帰省23
そんな穏やかな空間が、
幸せな時は終わりを告げる…
父上自らの来訪…
「アメジス」
「父上?どうされました?」
「卿から返事が来た。
明日の朝出発するから、オリゼを返しなさい」
「…もう数日堪能したかったのですが、残念です」
「はあ…アメジス、今日で10日目だぞ?…数日の約束も、引きこもるのも終わりだ。オリゼが可愛いのは分かるがな」
「仕方ないね…オリゼ、父上と打合せしておいで?
帰ってきたら剣の練習付き合ってあげるから卿への謝罪、頑張ってくるんだよ?」
「…兄上、ありがとうございます」
耳と尻尾を外せば…
後の楽しみを…それを示せば、ベットから飛び降りる様に…
父上の背を追って出ていってしまった
ううっ…
「青龍…」
「若、何か御用ですか」
「可愛かったのに…ずっとあのまま休み期間中過ごしても足りないよ?」
「何を仰っているのか小生には分かりかねます。
…しゃんとして下さい。そろそろ限界なのは此方も同じですよ…」
「…ああ、ごめんね。
玄武達のことでしょう?」
「お分かりになられていながら…」
机に伏したまま、
声の方を見てみれば…
もう懲り懲りだと言わんばかりの青龍の表情
…
弟を心配するあの四人に相当寄って集られたか…
何度か部屋の前で気配を感じたけれど、
それを帰していたのにも何となく気が付いていた
「青龍なら大丈夫だと思ってね?
…嫌だなあ、そんな怖い目しないでよ」
「若…」
「可愛かったでしょ?青龍にも見せたせいでオリゼが減ったんだよ?」
「…減りはしないでしょう」
「青龍が居ると、甘えが減るの…
耳も尻尾も意地を張るしね?」
「小生はただ、執務をしていただけです」
「ふーん?その割に尻尾に…耳に、目線が泳いでいたよね?
俺を放置してさ…それを見逃してあげてたんだから利は得ていたでしょう?」
「…大変申し訳ありませんでした」
「良いよ、それで水に流してね?
さてと、青龍…やること済ませるから。全部持ってきて」
「…畏まりました」
オリゼが動けるようになってからは
見られても当たり障りのない物と、学園の勉強や用事関連
それ以外の急ぎは全て10日前に済ませたが…
そろそろ溜まってはいるだろう
父上の表情からも、頃合いだと察しはついている
…
それを済ませるために、
引きこもりと剣の感覚、体力を戻さないと…
そう思い…起き上がって机の上を片付け始めた
…
一方執務室
「父上…」
「なんだ?」
「玄武に頼みたいことが…」
「今でないとならないのか?」
「…手土産を。父上が用意してくださっているのは知っています。
ですが、私も用意したいものがあるのです」
「金平糖ならもう玄武が用意していたぞ?」
「…」
「金竜髭の店のものだろう?違うのか?」
「…いえ。ありがとうございます」
思い出の品
手土産や詫びの品には見合わなくても持っていきたかったもの
…そういえば、昔父上にも玄武達にも話していたか…
憚りもなく…
結果、用意が間に合ったようで良かったは良かったが…
久々に入った父上の部屋
ソファーを指し示され、座る
「明日、朝に魔方陣で向かう」
「はい」
「礼服は玄武達が用意しているだろうから、
ゆっくりと自室で休め。体調は?」
「お陰様で…この度のこと、本当に申し訳ありませんでした」
「分かっている、私に謝るのはもう良いから…
卿と陛下に謝罪しなさい」
「っ…」
「御忍びで来られる」
「な…何故?他用で来られるのですよね?」
「まあ…それもあるだろうがな。
お前の一件も理由の1つには入っているだろう」
「…畏まりました」
「白虎」
「はい…オリゼ様此方を」
「父上?これは?」
「オリゼの素の言葉でもお二方はご理解はされるだろうが…
基本的な口上と謝罪の定型文だ。好きなように使いなさい」
「…ありがとうございます」
「話は以上だ。
オリゼ、根を詰めるのは…言わなくても分かっているな?」
「はい…父上」
変なところで凝り性なのは…
流石父上、
良く理解している…
疲れるほどにはやるなと、体調の方を優先しろということ
それに了承を示せば本当に話は終わりのようだ…
一礼して、部屋を辞すれば…
…
玄武が控えていた
「玄武、金平糖…ありがとう」
「いえ、お役に立てて幸いです」
「それと…これの練習、手伝ってくれる?」
「畏まりました」
「…体調は?」
「貴台、御手数…御心配御掛けしました」
「大丈夫ならいいんだ…」
「貴台」
「お帰りを御待ちしております」
「…食って殺されるようなことはないよ?
玄武、帰ったら俺の剣出しておいてね」
「は…っ…はい?」
「だよねえ…らしくない。でも、準備しておいてくれる?」
「貴台…勿論です」
「あの時はごめんね…逃げて手間取らせてさ。
あんなに玄武が困るとは思ってなかった…悪かったって心配されてたんだって最近やっと思えるようになったよ」
「…貴台」
「勿論、これからもやつ当たるけどね?」
「畏まりました、誉れです」
茶化せば玄武の表情も軽くなる
更に冗談を重ね、互いに笑いながら…
10日ぶりの部屋に戻った
「…狢」
「私めに何か御指示でしょうか」
「…烏」
「我に御用ならば遠慮されることはありません」
「川獺?なんでそんなに遠くにいるの?」
「…お召しならば近くに参ります」
どう見てもそんな雰囲気じゃないんだけど…
…
「玄武…助けて?」
「不肖に何か?」
「うっ…悪かったって…」
振り返って助けを求めても…
それに合わせて、
先程笑っていた玄武まで口調を合わせて演技する始末
そして、それを崩さない…
「…お腹すいた…川獺の得意料理が食べたいな?
狢、湯あみさせて?…烏、明日の準備手伝って?」
「「「…」」」
「玄武…」
「今日限りは…無礼ではありますが…
不肖どもの意を汲み取って下さいますか?」
「良いよ?心配かけたし…そのく「貴台…湯あみですね?早速致しましょう」…らい、狢?」
「では各々手筈通りに…」
そんな声が…狢に拐われていきながらも
不穏な会話が部屋の方から聞こえてきた…
…
「…狢、もういいんじゃないの?」
「御前に上がるのでしょう?
櫛梳って、肌も念入りに…ついでに指も爪も致しましょう」
「…分かったよ
湯船に浸かる時間くらいは残しておいてね?」
「私めがそのような失態をするとお思いで?」
「…いや、思ってないけど…うん」
艶々になった髪に
揃えられた爪、保湿万全の肌…
久々の"普通"の服だと安心していれば…狢?
その手にしている兎のようなものは何?
「…狢」
「可愛らしい…垂れたウサ耳が…」
普通の室内着にウサ耳がついた上着…
着るけどさ…
フードを被る必要性もない気がするけど…喜んでるし
その爛々と向けられる目が怖いけど…
「狢、…お腹すいた」
「…左様で…はっ!…揺れるのも…」
「何処に気をやってるの…戻るよ?」
「それはもう…貴台が可愛らしくいらして…」
「はあ…堪能すれば?
仕事はちゃんと出来るだろうから言わないけど…」
言動は全く戻っては来ないが…
行動はいつも通り、侍従としては抜かりはなさそう…
うん、言動以外は…
「…っ貴台…昼食を御用意して置きました!」
「うん、川獺ありがとう…」
部屋に戻れば、
冬ならば暖炉の横でよく読書する…立派ではないがテーブルと一人掛けの革張りのソファー
冬以外は本棚の隣
そこに十八番のグラタンが用意されている
食事には適さないが構わず、軽食も間食も良く此処で取る
深く沈み包み込む
それでいてしっかりと体を支えてくれるその座り心地
目の前に差し出されたグラタン皿とフォークを手に
食べ進めていく
机の上で食べはしない…
これが一番楽
「御済みでしたら…」
「…薬ね、分かってるよ狢」
代わりに差し出された丸薬を飲み込む
苦い…
「狢、薬効変わらないなら珈琲にしてね」
「承知しております」
満足そうに出ていく狢…
これで狢の気は済んだかな?
「川獺…美味しかった、腕上げたね?」
「貴台…?っありがとうございます!」
…川獺
兎の耳を見てたよね?
…良いけどさ
創作意欲が湧いたような…決意満ち溢れる目をしてた気がするのは…見間違いだよね?
変なの作ってないよね?
それに、今から手を加えなくて良いからね?
きらんきらん…
その表情
全く思ってることは伝わっていないだろうけどね…
はあ…
「烏…支度手伝って」
「我で宜しいのですか?」
「意地悪言わないで…烏のも帰ったら着るから」
「畏まりました」
………
「…狢、たまには良い仕事をするのだな」
「何時もですし…当たり前ですよ、烏」
「…兎の耳可愛らしかったですね」
「川獺も何か作っていたでしょう?」
「…もう少し手を加えてみます、狢さんに負けません!」
「まあ、可愛ければ…見れるだけお得ですけれどね」
「我とて負けないからな?」
「烏のセンスには期待していません…」
「何?」
「川獺もそう思うでしょう?」
「…えっと…烏さんは烏さんで良いと思います」
「川獺…お前…」
「烏…少し良いですか?」
「玄武?どうしたんだ?」
3人が楽しく会話している…
普段なら混じるし、自身の衣装自慢もしたい
が、
それは後回し
「…荷物、重くはありませんでしたか?」
「何が言いたいんだ?」
「あの重さ…勲章を返す気ならば、賞金も…」
「…まさか」
「まだ"今日"は終わっていませんし、この後夜食を持っていきますよね?」
「そうだな、我が担当だが…」
「宜しく…頼んでも良いですか?」
「分かった」
「もし、止められなかったら…
不肖がお屋形様に報告して止めてもらいます。どちらにせよ朝、出立前に連絡を」
「必ずする」
狢も…川獺にも悪いが…
折角の談話に水を指した
烏が何とか説得してくれるよう
願いながら雑務を片付けに戻って行った




