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日常15





「美味しい?」

間隔の開いた2杯目の紅茶を啜りながら


コクリコクリと…

ココアを飲むオリゼに聞く




「…その…」

「青龍が侍従としての矜持を曲げてまでサーブしてくれたんだよ?」


「…お…いしいです」

「良かったね、青龍」


「ええ…若君も満足されたようで何よりです」

「…まあね」


拗ね気味の猫を見ながら

青龍に肩をすくめて答えれば、軽く会釈をするのが視野の片隅に映る

この青龍も…一癖ある

常々思っていることだが…

まあ、いい、

今はそれより優先すべきことがある





「オリゼ」

「…兄上?」


「馬車の件だけど、…って暴れない。

最後の講義が終わったら部屋(ここ)で待っていてね?」

「…っ」


油断も隙もない、

腰に手を回して暴れないように引き寄せる


「手狭だけど、同じ馬車で帰省する。

…迎えに来て居なかったら、分かるよね?」

「…」




「因みに、休暇中のオリゼの日程はもう決まっている。

その上で追加して欲しいなら…俺も本気で改変するけど、良いかな?」

「…日程って…兄…上」


「見せようか?」

「…はい」





目線で指示すれば

何処に携帯していたのか…

此方に歩みながら取りだし、差し出された紙を受け取る


一折りにされたそれを、

青龍がオリゼの前で開く




暫く…

あまりの内容に驚いているのか

固まった弟


更に暫く…

震え始めた



「…兄…上」

「どうしたの?」


「…あの…その」

「分からないなら解説しようか?」


「…ぃ…っや…だ」

「仕方ないな…では草案の方にしようか?」


なにも見たいとは思っていないだろうが…

そして言ってもいないが

…立場は分からせておかないと、この後更に痛い目を見るのはオリゼ本人だ


オリゼの返事も待たずに裏返して見せる青龍

まあ、こっちのほうが酷だろうが…

またしても固まる弟に思わず苦笑が漏れる





「どう?こっちのほうが良いなら、それでもいいよ?」

「…ど「どっちも嫌なんて、まさか言わないよね?」」



「…申し、訳…ありませ…ん」

「オリゼが反省できるなら、どちらでも。それと第2から第6案まで臨機応変に対応できるようにもあるから安心してね?」


「っ…」



まあ、ここまでしても

反抗するだろうけど…流石に第7案は無いものとして考えてはいる


父上と母上の原案、オリゼの性格を熟知しているからこそ…

それに俺が加筆したそれ(第7案)




「…わか…りました」

「そう?因みに兄心で教えておくけど、今見せた第1案が一番優しいからね」


「…兄…上?」

「さてと、そろそろ本当に終わり。明日も講義があるでしょう?」


不安そうな目をして聞き直してくるが、答える義務はない

…心構えをさせてやるだけ優しい

手心を加えられるところは加えた日程も…

まさにうちの男爵家らしい…弟仕様だ


青龍に視線をやれば紙を畳みし舞い込む

引き寄せていた手を話し、

震えているオリゼをしっかりとベットに座らせた







少しの間、

様子を見て…弟が稼働し始めるのを確認する


「帰るからね?おやすみオリゼ」

「…おやすみ、なさい」



扉を出る前に、

最後に振り返ってから通路へ


捨てられた犬のように落ち込んではいるが、大丈夫だろう


凹んでもリカバリーするのは直ぐの筈

良い薬になっただけ、

効能が帰省する迄も持たない短期的なもの


…屋敷に戻っても手間がかかるなとその姿に苦笑を漏らし

踵を返した








………


「青龍、無理言って悪かったね」

「何を仰いますか…、結果は満足のいくものでしたよ」



「そう…それで納得できるなら良いんだけど…でもね」

「若、なりません」


またか

"傍仕えの小生に、そこまで気を使うな"

そう言いたいのだろう…

1度ならず再度口から出そうとした謝罪の言葉 


自然とつこうとした台詞は

音と成る前に…やはり押し止めるように諌められた



 

過度に此方が…俺が

へりくだっていると感じるそうだ。

勿論、ただ苦労を掛けたと詫びているだけなのだが…


それでも、

"それは傍仕えである小生の仕事、

当然のことに非を認める様な言葉は使っていただきたくない"


そう言って、

受け取ろうとしない…俺に再三は言わせない





「はあ……いつものあれ?

心を砕くのは侍従としての一流、

それを推し測って使うのが主人としての一流って?」


「その通りです、若」

「まあ分からなくもないけど…それはそうと玄武は来るんだよね?」

「勿論で御座います…」


「オリゼは嬉しさ半分か…」

「さあ…小生には推し測れはしません」


話題を変える 


学園への付き添いを、

そう…弟に拒絶されたあの日から

玄武の様子は青龍を通じ、定期的に報告は受けている


こんな貧乏くじの傍仕え等やるなと、

玄武を手酷く拒絶


命令の権限を存分に利用し言い放った

傍仕えも侍従も必要ありません

屋敷の敷地内、馬車に乗るまでもなく付いてくる玄武を屋敷へと無情に引き帰させた




「玄武は勇んできそうだけど…ね」

「それは…そうですね」

苦笑しながら答える自身の傍仕えに、

あの弟の傍仕えも…

弟に似て大概変わっていたと思い出し、笑みを深める




すっかりと月も真上に昇る中、

そんな雑談をしながら

寮へと足を進めていった…




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