億劫だった…
だから、
そんな俺を早く休ませたいらしいことくらい分かる。
玄武の背後に…そんな使命感とは聞こえの良い。
圧力しかない般若が…幻覚だとわかりつつ、
見えてくるのだから。
「…玄武」
「お召し上がり下さい」
ソファーに沈んで、
目の前に視線を向けて気付く…
部屋に入った時から、
玄武の背景…幻影の般若を見ていた時にも…違和感を覚えていたことが確信に変わる
…無いのだ、
何処にもないのだ。
そもそも、
片付けておけなんて言っていないのに…
言わない限り続きを読むことは分かっていて普段は決して片したり動かさない筈の物
例えここに料理が並んでいたから避けたと言う言い訳は成り立たない。
そう、会が始まる前…
部屋を出る際にはこのテーブルにあった筈の本がない。
見える視界の限り、
…その本だけではなく…そもそも一冊たりとも本は俺の目に映らないのだから。
加えて紙も、
万年筆も、
学園関連の物ですら無い…
そもそも勉学を彷彿させるものは何も…視界に入らないのだ。
「…玄武」
「お気に召されませんでしたでしょうか」
全て書斎の方に片されたらしい
それも、
片すなと指示は無かったことを良いことに無断で…"心配り"で行動したといわんばかりの笑みだ…
そもそも疑問にも思わないらしい、
疑問符をつけない断定…俺が気を召さないなどと言うなんて許していないと圧力を掛けてきているのだ。
「…はあ」
「御疲れですね」
…その疲れからの溜め息じゃないだろうが!
反論する気にもなれない程、
疲れているのは事実だけれどな…
…はいはい、
御疲れですから休みますよ。
そもそも直ぐに休むつもりだった、
本を読んだとしても直ぐに取り上げられることくらい経験上分かっていたから。
だから、
諦めていたと言うのに…
この万全の対策は何だ?
それに、
宿屋での一件から日も経っていない…
…流石の俺だって、
玄武が本気で怒る気配くらい…その前兆は分かる。
…大人しく従うに決まってるだろうが
「分かった、お前も出来たら早く休め」
「畏まりました」
シードルをグラスに注いでいる
勧めてきたそれを煽れば
酒のアルコール分がふわりと脳を包み込み、
爽やかな林檎の香りが鼻を突き抜けていく…
サーモンのパテをパンに取りながら口に含む
次々に、
ストレス解消にも似た空腹を満たすために
手が進む
暴飲暴食…明日の午前は二度寝をしようと心に決める
行動と、視線で察したらしい…
ますます強固な物としたいようだ…
食事を促したのもそれの一つ、
再三に渡る休めと言う玄武の示唆は…その本気度がトドメにシードルを注いだところで身に染みた。
…分かっている、
玄武は滅多に俺に酒を進める事など無いのだから…
注がれるままに飲み下し、
それに頬を緩める傍仕えに溜め息を吐きながらも、ピンチョスを指で摘まみ上げた
…
軽く酒の回った頭で、
寝かしつける玄武をぼうっと眺める。
そうだ…いわなければ
「朝は…抜かない、昼も残り物で構わない」
「承知いたしました。御休みなさいませ、貴台」
「ああ…」
強制的に
ベットへと入れられる、眠らせようとされている…
思惑通り、
酒精と心地いい布団に…
消化に悪いと知りつつも、玄武が俺が夕食を食べて直ぐに
…間を開かせる事なく横になることを良しとしたのは
全ては
疲れた俺を満腹感で眠気を更に誘うため…
体に悪いと、
昔良くやっていた自堕落な行動…あの時はいつも制止をかける行動をとる側であったはずの玄武が
それをするのだから面白い…
よっぽど、俺を甘やかしたいらしいな…
俺は酷い顔をしているのだろう。
鏡を見ることなしに
繕う気力も…心配掛けずに隠す努力も沸き起こらない位に消耗しているのは自覚しているからな…
そう…
あっという間に寝間着に着替えさせられ、
掛布の肌触りと焚き染められた穏やかな香りに顔を埋めて夢へと足を踏み入れたのは物の数分間の犯行だった…
…
…
ベットの中で朝食を済ませ
珈琲を飲みながら、
休日の筈なのに予定を読み上げていく玄武の声に耳を傾ける
「…玄武」
「どうされましたか?」
「いや、どうされたもこうされたもない。
何故弟が此処に来る事になっている?」
父上の呼び出し以外、
特段何もないと聞き流そうとしていた
そんな注意を惹き付ける予定に、訝しげに玄武を睨み付ける
「では今からでも御断り致しましょうか?」
「…するわけないだろう、
それが分かっていても勝手に予定に組み込んだお前の裁量を咎めているんだ」
「大変申し訳ありません」
「…まあいい、こうして午前中はベットから出ずともよい。
その為に午前の父上との用事の後に弟との予定を確保したんだろう?…本当にお前は憎いやつだ。
夕食を一緒するくらいは易いものだと分かっていてな」
「ええ、これでも貴台の侍従ですから」
剣呑な視線を向けても、
気にもしていない…本気で咎めているわけでも俺の勘に触っていないことも分かっているからだ
…まあいい、
言わずとも昨日の晩には無かった本が、
仕方がないと言わんばかりの表情を故意に提示しながらも…
玄武によって用意されていく本を手にとって表紙を開いたのだった




