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帰省6。





オリゼなりに頑張った成果

胸を張れる結果


弟のオリゼを買ってるし、

俺の目は間違ってなかったと確信を得られた

そんなテストの出来に順位だよ?


俺のそのシスコンフィルターを外したって、

誰から見たってその努力は認められる筈




初学年後期、

魔力量の測定からひきこもりになって

自棄になっていた。

その結果が、叔父の罪を被るという最悪の結果を招いた…

それでも皇太子のお陰で何とか立ち直り、

今学年前期

その間の遅れを取り戻しながら、

勉強を必死にしてきたのだろう


…その上、

選択講義を5つ

休日は皇太子の侍従見習い。

平日は担当侍従も側仕えも傍に置かずに、

自立した生活を送りながら必死に頑張ってきた結果じゃない…







それが…


一番その努力を認めてやらないといけない本人が、

なんでこんなに矮小化させているの?

見ている此方が悲しくなるほど卑下しているの?



"…もう少し上位になれたら良かった"


その言葉は、

弟が己の結果に誇りを持てていない証拠


きっと俺みたいに1位を取れなかったのにと思っているのだろう…

それでも俺がそれを聞けば眉を下げることも、

自身を誉めてくれた気持ちを否定すると、

胸の内に押し込んで言わなかった


そして、

俺に嘘をつくわけにもいかないと…も





どれも手に取るように分かる…


今にも泣きそうな表情

それを隠す為に俯いた弟の頭を

…気の済むまで撫で回してしまったのだった









…夕食後

胃が落ち着く迄

泣きそうになった弟を精一杯あやし

…吐き気や嗚咽がないことを確認してから  

早めに寝かしつけたオリゼはもう夢の中



寝返りを打って、

少し肩からずり落ちたタオルケットを掛け直してやる





「…青龍」


「はい、若」


「机の上、紐で纏めてある封筒は明日の出発までには出しておけ。

お前に頼んだ代筆分の〆は…明後日、屋敷についてからでも良い」


「その様に致します」



「後…明日の朝食は甘いものを一品出してあげて欲しい」



「…甘味の感じられるものであればよろしいのですね?」



漸く寝静まった弟

屋敷に戻れば優しくしてやれない


怒るべきことは沢山、

それに関してて緩める気はない



…それでも、

必死にこの半年間這い上がってきた

足掻きながらも

頑張ってきた弟に…甘味一つくらいはと


甘い顔をしたくなった




田楽一つ、

遠慮して食べなかったオリゼに…


もっと食べたいとも、

寝言を言う程に…夢の中で欲していたであろうステーキやガレット、カヌレも要求しなかった。

用意されたメニューに異も唱えず、

薬も必死に飲んでいた…


苦く、苦手な顆粒の漢方薬の後も

口直しの飴一つも欲しがりはしなかった…





そんな

可愛い弟に、甘露一つくらいあげてもバチは当たらないだろうと…



「そうだね…

胃と身体に優しいものがあれば」


「畏まりました」



オリゼの寝顔を見ながらも、

背後に青龍が控えるのが分かった。


そしてその表情が不敬であろうことも、寝返りを打たずとも知れたことだ



俺がオリゼを寝かしつける際、

過剰なまでに撫で回していたのを

…背後で青龍が呆れているのは分かっていた。


そして寝かしつけた後

こんな発言をすれば、更に嘆息することは自明…




弟を可愛がるのも、

大概にしたらどうかと思っている筈だ




「昼はもう領地に入る…

オリゼの食は更に細くなるだろうから、昼食には軽食を考えておいてくれ」


「承りました…

小生から一つ御提案が御座いますが、御耳を貸して下さいますか?」




「なんだ…」



…話がある?


オリゼから視線を外し、

青龍の方へと寝返りを打つ


俺がオリゼの頭を撫で、宥めていた時の視線

あれは甘過ぎると呆れていたものだったし…

この過保護な食事指定にでも提言したいのか?



まあ…

先程から、何か言いたげでもあった…からな


遂に甘やかすのは辞めろとでも言いたいのかと、

ジト目になりつつも

仰向けになって、その側仕えの表情を見上げてやる





「玄武が持参した、砂糖菓子が御座います。

食後は薬効が落ちるのでお勧めは出来ませんが、馬車移動の間食として少量であれば適当かと」


「…うん?」


そこに呆れ返った顔はなく、

少し困ったような…罰が悪そうな表情を浮かべる青龍



それも、

予想だにしない発言




「若…もう一度お伝え致しましょうか?」



「くくっ…ちゃんと聞こえてるさ」


「…左様で」



思わずニヤリと笑ってしまったのが悪かったんだろうけど、

これは仕方がない。

青龍の顔は、

みるみるうちに無表情になってしまった…




提案というから、

何事かと思ったが…青龍も大概、オリゼに甘いんだね?



先程火花を散らした相手、

気に食わない玄武の言葉であっても…


そして本来は玄武が俺に直接伝えるべき事項と知りつつ

業務に関して厳しい青龍が

目くじらすら立てていない。


その上、

都合よくその玄武の伝書鳩になることすらも了承した…




弟の為になるならばと、

普段ならあり得ない行動…

青龍らしくなくとも、こうして伝えているに至っているのだから


こうして

…にやけてしまうのは仕方がないよ?





「で、砂糖菓子ならやはり…金平糖?」


「いえ、玄武の手製の物で

…オリゼ様に御用意したと聞いておりますから、金平糖ではないかと存じます」



オリゼが好む砂糖菓子と言えば金平糖

だからてっきりそれかと思ったが、玄武のお手製と聞いてその可能性は消えた


あの菓子は何日も作るのに要する

大きな銅が必要で

かつ金平糖足る、砂糖の再結晶を大きな角が出来るまで相応の時間と手間を掛けなければならない白物

それも、

付きっきりで…

オリゼの側仕えとして侍っていなくとも、屋敷での業務はある。

その為だけに、

玄武が何連休もの休暇をとるとは考えにくい




「そう、なら他の好きな砂糖菓子…かな」


「小生もそう推察致します」



飴細工かもしれないし、

和三盆、落雁もオリゼの好む砂糖菓子


いくつか考えられる白物はあるが…


それにしても

…態々作って持参した、ね?

それを聞いただけで、

玄武のオリゼに対する主従関係を越えた感情が垣間見える






「で、何故それを玄武は俺に直接聞かないの?」


「先程の失態の後です、

若に進言する勇気があるならば…小生は褒め称えますね」




まあ

なんとなく理由は分かるけどね…


あの後…

オリゼが寝ている間にでも、

玄武は俺に許可をとる機会はいくらでもあった筈。


それでもそうせず、

玄武が俺に直接伺いをたてるべきだったことを、

青龍経由で伝えたのは…



失態とこれから沙汰を待つ己の身より

その方が、

意見が通りやすいと見たから…だ





「俺の側仕えは嫌味が怖いね。

あの蛮行を俺に許された身で更にそんな進言を玄武が俺にするとしたら、

身の程を弁えろと、青龍は怒るよね?

…褒め称える気持ちなんて一ミリもないんでしょ?」


「あれば…若にお目こぼしされただけで身に余る扱いを受けています。

その上、例えオリゼ様の側仕えだとしても

若には何も用意することなくその様な提案を通そうと言うならば…侍従の隅にも置けません」




それにしても…


"オリゼだけに"作ってきた?

玄武は俺の担当侍従ではないから、あれだけど…


弟だけに用意するとは

…忖度すらない

俺の分はないのかと溜め息も出てくる




「やはり俺の分はないの?」


「…」



まあ、

普段の玄武は気にすることはないし

俺も咎めはしないけど…



流石の玄武でも

あの目溢ししてやった後だ。

オリゼだけに菓子を用意したので、

おやつにあげて良いか…なんて言い難いに違いない。

流石に…俺に気後れはしたのだろう


そして今は護衛と共に、

警備に当たっている

屋敷ならばともかく…俺用の追加の菓子を作る時間など玄武にはない





それでもオリゼのために作った菓子は

…玄武としては全てオリゼへあげたいのだろう。


忖度のために、

今の状況下でも…俺の分をそこから捻出する気はない、と…


まあ

そういうところが、流石玄武だと評したくもなるけど…

今回ばかりは

流石に…俺も思うところはある


そして青龍が怒るのも仕方がないな…




「わかった、

お前が今のオリゼにあげて大丈夫だと判断したなら許可する。

それの決定は…見張りを交代する時にでも玄武に伝えてやってくれ」


「畏まりました」










…その次の日


覚醒してから自己分析


昨日消費した魔力は元通り、

身体の疲れもそれに関してはとれていることを確認

馬車移動での疲れは…

少し残っているがほぼ全快していると思いながらも目を開ける




「若、お目覚めですか?」



「ああ…」



声を掛けてきた青龍に

身体を起こし、

ベッドヘッドに背中を預けると…


目の前には

美味しそうな紅茶とビスケットが数種類用意された。





昨晩の玄武への甘い扱いを不満に思ったのか…

それとも、

オリゼにはおやつがあるのに俺には無い等と…側仕えの闘争心が燃えたのだろうか。


やけに気合いの入った

アーリーモーニングが運ばれてきたね?





それもオリゼの分は無い…


普段アーリーモーニングは食べない弟、

眠気覚ましに珈琲を飲むことはあっても…

胃が起きていないからと言って朝食までは何も食べない。

だから、

こうしてアーリーモーニングが俺の分だけなのは分かるけどね?


だからと言って

美味しそうなスコーンや、

オリゼの大好物のジャムクッキーが並んでいれば…

寝起きの弟だって食べたくなる筈だ




まだオリゼは夢の中だから良いけど、これを見たら可哀想な事になる…

だけど、

俺が弟をもう少し寝かせてやりたいと思っていることも、

朝食迄は起こさない気であることも見越した振る舞い


オリゼがこれを見て羨む事は

万が一にも無いだろうとわかっててやってるから達が悪い








「…ねえ、青龍?」


「はい」



スコーンや、

ジャムクッキーを食べ終え

紅茶を飲む


まるで証拠隠滅しているみたいで、

オリゼに悪い気になってくる




それに、

先程からもぞもぞと動いた後…

妙に静かになった隣の膨らみ


どう考えても

オリゼが好物があることに勘づいた証拠。

美味しいものに目がない弟だからね…

第6感か、

何か独自の好物センサーにでも引っ掛かって起きたのだろう






「玄武の進言を俺に伝える判断をしたのは青龍でしょ?

それなのに、

扉の外で警備してて身動きとれない玄武の目に入るようにしたのは当て付け?

オリゼだけに用意された玄武特製のおやつと同等のものをって計らいは分かるけど、

玄武に見せつけるためでもあるこの行為…

俺のアーリーモーニングにこうやって甘味を加えるのはあまり良くないことだよね?」



「…若」




青龍は玄武の言葉を俺に伝えはしたが…

それはオリゼの為で、玄武への扱いは違う。


…弟だけに砂糖菓子が当たることを、

玄武の俺に対する配慮無しの行為を、


この側仕えは腹に据えかねて、昨日のことを良しとはしなかったのだ。




これは青龍による玄武への報復行為だ。



普段アーリーモーニングを求めないオリゼ

それでもこんなものが、

青龍によって運ばれているのを見れば


警戒の為に扉の外で立っている、

その為にその場から動けない玄武が…どのように受けとるかは明らか




俺の分しか運んでいない、

オリゼの好物も乗ったアーリーモーニングとそれを給仕する青龍をどんな気持ちで部屋に通したのだろうか?





「確かにジャムクッキーは俺の好物でもあるし、正直昨日は疲れたから甘いものは食べたかった。

けど、これはないね?」


「申し訳ございません」




例え甘味が食べたかったとは言え、

こんなオリゼの目を盗むようなことをしてまで食べたくはない。

確かに美味しかったけれど

後ろ暗い気持ちで食べるクッキーに称賛はない。


そんな事をさせた青龍に、

苦言を呈することはあったとしても…ね?




「青龍…気付いてるでしょ?

もうオリゼが起きてることも、その目にジャムクッキーが入ったことも。

欲しいって言われても、

俺が今のオリゼに食べさせるわけにはいかないって判断することは分かっているよね?」


「…承知しております」


「オリゼが俺のアーリーモーニング中に起きて、

好物を一人だけ食べる兄の姿を目の当たりにする可能性は考えなかった?

オリゼが起きず、

俺がこそこそとばれないように食べれ終えれたとしても

…可愛い弟に悪いと考えないとでも思ったの?」



「ですが…若」



「言い訳は聞きたくないな…

ね、オリゼ?」



二の次を紡ごうとする青龍をひと睨みし、

黙らせる。

そして

その顔を溶かしてからオリゼの方に向き直る…




うん、

起きてたのがばれてないとでも思っていたか…

悪戯がバレたように、

狸寝入りをやめて動き出す弟


顔の上まで被っていたタオルケットを、

引き下げて顔を露にしてやれば…居心地の悪そうな表情が現れた


別にオリゼが悪い訳じゃないんだから、

そんなに気後れしたように眉を下げなくても良いのに…



「う…」


「ごめんね、一人だけジャムクッキー食べて」


「ううん…

兄上、食べたかったんでしょ?」



「姑息な真似してまで、

オリゼに秘密にしてまでは…食指は伸びないよ?

ただ、給仕された食べ物を残すのはオリゼが嫌がること。だから食べはしたんだけど…」



「美味しかった、ですか?」



あれ…?


てっきり

ジャムクッキーなんて見ていないとシラを切るか…

食べる気分じゃなかったと意地を張るのかと想像していたのに。





「んー甘い…罪の味かな?」



「むぅ…そんなこと思って欲しくない。

美味しいものは美味しく食べないと駄目です…

青龍が兄上の為に用意したんだから…例え玄武への当て付けがあったとしても、その事実はかわらないでしょう?」




下げていた眉が、

吊り上げってこういう風に言うとは思わなかった。


罪の味だなんて、

己に気を遣って俺が思うのは嫌だと顔をしかめていくオリゼにどうしたものかと考える





「…まあね、

青龍が俺の為にしたことであるのは疑ってないよ?」



「…聞く限り、俺は後で玄武のお菓子が食べれるんですよね?

兄上が俺の寝ている間に、

見つからないように青龍のお菓子を食べたとしても良いじゃないですか…

兄上のことを思って、

かつ…俺がそれを羨む事がないように配慮して青龍は行動したんですから」




「…オリゼが思う程、青龍は聖人じゃないし

悪どいことも平気でするよ?」


「ん…玄武への当て付けなら、良いんじゃないですか?

兄上の分だけ無いのは…

その状況で俺が菓子を食べれば…今、兄上が俺に後ろめたく思うのと同じことになりますから」




「ふふっ…」


「…兄上?」




まるでジャムクッキーが可哀想だと、

美味しく食べないとまるでクッキーが報われないではないかと憤慨する様子…


生命を頂くのだから食べ物への敬意を忘れるなという言い分に、

そして青龍が作ってくれた焼菓子を、

美味しく食べないなんて駄目に決まってるなんて意見は…


なんてオリゼらしいのだろうと…


確かに美味しく食べないと作り手の青龍にも、

俺に食べられるためにクッキーになった小麦達にも失礼だと言う理論は…

弟の根幹にあるもの


主従関係だからと言って

青龍への阻まれることなく優しく、

そして食に感謝できるこの子らしくて…




「ううん、オリゼもなかなか言うなって思って。

扉の外で玄武がどんな悲壮を浮かべてるか、分かってて言ってるの?」



「俺だって純真無垢じゃないですよ?

自分のことを棚にあげて言うのはあれですが、

兄上に対してあんまりな振る舞いだったじゃないですか。

玄武の兄上に対するあの無礼千番で手間を掛けさせる態度、その報いを玄武が受けるのは…当然です」




「可愛い…」


「可愛いくないです」



素直じゃない…

俺が純粋にジャムクッキーを楽しめなかったことがそんなに嫌なんだね?

玄武のことを大事にしている弟は、

俺のことをかなり慕っていることを失念してた。


そんな兄に、

負担を掛ける玄武ならば…少し位痛い目にあっても当たり前

そう断言するオリゼは

確かに純真無垢ではなくて…天邪鬼


とても腹黒いとは思えず、

意地が悪いと迄もいかない…可愛げのある言動にしか聞こえてこない。




「まあ、可愛いって意見は棄却しないけど…

青龍の事はどうしたい?」


「…どう、って」



「ジャムクッキーと俺を軽んじた罰。

青龍の処遇はどうするって聞いたんだよ?」


「え…」



目をぱちくりして…


そんなことは考えていなかったと、

青龍に俺が罰を与えようとするなんてこの弟は考えつきもしなかったのだろう。


俺と、

目を伏せて控える青龍の様子を交互に見やってから

酷く動揺した声を出す




「オリゼ?」


「やだ…青龍が可哀想」



「そう?

青龍は美味しく食べられる筈のジャムクッキーを、罪の味にしただけでなく玄武への当て付けの道具にもしたんだよ?

そういうの…オリゼは好きじゃないでしょ?」


「…好きじゃない」



「なら、その報いは受けさせないと」



俺が礼を欠いた青龍を、

それも単なる手落ちでもない今回の事に軽く済ませる気はないと感じたのかな?


玄武への当て付けに俺へのアーリーモーニングを利用し、

料理の質を下げた。

その上、

オリゼが悲しむ結果ともなったのだ


ただで済ます気はない



「…玄武には目溢ししてくれたでしょ?」


「まあね…それでも何の咎めもないわけじゃないよね?

それと、玄武はオリゼの側仕えだ…だから玄武達の管理や教育は権利委譲されたオリゼがするもの。

罰も然り、オリゼが考えて与えるものなのはわかってるね?」


「…うん」



「俺に対するあまりにも見過ごせない非礼とか、

家に関する事項での違反で…オリゼに与えられた委譲権限を著しく逸脱しないな限りは、オリゼを差し置いて俺から罰は与えないよ?」


「兄上…でも」


「んー、

まだオリゼが判断出来てない所とか、あまりにも甘くし過ぎる時は口も出す。

でも、それだってオリゼの意向を汲んでる。

玄武への扱いが甘いのはオリゼの代わりに俺が罰を考えてあげてるだけだから、だね」




「じゃあ…青龍は?」


「俺が好きに裁量するから、オリゼみたいに甘くはならない…

ただ、今回の件はオリゼとオリゼの側仕えである玄武が被害を被ったでしょ?

だから、オリゼに罰の裁量を預けたの」


「兄上も被った…ですよね?」


「まあ、その分は後で与えるから」


「っ…」



色々と玄武には、

ぬるい処遇や目溢しはするものの

それは一応オリゼの側仕えだからって理由がある。

自分の担当侍従は自分で管理しなくちゃいけないし、

まだ幼いオリゼでもそれは出来るようにならねばならないこと。

ただ、

あまりに弟が甘い判断をするときには、

見かねてある程度の口や手出しはするが…それでも弟の意や裁量を鑑みてあげてしてる。


結果…甘々になるんだけど

それはそれ。




俺が青龍に甘い沙汰を下す理由にはならない



「オリゼ?」


「なら…

青龍が純粋に兄上の為だけに、誠心誠意込めた御菓子をサーブするので許す。青龍もそれで今回のことは省みれるだろうし、

今度はちゃんとその御菓子は兄上に美味しく食べて貰える。

その上、兄上も御菓子を楽しめるよね?」



「そうだね…ん?」


「…だから、

それで許してあげて?

青龍がそういう行動とったのは玄武が、そして玄武の行動の原因は俺が悪いこと言ったからだから…

…俺が悪いのは反省してるから、お願い」



腕に違和感を覚えて視線をやれば

俺の袖をツンツンと引っ張りながら、

酌量を求める弟の視線…


必死に俺を説得しようとしている顔は、

眉が八の字に下がり目は潤みかけている



それも己れの非を認めながらの懇願…

流石の俺も、心の内で即座に白旗を上げてしまう



オリゼを可愛がっている俺には有効打

クリティカルヒット

こんなことをされれば、装甲は溶けてなくなっていく

残念ながら弱い…


甘える仕草

あざといとまではいかないが、

そんなオリゼの懐柔策にはコロリと負けた





「…だそうだ、青龍。

オリゼに感謝するんだね」


「ありがとうございます、オリゼ様」



折角厳しい罰にしようと思っていたのに…

それも鼻を挫かれてしまった



…そもそも青龍の行動には整合性がない。


青龍が俺の菓子を用意しなかったことで怒ったとしても、

そのことを玄武に当て擦りするために、

アーリーモーニングを…俺を食事を利用する真似をすれば


青龍が俺を軽く扱った、

己の感情を優先して主人への敬意を忘れたことになる




オリゼがこう言わなければ…

侍従らしくなく己の欲を満たすためだけの手法をとった青龍には、

辛い思いをして貰うつもりだったのだけど、ね…


…仕方ない


青龍も、

その落ち度に気付いて反省してるみたいだから…

オリゼの激甘の罰だけで手打ちにしてあげようか





しかし…


この弟も

俺の弱い所を付いてくる辺りずる賢くなった

俺が弟に甘いと分かっていての

泣き落としならぬオリゼ落とし


「兄上…」


「全く…俺がオリゼに甘いこと知っててつけ込んだね…

で、これで良い?」


「何か悪い事した…俺、兄上につけこんだの?」




参ったな…

オリゼに、つけこむ気がなかったらそれが一番だけど。

単に反省してそういう言葉になっただけ、


俺がオリゼに甘いこと、

そしてその仕置きは既に終わっていることを理解して

この件を手仕舞いにさせようと策を講じた訳じゃない



青龍が俺につけこんだように、

自身も俺を嵌めるような事をしたのかと…

俺がつけ込んだと言えば、不安そうな顔をする


どう見てもそんな考えは微塵もなかったと分かる動揺、

嘘をついているようにも見えない




「いや、ごめんごめん。

ちょっと勘違いした…オリゼはそんなことしてなかったね」


「…?」


「着替えたら朝御飯にしようか、ね?」


「ごめんなさい…」



つまりはつけこまれたと感じたのも、

考えたのも俺の邪推。

…昔から発揮していたそういう弟の天然なところが現れただけだと判断できる。


俺に疑われたと、

つけこむ気がなくてもつけこむ事になったと理解したのか…

俺の袖を引っ張っていたオリゼの指は、

マットレスに力なく落ちていく



「オリゼ?

俺が勘繰っただけだから、謝るのは俺の方。分かった?」


「…」



邪な考えがなければ、

責めるつもりはなかったし…

もしあったとしても

分かった上でも可愛いオリゼにしてやられてた


オリゼは悪くないのに、

俺を気にして落ち込んでる様を見れば…



これだから…

普段天邪鬼で手の掛かる弟のギャップにしてやられるんだよね

困ったものだよ…



「お腹空いたでしょ?」


「…うん」


オリゼに気にしなくて良いと諭していると、

青龍がモーニングの用意をするため、

部屋を出ていく音がした









…ガチャ


扉の音が再び。

盆を2つ持って此方に来る青龍


…さて、何を持ってきたのか


アーリーにかまけてモーニングを手抜きしたとあらば、

弟の目につかないところで罰を与えるつもりだ



「若、オリゼ様…朝食をお持ちしました」


「そう、オリゼ食べようか」


「ん…頂きます」



もしもこの弟の頭…

その上に猫の耳がついていれば付いていれば、

へたりと倒れていたのが

ピンと立って揺れているのが見えただろう



昨夜の夕食とは違って、

オリゼの好物が並んでいる

まあ、胃に優しいもので…デザートも付いてないけど


それでも嬉しそうに食べ始めたのを見ると、

気に入ったみたいだ


まあ、

メニューは俺の好きなものでもあるから…

青龍が俺を軽薄に扱ったことにはならない





うん

ちゃんとオリゼの状態を甘味しているね…


ふわふわで口にいれた瞬間溶けていくようなオムレツ

バターは少なめで

ちゃんと食べやすく、重くならないようにメレンゲを立てたスフレ仕様に。

口当たりを軽くしてある


主食のパン代わりとばかりに

沢山のクルトンが浮いた優しい味のコンソメスープ


勿論俺のクルトンは普通量で、

パンとバターが付いてるけど…それは置いといて



「美味しい?」


「…美味しい」



オムレツとコンソメスープを平らげた、

ペロリと食べたオリゼは

今、デザート代わりのヨーグルトに辿り着いて嬉々として口に運んでいる。


粉砂糖やジャムは使われておらず、

プレーンの甘味の無いもの。

それでも青龍は消化のいい桃を薄くスライスしたのを乗せて、

甘味に仕立ててくれたみたいだ。



総じて、

砂糖やバター等の胃に負担になるものを避けてメニューが考えられている




「おかわりは?」


「…大丈夫」




俺のパン代わりで補えなかったクルトン分、

オリゼのヨーグルトは主食と言わんばかりに多かったが


それでも桃と一緒にパクパクと食べていたからね…

もしかしたらもっと食べたいのかと思ったが、

胃の小さくなった弟にはこれで十分みたいだ




この後馬車にも揺られるし、

満腹になるまでは食べない方が良いことも自覚して大丈夫だと言ったのかな?



「そう?なら薬飲んでね」


「…」



昨日と違って、

手に力のはいるオリゼに食事の補助は要らない。

そして、それは薬を飲むのも同じこと


ヨーグルトを掬っていたデザートスプーンを置いた、

その盆を片付けさせて

代わりに薬包紙が2つと大きなコップを乗せたトレーをオリゼの前に置いてやる


昨日は抵抗せず、

すんなり飲ませられた。

自主的に服薬できると見込んだから…なんだけど



冷や水を浴びせられたみたいに、

なってしまった…

もう少しで出発準備して出ないとと、

食べ終わった事を確認してすぐに盆を薬と入れ換えたのが衝撃だったのかな?


それも、

甘い桃とヨーグルトに舌鼓打った後だった

…だから特に飴と鞭の落差が大きかったのかも



「オリゼ?」


「…」



一応、

薬包紙をそっと一つづつ開けて中身を確認し

片手にコップを持って

飲む準備迄は出来ているのだけど…




昨日みたいに錠剤2つと漢方薬ではなくて、

中身は両方共…粉薬だったからか肩を落としている




…多分昨日は胃の為に漢方薬は半量に抑え、

必要性のある錠剤を飲ませた。

だけど今朝は

胃の調子も良さそうでちゃんと食べられたから錠剤は省く。


代わりに、

疲弊している筈の身体を良くするために漢方薬の量を常用にしたのか…



青龍もオリゼの薬嫌い、

特に薬湯と粉薬が苦手なことを知っている



だから配慮はしてある

薬包紙2つに分けられてはいるけど、

同じ薬。


オリゼが飲みやすいように2つに分けているみたいだ





「青龍、

この間に俺の着替えと支度」


「畏まりました」


薬を飲むのには

かなりの時間が掛かりそうだと見込んで、

先に俺の出発の身支度を済ませていく


ベッドに腰掛けて、外出着に着替えを…

洗顔や髪を整えさせてから身嗜みを整えていく



「今何時?」


「7時を丁度回りました」



「そう…」



簡素な机の上は、

もう書き損じの便箋やインク等はない

昨日の内に青龍が片付けてくれていた、

その机から椅子を引いて暫く…


少し行儀が悪いが、

肩肘をついて手で頭を支えながらベッドの方を見守っていたが


…オリゼはまだ薬を飲み終えていない



そろそろ弟も身支度しなければならない時間

手に握るコップの水は半分に減り

薬包紙一つは飲めたみたいだけど、

もう一つは手付かず。


それを飲むのに

同時間は掛けさせられない…


「オリゼ、飲みにくいなら飲ませてあげようか?」


「…いい」


「なら、着替えを先に済まそうか」




「…ぅ…」


青龍に目を向けて、

身支度を済まさせようとしたが…


そう言った後、

覚悟を決めたのか…薬包紙を掴んで口に流し込む

舌に苦い味が広がるのだろう、

コップの水で必死に洗い流そうと飲み下していく



流石のオリゼも時間がないことを理解していたし、

いよいよ猶予は無いと聞けば…

あれだけ躊躇していた薬をちゃんと飲んだ。


屋敷に向かう時間を先延ばしにしようと、

なかなか薬を飲もうとしないわけでもない…

グラスや、

着替えの算段も青龍の仕事



出発直前までに薬を飲めれば良いと言う問題でもないと、

分かっていたから…

俺に急かされたからこそ飲めた面もあるんだろう





…けど、

それでも偉い


今までは俺や侍従に飲ませて貰ってたし、

一人で飲もうとすることすらしなかったから…


この半年、

薬を飲む機会が多かったのは喜ばしくないけど

成長したのは進歩だ



「青龍」


「はい、只今」



済んだトレーをベッドサイドのテーブルへと一旦避けると、

既に準備していた着替えや身嗜みを終えさせていく


薬の味が中々消えないのか、

青龍に髪を整えていく最中でも顔をしかめたままの弟

可哀想だけど、

そんなオリゼに口直しのお茶を用意する時間はない




「下がって良いよ、

10分後に迎えに来て」


「御随意に」



荷物の積み込みや出発の算段

衛兵や、御者への指示と馬車を表に付ける手筈

出発までの10分余りで青龍がこなさなければならないのは

今、片付けていったグラスを洗うだけではない


そのグラスも

磨いて荷物に仕舞わないといけないだろうからね…




「オリゼ、馬車に乗ったら口直しのお茶を飲もうね」


「…?」


「多分用意してくれてる筈だから」


「はい…」


ベッドサイドに腰掛けながら、

身支度の終わったオリゼはどこぞの坊っちゃん

まあ、貴族家次男だから坊っちゃんではあるんだけど…

黒のスラックスに、

ベストと上着でフォーマルで落ち着いた装い。


差し色には目の色と同じ濃い紫色のシャツ、

そしてベストのチェーンとスカーフ留めの銀細工

そのシルバーが、濃い色の服が弟の髪色と馴染んでアクセントとなっている



皇太子に貰った髪紐が、

これまた良い案配にコーディネートの一部になっている。

そんな中

素朴な木彫りの簪は胸ポケットにハンカチーフと一緒に入れられて、

ちゃんと馴染むようにしている青龍は、


やはり小さな所まで

きちんと気遣いが出来る優秀な侍従だったな、と見直したのだった







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