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言霊




去年…

組伏せられた場所

絨毯も装飾も同じ設え、同じ式典名




嫌な記憶が蘇ってくる


違うのは…隣にいるグループの皆が顔色を窺ってくる事だろうか

特にオニキスは、心配の色が強い

そう言えば去年もこの場にいたんだろう


白い勲章を皆つけている

つまり…ジルコンもカルサイトも、無論オニキスもあの場面を見たに違いないのだから




そんなこんな考えている内に呼ばれる

…行きたくないと、歩みが重いことを察したのか


他のグループの面子が

…そう、グループ毎に呼ばれる度

順番が近付いてくるに従って視線が落ちていっていた



3人とも俺の前を切って歩く

何も心配は要らないと俺に見本を見せるように進んでいく3人に、

それに続く



「啖呵を切っただけあるな」

「…有り難う御座います」



オニキスやカルサイト、ジルコンに引き続き

陛下から下仕されたそれ

己の力で得られたものではないと言えればどんなに良いことか

言えるわけもないが…


白い勲章を返上して…

代わりに赤色のそれを受け取る


元の立ち位置に戻り控えれば

結果は3位だったらしい。

下位から呼ばれるのを鑑みれば、

俺達のグループより後で呼ばれたのは2グループ


最後まで生き残ったのは殿下のグループとD組の一組か

倒したグループ数では歴然の差があれど、

死ねば意味がない。

解釈が間違っていなくて良かった

やはりそういう判断基準だった





「今後の活躍、この国の未来の中枢を担う素質のある者達だと期待している」


長かった

その一言で漸く閉幕する

…体調は全快とはいかなかった

まあ芳しくないが日常生活に支障は出ない


褒賞の賞金を内ポケットに入れながら、

その重みが、心も重くしていく様な気がしてならない

実家に帰省するのであれば…何の問題も無いのだが

実務は明後日からと聞いている

明日の移動と業務説明を終えれば…

体調も体力も回復できるはずだ


アコヤの厳しい顔を想像しながら、

退室していく列に続きながらも…

明日からの殿下の屋敷での侍従としての役回りについて

…思考に深く潜っていった







……


「ねえ、少しは時間あるんでしょう?オリゼ」

「ラピス…様」


名前を呼ばれてハッとする。

無意識に寮に向かい

思考に没頭していたせいか、

歩みの遅い徒のせいで人も疎らになっている


ジルコンもカルサイトもいない

その代わりにラピスがオニキスと共に…

隣にいつの間にか隣に二人が歩いていた




「もう少し嬉しそうな顔したら?

僕らなんて上位入れなかったんだからさ…オニキスもそう思うでしょ」

「ああ…ラピスのところは白勲章だったな」


「倒したグループ数でなんとかね、

想定していたよりかなり早く、体力的にも精神的にも辛くなった所でD組のグループに遭遇してしまって…」

「強かったのか?」


「強かったよ…同じ状況下であるはずなのに、胆力も気概も比べ物にならないくらい保っていたからね」




「…私の部屋で良いでしょうか、お二方とも」

「うん、オニキスも良いよね?」

「ああ…」


「畏まりました」


近くには誰も居ない

少し遠くには人だかりもあるが周りは此方に注意を向けることなく各々の会話で盛り上がり耳を澄まして等いない

誰も聞いてないのにね…

変なところで頑固。

敬語を使わなくてもバレないよ?


なんて侍従見習いとしての振る舞いを保つ俺の地雷を踏んでくるラピスにオニキスが制止をかけている。

オニキスは何か咎をあの後受けたと、

察しているだろうからな…その目の前で繰り広げられるやり取りを見ながら部屋に戻った






「御疲れ様でした、貴台」

「玄武、悪いが…3人分頼む。俺は軽くて良い」


「心得ております」


心配そうに出迎えた玄武

大丈夫だと目で伝えて指示をくれると、納得したのか準備をしに部屋を出ていった



「明日の準備は済んでるのか?」

「…問題ない、最終確認はアコヤさんにしてもらう手筈になっている。晩飯まで時間はとれる」

「なら良い…」


「で、軽くて良いってなに?体調良くなさそうだけど…」

「ラピス、傷口に触れてくれるな」


何かあると、

薄々原因も分かっていて飄々と聞いてくる度胸は誉めてやる




「あー、責は重かったのか?」

「オニキス、聞いてくれるなって言ってるだろ」

「だってなあ…、あいつらにも聞いてこいって言われたんだが?

気にしてた、殿下と手合わせする羽目になった責任の一端はってな…」


「…聞いたら逆に気にするだろうが、言わねえぞ」

「なら、推測で盛りに盛って勝手に伝えるからな?

それで良いなら話さなくて良い」


「ちっ…録じゃねえこと、吹き込むつもりか。

口枷を嵌められただけだ、ラピス手製のな」

「ん?それだけでこんなに疲弊しないでしょ…慣れてるし?」


買い被りだ…


いや、問題はそこではない

何事もないと、誉めているラピスの感性だ…

二重人格の件があってから、

明け透けになにかを諦めたのか…

俺やオニキスに対して家業の敷居を越えたことを平気で口に出す


…勿論、

口に出すだけだが、それがいつ実際に行う気になるやもと考えるだけでゾワゾワするのだ

大抵…その矛先はオニキスではなく俺だからだ

何もしてなくても、だ



「誰が慣れてるって?責め苦に慣れも糞もあるかよ…不名誉千万だ」

「ねえ、オニキスもそう思うよね?」


「おい、人の話「ああ…思う」…聞けって言ってるだろうがオニキス。

まあ…話せば良いんだろ?」

「なんだ、珍しく口を開くのが早いな」




「お前らにどうこうされる余力は残ってない…

帰省するのであれば問題ないが…これから向かうのは殿下の屋敷だ。

…回避する必要がなければ言うつもりは今でもない」

「…丸くなったね、オリゼも」


「仕方無いことくらい分かってんだろ…歯向かってもどうせお前らに勝てはしないしな」

「勝つ気が無いからだろ…」

「そうだね、本気出せば良いのにね」


何言ってるんだ…

実力云々含めて勝てるわけない。

それにお前らに手を上げることも、どうせ大したことない本気も出すわけがないだろ

勝ち目がない上に、性分じゃねえ…

嫌だが、傷口を抉ろうと聞き出そうとしているのは、

…俺を心配して、そう…想っての行動なのは分かっているから






「…で、何が聞きたい」

「食堂じゃなくここで済ませる気だったってことは、胃の調子でも悪いの?

オリゼのグループは食糧沢山抱えてたから実習での消耗はなかったはず、その証拠にオニキスはぴんぴんしてるしね?」


「その後…口枷のせいで食べれなかったんだよ、2日間何もな。

ああ、多分食べる余地はあった。誤解するなよ?」



「へえ…拷問も良いところだねえ?

それも選択の余地を残すことで更に辛くなる、オリゼは選ばないと分かった上でね」

「不敬の謗りなんだから当然だろ…

同学年で学生で緩くても、もう1つの立場なら甘いくらいだ」



「まあな、律儀なオリゼならそう思うだろうな…

その辺の奴等ならそんな風に思考しないと思うぜ?で、水すら飲んでなかったのか?」

「許しを乞えば飲ませてくれただろうがな…出来る筈無いだろ?」


「お前な…その状態で業務こなしたんだろ?

腹が減るレベルじゃねえ…胃が焼けつくだろうが」

「体面を考慮して、部屋での仕えだけだ。

責がメインで実務は軽いものだった」


業務が軽いものだろうと、

起きて行動していれば胃酸で胃が焼けつくことに変わりはない

それでも考慮はあったと言い張れば、

呆れた顔になるオニキス


「はあ…、平然と言ってはいるが…大事になってないだろうな?」

「外されてから、胃洗浄もしたし玄武の世話も受けた…

今日と明日は着いてから自由時間がある。少し休めば支障ない…そうだな、玄武」



良いタイミングで部屋に入ってきた、

味方に援護射撃して貰おうと…昼食を携えている玄武に話し掛ける



「俺の体調は大丈夫だって、この二人に言ってくれ」

「…貴台が大丈夫と申されるときは、大丈夫でないことが大半で御座いますが」


「支障ないって言っただろ?」

「貴台…支障がないことと、大丈夫であることは同義ではありません」


「玄武…俺の傍仕えだろ、俺の味方の筈なんだが?」

「不肖は公正な判断をしているまでです、無理が当たり前の主人の基準に迎合すれば傍仕えとしての責務を果たせません」


「…」




「くくっ…まあ、このくらい厳しくないと勤まらないだろうな」

「つまり、支障ないってことはやっぱり無理してるんだよねえ。

分かってたけどさ…本当オリゼらしいね」


「それに胃が本調子じゃないことは分かる」

「雑炊ねえ…胃に優しい代表的な料理。

それも粥よりましって評価も判断も出来かねるよね、オニキス?」



オニキスとラピスの言葉にテーブルに目を向ける

どうやら味方から裏切られたようだ…止めの証拠品がサーブされたらしい。


なあ…玄武?

軽いものとは言ったが、誰も雑炊を運べとは言っていない。

この二人にはバレる…

粥が嫌いな俺の病人食、

その映えある一位が雑炊であることは、経験から知っているのに…




「…散々やってくれるじゃねえか、玄武」

「お気に障られたのであれば…咎めを頂けますか」


「あのな…やるわけねえだろ…」

「左様で御座いますか」


当然のように疑問符も付けずに…平然と

サーブを続けながら言う玄武にゲッソリとしたのは仕方無いことだ。

そもそも、サーブを続けながらだ。

俺が責に問わないと知っての挙動…ったく侍従ってこんなものだったか?


殿下の傍仕えなら…いや、

比較するのはおかしいか…だが…と…肩肘を付きながら、頭を抱える。



それも差し出された匙で強制終了ときた

食えば良いんだろ…

そう目の前の匙を受け取り片手で雑炊に口をつけれていた…が




その両隣で、

常食を食べながら…悪友どもが話し始める


優しいねえとラピスが呟き

オニキスがからかうようにやっぱり素直じゃねえなと

けらけらと笑いだした


そんな様子に、

溜め息をつきながらも出汁の利いたそれを口に運んでいったのだった…




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