日常13
「…オリゼ、今までの休日は何を食べた?」
「兄…上」
「怒らないとは言ったけど…言えない上に3人を呼ばせない、
…限度があるよ?オリゼ」
「…」
「オリゼ」
「…携帯食料…とうもろこし、蒲公英…です」
少し声を低めれば吐く、
その単語は…
…知識として名前は知っている程度
…
蒲公英は食べたとしても主食にはならない
領地の帳簿で見かけたとうもろこしの字、
あれは飼料の帳簿だったと記憶しているが…記憶違いしていると信じたい…
それに、
携帯食料は普段の食事として食べるものではない
授業で食べたことはある、
…決してあの味は進んで食べるものではない筈
…
手持ちの食料が尽きたとき、
…体の維持のために食むもので…過酷な遠征でも無ければ
そんな機会は訪れない
…まあ、いいか
とりあえずは聞かないとね
「とうもろこしは何処で買ったの?」
「城下街…です」
「…今日食べた根菜は?」
「…っ…城下、街です」
「蒲公英は?」
「学園の…練習、場です」
練習場…
ああ、あの雑木林か…
それにしても聞くに耐えない
最悪、黒パン位だろうと予想していたが
これでは体がもたない…
例え平日の3食が栄養豊富であっても体に悪すぎる
そこまでお金が足りない筈はない
…また拗らせているのか?
「そう…それで?何故賞金に手をつけなかった?」
「…ラクーア卿の屋敷に伺う馬車の代金と、手土産に当てるつもりでした」
「見習いの給金は?」
「選択講義代に使いました…」
「…青龍」
「はい」
「一般的な見習いの給金はそれほど安いか?」
「いいえ…ですが学園の講義代金に当てるとするならば…月給では足りないと思います」
「選択講義は5つ取っていたね…勤務は週末だけ…
オリゼ、…何ヵ月分当てるつもり?」
「…12ヵ月分です」
…極端すぎる
腑抜けではなくなったと噂では聞いたが
振り幅が大きすぎる
講義を受けるために給金を一年全て使うやつがあるか…
勤勉で真面目な弟が
曲なりにも戻ってきたと安心していれば…
「…手元に残っていた仕送りはどうした…1カラット位は残っていた筈だろう?」
「…講義代金です、給金は前借りしておりません」
「それでも、少しは残るよね?」
「…いいえ」
「そう言えば…
その簪は見たことないな、それに平紐も上等な物だね?」
…口を割らないか
そう思って思わせ振りに言いながら手を伸ばせば、
奪われると思ったのか
…必死に手で押さえ頭を振る
まあ…
簪はともかく一目見ても値の張るこの平紐は買えないだろう
殿下にでも貰ったか、とするなら簪はあの二人から…
想像は易くついている
装飾品に注ぎ込んで食費が無くなるまで…
目がない訳でも、無計画で馬鹿でもないことは分かっているつもりだ
…となれば
「…なら何に使ったのか言えるね?」
「紙とインク…ガラスペンと石鹸、朝食と雑貨に…」
「…そんなに買えるもの?」
「嘘は…言って…いません」
疑われたのだと、そう勘違いしたのだろう
小さくなる弟から
青龍に目を向ければ、
…
凄まじい顔になっている
侍従がそれで良いのかと思いはするが…
それを許しているし、俺に対してだけ。
…で、何故そこまでの形相になっている?
「…2ルース程で売っている店は確かに存在します」
「何処でだ…」
「城下街の外れですね…」
「そう…オリゼ、ごめんね。机の引き出しを開けるよ?」
成る程…
返事も待たずに
立ち上がり、机に向かおうとすれば
引っ張られる感覚
見れば…
裾を握り、阻止しようとするのは弟の指
振りほどいても良いが…
「…兄…上」
「オリゼ、開けて良い?」
「…っ」
ゆっくりと言い聞かせるように言えば、
離れていく指、
力なく腕が下がっていくのを見て心は痛む
が…仕方ない
「青龍」
「…はい」
机の引き出しを開けさせれば…
…見るに耐えない物がしまわれていた
そう言えば…
机の上のインクもガラスペンも紙も質が悪いな
耐えないものではないが…
…
引き出しの中のものはその比ではない程酷い
「オリゼ」
「…申し訳…ありません」
振り返れば
見られないように隠していたのだろう
俺の来訪を見越して、机の引き出しに仕舞った
隠し事がばれたと言う、
引け目もあるのだろう…
…全く
「オリゼ」
「…講義では、机の上の…物を…使っています」
「そうじゃないだろう…」
「ごめん…な…さい」
体面を気にしたのは確かにある
だが…それ以上にここまで節約しているとは思わなかった
「青龍…」
「机の中のものは今日の午前中にでも買ってきたのでしょう、使用した形跡はありませんね。
質のまし…いえ良いものは、確かに普段使っているように見受けられます」
「これは?」
「…石鹸の端材ですね」
「これ、は…」
「…給湯室で見ました、状況から察するに乾燥させた根菜でしょうか」
「…」
「それは…」
三つ目の瓶を目の前に差し出す
…が、
青龍ですら言い淀む
目を泳がせて言わないあたり…
「オリゼ、これは何かな?」
「…蒲公英、です」
「なにするの…」
「コーヒーの代用品として…嗜んでおります」
「「…」」
嗜むって…
流石の言い回しに頭を抱えたくもなる
横を見れば案の定、
青龍も言葉を見事に失っていた




