後期2
玄武がいる学園も…
まあ悪くはない
漸くそう思えてきた
思えば…初年度の数ヵ月は
俺が拒否する前は
調度品はともかく…こんな感じだったかとサーブされる紅茶を飲みながら感傷に浸る
これで二年目ももう少しで終わると、
だからこんな気分になるのかもしれない
学年末の試験も終わった
貼り出された順位も、オニキスやラピスには叶わないものの
前回よりはまし
原因は魔力量、いや錬度の問題か…
運悪く実力試験の課題が攻撃用途として用いられる魔方陣の発動
それが響いた
威力は並
選択講義の教授に言われた効率の問題
…練る、圧縮の自主練習は重ねてきたが、
充分にそれが出来ていなかった
ほぼ、
魔力量に頼った発現…
まだ研鑽が足りないな
錬度も上限に達してはいないし、今後の成長にともなって魔力量にも伸び代もきっと無いわけではない
それに剣術
練習を夜な夜な重ねた結果
下の上にかする迄にはなったが…
…
幼少から手習いしてきた皆とは違う
才能以前に練習量がそもそも違う
走り込み、形の練習
体力、落ちきった筋肉量を取り戻す事も十全とは行っていなかった…悔しい
…それでも今の実力はどの講義の物でも遺憾なく発揮出来た
充分な結果だ。
残るは…
問題は…
はあ…遂に明日か
「…残すは実習だけだ」
「溜め息なんて…どうしたの?オリゼ」
「いや、クラスが変われば…来年度部屋の移動がある。
…面倒だと思ってな」
「自業自得だろうが」
「そう、そう通り。
そんな下らない理由で、評価を下げる…業と手抜きなんてしたら僕だけじゃなくオニキスも許さないからね?」
「一階だと楽なんだよ…」
「それに移動するのはオリゼじゃないでしょ?」
「そうだ、傍仕えがしてくれるだろ…」
「そうだけど…」
見咎めるような二人の視線に罰が悪い
腑抜けた結果、
今のクラスに甘んじてるんだろうと
部屋換えの面倒の為だけに、
評価基準に少なくない実習の手抜きをするのならば
試験の結果を、努力を無に返す様なもの
玄武が手間に思う筈もないことも…
「分かっている」
「本当に?」
「この実習は手を抜けない」
「"この実習"
抜かないではなく"抜けない"
オニキス…含みがあるよねえ?」
「そうだな、理由は?」
しらを切ろうと
黙ってみたものの…
それを許さないとばかりに此方を見る二人
威圧がすごい…
はあ…
「…この勲章に身合うことを示すと陛下に啖呵を切ったからだ」
「は?」
「オリゼ…今なんて言ったの?」
「だから陛下に啖呵を切ったって言った。
これを返上も預かりも出来ないのであれば、見合う評価を示すと」
耳のピアスを指し示しながら
言えば…
普段俺よりも度胸のある二人が顔を引き吊らせていく
「ラピス…」
「うん、とんだ友を持ったよね…」
「ああ」
「本当に、本当に変なところで肝が据わってるよ…
気が休まらないってこう言うことだよね?何時にも増してだけどさ…」
「…本当にそれな」
ひそひそ話をするようにしているが、
声量は普通
そして、俺の部屋の3人掛けのソファーに座っているのだ…
両サイドに…つまり隣だ
聞こえない筈がない
性悪どもめ…
「何こそこそ喋ってるんだ
隠す気もない…耳に入れるつもりだろう?
聞こえている」
「あ、ばれてた?…んー、やはりオリゼは気高いよね」
「何がだ」
「天邪鬼で素直じゃなくて、つんけんするけど…
それ、不正にならないよう…金や地位のためにでサポートを頼んでその紋章を手に入れる輩だって居ない訳じゃないのにね?」
ラピスは何言ってるんだ?
そんなことして手にいれた物に価値はないだろう…
不正して手にいれはしない
普通の事だ
それが気高いとは思わないが…
「…ラピス、何が言いたいんだ」
「最下位の勲章だから、不正の証拠…決定打がなければ認められる。
皆そう思うんだろうけど、結局は裏をとられて剥奪されるし今後心を入れ換えても白止まり、その次の勲章には繋がらない…
去年は10人…あ、これ噂から裏とったから確実だよ?」
「…」
さらりと…
どっちが怖いよ、俺よりもラピスの方がよっぽど度胸がある
オニキスを見れば…
お前もか、ただ頷くだけ
悪友どもの情報に精通した一面
"とんだ友人を持ったよね"此方の台詞だ
剥奪されたら、改めて叙勲される事はほぼないよね…と
何気無く
…
「で、陛下は少なくとも黙認したんでしょ?
なら、次がある。明日からの実習、両手に入ればひとつ格上の紋章…上位に入れば"それ"
今回の実習で得たものと考えるつもりなのは分かってるよ」
「当たり前だ、そうしないと俺自身の折り合いがつかない」
「そう…そういうところ。プライドを持ってる…
ね、オニキス?」
「分かる…まあ、真面目で頑固だよな」
「陛下に剥奪されないってことは見合ってる筈なのにね?
本当に融通がきかないと言うか…」
「おい…てめえら、散々言ってくれるな?」
「それで?明日からの実習、
疑似の戦争だけど、戦闘と…どうするつもり?」
「ラピス、聞けよ…まあ、明かすのは終わった後。
対戦しないとは限らない、敵になったとき手の内がバレていたら元も子もない。なあ、オニキス」
「そうだな…」
「あーあ、いいよね二人とも同じ組で。
二人と同じグループに僕も入りたかったなあ…」
「こればっかりは仕方ない、オリゼと組が一緒なのが羨ましいのは分かる。来年度に期待すれば良いじゃないのか?」
「そうだけど…中クラスにオリゼがなれば可能性は増える…か」
組、教室が同じになる可能性
D組…上位のクラスのみを集めた一組だけを除き
クラスの片寄り、つまり実力が平均的になるように組変え一年に一度あるはずだ
てか、そもそもそんなにクラスが上がるとは思わないが?
男爵家の次男
貴族身分として、クラスの考慮対象に含まれる
同学年が平等と銘打たれていても身分差がない訳じゃない
勝手に言いやがって…
そこまでクラスが上がる筈がないだろうに
何、思案顔してるんだ…
「オニキス、勝ち残ろうぜ」
「当たり前だろう、オリゼ」
「ずるいなあ…」
「ラピスは奴らとグループ組んだんだろ?」
「そうだけどね…」
「上位の有力候補グループだろ?
流石策士だって思ったが…何が不満だ?」
「別に…最善ではあるけど。
欲を言えば…ね」
オニキスは置いといて、
足手まといの俺と組んでどうするんだ…
「確かにオニキスと組んだけど…それは俺がはぶられてたのもある。グループに人数合わせに入れて貰えただけだ」
「あのなあ…そういう悲観的な思考回路は…
どうしたらそうなる?彼奴ら、オリゼに期待してたが?」
「はあ?Kクラスの俺と同じグループになるなんて喜ぶはずないだろ…
共同体だから、ああ振る舞ってるだけだ」
「…なら、皆オリゼを信用してあの案に乗ったのは?
彼奴らは俺ら同様、クラスだけで評価して見ないし…そもそもオリゼは実力あるだろうが」
「…同意できないね。でも、まあ彼奴らが俺を卑下してないことは認めるよ」
「ひねくれてるな…まったく。
そもそも今のクラスの理由は素行が悪いせい…腐って実力も発揮しなかったせいだろうが。
今年度の成績…つまり来年度からのクラスを指標にするならまだ納得のいく理論だが?」
「ツンデレだよねえ…
そもそも距離を置くのはオリゼの方から。
はぶられてたのもあるよって…そうは言うけどね、組の皆とは言わないけどオリゼとお近づきになってみたい人もいるんじゃないの?」
「いるわけな「いるな」…オニキス、被せるなよ」
「気付いてない筈ないだろうが。殿下との関わり、目的で損得で近づきたいやつが大半だが…お前がそんな事だから蛆虫のように俺らに接触を図ってくるんだろうが」
「オニキス」
「ああ…話がずれた。そんな蛆虫野郎共以外も居るんだよ…
今回組んだのはそんな奴ら、そもそもオリゼと組む前提で声を掛けた。彼奴らもそれがわかった上で俺とグループを組んだって言っただろうが」
「つまり、最初から相手はオリゼとオニキスと組むつもりだったってことだね」
「そうだ」
「きっと傍観決めてボーッとしてたオリゼに最後に声をかけたってだけの話でしょう?」
「ああ…まるでその場を見ていたような事言うんだな」
「策士…なんでね?
それくらい予想つくよ?」
どや顔しているラピス
本当に…好き勝手言ってくれるな?
オニキスの言い分は納得できないが、
ラピスの散々な言い様に少し頭に来る
誰がぼーっとしてたって?
決して傍観してはいなかった、考え無しではなかったが?
「…策士ね。明日からの実習で目にもの見せてやる、
なあ、オニキス」
「ああ…お前のためにも上位10に入るぞ」
「オニキス…気持ちは嬉しいけど、要らない。
結果そうなれば良いとは思うが、無駄な気負いするな。
上位に入る迄もなく破れるぞ?」
「分かってるが…」
「ふふ…オニキスも熱いねえ」
「当たり前だ、試験は負けたが実習でお前は負けない」
オニキスがラピスに闘志を燃やす
…それをニヤニヤと煽るラピス
なにやってんだか、
仲が良いのはそこまでにしろよ…
二人とも上位の成績で申し分なかったろうに
「総合のこと言ってるのか?
たった二点、オニキスとラピスどっちも上位なんだから大差ないだろうが…」
「たった二点だから悔しいんだろうが」
オニキスがギリギリと、
悔しそうに溢す
他人事のようにそれを見てしまう
実力が均衡しているだけましじゃないのかと、
今回はラピスに軍配が上がっただけの話
ライバルっていいよなあ…と
まあ、俺にはあまり関係ない
二人に勝てはしないだろうし…
「大差ある俺は別に悔しくはないけどな…当然の結果だし」
「へえ…だとよ」
「ふーん?」
空気が…
何やら不穏に変わる
二人が此方に向かって視線を向けてくる…
なんだ?
「算術、俺に勝ってほくそ笑んでたのは誰だったか?」
「礼儀作法の点数、僕より良かったよね?
不得手だとかいってこれくらい普通とか…それより低い僕は何なのかな?」
「…あーその、な?」
「言い訳か?」
「今更何を言っても遅いよ?オーリゼ」
「なっ…」
何時から…
何処から出した?
てか、なんでそんなもの持ってる…
そうか、
先程入ってきたルークが持ってきたのか?
「なんでって思ってる?本心が聞けるまでは許さないから」
「ラピスに同意だ」
「おい!ラピス…オニキス離せ!」
「素直じゃないとな…実習の連携もとれないだろうが」
「少しダメージ与えておくのも、僕のグループに優位になるね」
「やめ…ろ、ラピス」
オニキスに肩を押さえられ、目の前に来たラピスが手に持ってる物に血の気が引いていく
改良型だよー?なんて天真爛漫に言うが、
首輪に手枷…か?
家業は友人にしないんじゃないのか?と責めるように言うものの
オリゼにならいいかなあって…気にもしていない様子
なんなんだ…
「玄武…見てないで助けろ!」
「貴台がそれを望まれるのでしたら…不肖は馬車での確約を心に留め置いておりますが?」
「…っ…戯れ言を!」
「本当に手出ししても宜しいのですか?」
悪友の所望する物、
この凶悪な品々を持ってきたラピスの傍仕えのルークが身構える
手出しするのは…
俺が玄武に命令すれば、
オニキスは兎も角…ラピスが害されるかもしれない
だから、
身構えている…
平然とただ控えている玄武に向かって、
脂汗をかくように息を詰めて…
そんなに気負いする必要もないのに…な
「…いい、部屋を辞していろ」
「畏まりました」
そうして追い出した玄武
悪友達の魔の手が伸びてくるのを、
もう拒む術は俺にはなかった…
結局
いいようにされた…
投降する兵士のような格好をさせられて…
少し優越感を感じたとか、
順位が上で…お前らに勝てて良かったとか
…
そんなどうでもいいことを
吐露させられるまで…
明日からの実習の体力温存とか、
こいつらに言っても勘弁してくれなかった
…
それでも早めに退室していった…二人
ぐったりとソファーに寝転べば、
頃合いを見計らった傍仕えが…
手助けもしてくれなかった、
味方である筈の玄武がブランケットを掛けてきたのだった




