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進級2




数日が経ち、

香水に対する返礼の手紙も返事が来て落ち着いた。

講義の進捗も予復習の余裕も少し出た頃だ、

オニキスやラピスに催促されていた剣の手合わせをしようと、今日の朝食の際に約束した



その時間までに

…課題等を終わらせてから、軽い服装に着替えて向かう。


もう、日が落ちて数時間は経つ

歩きながら肺一杯に息を吸えば、疲れた頭もリフレッシュ出来る…

暗闇に落ちる空気が疲れた頭に染みる様だった。


歩きながらも数回繰り返せば、

少しぼうっとしていたのも晴れていく…



そして足を踏み入れた昨年度使っていた場所、

時間には少し早く着いたつもりだったが…

二人が既に待って、いや手合わせをし始めていた







手合わせの間

回ってきた順番の後

…その休憩


タコ殴りになるまではいかない…

なんとか合わせるくらいにはラピスの剣にも対応出来る

体力も前より続く


本当に帰省中、2週間だけでも山篭りして良かった。

斜面を駆け上がるより平坦なここで手合わせする方が消耗しない

息も前ほど上がらない

攻めに転じることは出来なくても防ぐだけは出来ている

認識が遅れても体が間に合う程には反応出来るし…ましになった、のか?



ラピスと共に

…変わらずにある大きな丸太に腰掛けて水を飲んでいれば何やら物言いたげな視線が、横…双方から突き刺さる




「オリゼ」

「なんだ?」


「休みの間、何してた?」

「…兄上に剣を見ては貰ってたが、それが?」


「それでここまでなるもんか?なあ…ラピス」

「僕、結構最後の方はかなり本気だったよ?

体力もついたみたいだね…何かやったの?」




「少し山篭りしたくらいだ…その後は皆に止められて走り込みですら毎日はできなかった」

「山篭り…予想の斜め上、それですら越えてくるのは何時もの事だけどね…

オニキス、僕達も…うかうかしてたらオリゼに越えられそうだと思わない?」




「ああ…だがこの差を埋めさせなければ良いだけだろ?こうして同じ時間剣を交えるなら…な」

「いや、オニキスそれは甘いね…昨日の剣術の講義…朝一だった。始まる前から既に汗かいてたよ?」



「はあ?昨日も朝一緒に朝食を済ませただろ…まさか、その後自主練習でもしてたってか?…嘘だろ」

「してたと思うよ…ねえ、オリゼ?」



…まさかってなんだ?

復習を兼ねて少ししていただけで意外なのか…本当失礼な奴

剣が得意でないからこそ、

拒絶していた頃の期間を埋めるためにも

そう行動することは当然だろうとアホ面のオニキスを睨めつける


「睨むなよ、で…どうなんだ?」




「…軽く走り込んで素振りと型を少ししたくらいだ」

「だって、オニキス」


「…二度寝もしねえとか、オリゼ要素は何処に逝ったんだ?」

「オニキス…俺をなんだと思ってる。

勿論二度寝出来るならしてるが、足を一番引っ張ってるのが剣術の講義の評点なんだ…仕方ないだろ?」


「あの自堕落な引きこもりとは思えない台詞だよねえ…」

「卒業したら二度寝も三度寝もする。確実にする…心行くまでな」


卒業したら、

何も気にすること無く何日かは好きなだけ寝る…

二度寝どころではなく、惰眠を貪り尽くす予定だと心に決めているのだ

それだけは譲れない


蜃気楼のような、

俺の今の夢なのだから…




「ぷっ…く…なに真面目な顔でそんなこと急に言うの?

オリゼ笑わせないでよね?」

「そらそうだろ…自制せざるおえないからしてるだけだ。何言ってるとはこちらの台詞だ…本音はタオルケットにくるまって惰眠を貪りたいな決まってるだろ?」



「あー、そうだな。

確かにオリゼはそんなやつだった…最近変貌しすぎて忘れてたがな」

「そうやってニヤニヤ笑うな、オニキス。

仕方ないだろ、兄上は変なところで俺を買い被る…挨拶の際に殿下に相談してみればそれはいいなと煽るだけだった」



「くくっ…自分で自分の首絞めたのか!

確か最下位クラスでなくなれとは言われてたんだったか?見合うクラスになるならそれもいいとかマルコなら言いそうだな?」


「はあ…どうせなら同じ組なるに越したことはないって言われたが?」




「オリゼは抜けてるよねえ…擁護なんてしない、更に追い詰められるに決まってるのにね…マルコはそういう性格でしょ?」

「相談相手を間違えたな?オリゼ…くっくくく」


遠慮もしない二人

耐えきれ無いとばかりにオニキスは笑うし、

呆れながらも吹き出しているラピス

…なんだって言うんだ?

そこまで失策だったかと、思いながら…

そしてその通りだったかと溜め息を付いた






「散々な言いようだな…

それとオニキス、笑ってる暇があるならもう一戦するぞ」

「ああ…分かった。今度はこてんぱんにしてやる」


「どうぞ…簡単にはされないし、そのニヤケ顔をしかめさせてやるからな?」


喧嘩は、

売られた言葉は買うに限る

溜め息混じりに立ち上がった顔はきっと…俺も悪どい表情をしているのだろうかと、

…そう頭の片隅で思いながらも

先に構えて待っているオニキスに切っ先を向けながら面と向かった







結局、

切り結んだ衝撃が続いた

オニキスの力に柄を握る手が震え握力が失われていった

敗因は受け流さず、

相手の剣撃を愚直に受け続けたこと


意地を張っても録な事にならないと分かっていて、

…正面から戦ったのがやはりいけなかった


弱くなった手の力に、

最後は剣を取り零した

握る力が無くなった…


痺れる様な右手を揉みほぐしてから、

玄武に悟られないように感覚を取り戻してから部屋に向かった筈だった






「貴台、お疲れ様でした」


「ああ…」

「…貴台、何故右手をお使いにならないのですか?」

「気にするな」



あまり好きではないが、ハーブをブレンドした紅茶

寝付きが良くなると最近玄武の勧めで寝る前に飲んでいる

が…右手で掴むわけにもいかない。

失念していた…

痺れは無くなったものの力はまだ入りきらない

そんな手で割れ物を扱うわけにはいかないと、

左手で飲んでいたのを…

やはり見過ごす傍仕えではなかった




「着替えの際にも、手が袖口につかえそうになっておりました。

今は紅茶のカップを持ち上げることも避ける御様子…何処に気にしなくて済む要素があると言うのですか?」


「…なんだ、苦言なら聞き飽きた」

「貴台、不肖に手当をさせて下さいませんか?

少し気を楽に…明日の自主練習と夜のお二方様との手合わせは控えてはいかがでしょう」


「気にするなと言った、手当も要らない」

「…左様で御座いますか、ならば不肖にも考えが御座います」




「玄武?」


…?

珍しく食い下がる事を止め、

そして下がる許可も得ず使用人部屋に向かって消えていく玄武に何事かと思う

そして感情が消えた声音に違和感しか感じられない


考えがあるというが…

何か不穏な空気が立ち込めている。

回避するには自身の使用人部屋に行くのが望ましいか…

彼処ならば不可侵の領域


…と、

立ち上がろうとするも疲れも相まってソファーに沈む体は起き上がる気力もない事に気づく


不味い…

彼処まで啖呵を切った玄武の記憶は、

あのときされた事は…




「…貴台、抵抗なさいますな」

「何をする気だ…玄武」


人形の紙を手に携え…戻ってきた玄武の姿にに冷や汗が止まらない

言葉の重みが、そのせいか

目の前が一瞬暗く、当時の光景がフラッシュバックする




「不肖にも我慢の限度というのが御座います、御屋形様から許可は得ていますのでご安心なさいませ」


「やめろ」

「今止めても、貴台は養生されないでしょうに…では講義を御休み下さいと言えば御聞き入れになられるのですか?」


「あ"?何言ってる?

講義まで休めと言うならば、世話される気は毛頭ないし自主練習も休まない、無論オニキス達とも手合わせしにいく。一つとして折れる気はなくなった」



「この状況で…まだそう仰るのですね」

「易々とお前の意見に耳を貸す気はない」

「笑止…捕らえよ」


「阻め!」



霊力が込められた人形の紙達が…

白蛇に変化した式神が此方に向かってくる

魔力操作の上に霊力を込め、

焼ききれるような体内の悲鳴を聞きながらも手元の代用品、

生菓子が乗っていた懐紙を折り形作ったいたそれを飛ばした





…結果は明白

拙い霊力の操作に魔力循環に気をやっているのだ

式神は、

俺の梟は…発現しきる前に沢山の白蛇に糊代ごと掻き消された


その瞬間、

術が途切れる…

使われなかった霊力が反動で戻ってくるなり気が乱れる

魔力すら、

体調を押し止めていたそれすら乱されたのだ

対応する間もなくどちらとも制御しきれなくなった



その隙に…

されるがままに蛇ごとベットに運ばれる




「っ…く」

「…抵抗しても無駄です、そんな憔悴しきった体で式神操ることも、不肖の式神を振り切れる筈もありません。まして、魔力を使いながら使役すれば耐えきれる筈もありません…反動が来ているのでしょう?」

「少し寝れば治ま…っ」


「そろそろ自覚してください…貴台はそれほどまでにお疲れになっているのですよ?」


「…勘弁、だ。講義だけは出席させろ」

「札が足りませんか…ね」


「ぐぅ…今すぐ退かせろ、剥がせ。さもなくば玄武と言えどもただじゃおかない」

「不肖の行動は"当主"の許可、言い換えれば命令ですが…それに異を唱えるのですね」




「…命令だ、と?」

「ええ、貴台が無理をしても看過しろと…"倒れる寸前までは"と言い遣っております」


「倒れは…しない」

「ならば、ここ数日熱があることもふらつくことも御座いましたが限界ではないと仰るのですね?

力が入らないのは剣激によると言うよりも熱が上がったせいでしょう」


「…どうにでもなる」

「魔力操作で症状を軽減なされていたようですが…ほら、証拠にそれを札で止めて見れば目は潤み息も荒く熱い。節々も痛み始めましたか…汗もかいてきましたし、御辛いでしょう?」

「辛くなど、無い」




掛布をかけ直していた手が止まる

滲んだ視界には怒気を放つ傍仕え…

いよいよ不味いとも思ったが、譲れないものは譲れない

評点は出席率も含まれる

それに選択講義は今年も一人きり、教授に迷惑を掛ける度合いが基礎講義の比ではない

そして…兄上にとっては"当然"の結果を出さねばならないのだから…





「何をお考えなのかは推し測れますが、あまり…不肖を怒らせるものではありませんよ貴台」

「かっ…くふっ」


掛布の上でのさばっていたそれ…

ひんやりとした蛇の体温が、遂に玄武の指示でタオルケットの内に滑り込み

体に更にまとわり付いてくる…


蛇嫌いではない、

ただ肌を滑る感覚に…圧力に…

危険ではないと分かっていてもだ

大蛇に恐怖を覚えるのは自己防衛の本能のせいだろう



「肯定されない限り…式神を収めるつもりは御座いません」

「…誰がするか」





「まだ意地を張るおつもりですか…仕方ありません、今からでもアメジス様を御呼びしてきましょうか?」

「兄上は…けほっ…っ呼ぶ、な」


「ならば?咳も出てきたようですが」

「体調管…り、っこほっ…を誤った」


「そうですね、もう起き上がる元気も無いでしょう。

限界であることは一目瞭然…貴台、養生して頂けますね?」

「分か…った」





「…では準備をして参ります」


しぶしぶ肯定すれば…何かを堪えるように目を一旦閉じ白蛇を紙に戻す玄武

しゅるりと…

圧迫された物がなくなれば弛緩する五体

…遅効性の毒に蝕まれる様に、徐々に気力が失われていった。


その様子を、俺を冷ややかな目で映した玄武は何を考えていたのだろうか…退出していった背中を追って眺めても、解はついぞ出なかった


暫く

玄武の言うとおり、ベットに沈んで起き上がることすら

体に力を入れることすら激しくなってきた頭痛と倦怠感、

平常に戻らない魔力と霊力の流れに…

体が更に軋む気がする





「今晩は直ぐ傍に控えていますからご安心下さい」

「…悪い、っごほ、二人に…選択講義の教授に休むと連絡、してくれないか?」

「恙無く行いましたのでご安心下さい」

「そうか…」


「今は御自身の御体の事だけお考え下さい」




熱に浮かされる、

磨耗しきった精神力も連絡すべきそれが成されたと…それを確認すれば最後、プツリと切れ

朦朧とする意識に引っ張られていくままとなった


遠く…

夢か現か

玄武の悲壮に満ちた声が聞こえた気がした




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