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帰省3。





兄上との会話は…


玄武達の意思や気持ち、

つまり換言や進言を無視する主人になるなと

…そう諌める内容。






有能な人材、

玄武達が俺の下から離反する前に…


取り返しの付く今、

俺が己の失態を認め、

それらの言葉に耳を貸し、

己の失態を認めて方向修正しなさい。


…玄武達の誉れを考えるなら、

功を成せる主人になれということだった。






「っ兄上…」


「どうしたの、オリゼ」



少し疲れた…


魔力圧の身体への負担と、

兄上の諌める言葉に…心的な負荷も上乗せされた




そして、

兄上の仕置きと話が終わったことに安堵して…


冷静になって気付いた





「暫く…目を閉じて休んでも良いですか?」



「身体、辛い?

眠れるなら寝ても良いよ、ちゃんと支えているから」


「ありがとうございます」



身体は勿論…辛い


膝枕に、

楽な姿勢…横になっている状態

それを兄上に支えて貰えていなければ、

力の抜けた身体は

馬車の少しの揺れでも影響が出る。


自慢じゃないが、

即座に座席から転がり落ちる自信がある






だけど…

本当に辛いのは身体じゃない。



そもそも…手遅れだと。


屋敷につけば、

もう…こうして兄上を気軽に甘えることもない。

俺は兄上の弟ではなくなる、

膝枕してくれる立場を去ることとなる…



"心に刻みます"と

"己の失態を省みて主人側として方向修正をする"と…

そんなことを言ったものの


どれも絵空事に終わることを忘れていた





「…そう?」


「大丈夫です、

兄上の御言葉に甘えて少し寝れば…回復しますから」




今更、

侍従の功績は主人のものと…

その意味を改めて理解して踏み留まれたとしても。

今回の一件から…

今後は玄武達の誉れをと、

進言や換言を受け入れられる器や人格を持てるようにと省みれたとしてもだ。



その為に必要な主人側としての立場、

男爵家次男として

居れる時間は残り僅か、なのだから…






もう、

家紋に泥を塗る所業を…

取り返しのつかない失態を半年間に俺は犯している。



まだ玄武達が俺の担当侍従でいてくれたとしても、

既に誉れを共に手に出来ることはない。

それ程の愚行を、

担当侍従に失態の烙印を押す所業を俺はしてしまっていた、と…






それに気付いてしまえば…


"侍従が誉れを手に入れる未来"

"俺が主人として功績を得る為に続く道"


そんな物はとうに

この手から失っていると思い出す





「分かった…少しお休み」


「お休み…なさい、兄…上」


心配そうに響く兄上の声

その声に視線を上げることもなく、

目を合わせることも出来ず…



急に襲ってきた抗いがたい睡魔に、

俺の辛い現の現実や、

重なる疲弊の要因からも


…目蓋が重くなっていったのだった














「ん…」


「起きた?」


意識が覚醒していく


もそりと、

身体を動かそうとすれば思うように動かない




「ん…ん?」



変だと目を開ければ、


兄上の腕の中で寝てしまったと…

此処は屋敷に帰省する馬車の中で。


兄上に怒られて、

ぐったりとした己の身体は自由が利きにくかったこと。

魔力圧の負担で

身体が眠気をもようしたこと…





目をしばたかせ、

薄開きの目に映る布が兄上の腹部の服をぼんやり…

寝ぼけ眼ながらも眺めていれば



次第に

意識が覚醒していく。

…そんな

寝る前の記憶が呼び起こされていく





「うん、目が覚めたみたいだね」


完全に目が開けた


横になった俺を膝枕して支えてくれている兄上、

少し力の入るようになったらしい…


同じ姿勢で寝ていた為に

下にしていた左側の腕の血の巡りが阻害されていたんだろう、

すこしだるく重く感じ

回復してましになった身体を仰向けにすれば




…バチリと兄上と視線が合う



そして、

何故かその顔は苦笑している…




「兄上…何か、俺が寝ている間にありましたか?

あ、もしや寝相が悪かったとか…」



俺は寝相が良い方ではない…



引きこもり期間


惰眠を貪って起きれば、

掛布が全て身体の上から消え

ベッド横の床に落ちていたなんてもことざらにあった。


酷い時には、

枕に足を向けて寝ていた…

寝た姿勢から半回転していたなんて事もあるのだ…




「…特に寝相は悪くなかったけどね、

深く眠っていたせいかな?」


「そうですか…」



かなり熟睡してしまったし、

好き勝手に寝返りや、身動ぎをしていたと勘繰ったが

聞けば…

そうでないことは分かった




なら…

俺の寝相に呆れ、苦笑してないならば?





「少し身体に力は戻ってる筈だ、

身体起こして座る?」


「…よいのですか?」


何がその綺麗な顔を歪めるのか


そう原因を考え、

兄上を見上げていれば…

その苦い笑みを凝視すれば思わぬ提案




少し寝て、

俺の身体は僅かにだが力は入る。

だけど健常には程遠い



…危ないと

大きな揺れでつんのめったらどうするの?

座面から投げ出されたら怪我するから大人しく膝枕されていなさい。

…とか?



だからそんな風に

俺が起き上がることや座ることは、許可してくれないと思っていた




「寝返りも打ちにくかっただろうし、同じ姿勢では身体が凝る。

まあ、横になっているのが安全ではあるけど…

そのまま頭を長時間低くしていれば血が集まってぼうっとしてくるだろう?」



「起きます…」


「…ゆっくりね、?」



それが兄上の方から許可が出るとは、

意外も意外




許可する理由は

俺の身体の負担が、このまま寝ていた方が大きいと判断したから…らしいけども


それでも、だ





「…それで、兄上」


「ん?」



「兄上の苦笑の原因は、

俺の寝相ではなく…これですか?」



兄上の手を借りて上半身を起き上がらせて貰った

…そうして座面に座り、

俺の視界が広がった為に…


嫌でも視野に入る

焦点を合わせずとも玄武の様子がありありと分かる




確かに

座ってはいる。

馬車の床に張り付いてボロ雑巾にはなっていないものの、

その姿は隣に座る…

同じ側仕えである筈の青龍とは真逆



直視はしないが…


背筋は伸びておらず

姿勢は崩れ、悲壮感満載。

肩を落とし負のオーラを垂れ流している姿は…憐れその物だ


腰を折り、

前面に大きくかしがっている。

腰を曲げた姿は、

まるで蹲っているみたい…


座位のまま両肘を太股に付け、

肩を入れ、

項垂れて下がった頭を…首筋を上から覆い被さるように両手で抱え込んでいる






「そう、

これが原因…かな?」


「俺が寝ている間…ずっと?」


「…御名答だよ」



はぁ…



単に空耳

ただ俺が寝ぼけて馬車の走行音が人の声に聞こえるだけ 



そう思い直すも、

聞き間違いや気のせいで済まされない程

俺の敬称が呼ばれている


呪詞のように繰り返される声が耳について、


遂に視線だけずらし

…正面に座る音源、に焦点をしっかりと合わせてやった





「貴台…貴台…」

「ちっ…」



貴台、貴台と

壊れたように繰り返す玄武はまるで壊れた蓄音機


一番下座に座っている俺の侍従は、

同じ単語を再生するだけの機械になっていた。




「…貴…台」



「なんだってんだ…」



状況は予想以上に酷い

しっかりと観察すればするほど、

芳しくない状況しか拾えない


もう終わったのに…

暫く時間が経ってもこの状態?


…そこまで俺の様相は酷かった、か?

俺があまりの痛みに叫んだのがいけなかった?

…それを目の前にしながら、

玄武は侍従として擁護でさえ出来なかったことが…


かなりのショックだったの?






…普段は温厚で何事にも動じない、

俺の一投足に気を配れる…有能な側仕えである筈の

…そんな玄武がだ。


熱に魘されたように譫言(うわごと)を呟き続けている







「「「………」」」



…玄武の声だけが響く


その異様な中で

青龍は座禅でも組んでいるように、

その声を煩悩のように滅しでも出来ているのか

まるで何も聞こえていないと言う…無表情


姿勢正しく、侍従の鏡そのもの。

ただ静かに座っている…

その姿から、

喧騒の中でも…静謐な山寺で悟りでも開いている僧侶にしか見えてこない





兄上は…

俺が寝ている間、何もせずにこれを放置していたみたいだ。

それを鑑みるなら…

今から何か玄武をどうこうする気もなさそうで。


見上げて、

何か対処に乗り出す気はないのか?

行動に移すつもりは?

と…俺が目で催促しても梨の礫


俺を膝枕しているだけ

気を払うつもりもないらしい…





「「「…」」」



侍従が仕える家の次期当主の目の前で、

ずっとぶつぶつと言いながら…自己の意識に潜っている。

気を他にやり、

騒音を発生させ、

仕える相手を無視する行為…


どれも不敬で、

侍従として不適切だ。




普通の貴族家では即座に首

この状態が許されるのは…格別の温情

見逃して貰えているだけで奇跡



まあ、

五月蝿いと気に触って玄武が手打ちになっていない。

それだけ…兄上が玄武を特別に優遇してくれている証拠ではある。


そう、確かに

…格別の処遇なのだけども。

ここはうち、ラクターゼ男爵家


普通の貴族家じゃない…

だから青龍も主人である兄上が歯牙にかけていなければ、

玄武を止めない。

玄武の口を塞がないし、放置している




他家では

貴族を愚弄しているのかと懲罰物

温情があれば教育し直しやら、

良くて謹慎の命でも下すところを


兄上も、

男爵家では"普通対応"

何の沙汰も下さない


今回は放置、

…静観のスタンスか?










…はぁ



暫く様子を見ていても


やはり来ない

ベタベタと鬱陶しい程、世話を焼きに来てもいいはず…

軽い切り傷ですら過保護になるこいつが…

兄上の強い魔力圧で疲弊し

仮眠をとって起きた今の俺を、放置するわけがない





俺の目が覚めたことも起きたことにも

誰より速く気付く。


そして…

いつもなら心配して、


"御加減はどうですか?"

"具合は悪くありませんか?"

"もう少しお眠り下さい"


…なんて言葉が、雨(あられ)のように降って来る筈



それが一切ない


…なんでだ?

俺の目が覚めたことも、

起き上がったことも

俺が兄上と会話していることにすら…気付けていない。






"これは異常事態だ"

俺への注意力が此処まで減退するとは…


何も俺は、

己の側仕えとしてから

玄武の業務姿勢がなっておらず、

様子がおかしいと判断したのではない。



元々玄武は侍従ではなく、

この国の非友好国からのスパイ。

俺の家と親交の深いラクーア卿…つまり侯爵家へ潜入していた過去がある

そして潜入に失敗し、スパイとして敗走して道端で息絶え絶えになっていたところを俺が自分の侍従として欲しいと拾った。

その理由から俺への恩義を感じ、

こうして仕えてくれている経緯がある為に…

俺への執着が凄まじい。


その玄武が、

俺へ意識を配れていないことが事の重大さを物語っている…




ここは屋敷や学園ではない。

…護衛や青龍が居るとはいえ、

安全とは言い難い…何かあった際の盾、俺の最後の砦が玄武の側仕えとしての役目でもあるのだ。



そんな移動中の馬車の中でこの状態?

有事に備え外への警戒や

移動における俺の負担…体調管理への注意が皆無。

元スパイで現側仕え、

どう考えても玄武らしくないのだ





「オリゼ?」


「…なんでしょうか」



原因は

…玄武が先程の件


俺が兄上の魔力圧に耐えかねたこと

その俺を痛みから守ろうとした玄武を、

なにもするなといなしたこと…


目の前にいる俺を、

守れなかったことが…堪えて

異常をきたしたか?



考え込んでいた俺に、

兄上が遂に沈黙を破り…俺に声を掛けてきた


何か聞きたいことでもあるのかと、

しっかりと座面の背もたれに背中を預けたまま右に視線を流す





「どうするの?あれ…」

「…何故俺に聞くんですか、兄上」



どうするの?

って俺の方が聞きたいわ…


兄上の方が状況も分かっているよね?

寝ていた俺には

その間の様子や情報がない。


玄武が

こうなった過程や原因予測はつくものの…

この状態をどうにか打破するための判断材料がない。


概要把握ですら皆無状態なのだ





「玄武のことはオリゼの方が詳しいじゃない?」


「例えそうだとしても、

この事態収拾は兄上がなさるべきでは?」




…状況把握

問題解決能力


そんな俺より起きていた兄上の方が的確、

主観で見ても客観的に見たとしても…兄上がどうにかしてくれる場面だよね?


こんなに取り乱した玄武を

手に余ると放置してる場合なの?

確かに怒られるようなことをした俺が原因だとしても、

玄武がこうなった主要な要因は兄上


事態収拾の義務は兄上にある







「…俺がしたとしても根本は解決しないよ、

表面上の対処は出来ても後でその歪みは生まれてくるだろうからね」



「確かに過去の経緯から、

玄武は俺の大抵の我が儘や無理は叶えてくれます。

ですがその事実が兄上の言うことを聞かないということではありませんよね?

玄武は俺の側仕えの前に、男爵家の侍従です」



少し黙って考えた後に言われた言葉…

兄上の言い分には

一理、はある



俺への忠誠心が捨てて余りある程ある玄武なら、

宥めるにしても…

この状態を兄上から代行して叱責するにしても円滑に進むだろう


兄上より俺の言葉を受け入れやすいだろうし、

そして後腐れもなく終えられる


…そう言う意図は分かる


分かるが、

これはそういう問題じゃないよね?





「この件の処断の権限、

俺としてはオリゼに譲っても良いんだけど…?」


「…兄上」



「そんな怖い顔しないでよ…」



睨んでしまうのは仕方ない


これは愚問。

身の潔白を示すためにも

その兄上の甘言に俺が乗るわけにはいかないと知っての提案だからだ





…俺には出来ない

この処断の権限委譲を受けるわけにはいかない。


…俺より継承順位の高い次期男爵家後継者、

兄上がこの場では当主代行として処断するのが当たり前




玄武はその兄上に敵意を向けた…


その罰は俺からではなく、兄上が為さるべきこと

例え玄武が俺の側仕えだとしても、

俺にその権限はない。

担当侍従への管理権限の枠を越えているからだ






「…駄目に決まっているでしょう。

玄武が俺に対する失態であるなら、己の担当侍従への管理という権限で兄上の手を煩わすことなく代行出来ます。

…ですが今回は違います、 

殺意を向けられた兄上が玄武への罰と、

俺に己の担当侍従の管理不行き届きを責めることが本来の流れでなくてはいけません」





「いや…その、ね?」


「…玄武の先程の行為を、他意があると疑われていないことは有りがたいのですが。

そもそも…俺への疑いと、咎めは無いのですか?」



その、ね?


…じゃないでしょう!?



出来ないのは権限の枠を越えているからだけじゃない

兄上が権限委譲をすると言っても、

ならば有りがたく…ともならない理由がもう一つ



兄上がそれに気付いていない筈がない

なのに…






「…疑いに咎め?

オリゼのことは信用してるから必要ないよ?」


「冗談も大概にして下さい」



…本当に勘弁して欲しい

シスコンも、

平和ボケも…此処まで来ると手の施し様がないのか?




兄上は次期当主、

俺は次男で継承順位は兄上に次ぐ2位


俺の側仕えが、

兄上に敵意を向けた


となれば、

俺が次期当主の座を狙って側仕えに兄上を害する命令をしたと考えるのが一般的

それが貴族の継承問題、

御家の騒動で一番多い事だ。




だから、

玄武への裁量は…

俺がすべきじゃない。


玄武を差し向けた、

その被疑者として俺は有力。

嫌疑をかけて見るのが普通だろ…?

それすらせず、

俺を信用して…咎めすらしない。



その上、

玄武の処断すら権限委譲してくれるときた…





…甘い

甘過ぎる




「…」



「黙秘は俺の十八番…

兄上程の人が返答が面倒になったからといって、そんな未熟な俺の真似をしないで下さい」


「あのね…言いたいことはわかるけど。

それでも俺がオリゼを、弟を疑うことはないよ?」



呆れた…


…次期当主の兄上が、

自身の可愛がっている弟であろうと無警戒なのは無責任。

己の身を守るのも

無駄な継承問題を起こさないために必要で…


将来、

当主の一人として

身の回りの部下や親族への危機管理は常にする行為。

信頼や信用と同時に、

念のため…常日頃から刃に警戒して疑うべきなのに…





「…左様ですか。 

で、なんで玄武の目の前であんなことをしたんですか?」


「あー、弟が可愛いから?」

「…いい加減、無視しますよ」



兄上への追及を諦め、

話題転換をすれば…可愛いから?


玄武への追加の罰を生まないために、

俺が抵抗しないとわかっていて…それが可愛げだと?





確かに俺は天邪鬼で頑固者、

あの状況でなければ担当侍従や玄武が側仕えであることは認めなかった


屋敷についた明日には

…俺に担当侍従や側仕えはいなくなる。

今日明日の1日ちょっと、

その間認めることで俺の贖罪は多少なりとも叶うが…




…上げて下げられた

認められてすぐに俺の側仕えでなくなる玄武への傷は、深まるだろうから


他の担当侍従にしてもだ

一旦は担当侍従としてもう一度仕えて欲しいと言った矢先、

俺が男爵家次男でなくなったと後日聞けば…

俺が抜けた男爵家への要らぬ感情を持たせることになるかもしれない



兄上からの痛みと、

玄武への裁量を考えなければ…あんな気持ちも言葉も本当は発したくなかったのに…





「…効果的でしょ?

簡単にオリゼは認めないのは分かってた事だし、役者も揃ってる…丁度良いかなって思ったんだよ」


「そうですか…そうですか…

それにしてもやりすぎです…兄上が玄武に恨まれることになったらどうするつもりです?」



確かに効果は絶大だった…

でもそれで解決するのは俺への事のみ


弊害として…

俺への魔力圧に関して

玄武が、兄上へ逆恨みするかもしれない。


その可能性、

リスクに関して…頭の良い兄上が考慮していない訳がない。

その負の効果と俺への躾の利を天秤にかけた

…一考して

行動したのだろうけど



もう少し、

もう少し次期当主の己の身を俺の事より優先して…案じて欲しいと願うのは…俺には資格がないのだろうか





「そうなっても、オリゼが抑えてくれるね?」

「そう言う問題ではありません…」


「ん?もしかして俺の事心配してるの?

そういうの考えるなら、俺がそうしないように「…そうですよ心配してます」…心掛ければ良いの、に…?」



俺が今回の躾で反意をもったとしても、

実力差が大きい兄上の驚異にならない事は自覚してる


それに散財先程から御託は並べてきたが…

シスコンなのは兄上だけでなく俺もだ。

兄上に対して、

反意を抱くことはない…


だけど、

玄武の実力は…兄上の命を脅かす能力は無いとは言えない

…例え俺が玄武の手綱を握っているとしても、

ただそれだけで兄上が枕を高くして寝る十分条件にはならないよね…


万が一を考えて欲しい




「…」

「オリゼ?」


「それが…それが出来たなら苦労しません」



「しおらしい…?」


「分かっています。兄上にあんなことをさせないように…俺が初めから素直であれば良かったのでしょう?

そうしていれば今回の玄武への一件も起こらなかった、

ですが…それが出来ないからこうなっていることも頭では理解出来ているのです」



…分かってる

兄上を案じる資格は…ない、と


この流れを作った諸悪の根元の俺が

兄上を心配することも、

こうして意見することもお門違いになるのは…


…理解してるんだ







「うっ…可愛い…ねえ、青龍!

可愛いよ?素直だよ?」


「若…」

「ん?青龍?」

「いえ…そうですね、貴重ではあると思います」


「…なに、どうしたの?

言いたいことあるなら言っていいよ?」


「…玄武がボロボロですが、いかがなされるおつもりでしょうか」




俺が黙れば、

突如として兄上が騒ぎ始めた…


その応対に青龍が巻き込まれ、

仕方なく返答をしてはてはいるが本意ではないだろう


兄上は返事を促したが、

青龍にはシスコンフィルター等掛かってはいない。

こんなひねくれた餓鬼、

青龍が可愛い等と思う筈ないだろ…


明言を避けた意図を、

言いたいことは言って良いと許可したところで…

どうみても可愛くは見えません

…なんて、兄上の意見に真っ向から否定など出来ようがない



…放置したまま

青龍の言う通り、この会話の最中も玄武の状態は変わっていない


貴台

貴台…と

呟き続けている






「…オリゼ、助けて?」

「青龍の言う通りです。

…兄上、如何為さるおつもりですか?」



…知るか



寝る前とは違った意味で、

身体の負担は癒え…座るくらいに、少しは力も入るようになった。


そう、

魔力圧の疲労は取れた筈なのに

再び兄上の発言のせいで一気に疲れた、

ぐったりとしている俺に何を求めるんだ…




先程、

きっぱりと玄武への処断権限委譲は断った


それに俺の助け等なくとも、

兄上なら対処出来るだろうにと…

横から飛んでくる言葉に冷たく言い放つ




「…そう言わずにさ、ね?そっぽ向いてないでさ?」

「兄上…」



こちとら玄武同様にボロボロですが…


何、無理矢理顔を自分の方に向けさせてるんですか?

兄上と反対側、

左に顔を向けて我関せずを示した筈…


実力、いや武力行使にも程がある

…捻られた首が痛い




「何?」


「首が螺切れそうなのですが…」



何も何も…首が痛い

離して欲しいと仄めかしても、離してもくれない…

…そして、玄武を放置してあのままにしておくわけにといかない





そもそも…元気なのは兄上だけですよ

この青龍の疲れきった声が分からないんですか…


このまま壊れた玄武を放置して、

疲弊した青龍に

俺と玄武の二人分の世話をさせるつもりではないですよね?




「…ご、ごめんね?

オリゼ、目が怖いよ?」

「理由は分かっていますよね?兄上」


「…」


目は口ほどに物を言うとは、まさにこれ

口を開くのも疲れるんだ…

全て視線に乗せた呟きは兄上に伝わっている筈




俺の真似事に、

分からないふり?


…演技が多分に盛り込まれている

目を泳がせて、

全く察しもつかないなあ…なんてわざとらしいにも程がある


流石の俺でも騙せない程の、

大根役者っぷり。

本気で煙に巻く気はないのだろうけど…


それにしてもお粗末






「はあ…兄上、床に下ろしてください。

馬車の揺れが不安なら肩を支えていて下さいね?」

「床って…オリゼ?」


「意図もありますが、体幹がぐらつく上で一番安定する体勢になりたいだけです」

「…オリゼ、だけどね?」




「…兄上、嫌いになりますよ?」


「それは困るなあ……でも「玄武を追い詰めたの俺自身に怒りは覚えても、兄上を恨みはしません。…対処すら放棄して、俺にすらやらせないのであれば別ですが」…してくれるの?」




今…玄武の精神ケアが必要でも、

如何なる理由があっても

俺が玄武と話すのは好ましくない事象。


…話せるのは、

俺と玄武の嫌疑や処断が済んでからでないと有り得ない



が、

兄上が放置を決め込んでいる。

俺が対処しないと、玄武がこのままなのはもう理解出来た

…無理に顔を兄上の方に向けさせられ続けているのも、

俺に要求を飲ませるための行動



どうしたって…この兄は俺に

断った権限委譲を、

受け入れさせるつもりなのだ





「本来、俺が兄上から対処の一部を任されることも権限委譲の一部を認めることになる為…許容出来かねます」


「…それで?」



「兄上が…俺がその役を務めなければ玄武への対処は何もしないと意地悪するから…俺は兄上の無茶苦茶な意向を飲まざる負えないのですよ?

仕方なく対処に当たると、

それに際して床に座るのは必要だと言っているのに…それすら俺の意を汲んでくれず駄目だと言うなら


本気で…嫌いになりそうです」


「っしょ。

…これでいい?」




…嫌いになると脅してみれば、

驚く程俊敏に、兄上は行動へと移した


そんなに俺に嫌われたくないのかと、

先程まで俺を床に座らせる事に躊躇していたのはなんだったのだろうとさえ思う




「ええ、ありがとうございます兄上」



俺を座目から滑り落ちさせるように、

ゆっくりと支えながら床に座らせてもらえば


やはり玄武が貴台と言っていることがしっかりと聞き取れた





…全く


ぶつぶつと…

何回貴台と言い続ければ気が済むのだろうか


…まあ、

膝枕状態の時から分かってはいたのだが。



近づかなくても馬車の閉じられた空間、 

玄武が小さく呟いたところで

連呼されれば

なんて言っているか聞き取れない筈もない





溜め息位漏れもする

この状態の玄武を宥めるのには…何手要るだろうかと


考えるだけでも疲れてくる




「怖いね?」

「オリゼ様がですか?…若程ではありませんよ」


「青龍…」

「何が異論でも御座いますか?」

「…いや、ないよ」

「自覚がおありの様で安心いたしました」




床に座らせようとしないならば俺は兄上を嫌うと、

そう含めたのがそんなに怖いとでも言いたいのか…?



馬車の座面に座る兄上と青龍

その間の床に正座で座る俺



俺は頭上で飛び交う主従の会話を聞きつつ、また溜め息をついたのだった





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