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後期





「オリゼ?」

「奇っ怪な顔をしてどうした」


オニキスとラピスが固まっている

オニキスに至っては庭園の池の鯉のようだ…

何か言おうと…ぱくぱくと。

…まあ、内容は想像付くけどな



「…オリゼ?どうしたの?」

「休み明け、久々。それなのに二人とも大層な挨拶だな?」


「大層ねえ…そうかなあ?」

「らしくないのは分かってるがな…」


同意はできる、が

自分で言うのと人から言われるのでは心証は異なる

まあ…

この部屋では

貴族子息らしくなんて少したりとも

確かにしてこなかったのだから仕方ない、か






「あ…」

「オニキス、戻ってこい」




「あ、ああ…」


半目にもなる

強く言えば漸く意識を取り戻したようだ

漸く解凍した、

鯉から人へと戻ったオニキスに深い溜め息を付いた





……


数時間前


始業式が終わり、

久々の自室に戻れば…

お疲れ様で御座いましたと…

格好のみは頭を下げ侍従の礼をとっている玄武


が、その背後からはメラメラと抑えもしない魔力


御召し変えをと、

礼服から有無を言う暇も与えられず…貴族子息らしい服装にされつつも思考は巡っていく





着の身1つで馬車に揺られ此処に来た

付き添いの烏に送り出された時、

荷物は玄武に持たせてありますと言っていたが…


これか。


机に置かれた外装から見るに本、参考書

…それと消耗品だろうな

各所に置かれたそれはこの部屋から全て浮いている。

貴族子息らしい物が、

この部屋の調度品に馴染むわけはないのだ…



俺の私物には手を触れていないようだ、

学園を出る前のままの配置


乾燥させた熊笹茶や欠けた石鹸が入る瓶達

備え付けのまま簡素な調度品しかない殺風景な景色、

クローゼットに仕舞われた数着だけの洋服、

そして物干し代わりになっている部屋の上半分…


ベット周りが豪華なのは言い訳にならない、

俺の趣向でないことは…長年見てきた玄武に分からない筈がないからな




…着替え部屋、

使用人通路へのアクセスとして利用していた使用人部屋も…

まあ、確実に入っただろう


…クローゼット代わりだ

シャツや白手袋、侍従の服もかけたまま…


それを着た姿はいずれ…

どうせ見られることになるが、どんな顔をして見たのだろうか。

この部屋の事もある…


玄武を悲しませるにしても、

せめて…段階的にすべきだったのに。

こんな顔をさせるならば仕舞っておきたかった…な





召し変えが終わり椅子に座れば、

更に魔力が揺れる

…仕方ない


「玄武、此処(学園)に付いてくるのは良い。

だが…前回馬車でした約束は守れるのか?」

「…承知しております」



「どうだかな…、

もしそれが起これば、父上が降格や担当を外すことを許可しなくとも俺はお前を傍仕えや担当の侍従としては扱わない。

その覚悟があると見なすよ?」




「必ず期待に応えて見せます」


会釈し上げた顔、

…芯のある目と視線が交錯する

玄武らしい目だ

本来の侍従としての表面…

その奥に秘めた静かな

そして堅固な意志が見て取れる



「…分かった。

使用人部屋にある私服や物は此方の部屋に移動して構わない。

お前の部屋だ、自由に使え」

「有り難う御座います」


「それとこの部屋に手を入れていいが、ベット周りは手を触れるな。

…悪友達に片付けさせるからそれまでは我慢しろ」

「御意」



俺の部屋だ…

玄武にとってそこに不可侵の領域、それも他の侍従の手入れがなされた場所があるのは…快く思わないだろう


だが、そんな設えを悪友がする必要も

玄武が来たからにはもうすぐなくなる…



玄武の為にも設えをしなければならない

物干し小屋で、

俺の傍仕えに仕えさせるわけにはいかないからな…


…仕方ない

ベットを避けてソファーとテーブルを置くか?

仕送りは明日、

玄武も諸経費として父上に握らさせれた予算があるだろうし…

それと、悪友達にベッド周りを撤去させる約束も取り付けるか。



家具と言っても…

どれも貴族仕様の高級品を買わねば

悪友と玄武は納得しないだろう…

…今から頭が痛い




「で、言いたいことがあるんだろう?」

「御座います」


「その口調、怒っているな」

「貴台」


「悪かった…これで良いか?」

「足りるとお思いですか」



「…いいや、思わない。調度品の下限は?」

「御用意しております」


「…ちっ、許容の出来るものだろうな」

「必ず御納得して頂けます」


「許可する」

「有り難う御座います、皆設えを。

…貴台暫しベットへお掛けいただけますか?」



「…ああ」

ベットの縁に座るなり、

使用人部屋から出てきたのは

屋敷と馬車で見送りをした筈の3人…



机と本棚を重厚なウォールナットの物へ

…これまた屋敷にある筈のテーブルと一人掛けの革張りのソファー

クッションや絨毯も過度に絢爛ではない物

確かに許容の範囲内



が、

机の引き出しの物を入れ替える際の怒気、

有無を言わせない手早さに皆の雰囲気、

俺に作業を止めることは許さないと言う言外の圧力に、

…溜め息をまたつくしかなかった






「貴台、ソファーにどうぞ」

「御苦労だった…烏、狢に川獺も」


玄武の誘いのままに座り言えば

一礼して出ていく


川獺まで…あの肝が座った皆の表情は

命がなくとも

口々に…

この部屋の惨状は父上や母上に事細かく報告されるだろう…



…憂鬱だ





「はあ…同格の3人掛け、ローテーブル、カトラリー」

「用意しております、許可が降り次第準備してよろしいでしょうか」

「構わない」



単語の羅列

それでもこのベット周りの代用品、いや

これまでも悪友達が用意した代用品だったが…


それが退けられた後の家具を指示すれば

言いたいことがすぐ伝わった。

用意も…

準備もやはり手際が良いな…



それに…

既存の調度品を取り入れたのは流石

無駄な金を使いたくない

座り心地に厳しいのも知っている

今座っているソファーは屋敷の物…賢明な判断

革の馴染みも新品ではなく、慣れ親しんだ…ん?


それもついでに狢達が用意したのか、

俺が屋敷を出てから…

まあいい…



すげ替えられた机も棚も…趣味のもの

派手でなくとも格は高い

装飾もない


必要としたベッドを退かした後のローテーブルも用意済み

きっとこれらと同じ意匠

どれも好ましいもの…流石玄武だな




何も言わずとも

参考書を机の上に…

手に取れば

退室し戻ってきた、その手には甘味と紅茶があった







そんな事が起きた

模様替えが行われ、一息ついていた時悪友どもが押し掛けてきた


様変わりした部屋の内装、

そして傍仕えの玄武に驚いたのだ




「まあ、斯々然々だ。

それで後日ソファーとローテーブルを置くからベットを撤去したい、オニキス、ラピス良いか?」



「構わないよ?ねえ、オニキス」

「だな、しかし…よく許容したな?」



「仕方がないだろうが」

「本当に見放されてなかったんだ…」


「入学したときの話か?

オニキス言っただろ…好みの問題だって」


「絢爛豪華なのを好まないのは知ってるけど…

これでも質素倹約が過ぎるんじゃない?」



この悪友どもが…

明け透けにも程がある


事実

寧ろ身に余ると考えている…

事実、筆記具や瓶がこれ見よがしに雑紙が机上に置かれてあるが

浮いている


今度は調度品の机の方が格が高い

玄武が用意したもの以外は…

簡素な机に馴染んでいた筈の筆記具やインク、乾燥野菜の入った瓶が浮いている



玄武達が狙っている事


オニキス達の目にも違和感

…意図は察している

玄武共々他のものも格を上げろ…と言いたいんだな





…だが、断る


「いいや…これで充分だ。それと、これ二人にやる」

「なんだ?オリゼ」


「早い方が良いかと思ってな。

気に入るかは分からんが」


馬車を止めて、

買い物をしたのだ…

この簪をくれた二人にお揃いとまではいかなくてもと


「…見て良いの?開けるよ?」


「ああ…」


雑に受け渡せば

オニキスがニヤリと笑う

照れ臭いそんな気持ちが態度に表れていたのだろう

ばれている…

紅茶に口をつけて誤魔化せば

開封する様子





「…ふふ、オニキス。オリゼらしいね?」

「だな、ありがとなオリゼ」


「…そうか、ならいい」


気に入ったと、

二人ともその場で着ける様子に此方も嬉しく思う


渡したのはこの簪と同じ店で選んだもの

オニキスにはピアスを、ラピスには髪留めを


確かに質素に見えないものを選んだが簡素なのには変わりはない

だが…花のある二人が着ければ

それらしく見えるのが不思議だ

目を細く…似合うそれらに自己満足をした






「で、この様子から察するに御咎めは終わったようだね」

「心配したぞ…仕送りも再開か?」


「ああ…御明察だ」


兎も角、

これで言い訳も通らなくなる

気楽で良かったのになあ…


金もある、玄武もいる

あまり庶民的に過ごすことは叶わないなと、

今後の学園生活を想像し…

また深い溜め息をついた




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