日常16
まばらではあるが数人の学生
朝早くからの朝食を食べながらも、
口を開ければ謝るばかりの悪友二人を無視し続ける
基礎講義の合間の休憩時間、
目の席のオニキスが窺うようにちらちらと後ろの俺を振り返ってくる。
至近距離、
悪友のその気配に、視線に
…気づかないはずもない
が、そんなものに構っている暇はない
どうせ人の耳があるところで話せる筈もない話を
触りを話すだけならば時間の浪費だ
講義内容、
テストの解説に自身が分からなかったところを中心に
見返し、再度メモ用紙に書き写しながら復習する
基礎講義が終われば
昼も手短に済ませ、すぐに選択講義棟へ
どうせ寮に帰れば
扉が壊される勢い…いや表現としては決死の様相でが適切か?
乗り込んでくる
そして変なところで譲らない、責任感のある二人が納得するまで…
兄上に盾にされた、
俺の人質になったことなど微塵も気にしてないと
真の髄まで悪友に分かって貰うまでには時間がかかるに違いない
そして雑談も…
テストの結果についても話は盛り上がるのは確定
つまり、帰省の支度とそれで帰省迄の午後はかなり潰れる
帰省後は…自由がない
ならば、今このときは
少しでも勉強をしておくのが正解
静寂にガラスペンが、紙を掻く音だけが教室に響く
心穏やかに
…
誰もいなければ要らない虚栄心もプライドも
今なら…無用だと捨てられるから
無心
暫くすれば雑念も消え、目の前の復習へ集中していった
……
ガラリ
その扉の音に机から目をあげて確認する
足音は複数、
何事かと思えば…見たことのある光景
選択講義の教授全員…
全員…
机の周り、窓側以外囲まれる
「さて、面倒だという意見の総意から返却は今することになった」
「そうですか…」
バサリ
そう答えている間にも
模範解答だろうか、テストの用紙と共に置かれた
それこそ"一括で"
初めてではない光景に驚きは薄いが…
そして時短になるのは此方としても…ありがたいが、これで学園の教授としてはいいのだろうか?
「講義も一括で行う、間違えた問を順に各講義毎に解説していく。別途不明点や疑問点があるならばその都度質問は認める、何か今のところあるか?」
「…いえ」
ならば始めようか
古代技術の教授がそういってから…
目の前に積まれた
返却されたテストの用紙、模範解答
言われるがまま軽く目を通す…
それが終わるのを見るなり順に解説していく教授陣
…そう、
見咎められた昨日買ってきた安いインクに雑紙に
ひたすら黒板に書かれる解説を写していく
野草の過剰摂取による副作用
敵陣に至るまでの情報収集については模範に別解
ルーン文字の発現と効果、魔方陣の効率に及ぼす効率化
魔方陣に代わる古代の技術活用についての考察
乾燥させる際の水分量と保存期間の比例
等々
…一つ一つ
質問を重ねながら理解を深めていく
良かった…
雑紙に安いインクを持ってきたのは正解だった
気兼ねなくメモがとれる
…基礎講義で使う紙は後数回分
休みまでもつギリギリの残量
帰省すれば自分の部屋にある紙を休み明け、何かに包み
寮にもって帰ってくれば良い。
それにこの書き溜めた雑紙の文言を…理解して
要点を押さえ、
清書すればいいだけ。
それくらいの間は
インクの色も飛ばない
紙も劣化はしない筈だ
雑紙に目を向けていれば注意が飛ぶ
講義に集中していないのかと、言われた言葉に顔をあげれば
…眉をひそめている
「申し訳ありません、気をやっていました。解説にある具材による適切な水分量と保存期間についての関係性の別解からもう一度…お願いします」
「…一つ、いいかな?」
「?はい、私に答えられることならば」
「その紙はどうした?」
…
そう来る、か
唐突な探り
探られても何も痛いものはない
噂にするような教授陣ではないと信じてここで使っている
貴族然とすることも確かに重んじるが、固い頭でもない
筆記具や装飾品のみで人を推し測る人達でもない
まして、中傷することもない筈だと見込んで
だから平然と持ってきた
使っている
だが、
あの眉をひそめられたのが俺の授業態度でなく
これ等を…今更ながら見咎めた?
その可能性も考えたが、
やはりそうは思えない。
気にするならば、
教室に入ってきた地点で顔を歪めているはず
だが、その推測も不安になる…
「…気兼ねなく講義のメモと考察を書くために、ランクを落としました。気になさるのであれば…今後は慎みます」
「いや、構わないが…それにしてもランクを落としすぎではないか?」
「今の私には…これでも高級です。自身の稼ぎでは到底、
…これ以上のランクの紙を湯水のように使おうとすれば賄えません。
今までは両親が稼いだお金で何の躊躇いもなく、皆が買う高級紙を使っていました。あまつさえ落書きにも…
あ、もし宜しければ今度紙漉きの技術について深く掘り下げて講義お願い出来ますか?」
「……まあ講義は良い、まさかとは思うが…実践するつもりか?
既に近代的な代用技術は活用しているように思えてならないが」
「やりかねない…俺の授業に身が入ることは勿論良い。だが…あまりに…授業の度に深まる質問は…普段野草や乾燥野菜を利用している様にしか思えない。
想像しにくいが、それでも実際にやっているような…」
「…野営に関しても、逼迫した状況下についての対処法や食料調達、生命維持の方向からのの士気の保ち方、何故起こりにくいマイナーな事…
テストは勿論、授業でも軽く済む項目を何故こんなに血気盛んに聞くかと、常々疑問ではありました」
「生活魔方陣では、精神干渉や無痛に関するルーンを詳しく聞いてくるんですよね…普段の生活の何処で活用するつもりやった?
…勿論悪戯に使う雰囲気ではなかったから教えはしたんや。
寧ろ切羽詰まった顔で…なにをそんなに焦ってるん?」
「我が担当する講義、実践しにくい外国の料理はともかく…
つまり、総意として貴方を心配しているということ。
テストの点だって良かった、少し位嬉しそうな顔をするかと思いきや全くない。
その上ただでさえ準貴族の質だった筆記具が一気に下町の苦学生、か…?」
「有り難う御座います、ですが…過度ないち生徒に入れ込めば教授として贔屓目にも繋がることになりませんか?
心配は無用です、それとテストの点については嬉しく思っています」
…
「贔屓目やった?
面白いこと言うねえ…一人しかいない講義に贔屓目もあるかい?」
生活魔方陣の教授、
そう言いながら机の近くに歩みを寄せる
そして…その教授を筆頭に他の教授陣も更に寄ってくる…
「無いな」
一人の教授がそれを否定する
戦略に関しても…思慮が足りていない
何度も過去の資料をみてそれを組み合わせて考えるので精一杯
甘い対応の観点から見れば贔屓はされていない
が、あまりにも俺の進捗や様子に注意を払いすぎてはいないかと言ったのだ。
確かに講義は一対一、
基礎講義より教授が生徒…俺に目を配れるとしても…
「教授として、か…
多少の質の物を使わなければ勉学も捗らない。現に書きにくそうだ。…生徒を思いやるならば、古代技術の講義の担当として紙の質の指定も今後…行おうか?」
…紙漉きの技術
それと平行して、講義にかこつけて指定するつもりか?
冷や汗が背中を伝う…
高級なものを買う余裕は無いのに…
「贔屓目…対個人に対しての意味ならば…物足りなかったんか。
皆、あくびが出るほど易しくて温いそうだ…遠慮は要らない。
そうやな…休み明けから講義のレベルを上げようか」
…これ以上魔方陣の講義のレベルが上がれば
ついていけそうにない…
既に俺の理解度のギリギリを鑑みて進めているはずだ
それをわかった上で…
「補習も必要ですね、長期休みのいつ頃に致しましょう…
それほどまで実践をしているとなれば、良い奥地があります
扱きも必要でしょうし…ね?」
野営…
俺の体力のなさ、甘い覚悟
保てない冷静さ…
この前指摘されたばかりだ、
その俺が今実践に移れば…どれ程の残状となるか分かっている筈
「…っ」
「皆、あまり苛めてやるな。
分かったなら言うべきことを言うんだ」
「…申し訳、ありませんでした」
古代技術の教授に促されて謝罪する
ここでごねても…リンチにあうことは分かっている
元から講義に関して厳しい教授陣だ
言い訳など出来るはずもない
実行されれば…一溜まりもない、
売り言葉など吐けば漏れなく買ってくれる筈
「だそうだ、講義に戻れ。
乾燥野菜のなんだったかからだったな?」
やれやれ
仕方ないとばかりにその言葉に習い教授は講義に戻って行った




