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帰省7。




…馬車の中


当に街外れも通り過ぎ、

ポツポツと農地の中に民家が建つ以外に目立った建物はない

街並み等無く、

青々とした麦畑が広がるのどかな景色が流れていく…



宿場まで後数キロだと示す指標と、

遠くに目印にしている風車が目に入る。

そろそろ馬を休ませる次いでに、

昼食にする時間になるなと考えてから…目の前の弟に目を移す







他領の領道を通っているとはいえ、

舗装は石畳ではなく土に変わって久しい。


そのせいで

揺れが少し大きくなっている。




我慢出来ない程ではないが…



出発して4時間程あまり、

薬の口直しと暫く経ってから解禁された菓子を摘まみながら揺られていたが…

今のオリゼは玄武から貰った色とりどりの甘味が入った瓶を大事に抱えたまま、

眠りこけている。


そしてその身体は本人の統制下になく…

馬車の車輪が石を越える度、

頭や身体を守るために玄武が手や腕で支えている







「そろそろ、か」


「はい、少し遅めにはなりましたが」


「屋敷に帰って急ぎの用事もない。

別に飛ばしている訳じゃないからな…寧ろ早く着くよりもオリゼがこうして少しでも休める方が重要だ」


「仰る通りで御座いますね」





宿場は男爵家領地の外れ


ここまで来れば、一安心

危険な箇所は通り抜けたし、父上の納める領とあって自慢じゃないが治安もいい。



軽い読物として、

目を通していた領主経営学の本…


その最後のページを読みきると、

開いていたそれを閉じて青龍に渡す。



さて、

オリゼを起こす時間。

宿屋の時のように熟睡していて起きそうもない…



「そろそろ着くね、

玄武…オリゼを起こしてあげて」



「御意」



俺の指示に沿い


肩を軽く揺すり、

玄武が弟を起こしに掛かる


「ん…」

「貴台、起きてください」


「…眠い」


「そろそろ起きませんと、到着いたしますよ?」


「…」



緩みかけた両腕…

思わず危ないと思ったが杞憂であったみたいだ。


腕の中でぐらついた甘味の瓶をしっかりと抱え持ち直し、

…目を薄く開けていくオリゼ


流石玄武、

オリゼの側仕えだけあって起こすのも御手の物か…

少し嫉妬はしてしまうが、

しっかりと弟を起こしてくれて助かった




「貴台、お目覚めですか?」


「ん…ん、ここ…どこ?」



緩やかに停止する馬車に、

オリゼも何処かに着いたこと認識したかな?


寝ぼけ眼で外の景色を伺って、

青麦が風で靡く光景に何もヒントを得られなかったようだ






なにせ、

宿場は反対側だからね…



「丁度着きましたね。

宿場で、昼食と休憩に致しましょう?」


「っ…分かった」



宿場、

そして昼食と聞いたオリゼ


ここがもう男爵領であること

この領地の外れから、

馬車を走らせれば遅くとも夜には屋敷に着くと…

半覚醒の頭でも

その単語から…計算を弾けてしまったらしい。



少し暗くなった表情…

着けば怒られることが分かっている屋敷のある、

その領地に


既にもう…辿り着いてしまったことが気分が沈んだ原因だ






「貴台、お手を」


馬車を先に降りて

ステップ横で手を差し出している玄武

それを見て、

渋々…片手に瓶を抱え直すとオリゼは玄武の手を支えに外に降り立つ


続いて俺も青龍の手を借りながら下車すると、

宿屋同様…見慣れた宿場が目の前に。




「ようこそおいで下さいました」


「御世話になります、

サラ殿…馬と馬車は頼みます」


「はいよ、青龍さん」


青龍が宿屋の亭主に返事をし、

御者に声を掛けると、

合い分かったと気っ風の良い声が響く。


馬を休ませるため、

宿場の馬番の係の者に続いて馬車を誘導していった






…さて、なにかな?



宿場の亭主に中に通され

個室のテーブルに付くと

何か言いたそうに気がそぞろなオリゼ



「どうしたの?」



「あの…兄上、

昼食迄少し時間ある?」



「…オリゼの事だから宿場の農園が気になったんでしょ?」


「うん」



聞けば想像した通りの答えが返ってくる




宿場の隣には、

宿場料理に使うであろう野菜や野草…


普段オリゼが目にしない、

見慣れない菜園が広がっていたし…


馬車を降りてから、

それらに目が釘付け…

明らかに気が逸れていたから…興味があるのは一目瞭然だった



「…食べた後なら良いよ。

ただし、宿場の許可が取れたらね?」


「うん」



「それと、許可が下りたとしても

衛兵と玄武を連れてこの宿場の周囲だけ…分かった?」


「分かった…」



確かに時間はあるけれど、

オリゼが気の済むまで見る迄はない



それに問題は、

警備


今、青龍が厨房を借りて料理をしている

オリゼと玄武と衛兵一人がここを去れば…俺の護衛は、扉前に一人だけとなる


決して自分の身が可愛いわけではないが、

己の立場の重要性から安全確保は義務と学んでいる。

もう男爵領で警戒レベルは下げているけれど、

気を完全に緩めて良い訳じゃない


それに…

警備や警戒態勢の緩みから、

普通の領民に無駄な出来心を抱かせてもいけないだろうからね?






「それにしても…オリゼ」


「うん…」


「その瓶を抱えたままだと、何も食べれないと思うんだけど?

テーブルの上で良いから置きなさい」


「…」


普段ならオリゼの後に控える玄武に預けろと言うが、

それでは玄武の手の自由が損なわれる。

いざという時…

玄武は最後の砦


扉前に一人衛兵はいるものの、

窓際には外にも居ないため…玄武の警戒で賄っている状況だ




テーブルの中央、

邪魔にならないところにそっと瓶を置く弟に

聞き分けが良いなあと

片隅で考えながらそれに目を向ける


窓から柔らかに差す光が、

瓶やその中身を透過する…

その輝きが、

瓶の周囲…白いテーブルクロスの上に光彩を広げて…

まるで虹色の海の波紋を描いたキャンパスになっている


勿論、

瓶の中もまるで宝石の様相…


これだけ美しい菓子ならば、

オリゼが好むのも無理はない




「琥珀糖か…こうしてみると砂糖菓子にしても綺麗だ、

宝石のお菓子って異名も満更でもないね?」


「うん、凄く綺麗…」



「オリゼは鉱石好きだからね、

馬車の中でも白だけでなく碧や紫、橙や黄の鉱石を模してるって見立ててたね?

砂糖の再結晶で淡い色合いなのも好き?」



「ジャリジャリした食感は好きですし、淡い色合いも嫌いじゃないです」


「…」

「でも、出来立てで再結晶化していない琥珀糖の方が気に入るかと…

玄武曰く作りたては

半透明で淡い色合いではなく、全部中身の透明な色をしているので…光に当てるとそれこそまるで宝石のように綺麗に見えるらしいのです」



「そう、

俺も作りたては見たことないな」


「兄上も、ですか?」



琥珀糖はこの国の砂糖菓子ではない

和の国の、

お茶菓子や茶道の干菓子として食べられている和菓子


海草の紅藻から煮出して作る寒天に、

大量の砂糖と好きな風味や色を着けて一週間程乾燥させたもの

つまり、

オリゼが玄武から聞いた出来立ての琥珀糖は


無色透明の寒天に、

様々な色が着けられてきっと綺麗に見えるんだろうことまでは想像出来る





「まあ、想像はつくけど…

それとね…オリゼは初めて琥珀糖を見たからこれが普通の琥珀糖だと思うかもしれないけど、違うからね?」


「…違う?」



「こんなに色とりどりでもないし、

飴玉みたいに猫瓶に詰めるものでもない…

お茶菓子としてのこれの形は正方形か、短冊で単調だよ?」



だからこそ、

これの出来立ては想像仕切れはしていないと分かるのだ。


知識からある程度の想像がつくとは言っても

色味は白と他二色くらいで…

正方形か短冊に切られた単調な形の六面体が並ぶ光景。

有色の透明な寒天が光に煌めいている程度の物



それだけではオリゼが想像している綺麗さには遠く及ばない筈、だとね…





なにせ…


目の前の琥珀糖は色彩豊かで、

多種多様な形になっている…


比較的多く入っている立方体の形状…以外に

八角形や、双極形、

正16面体や26面体…終いには宝石のカットみたいにルース形であるものさえある

のだから…


これらが、

出来立ての透明な状態であれば

…想像が追い付く六面体である立方体の光の乱反射、三色程度の放つ光彩とは

別次元の美しさを讃えるだろう





色彩が増えれば増えるほど、

琥珀糖の形が複雑であればある程…


協会のステンドグラスのように

きっと周りが宝石が散りばめられたようになるかもしれない




「んー」


「…じゃあ、白い立方体のが沸石に似てるとか

グレーの八角形は雲母に見えるとか…深緑のルース形は宝石用のカットが施されたエメラルドみたいだとか、

…そういう形のはないの?」



「こういう立方体はあるにはあるけど、

殆んど無着色で白いもの。

だから…全く無い訳じゃないけど、そういう見方するなら殆んど沸石になっちゃうね」


「そう…

じゃあ玄武が創意工夫してくれたんだ」



「そうだろうね」




俺は今までこんな形の琥珀糖は見たことがない。

だから…

これは紛れもなくオリゼのためだけに、

精魂込めて作られた琥珀糖だと言える…




玄武がかなり手を入れ込んだ物だとじっくり見なくても分かったし、

オリゼの鉱石好きを知る側仕えだからこその工夫。


仕える弟に喜んで貰おうと

…乾燥させる前に、

鉱石の結晶や宝石のような形を模したのだろうから






…コンコン



「若、入室しても宜しいでしょうか」


「入れ」




「失礼致します。

本日の昼食は軽食とのことでしたので、サンドイッチと致しました」


「ああ」



オリゼの後に控える玄武、

弟に対する尽くしが過ぎるんじゃないかと…玄武の顔を伺ってはいたが


弟に創意工夫してくれたんだと

認められたことを余程嬉しく思ったのか、

目を薄く細め…背後から慈しむ様な視線で見ている様子


…これは猫も食わないね

多分、

この琥珀糖からも見て取れた玄武の忠誠心や想いは…

氷山の一角に過ぎないと分かったから。





食べる前から胃もたれしては叶わないと、

その顔から視線を外し…


青龍によってサーブされた目の前のサンドイッチへと目を落とす




「成る程ね、

オリゼ食べようか」


「…はい」




胡瓜とマヨネーズのオーソドックスなものと、

茹で卵にハムとレタス、

スモークサーモンとクリームチーズにアボカドの三種


茹で卵のは俺向け、

スモークサーモンのはオリゼの趣向だ

胡瓜のオーソドックスな奴はどちらも好きだしね…



茶葉はアッサム、

いつもならオリゼにはストレートのダージリンを注ぐのだろうけど

渋みが胃に負担になるからか

俺と同じ茶葉でミルクが添えられている


今日の朝でさえ、

珈琲を出して貰えなかったものね…

紅茶を出すだけ青龍は譲歩したのだろうが、

ミルクティーに問答無用でされたオリゼは少し不満げだ


まあ、

控えている玄武もそれを見ても黙って静視しているし

俺も青龍に同意見。

だから…

何を言ったところでオリゼにはどうにもならないけどね








…食べ始めて暫く

オリゼが茹で卵のサンドイッチを凝視しているのに気が付いた


ミルクティーをチビチビ飲んで、

まだどのサンドイッチにも手を伸ばしていない弟



「オリゼ?」


「…何でもないです」



そんなにむすっとしてて、

何でも無いわけ無いよね…


アッサムのミルクティーが不満、

それに加えて…サンドイッチの比率も好ましくないって思ってるのは気付いてたけど


だからって、

意地張って食べないままいるなんて駄目に決まってる。



そんな思いから注意を促してみたが、

頭をゆるりと横に振って誤魔化すつもりなのかな?





「…食べないつもりなの?」


「…」



まあ、

弟の気持ちも分からない訳じゃないけど…


オリゼとしては胡瓜とスモークサーモン、

極端に言えばスモークサーモンだけのサンドイッチが目の前のお皿に並んでいた方が良いに決まってる


だから、

そのオリゼの趣向に合わせて普段ならスモークサーモンと胡瓜のやつが多めに用意されるし、青龍も意向を汲んでそうするだろう。




…けれど、実際

オリゼの目の前の皿に盛られている種類で一番多いのは茹で卵のやつだ。

…茹で卵のが4個盛られているのに比べ、

オリゼの一番好きなスモークサーモンのものはたった一個

胡瓜のやつでさえ二個で少ない。



「オリゼ…」


「ぅ…」



やはりそれを不満に思って、

遺憾の意を示すために食べないつもりなのだろうか…?


茹で卵のやつも好きだった記憶があるのだけど…

多分そういう道理ではなく、

一番好きな種類のものが一番少ないのは解せないんだろう




…臍を一旦曲げたら梃子でも動かなくなるからね、

この頑固者は。

そうなれば食べさせるのが困難になる

そう思って、

それを回避するために注意をしただけだったんだけど…



チビチビ飲んでいた紅茶ですら、

そのカップを置いておいて飲まなくなったし…

言い聞かせている内に

俺に怒られると思っているのか、

終いには項垂れて俯いてしまった…




「茹で卵のが多いから嫌?」


「…理由は何となく分かりますから、何も言えません」



胃の負担になる紅茶に、

消化の良いとは言えないサンドイッチ。


それが出てきただけで、

昨晩と今朝とはメニューの意図がうって変わった事を弟も分かっているんだ…




卵雑炊や田楽

スープや工夫されたオムレツ

デザート代わりのヨーグルトですら、

ジャムや大好きな蜜漬けフルーツではなくて桃のスライス


どれも胃に優しく、

消化の良いものばかりだった





「…何となくじゃなくて分かってるでしょ?」


「青龍が俺の好みに添わないのは…理由があります」


「それが分かってて、

その上でそれが気にくわないからって食べないつもり?」





「兄上、

それならミルクティーを飲んでませんよ?」


「ああ…確かに」


「ただでさえサンドイッチはフランスパンより消化の悪い角食パンの内側に、たっぷりバターを塗っているのですから…

挟む具材がクリームチーズとマヨネーズ、アボカド、

塩味の強いスモークサーモンと来れば益々…今の俺には好ましくないでしょう」





「ん、続けて?」


「卵は完全食、栄養価も高く…病人食には欠かせない食材の一つ。

ここ三食全てに使われた事からも、摂取した方が好ましい…

ハムが入っているのは肉不足補うため、

…マヨネーズが抜いてあって負担軽減させて数が食べれるようにしているのは

この三種の中で俺が一番食べるべき具材が挟まってるから」



「うんうん…」


「ストレートのダージリンでなくアッサムのミルクティーなのも、

俺の胃の負担を和らげるのと…たんぱく不足を補うためにですよね?」



「ふふっ、正解」



「本来なら安牌の胃に優しい料理を用意すれば良いところを、

そこまで配慮してくれて…

好物の比率が少ないからってだけで駄々捏ねて食べないつもりなんてありません」


「なら、どうして食べないの?」


「心配掛けるのが嫌で言わなかったんですよ。

…俺はただ…少し空腹の胃を、ミルクティーで慣らしてから食べたかっただけなのに…」



臍を曲げて食べないつもりかと思えば、

全然違ったみたい…




空腹の胃にすぐにサンドイッチを入れれば胃がビックリする。

過剰に胃酸が出て負担になることも…

食後に不調を来して心配を掛ける事を予想して見越せていた


ただ、

ゆっくりミルクティーを飲んで胃を慣らしてから食べれば大丈夫だとも判断がついた。

だからこそ、

あえて俺に言わないことで、心配させないようにとも思っていたんだ…




成長したね、オリゼ

自身のために工夫してくれた青龍の考えを汲んで、

我が儘言わなくなるところとか…


配慮に応える事も、

素直に出来るようになって…




それにしても青龍も、

オリゼの事を結構可愛がってるよね…


弟の言う通り、

単純に胃や体調のことだけを考えるなら、

柔らかく煮た月見うどんや茶碗蒸しにすればいい。



…最初からサンドイッチなんて考えないし用意しない


それでも青龍がサンドイッチにしたのは、

オリゼがその方が喜ぶからで…

その為に此処まで考えて、

今のオリゼが食べても大丈夫なラインギリギリの物を作ってきた


紅茶も…しかり、ね






「じゃあ何で卵のサンドイッチを睨んでたの?」


「…」



「ほら、黙ってても分からないよ?」


「言わなければ…なりませんか」

「うん、今迄の説明で理解出来ない点はそこだけだからね」


「兄上、別に睨んでた訳じゃないです…

ただ…美味しそうだなって思って見てただけで…」





「ねえ青龍、やっぱりオリゼ可愛くない?」


「若…」



「入学前のオリゼなら、

茹で卵にはマヨネーズが無いと嫌だとか…

スモークサーモンと胡瓜のやつ増やせとか駄々捏ねてたよ?

それが此処まで成長したんだからさ、

可愛さも倍増だと思わない?」



「御答え出来かねます。

一侍従に、仕える家の御子息を…可愛い等と評する資格は持ちえません」



「サンドイッチ、美味しそうだって誉められたのに?」


「…お褒め頂けたことは誉れでは御座いますが、

それとこれとは問題が違います」



サンドイッチと紅茶を用意した時点で弟への甘い対応はバレてるのにね、

俺が可愛いって答えても良いと許してるのに…

こういうところは青龍は固い。


絶対にオリゼのことを可愛いと思ってる

青龍の少し口角が上がったところを見れば、

その表情から弟の褒め言葉を嬉しく思っているのは明白


弟の体調を考えながらも、

出来るだけ好みのものを腐心して用意した事も認めて貰えたのだ。

青龍としては、

嬉しくない筈がない




なのに…

侍従としては口にすることは憚られると固辞するの?


可愛くないね、

折角オリゼが誉めてくれたのに…



「ふーん…ねぇ玄武」


「はっ」



「青龍はそう言うけど…オリゼは可愛いよね?」


「…アメジス様が仰られる通りに。

貴台は何時何時でも可愛らしく、仕えるに値する御方で御座います」



「「…」」



…うん?


玄武が、

オリゼが可愛いと答えることは分かってたけど…

流石の俺でもそこまでは言ってないよ…?


たまに駄々や天邪鬼が過ぎる時は、

この俺でさえも可愛げがないと思うことはあるし。



それとね…

オリゼのカップに紅茶を足していた

青龍があまりの衝撃発言に一瞬フリーズして言葉を失ったよ?

それも、

侍従の領分とか資格云々の問題じゃなくて。




さらりと当然の様に、

いや当然だと答えた玄武の発言に…目の前の弟は何も感じていないのだろうか?


睨んでいた卵のやつ…

否、美味しそうだと見つめていたそれを漸く手にして

口に運んでいる。


玄武の衝撃発言にも動じず、

ただ猫が鳴くのは当然の現象だとばかりに食事を進め始めている




胃を思いやって、

食べるスピードは抑えてはいるが…

パクパクとその口に吸い込まれている速度を見れば、

舌鼓を打っているのは間違いない。


オリゼのお眼鏡に叶ったようで何よりだ…



…食べ始めれば

瞬く間に皿の上からサンドイッチは消えていき…

終いには、パン屑一つ無くなる


完食…


オリゼが食欲旺盛なのは良いが、

あまりの様子に食べたり無いのかとも心配になる。



「食べたね」


「ご馳走さまです」



「お代わりは要らないの?」


「…もう結構です」



まあ、

相当食べる前に紅茶も飲んでたし

胃も小さくなってるからね…


本当はサンドイッチのお代わりをしたいんだろうけど、

オリゼも自身の胃に余裕がない事を自覚してるみたい…



「なら、薬飲む?」


「…ん」



眉をしかめて、

嫌な時間が来たとでも思っているんだろう


飲むとは言うものの…

青龍に用意される薬と水に、

歓迎の感情は微塵にも感じられない。



苦手な薬だもんね、

今朝も2つ飲むまでは時間がかなり掛かったし…


気長に待ってあげるしかないかな、

と思っていれば薬包紙の一つを直ぐに飲み下した








……



…相変わらず苦いし、

この舌に張り付くような薬の味が苦手

一包はなんとかなっても、

次の2包目にどうしても手が伸びない…


青龍が用意してくれたものだから、

昔のように払い除けたりはしないけど…それでも喜んで口にする事は無理だ


「はぁ…」



「貴台、如何なさいましたか?」


「あのね…玄武、

ああいうのは恥ずかしいから止めて」


「貴台がそう言われるのであれば、自重致します」



俺が言うから自重するって、

それはそれで表面上は解決するけど…

根本は違うよね?



可愛いだとか言われても怒りはしないし、

別に遺憾にも思わないけど…

青龍みたいに少し遠慮して欲しい


言われても…あんまり嬉しくないし



「俺がどうこうじゃなくてさ?

…青龍が言った、侍従の資格云々の概念は玄武にはないの?」



「御座いますよ」


「…じゃあなんで?」


「時には問われた質問に、

嘘偽りなく御答えするのも侍従の務めですから」


「何か違うけど…概念が分かった上で玄武はそう言ったんだ?」


「そうなりますね、

今回はアメジス様が求められた質問に御答えする事を優先と致しました」



「…む」



「アメジス様が求められていたのは侍従の資格に乗っ取った返答ではなく、不肖個人の考えでした。

非礼を承知で申し上げたのは、無礼講で構わないとの御意志を汲んでの事です。何も、不肖とて主従や侍従の枠を踏まえないわけでは御座いません」




成る程ね、

確かに兄上は玄武に本音を聞いてたし…

侍従の立場を踏まえた回答は求めてなかった。


だから、

玄武は兄上の意向にそったことになり…

無礼な発言であろうとその意見を言ったことは正しくなる。



けど…



「兄上にはそれで筋が通るから良いとして、

俺に対しての諸々はどうなのさ」


「どう、とは…」


「今の俺の質問。

時には問われた質問に嘘偽りなく御答えするのも務め、の質問にはならないの?可愛いとか、俺は言われたくないよ?」






「…貴台は侍従らしい侍従を御求めですか?」


「…」


「それが御希望であったならば、

御意向を汲み取り間違えていた不肖の力不足ですね」



「…」



「今迄の数々のご無礼と、

己が身の至らなさを御詫びし…侍従規範と心得に則った侍従らしい侍従となりましょうか?」



「ちっ…玄武は今迄の玄武で良い」


「宜しいのですか?」




何にも言ってくれない、

主従や立場にばかり重きをおいた玄武なんて嫌に決まってる


怒られるのも、

心配されて叱られるのも…

時には凄い怖い顔をして嗜められるのも嫌だ。

侍従らしくない玄武は、時には兄上よりも怖い…


けど…

体調崩した時に、

付きっきりで優しく看病してくれるのだって…

悪戯に加担してくれたり、

遊び相手になってくれるのだって…規範にない枠外の行動だ


心得にだってそこまで尽くせとの、

言葉はないのだ



「うん…

可愛いだのなんだの、言って構わない…やだけど」


「畏まりました」




そう、


それを犠牲にしてまで…

当たり障りのない事や行動しかしてくれなくなったら悲しいどころの話じゃない。

玄武だって、

俺に怖くするときはその必要があるからするんだし…

怒られなくなるのも、

見放されたみたいで…もっと怖い。



ただ可愛いって言われたくなかっただけなのに…

なんでこうなるの?






「くくっ…」


「…む…何ですか、兄上」


「面白くて…つい」



むくれていれば、

それが面白いと兄上は笑い出す

青龍も、あからさまに俺から視線を外しているし…


つい、じゃないよ…



「弟が言い負けたのが、ですか?」


「それもそうだけど…くくっ、玄武はオリゼをよく理解してるなって思ってね?

表面上…侍従らしく見えないし、型破り。

それはオリゼが求めるものに常に忠実に、要望には迅速に応えるからそう見えるだけ…玄武が侍従である何よりの証拠だと思ってね?

それに、

父上や俺に対しての態度も…最後の一線は絶対に間違えないでしょ?」



最後の一線云々は…

考えたくないからスルーするとしても


侍従らしくないのは、

俺がそれを求めないからなのは良いとして…

兄上は俺が

まるで貴族らしくないって言いたいのかな?



兄上、あんまりじゃないですか?



「俺が貴族らしくないから、

玄武も侍従らしくなくなると聞こえるのですが?」


「その通りでしょ?」


「…」



「オリゼが玄武に侍従らしくなれと思うなら、

多分…玄武は本当に侍従の模範になると思うけど?」


「俺が泣いても、

…怪我しても取り乱さないってこと?」


「本当にオリゼがそう願うなら、

玄武はそうなるのは分かってるよね…

だからさっき…玄武は今迄の玄武で居ろって、釘を刺すような意思表示したんじゃないの?」


「む…

冷静過ぎる玄武は見たくない…ですけど」



眉一つ動かさず、

冷静に対処や手当をするとか…やれと言ったら玄武はやるに違いない。


侍従業務としては合格はするんだろうけど、

でも…温かみがない。

泣き止むまで頭撫でてくれたり、

傷の手当のあと…夕食前でも秘密でお菓子くれたりした記憶もある


ああいった、

対応が全部無くなる方なんて…選ばない






「まあ…

天と地がひっくり返ってオリゼがそう願ったとしても、

そんな玄武を俺は見たくはないけどね」


「俺の希望なのに?」



「希望だとしても…ね、青龍?」


「…同じ侍従として、

決して型破りであることを推奨するわけにはいきませんが…」


「いきませんが…、何?」


「…本音では、侍従らしい侍従に玄武がなることは望みません」



渋い顔で本音を言いきった青龍

今度は兄上の意向に沿って…無礼な発言をする気になったらしい




兄上も青龍の言い方は、

玄武がまるで破天荒で暴れ馬であるみたいに…聞こえる。



確かに冷静過ぎて俺に甘くない玄武は絶対に嫌。

だけど、

普段から俺の事を第一に考えてくれるお陰で…少し普通じゃなくなっている、

そんな侍従なのは事実だとしても、あまりの言い種だ


玄武は侍従だし、

侍従らしい侍従にもなれる。

ただ…俺が望まないからそうならないだけであって、

玄武の能力不足みたいに評されるのはかなり腹に据えかねるものがある






「兄上も青龍も酷い…

玄武がちゃんとした侍従になれてないって言うの?

…青龍は玄武のこと、そんなに認めてないの?」



「オリゼ様の厳命で…仮に玄武が侍従らしい侍従になったと致しましょう。

オリゼ様が例えどんな危険に晒されても、

規約や規定…侍従の立場の範囲外であるからと言って飛んで駆け付けませんよ?そんな馬鹿は必要ありませんし、

小生としてもそうなることは望みませんと申し上げているのですよ」



「とりあえず聞くけど、

…青龍は侍従らしい侍従になれるの?」


「完全にはなれませんね、

感情を捨てきれませんし…完全に捨てきれたとしてもそれが侍従足りえるとは思いません。

主人の意を汲んで動くためには人としての感情は欠かせませんし、

意に背くと分かった上でも…時には主人の御身のためになるならばと判断して進言や換言をしなけばなりません」



「規範や規定を軽んじるってこと?」



「違います…規範や規定は守るべき大事な物。

しかし、それだけを遵守し仕える侍従が侍従にはなれません。

仕える方の有事の際にですら立場の範囲外であるからと何もしないのは侍従ではありませんよね?

侍従らしい侍従とは、主人の為に動く人ではなく規定規範や立場の範囲内で命令に従う傀儡のことです…ですから人間でなくなる必要があるのです」





傀儡…って操り人形じゃないか

青龍や兄上が言う、侍従らしい侍従ってそんな人の心を持たない道具の事を指すの?


青龍は自分はなれないって言うくせに、

まるで玄武はそうなれるみたいに言うし…兄上も見たくないって、


…まるで玄武を人間扱いしてないみたい




「ねぇ…玄武も、そう思うの?」


「青龍の言う通りですね。

本当に貴台がお望みなら、感情を消してそう行動致しますし…誰かを殺せと命ずるなら忠実にこなします」


「っ…」




「貴台…

貴台は御優しい心を御持ちですね?

ですから今迄も…そして今後もそのようなことを本気で望むことも命ずる事もないでしょう?」

 

「優しい心を持ってるかは置いておいて、

その2つはない…」




「ただ、青龍と不肖が違うのは…

やろうと思えば不肖にはその侍従らしい侍従になれるてしまうと言うだけの話です」


「俺は…そんなこと、玄武に望んでないし絶対に望むことはない。

それに、

お前は傀儡なんかじゃない」




玄武に聞けば、

俺が望むなら傀儡になれると…


兄上や青龍の発言を認める言葉を沢山並び立てていく…



…悲しい


俺の望む侍従らしい侍従は、

そんな物じゃない…

それに、玄武に人間を捨てさせるようなことを望んでいるように、

例え勘違いだとしても一瞬の時間であれど…そう受け取られたくない。


傀儡や人形になれだなんて、

玄武に望む訳無いじゃないか…




「…分かっております。

貴台には感謝しているのですよ?

今の不肖が…いえ、俺が人間らしく情を持ち侍従でもあれているのは貴台がそう望まれているからですので」


「違う。

感情を消すってことは…感情が無いことと同義じゃない。

玄武は傀儡にはなれないよ?

それと…昔も傀儡じゃなかっただろ、

感情が無かったんじゃなくて気付いてなかっただけ。

感情が欠落した傀儡に感情が生まれることは理論上の期待値は0だし…そんな事象も聞いたことがない

だから…

昔も今も…青龍と同じく侍従らしい侍従になんてなれない、優しい人間だよ?」


「…」



「…玄武?」


「…そう、かもしれませんね」



珍しく目を泳がせる玄武に、

本当に会得していないのは…残念だけど分かってしまう


感情や機敏を殆んど表さなかった時代の玄武の姿も俺は知ってるし、

玄武自身、

己が昔から優しい人間であったと…容易には認めがたいことも察しはつく


昔の仕事柄…

人を欺くことも、

利用して捨てることも…

そして、手を血に染めることもあっただろうから…




「後…分かってると思うけど、

いや分かってなかったら困るから言うけどね?

さっきの玄武が言った侍従らしい侍従って表現…兄上や青龍は傀儡と考えたみたいだけど、俺は違うから。


俺が断った侍従らしい侍従ってのは

冷静沈着で合理的な対処が出来る有能な侍従って意味で…一見兄上達の定義と似てる様に聞こえるかもしれないけど、感情や人間性を持った前提の人間の侍従の話」


「…貴台」


「もし玄武がそのタイプの侍従になってくれたら…確かに格好いいし、スマートで対外的には好評だ。

けど…

そんな侍従に玄武をさせたところで俺には合わないし、なんにも楽しくない」


「…」



「そもそも玄武には玄武らしく居て欲しい。

仮にそのタイプが俺の望む侍従であったとしても、

常にそんな型に嵌めて窮屈な思いさせてまで…玄武がそんな侍従でいて欲しいとは願わない。

玄武が玄武であることの方が大事だし、真の望みだからね?」


「…」



「分かったの?」


「…分かりました」



深く礼をして、

玄武は動かなくなる


そんなに講釈を垂れたわけでも、玄武に怒ってるわけでもないのに…

謝らないで欲しいし、

大袈裟にしないで欲しい。


俺は…思ったままのこと、普通のことを言っただけなんだから





「頭あげてよ…

まあ、たまには青龍っぽい玄武も見てみたいけど…

…さっき言ったのはそう言う意味だし」


「貴台、台無しです」




「駄目?」


「貴台らしくはありますが…締まりませんね」


「うーん。

あ…玄武って俺が我が儘言っても、何時何時でも可愛いって思うんだよね?

つまり…我が儘、

叶えてくれる気持ちにはなってくれてるって解釈をしても間違いじゃないね?」



「程度にはよりますが、

叶えられる範囲では叶えます」


「…む」


「なにがなんでも叶えて欲しいと思われるなら、叶えますが…

貴台が望みはしませんよね?」


「ちっ」




大抵の我が儘なら聞いてくれる、

ただそれが好ましくない種類のものであれば諫言して止める。

それでも玄武の注意をはねのけて俺が本気で命令するならば、

遂行すると?


…玄武は、どんな汚れ仕事であろうとこなすとまで言いたいのか



俺はそんな大それた我が儘、

言いたいわけじゃないのにな…何故事がここまで大きくなるのか理解に苦しむ


ただの餓鬼だよ?

侯爵になりたいとか、巨万の富が欲しいとか…そんな事は願ったりしない

せいぜい、

美味しい甘味が食べたいとか…

領地の街に遊びに行きたいとか、

玄武が青龍みたいな振る舞いをしたら格好いいだろうな、とかそう言う次元だ





「御希望を聞く前から不肖が出来ないと最初から断ることも、無理だと諦めるわけでは御座いません。

不肖に、叶えることが可能か可能でないかの問題ではなく

その貴台の望みが倫理や常識の範囲内であるかと伺っているだけの事です。

その点は貴台もお分かりでしょう」


「分かってるよ…」




まあ、

今の俺が甘味をねだったところで出ては来ないし

領地に遊びに行くのも叶わないけど…

屋敷につくまで玄武が青龍みたいな振る舞いをするくらいは、

願ってもバチは当たらないと思ったのに…


勿論、

玄武が青龍の真似をするのを嫌ならば…仕方ないけどさ



「まあ…青龍らしくはなれますよ?」


「うん?」


「範囲内で御座いますから」


「…え、それやった後寝込まない?」


「寝込むのは青龍の方でしょうね。

貴台が望むのであれば、それを叶えて差し上げるのが不肖の望みになりますので不肖への負担は御座いません」


「本当…?」


「はい」




もしも玄武が青龍みたいになるなら、

と楽しく会話を続け

盛り上がってきたところで


…はたと気づく

俺と玄武以外の声が、

その会話が途切れれば…途端にこの部屋が静かになることに





…いつの間に?


…何で兄上と青龍は静かなのだろうか?

少し玄武と俺の会話に混じる以外は無言


窓の外の景色を楽しんでいるのか、

寡黙に食後の紅茶を楽しんでいる兄上…

暫く観察していれば、減る紅茶

空になったカップに時折青龍が注ぐだけでそこには会話がない


その繰り返し、だ




俺はサンドイッチを食べ進め

ミルクティーも飲んだ。

そして薬包紙の一つは玄武との話の前に済ませたし、

かなり兄上に素直に従っているつもりだ…



だけどそれでも…

何か気に障ることでもしたかと、心配になってくる





「兄上?」



「ん?ああ、薬飲めた?」


「…ぅ」



聞きたかったのはなんで黙ってるのか、で

声をかけたのは薬が飲み終わったって知らせる訳じゃない…



兄上が此方を向いてくれるが、

その視線が止まった場所は俺の目の前


聞くまでもなく、

見ての通り…

2つ目の薬包紙は折られたまま。



まあ…

開けすらしていないし、

当然済んでもいない…



「宿場の周り、探索する時間が無くなるよ?」


「…なんで」


「後一時間したらここを出発する。

今飲めば30分は見て回れるけど…飲むのが遅くなれば、分かるね?」




分かるし、

…それでは俺が困る。



遅くても50分後…

出発の準備前までに薬を飲めれば良いと兄上は言ってくれる。

急かすこと無く、

俺が飲めるのをゆっくり待ってくれると…


そんな

優しい言葉にも一見聞こえはするが…


その時間になっても自ら飲めなければ、

飲ますことになると釘を刺されたのだ。




「…う」


「いつ薬を飲むのかは、

それを踏まえてオリゼが決めなさい」



…そしてそのリミット迄に飲めたとしても、だ。



飲めるのが遅くなればなるほど

菜園を見る時間は無くなると…


仮に薬を飲めたとしても、

50分掛ければ直ぐに出発…するらしい。

俺が菜園を見たいと言っても、

出発の予定時間をずらす気はないと言われている…



だから…

薬を飲むのを先送りして菜園を諦めるか

今すぐに飲んで菜園や探索を楽しむか


それを決めるのは俺で、

選ぶのも俺。

…つまり、好きにしなさいと兄上に突き放された形になる




「ぅ…ぐ」


「オリゼ?」



「…ぅ」



どうせ飲まなければならない物ならば、

今すぐ済ませた方が良い

そうしなければ気になっている宿泊周りを見て回れなくなる


その考え一つに…


目の前の薬包紙の粉薬をを口に流し込み、

水をごくごくと流し込む。

それでも流しきれない、

好ましくない薬の味が舌と口に広がっていく




「…ちゃんと飲めるじゃない、良い子」


「む…」



「そんな顔して、何か言いたいの?」


「…」


「んー、少し厳しい言葉は使った…からかな?」



兄上が俺の苦々しい表情に、

少し笑っている…

兄上にとっては、

薬を飲むくらいどうってこと無いだろうけどとジト目になる


嘲笑ってる訳じゃないが、

その幼い子供を微笑ましく思うような笑みはあまり歓迎したくない




…幼い行動を取っている自覚があるから、

恥ずかしいのだ…




「…兄上、菜園を見に行っても?」


「宿の主人に許可を取れたらね、

俺は紅茶でも飲んで休んでるから行っておいで」


「はい」




確かにどれも優しい言葉ではなかった…、

それでも兄上が俺に優しくないわけじゃない。


俺がなかなか薬を飲めない事は承知していて

兄上は俺に釘を刺す前にも、かなりの猶予を…紅茶を飲みながら待ってくれていた。


そして飲めれば、

こうして宿場の周囲だけとはいえ自由にさせて貰えるのだから…

かなり甘い扱いされてると自覚してる。


それに兄上が出発時刻を変更しないのは、

俺が薬を飲むのを待ちきれないからじゃない…

飲めたとして、

時間がかかればご褒美はお預け、なんて意地悪をしてる訳じゃないのも…理解してる。




此処が領地の辺境であれば、

屋敷まで馬車で5時間位の距離


日の長い今の時期でも、

…日が落ちるのは18時位の筈。

道中の安全面から完全に日が落ちる、日の入り迄に屋敷に着くのが最善だと考えるのが定石だ。




…が、

今は13時

出発を14時としてくれている時点で、到着は19時となる


屋敷周辺で治安が良いことと、

日の入りから完全に暗くなるまでのギリギリを計算した出発時刻が14時だ…

俺の事を考えて、

最大限…出発時刻を遅く設定していることは…まず間違いないのだから。




…兄上は大概、俺に甘い。

総じるならそういうことになる…と


密かに心の中で思うことになったのだった





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