日常14
…
暫く、
青龍と黙り混んだ後
「殿下に言おうか…流石にこれじゃあ看過出来ないよ」
「兄上…それだけは…」
「仮にも主人の命令なら、給金分位の食事には流石に改善するでしょう?」
「…もう…その命は…」
ふるふると頭を横に振る様子
…さては…
まあ、俺とは違って隠し事は苦手だ
本人的には隠せていると思っているのが…可愛い
…
暴けばこの様だ、
あえて俺から殿下に言う必要もない、か
体が心配ではあるが…方法はある
これ以上看過できなくなれば、
傍仕えを付けさせれば良いだけの話
俺が言えば…渋々頭を縦に振るだろう
「はぁ…もしかして、見つかったの?
それでもまだこんな食生活を続けているってことかな?」
「…っ」
「へえ…主人の意向に逆らう、ね
だから言い澱んでたのか…合点がいったよ」
「…」
座っている弟を抱き寄せれば、
全くの無抵抗…
普段ならすんなり俺の腕に収まることもない
…
報告されると思って、
どうやら片意地を張る気概も無くなったかな…
項垂れたその様子に苦笑しながら、
いつも素直に言うこと聞けば良いんだけどね…と
虎の皮が剥がれた猫、いや弟を膝に乗せた
「さてと…オリゼ、秘密にしておいてほしいなら…
とりあえず、目の前の夜食を食べようか。
ココアは…もう冷えているね、…青龍」
「はい、ただ今」
「まって…青龍…兄上、飲むから」
1拍
ココアを下げていこうとする
その青龍に気付き、気を持ち直す
駄目だ…
それは駄目だ。
制止をかければ足を止めた青龍
…
だが、これは小康状態に過ぎないことくらい分かっている
兄上が命令すれば下げて捨てられる
だが、それだけは…それだけは駄目だ
「うん?新しいのを淹れて貰えば良いよ?」
「謝ります…から…だからそれを飲ませて下さい」
急だった
右腕を青龍の方へ伸ばし、
俺の腕を振りほどこうと体を捩る猫…
…全く、何が不満なんだ?
「…美味しくないよ?そんなに冷えたのが飲みたいの?」
「はい…」
「なら、冷たく冷やした物を作って持ってきて貰えば…」
ぶわり
「兄上、私は"それ"が良いと言っているんです、
淹れ直すならば冷たかろうが温かろうが飲みません。それが気にくわなければ…殿下に告げ口するなり何なり為されば良い」
「っ、オリゼ」
構えもしない時、
ノーガードのその状態…
なんの予兆もなく0距離で魔力が放出された
…全く
仕方ない、
このままいけば見境なく魔力を行使するだろう弟に
少し多めに魔力を練って、包み込むように魔力圧を掛けていく
「ぐっ…兄…上」
「魔力、収められるね?」
「う…ぅ…」
「オリゼ」
「…っぐ…」
「抵抗するなら強めるよ…良いね?」
「…しら…ない!」
「…聞き分けがない、辛いよ?」
「誰、が…辛いも…んかっ」
「俺は忠告したからね…」
弱まるどころか、強まっていく…それ
…仕方なく反発する魔力を押し込めていく
魔力量は少しだけ多くして、と
…
それでも抗い続ける…か
歯を食い縛って、苦痛の表情を浮かべる
それでも反発…
苦しいだろうに、何がそんなに気に食わない?
はあ…
無理矢理失神させてもいいが、
理性をかなぐり捨てているわけではなさそうだ
…
そらにこれ以上は量を増やせばオリゼの体に負担になる
仕方なく…練って密度を変え
圧のベクトルを大きくした
………
「落ち着いた?」
「…ごめんなさい…兄上」
何度も繰り返し聞いた
大人しくなったかと思い、手を緩め
落ちついたかと聞く…
その度に魔力を放出するものだから…じゃじゃ馬もいいところ
やっとだ…
何度も魔力圧をかけて武力行使に近いことをしても
反抗する
最後には圧をかけながら言えばやっと収めた
「ごめ…んなさい」
「いいよ、オリゼ…まあ、もう少し素直になってくれると嬉しいけど」
「…」
「まさか、魔力をまた出すつもり?
反抗するのも可愛いけど…次は流石に腹に据えかねるかな」
「うっ…」
「いいね?俺も手酷くしたくはないんだよ?」
「…はい」
不穏な無言
直ぐ様釘をさせば収束する
油断も隙もない
…合わせて軽く腕を強く締めれば収まる程度ではある
が…
はあ…溜め息も漏れる
「なら…話を戻すね。俺はただ、折角なら温かい美味しい物を飲んで欲しいだけだよ?何かあるの?」
「…それは…その…確かに冷えたものより温かい方が美味しいです。でも…」
「でも?」
「…今温かい方を淹れ直して貰っても"それ"よりは…きっと美味しくはないです」
「う…ん?」
「…兄上、が…単に喜ばせようと用意してくれた物の方が…体と栄養を心配して淹れてもらう物より…
それに…予め算段して給仕してくれたのに飲まずに捨させるのは…だから…"それ"が良い…んです」
「「…」」
ここに来て殺し文句か…
泡を食った顔の傍仕え
まあ…気持ちは分かる…分かるが戻ってこい
「…ね、青龍聞いた?」
「ええ…しかし、このまま提供するのは小生の矜持が廃りますね」
「…そうだよね、俺としてもプライドが許せないんだけど」
石木を取り戻したかと思えば、
頬が緩んでいるぞ…青龍
自身を棚にあげて口角を上げる
そう言うことなら…
あまりに可愛い発言に互いの笑みが止まらない
妥協してやるかと、ほだされた
それは青龍も同じこと
顔が崩れてきている…
「ですが…これではタルトも食べて頂けそうにありませんね」
「そうなれば…悪くなる、もう冷たくもないし捨てるしかないね」
捨てると言った瞬間、
弱く抵抗する…
…
全く懲りない。
少し魔力を当てれば
直ぐに大人しくはなった…が、
そんなに捨てるのが嫌いか?
だがここまで言えば、
ここまで下げれば妥協案に反抗する事はない
後は言うことを聞くだろう…
「…青龍、悪いけど"それ"を暖め直してきてくれないかな?
タルトはこのまま。妥協できるのはそこまで、双方異論はないね?」
「…そうですね、納得はいきませんが召し上がって頂けるならば…吝かではありません」
「…っ」
「オリゼ」
「…はい」
ぐったりとしている
魔力に当てられた弊害もあるだろうに…
素直とは言いきれない
それでも俺の言葉にしたがって漸く、飲み食いする気になったか
フォークに手を伸ばす弟
を見て、人心地付く
…こうなれば一先ずは安心
一口食べれば
…踊るようなオーラが見える気がする
二口、三口と…もくもくと、そして幸せそうに食べる姿は
純真無垢…
やっとの思いでこの素の表情を眺められた
その様子を、
宝石のように輝くブルーベリーに夢中になっている弟の姿を
見ながら…やっと報われた気分になれた




