帰省26
PV 17000突破
有り難う御座います(*´ω`*)
ソファーに沈み、
用意して貰った野営の本を開き見ている
流木や、
火の着火方法…ブッシュクラフトね
ククサに…薪の炎象原理とくべ方
お次は…
これで最後か?
道具を極力使わない手法の数々、
自然の物をサバイバルナイフ一つで野営者の技術で加工し利用する。
これならバックパックの荷物も少なくて済むかもしれない。
非常時にも使えそうだと読むことに集中していたようだ
最後の頁を読み終わり、
本を閉じれば視界に動く物を捉える
川獺か…
そろそろ起きそうだ
「ん…っ?はえっ!?」
「ああ、起きたか…」
「貴台?っ…申し訳ありません!」
「なにが?
俺は食料を確保しておいただけだよ?夕食に食べるから」
「ど…何処をでしょう?腕…いや足ですか?」
「尻尾かな…煮込めば美味しそ…冗談、
起きたなら夕食用意してきて?俺に食べられたくないでしょ?川獺」
「はっ!直ぐに作って参ります!」
ぴゅーーーん
そんな擬音が適切か、
焦って出ていく川獺のそんな様子に笑みが溢れる
その様子を見送り振り向けば、
川獺とは対称的に…
静かに俺の側に控えている烏
「貴台」
「何?拗ねてるの?」
「…いえ」
「烏、他のも持ってきて。サバイバル関連があるなら全部、小物系と調度品関連があればなお良い」
「…畏まりました」
それにしても…
こういった本、家にあったっけ?
読み終わったそれを手渡せば、
俺の指示を履行しようと部屋から出ていこうとする烏…
そう言えば…
「烏、待って」
「はい」
「明後日迄で良いよ…悪かった」
「貴台?」
「それ、もう一度読むから置いていって…それに緑茶入れてきてくれる?」
「承りました」
思い至ったのだ、
これが屋敷の本棚に無いと言うことを…
ならば此れは何処から。
考えられるのは…
豊富な蔵書がある図書館までは往復2時間
専門書が揃えられた書店は3時間
"木工技術的な"
そんな不親切な指示にも
俺の選択科目と父上の強制情報共有から得た知識
…野営やサバイバル関連、古代技術に両足を突っ込んだマイナーなジャンルの本を
俺が求める情報が載る本を2時間かけずにかき集めてきた
…
叔父の件では心配して…
寮に傍仕えを同行させなかったさきで屋敷に待機していた
どの様な様子であるかも定かではないなか帰宅を待ちわびた…
帰ってくれば、
当主や嫡男に責を問われ出来たことは心配だけ、
世話も手出しも出来ない状況が続いた。
それが終わったと思えば陛下に楯突く、
そんな算段をして口上を述べに屋敷から出ていった。
何度も心配して…帰宅を待ちわびた、
その仮の主人が漸く部屋に戻ってきたのだ
その主人に堅苦しい服は疲れたから嫌だと言われ、
約束を取り付けていた褒美の衣装も召し変えることを辞退し
その機会を川獺に譲った。
侍従の師匠になれと言われ
やむ無くそれを出来ないと言えば暇だと言われる。
…
仕方ないと俺に代わりに提示された指示は体力も時間も要するもの…
だからと言って俺を一人で放置することは出来ない、
自分の代わりに俺に侍る者を付けなければならないが、
それすらいないのだ。
疲れきった玄武は休ませられている、
俺が戯れに失神させた川獺は
ソファーで眠らせておけと指示されている
残ったのは休みの狢。
それに頭を下げ世話を任せて、
自身は側を辞して外で指示された物を探し回った。
そうして必死にかき集めてきた本は甲斐もなく
さらりと今読み潰された。
…そしてもうないのかと催促される
これは熟読、大切に読むべきだろう…
烏によって机の上に再び置かれた本を見て思う
…
所望するものを用意する、
これは確かに侍従の仕事だ。
烏はその仕える相手に対して注いだ心配も汲まれず
…心的な無理を積み重ねてきた、
その上で…
疲れた体を限界迄走らせて指示を履行した。
…
それは本当に義務や業務の範疇に収まったものか?
命を捨てようとして
…傷付いて、
体調を崩して
回復したと思えばまた疲れきって
そんな俺に
…少し休んで欲しいと願い、
自らの手で自身より立場の低い弟子にしたくないと
それを断る代わりに性急に所望された本を…ただの暇潰しのためのそれを調達するために粉骨砕身した。
それは慰めに、
気晴らしになると分かっていたから
だから…
少しでも俺の気分が晴れるように、
猶予を貰うために別の本を差し出すこともせず…直ぐに調達してきた。
これは、
義務や業務の範疇外…
烏の俺への気持ちがあったからこその結果だ。
その烏に俺は何て言った?
…侍従として指南しろと、働かせろと言ったんだ。
酷いにも程がある…
俺は侍従義務を学ぶ前に
主人としてまだ学ぶことがあるだろうが…
所業を見れば侍従から見れば立場だけは立派な餓鬼の八つ当たり
それにしても…程ってものはあるんじゃないか?
仮にも使役する上の立場として、
なっていない…
配慮も思慮も何もない…
川獺も隈が酷かった
あの程度からかって失神したのは睡眠不足と過労
傍仕えは…
あの茶会と口上、謝罪がなければ
…玄武とて疲労隠し通して俺に見せなかった筈だ。
だから気付いた、
悟られないようにされた少しは休めた筈の狢の取れていない疲れに、
隠すのが上手い烏の隈に、
…皆に無理をさせていたことに
コンコン…
「お食事を…貴台?」
「…川獺」
「はい」
「…食器は済まないが、明日の朝下げてくれ。
それと、烏に…緑茶は8時間くらい抽出して持ってこいと伝えてくれるか?」
「貴台…?」
「すまない」
申し訳ない…こんな主人で。
仮だと、父上の侍従だと責任転嫁して
侍従を侍らせる己の立ち位置を知ろうとも分かろうともしていなかった
俺は侍従見習いなのに…考えもしなかったのだ。
主人の指示を受ければ
基本逆らえない
…
無理を言われても、水面下で必死に足を動かし続ける
まして、快適な生活を望む主人には…
優秀な侍従であればこそ、
更に無理がきくだろう…
疲れも無理も主人に隠すことも、指示をこなしながらも容易に出来るだろう
それが侍従であると知った筈だ。
ならば烏の矜持を踏みにじる前に…
侍従の勉強をしたければやり様はいくらでも周りに転がっていただろ?
知ろうと思えば、
自身が指示した事の所要時間と手間や算段を考えるくらい…
烏達の動きを盗むくらい、
…それくらいの勉強はいくらでも出来るじゃないか?
貴族の所作に対応する侍従の動きを読み取ればいい…のだ
…
読むべきものはこの部屋にも沢山あるのだ。
そもそも子息として
屋敷の蔵書を全て読んだわけでも、知識を身につけてもいない
それくらい把握して、読んで
貴族子息として成長してから烏に師匠になってくれと頼めばいい。
知らなければいけない事など
未熟な部分が殆どだと言うのに…
貴族子息として成熟する
その立場から見たこの国での侍従としての知識を付ける
貴族としての振る舞い、
その視点からどう侍従として動くか…活用し、仕事に生かすかを考える。
自身の担当侍従の時間割り当てや組み立て、不測の予備時間
指示する側としてシュミレーション位出来なくては
仕える側としても意を汲んで直ぐに動けるわけがない。
それらについて学ぶことがなくなったとき…
…それでも侍従として足りない部分があると思えば、
烏の矜持を引き裂いても師匠になれと、頼めばいいのだ…
ならば先ずは貴族子息として学ぶことを…とソファーから立ち上がり
未だ読んでいなかった父上に下げ渡された本棚の区画へと足を進める
…あ、
根を詰めてはいけなかったんだっけ?
本棚の本の背表紙に指を掛け、引き出そうとして思いとどまる。
一先ず、あれを食べて…
烏が持ってきてくれた本を纏めようと
湯気が未だ立っている料理の元へ戻っていった
………
「か、烏さん!」
「川獺?そんなに慌てて…」
「貴台が…緑茶は8時間抽出して持ってこい、って仰っていました!」
「は…い?」
8時間?
その様に長く抽出すれば飲めた物ではなくなりますが…
何か特別な意図があるのでしょうか?
それに、
川獺のこの慌て様は何か貴台にありましたか…ね
「その、食事を運んでいった際何故か落ち込んでいらして。
下げるのも明日の朝で良いと…」
「川獺、体調は崩されて居ませんでしたね?」
「はい…」
食べられない程疲れが出てきた、
ならば心配を掛けないように川獺の目を取り除く策ならば…と
そう考えるもそれはない様だ。
ならば…
先程の言動、
貴台の表情…
川獺と我を部屋から辞させ、8時間の休息を与えるような指示
まさか…
「我が…どうやら仕出かした様ですね、川獺は悪くありません」
「烏、さんが?」
「何を不思議そうな顔をしているのです…川獺、我にも失態はありますよ?」
「…烏さんが…その」
「川獺がそう思うのも嬉しい事…
だが何人たりとも完璧な侍従になどなれはしません、どの様な研鑽や経験を重ねたところで…
まあそれはそれとして、ただ我の思い過ごしであれば良いのですがね。
…明日の朝、失態を犯したかは遅かれ早かれ判明することです、…最悪の場合も考えておきますか」
この茶葉を蒸らし始めたのは…
朝の準備や温め直しの時間と、余力を考えれば…これを持っていくしかない
…8時間
さて、その時間が適当に仰られたものならば
…この考えが単なる我の深読みによる勘違い、
思い過ごしであれば良いのですが…
いえ、
追加の本を明後日で良いと
指示の言い直し
…悟られましたね。
我が負荷をかけたことに気付かれたのでしょう
それを隠しきれると、
貴台を侮った、
見極められなかったと思われても仕方ない、ですね
そして責めるのは
我ではなく貴台自身…
「川獺、我を反面教師に。
川獺が食器を片すのが遅れても咎められはしません、明日の朝までは狢と換わって貰った分仕事ですので…
その間、我の後ろで侍っていなさい」
「烏さん?」
「大丈夫です、昨晩眠れていませんね?少し寝て来て下さい」
「…烏さんは?隈ならば同じでしょう?」
「…川獺と交代で仮眠します。
分かったら先に休んでください」
「分かりました…」
川獺に悟られるまで、か。
此れでは悟られても仕方がなかった、
その隈を今更ながら白粉で隠してもいいが…貴台が望むのはそうではない。
隠せば、
8時間の間…十分に休んでいないことを隠していると証明するようなもの
それならば仮眠して…
隈が取りきれなかったとしても薄くなったそれを見咎められた方がまだ良い
少しでも休息を取ったと、
隠さない理由はそれで体調は保てているからと示せる…
それに…もし我が失態を犯しているとすれば、
それは同時に喜ぶべき事、貴台の成長を計り間違えた我の咎
…貴方はもう立派な主人になられたと言うことになりますね
そんな感慨、
同時に失態を犯していたならばと忸怩たる思いが胸に広がる…
他の誰ではなく我が貴台に要らぬ心的負担を掛けたことに、
それと同時に…失態していれば良いと思う己も、
もしそうであれば喜ぶべき事だ歓喜に震える感情も間違いなくあるのだ
…まだ結論も出ていないというのに万感の想いを抑える事もなく、
その感情に浸りながら
何をするでもなく茶器に目を落として、暫くそこで佇んでいた
………
給仕場
川獺が一足前に昨日の食器を片し終え、戻ってきた。
最後の仕上げを共に終えもう一度不備がないか、
朝食のそれに目を落とす…
準備が整ったことを確認して、
2人して貴台の部屋へと向かった…
コンコン…
「貴台…おはようございます」
「ん、烏…川獺も?」
「朝食をお持ちしました」
じっと、目を見つめられる
…やはりその己に向けられる視線は少し下にずれている
隠しもせずに来た隈を確認しているのだろう…
川獺にも同じように観察する
…満足されたのか、溜め息をついている。
「分かった…」
陰った表情、
間を置いて発せられた言葉
どうやら納得して頂けたようで…
仮眠のお陰で隈も薄れたことは確認済みだが
隠すことを考え、
結局やめたことはやはり正解だったようだ…
…
…
「食後の飲み物は…如何致しますか」
「愚問」
「…畏まりました」
食事を終えた貴台
分かりきっている食後の飲み物…
普段ならば珈琲
そして今日は8時間抽出した物
決まりきった事を態々伺いを立てたのは提供したくないからに他ならない
だが…
用意してある2つの急須、
湯気が立つ方ではなく冷えきって香りも立たぬもう一方の…その茶器を眺めてきっぱりと所望されればサーブせざる終えなくなる
やはり飲まれるのか…
濃茶のように胃を痛めて貰っては困る
せめて甘味を含んでもらってから、飲んでいただかなければ…
「お持ちしましたが…
貴台…甘味を先に。胃を痛めます」
「分かった」
白餡と、
鶯餡の最中
…
差し出したそれを摘まみ、
食べ終えれば手を差し伸べてこられる貴台
その様子に確証を得た
渋っている我から湯呑みを受け取り煽り飲む、
広がる雑味に苦味…
飲むに絶えないそれに耐えることは貴台自身のけじめ
自戒されている行為に他なら無かった…
「やっぱり苦いね…」
淹れた物は飲んでくださる、
それが冷えてしまってもいつも無駄にはしないと
茶葉や我等の手間も含めてであると知っている…
それを苦いものにする理由は、
我等の心配をしている…無理させたと後悔されている
だから、
これを我等から差し向けられた咎だと…
やはり、報いと見なして飲み干されたのだろう
「…申し訳ありません」
「俺が望んだものだ。ありが…烏、何やってるの?」
見れば、
烏が両膝を床につけていく…
何してるの?
烏はそんなことするべきじゃない
川獺が差し出す口直しのほうじ茶を受け取り、
礼を言いかけていた
それに一口つけようかという時、視界から烏が消えたのだ
…どうしたというんだ、
そんなに畏まる事は無いだろうに
「…昨晩は、我が至らぬばかりに貴台に心労を掛けましたこと、
お詫び申し上げます」
「八咫、謝るのは俺の方だ。悪かった」
「っ…我は貴台を侮ったのです、軽く見たのです。
…どうか見限らないで下さるならば、罰を頂きたく存じます」
…
「見限らないよ…それと何を言ってるの?」
話を理解している筈
そうでなければこの様に会話は続かない
返答に間は開かない…
それなのに
今更理解できないなと、
無かったことにしようとする貴台に
更に腰を深く折る
「…我が、未熟で御座いました」
「はあ…分かった。
俺がそれほどの主人だったってこと。烏にそう思わせたのも俺の責任だ、烏は何も悪くないよ?」
「いいえ、仮にそうだと仰る通り…いえ仮もありませんが、それを侍従が主人に態度で示すなどもっての他」
「烏…」
「自己管理も出来ずに仕え、それを悟られるはずもないと侮り、見極めすら出来ずに…貴台の心を割かせるなどあってはならぬことです」
「良いから…せめて頭あげて。
烏のお陰で一つ成長出来た、感謝すれど責めることはない。
ああ…察する事が出来なかったからそれにすら罰をとか言わないでね?察せていたら、隠していたでしょう?
…烏にそこまでされれば俺はここまで理解が及ばなかった。だからそれを含めて功績なんだよ?」
「貴台…どうか…」
「仕方ない。
俺を心配して寝不足なことも、隈が出来たことも
そして師匠を断ったことも含めて、俺に悟らせて…
結局は侍従の仕事を教える算段だった。
…
烏が未熟で不遜な侍従を演じることによってね?
そう俺は理解している、そしてそれが理解できる主人だと俺を認めたからこその行動だったと。
"烏は嫌がるだろうけど"って言葉も嵌まるね?
…だから立って。烏は立派な侍従だよ?」
「貴台…なりません」
「八咫…」
「今の我には…その様に呼ばれる資格は有りませぬ」
「…どうしても、意志を貫くつもりか」
「例え貴台の意に背く事になろうとも…曲げかねます」
顔は上げてはいるが…いや、
それでも30度は傾いている…
立ち上がりもしない
俺の仕立て上げた台本を否定する、
終いには頑なに頭を振って動かなくなった烏
…
…やはりな。
動く気はない
…これでは埒が明かない、
ならば、川獺を動かすまでだ…と
ほうじ茶を一口、
出来る限り落ち着こうと仕切り直して言葉を紡ぐ
「川獺」
「っ…はい!」
「昨日はごめんね?
折角用意してくれた食事を喜んで食べて見せれなくて」
「貴台?」
「好みの物だった、美味しく頂いたよ。
…それと、これ気に入ったから貰って良いかな?外套に使うよ」
「…貴…台、ありがとうございます!」
部屋着の上からガウンのように羽織っているそれを
掴み見せれば…
…あっ
川獺も座り込んだんだけど…?
あれ…
鼓舞して、烏をどうにかしてくれる様に誘導する手筈だったんだが…
もしかして鼓舞し過ぎた…?
烏から狢の交代時間まで、
川獺から玄武の交代時間までは各々3時間と5時間
…どうしよう
兄上に…
いや違う、
それは違う…だろ…
それは問題解決の先伸ばしと責任放棄だ
「川獺、ありがとう」
「…貴、台」
「ゆっくりで良いから立ち上がって。
食器を片して、珈琲入れてきてくれる?」
「っはい!」
しっかりと深呼吸する
落ち着け…
そしてゆっくりと、柔らかく
言い含めるように言葉にすれば川獺が稼動した




