帰省18
「成る程…アメジスが言うには
仕送りを止められたから見限られたと考えた。
交遊のある友人…周りと縁を切ろうとした?
馬車にも乗らず、2度まで自らの命を危険にさらそうと…
…青龍
うむ…ん?玄武、なんだ?
そうか、…休日は録なご飯も取らず、主人の殿下に侍従として咎められた上世話になったと
その上同じ事をした玄武に説教をしたと?
…なんだ、烏
その上忠言して止めた筈なのに無理してこっそり講義の勉強を…
成る程そうか、雑紙…
食費に限らず雑紙に筆記具すら節制に節制を重ねたか…
傷?…ああ
報告は子爵家からも陛下からも来ている
そうか、栄養不足と薬を怠って悪化させたやつだな?
狢?
なに…薬をすんなり飲んだ?
くっくく…良い仕事をするな、子爵の子息達も
ん?規律違反?
その二人と結託して?一回以外は全て裏で握り潰したと…何々、そんなにしていたのか?」
青龍…何故知っている?
学園での出来事は…そうか、あのスープを見て兄上と聞き込みにでも行ったか
ん?
静かになった…
なんともなしに顔を上げれば全ての目が此方に向いている
うわあ…烏のせいで狢が怖い顔してる
…まあ皆怖いのだが
「…」
「何か申し開きはあるのか?オリゼ」
「いいえ、全て事実です」
普段の…軽口も反発も
出掛けた物を飲み込む
…兄上が頭を撫でるのを止め、左腕に嵌まる殺魔石を自覚させるように腕ごと扱ってきたからだ
「オリゼ?あんまりじゃない?」
「兄上、戯れはお止めを。
ただ、父上に1つ言いたいことは御座います…
確かに質が悪いものです、ですが粗末なものとは仰有らないで頂きたい。基礎講義の代金ではありますが、それは確かに自身で稼いだそのお金で買ったもの。
決して男爵家の息子として自身を貶めるために買ったものではありません」
「そうか…悪かったな。…が、他はどう説明する?」
「自身が至らない事は…重々承知で玄武を叱りました。
周りの友人や兄上に、皆にどれ程の負荷をかけたか…身に染みて分かりました」
「成る程…規律違反については何だ?」
「男爵家の恥を隠して下さった兄上に感謝を…」
「ふーん?もうやらないとは言わないんだね?」
「…反省はしておりますが、後悔はしていません…っいっ…ので
…なにをするので…ふか…あに…う」
頬を伸ばされる
…それも両方
「心配したんだけどなあ…弟がぐれてさあ?
なら、反省はたっぷりして貰おうかな…良いですよね?父上」
「第5案か?アメジスの好きにしたら良い」
「ふふふ…ありがとうございます父上」
強く引っ張られた頬
痛いなあ…
離されはしたが、突っ張った感じと指の感覚は
残ったまま…
眉間に皺も寄るのは仕方ないよな?
「…兄上のお好きになされば良い。
その間、勿論私の侍従は休暇を休暇らしく過ごせますね?
私の世話をするのも自由ではありますが、少しは養生と外出でもして気分転換をして欲しいものですから」
「口調を繕っても、
やはりな…そんなに侍従が辛く思うことが好ましくないか?」
怪訝そうな顔をする父上に
…流石に気を落とす
はあ…全く…
俺がまだ…俺自身のその姿を見せないために突き放すと言いたいのか?
…確かに引き離して、心配することは分かっているし
それを無視してまで…今は
…それを強制しようとはしていない
「いいえ。どうせ兄上のことです、
酷い事には違いがないでしょうが…侍従が思うような心配することはありません…そうですね?」
「…しないね。
勿論病人の弟に手酷い事は。ただ…凄く恥ずかしいだろうけど…」
「ん?恥ずかしいだろうって…
てっきり…
嫌と言うほど甘やかすのかと思っていました。
兄上のことです、無理矢理にでも。
…ですがその言い方ですと、もしや…違うのですか?」
「なんて言い種なの?…まあ…確かに甘やかすよ?
可愛い衣装を着てもらってね?」
窺うように問えば
にっこりと分かって言われた言葉
「…なっ…っそれは…」
「お好きになされば良い…って言ったでしょ?
ね、オリゼ?」
「…言いましたが…兄上、言いましたけれども…」
冷や汗が背中を伝う…
満面の笑みの兄上
楽しげに笑う父上に、侍従らが何故か嬉々としている雰囲気が…
嫌な予感しかしない
「父上…笑っている場合ではありません
…何か仰ってください」
必死の助けを求めるも…笑いは止まらない
そして兄上に顔を向け、二人して意味深な笑みを浮かべる
「くくっ…ああ、そうだな。
アメジス、どれにするんだ?」
「やはり…猫ですかね?
いや、でも折角用意したのに1つだけでは勿体ないな…全て着させるのも…」
「猫…何のお話ですか?父上、兄上」
「ああ、すまん。山女魚が可愛いもの好きなのは知っているだろう?衣装を発案して作った…まあ作らせたそうだ」
「…」
「私やアメジス、
…そしてそこの侍従らの意見の物も勿論ある…
アメジス、早速持ってこさせるか?」
「はい、父上。楽しみですね…きっと凄く可愛い
青龍、俺のやつ持ってきて」
「そうだな、皆も準備をするが良い。
そう言えば…山女魚も発案の際かなり楽しそうにしていたな」
畏まりました、
そう青龍が言って出ていくのを皮切りに…
皆出ていくのを…
「な…お止めを…」
「ん…?オリゼ?身を乗り出したら危ないよ?」
「兄上、離してください!」
「んー?ただ抱き締めてるだけだけど?
何か問題ある?もう…始まってるんだよ?甘くても寮の規律違反…受けさせるから」
「…っ」
出ていく皆を止めようとすれば
抱きすくめられらる…
腕の中で暴れるのも…諫められる…
何故…全員出ていく?
各々、少なくとも1着…なのか…
いやいや、変な想像をした
そんなわけは…ない
先程まで座り込みそうだった玄武まで…
はつらつとして、元気そのもの…
確かな足取りで出ていった…いや、おかしいだろ…
手のなかにあった、白湯はもう冷たい
それを片付けますと奪い去っていった烏も…
…目が爛々としていた
そして…
直ぐに青龍だけが戻ってきた。
青龍以外が何故戻ってこないかも、準備とは何かも
怖くて聞けない…
不意に、
…目をあげた瞬間その手にあるものが目に映る
…背筋が凍る
「っ嫌だ…こんなもの絶対に着るものか…離せ!」
「んー?」
「…兄上!離してくださいと言ってるのです!」
「"兄上の好きなようになされば良い"…ねえ?
反故にするつもりかな?」
「…ですが!」
「暴れるの?さっきまでは大人びてそれはそれで良かったけど…駄々をこねる弟もやっぱり可愛い。
でも…あまりそれを続けてると…ね」
「…っ」
「良い子…着ようか?」
「やだ…」
「着ようね」
「っ…ひっ…」
冷たい目に囚われる
心まで凍えるような視線が体を冷やし動かなくしていく
「青龍、遠慮は要らないよ?」
「畏まりました」
動きを止めた弟
この機会を逃すことなく、指示通りに青龍がオリゼを猫に仕立て上げていく。
「これは…中々可愛いものだな」
「父上、そうでしょう?思った以上に…
黒いベルベット生地を基調に仕立てました。勿論尻尾も耳もオリゼの感情を反映して動きますよ?」
上品な上下
黒いベルベットのその衣装は
長い立て襟の上着、鼻先まで覆っている
首周りにはそれを固定する為のベルト
固定魔法陣を描いた耳と
ズボンのベルト近くに固定した尻尾
そして、俺の胸を叩く…
その手は、袖がない猫の手を表した物
もふもふと押すように、衝撃すらない…
「…そうか、私ももう少し手を加えるとするかな」
「みゃ…ぅっ(父上、………ん?)」
「そして、声もね」
「ぅうう…ふぅっしゃややや!(何してくれてるんだ!この馬鹿兄!)」
「まあ…何を言っているのかは分かるんだけどね…
わからないと思って、言ったの?馬鹿兄…ねえ?」
「に"っ…にゃ…ぅ(言っ…言って…ない)」
あれほどピンと立っていた耳が
ぺたりと伏せる…
「それと、あんまり反抗すると…痛いよ?」
「なぅぅ…(そんな…)」
そして…尻尾もだらりと…
胸を押していた手も、力なく掛布に落ちていく…
「では、父上
猫を数日間、部屋で愛でて…躾ても良いでしょうか?
やるべき執務も課題も終えているはずです…自由にしても宜しいですね?」
「ああ…少しは加減してやれ」
「ええ、検討致します」
「検討、か?」
「ええ、検討です」
ニヤリ…流石は親子か
明らかに止める気もない兄上の返答にも
父上の笑みは深くなるだけ…
「に"ゃ…(痛っ…)」
兄上を殴ってやろうと…久々に思って
手を出そうとした瞬間、
首周りにビリッっと電流のような痛みが走って失速する
「…ほらね、俺は忠告したのに…」
首周りを庇うように手を…
いや猫の手のような服を押し当てて、擦っていれば
抱き抱えられ
部屋から連れ出されて行った…




