日常12
「そんな端ではお茶が出来ないだろう?
こちらにおいで、オリゼ」
「…はい」
「今日は終い。帰省したら叱るけどね」
「…っ」
びくりと肩が揺れる
…先程であれだけ言われたのだ
死ぬ可能性であれだけ…自殺に似たあれは、
どれだけ怒るのだろうか、そう想像すれば喉がつっかえて…
コンコン
「入室してよろしいでしょうか」
「…」
「オリゼ」
兄上が許可を出せば良い…
そう思って待つが、代わりに発せられたのは諌める言葉
…部屋の主は俺だと立てる
扉の前で立たせて置くわけにもいかない
兄上は入れとは言わない
「…はい」
「失礼いたします」
仕方なく、久々に入室許可を出せば
それに従う青龍
下がった視野に映る…目の前のテーブルに並べられた物は、
屋敷で度々登場する、見慣れたもの
兄上が…気分が落ち込んだときによく用意してくれた
…その中の一つ
それも豪華な方だ…
………
あれ?
更に下がる弟の頭
紅茶を手にとって一口
二口つけるも…いっこうに手を伸ばさないばかりか更に落ち込んでいる
「どう?タルト好きでしょ?」
「…はい」
「食べないの?」
「…兄上が…食べてください」
「「…」」
思わず控えていた青龍に目線を送る
互いに言葉を失う
…食べないと口だけ意地を張ることがあっても、
じゃあ代わりに食べようかな?
…とでもからかえば直ぐに手を伸ばした
好物中の好物を俺に譲ることは記憶の限り、
今までは無かった筈だ
それに…
何も飲まない…ココアにすら手をつけない
「…オリゼ?」
「はい…」
「…俺が食べても良いけど、これはオリゼのために用意したんだよ?」
「…ありがとうございます、用意してくれたのに申し訳ありませんが…全て終わってからで結構です」
「「…」」
終わったのだ
今日分とは言え、叱責は終わりだと言った。
記憶を探るも…終わりだと言えば少しは真っ当に甘えてきた
甘味ならば尚更…
それも今回は好物中の好物の筈なのに…
それにあの生意気な口調も一向に戻らない
…おかしい
おかしい…
中等部に移ってからは様子もあまり見てこなかった
だが、この短期間だ
それは青龍も同じ
…可能性が低いと思いつつ
何か知らないかと青龍に目配せする
「関連性があるか分かりませんが…一つだけございます」
「言ってみて」
「馬車の件をお伝えしに行ったとき、昼食を自らの手で作っておられました」
「うん?それでどうかしたの?」
「スープ…いえ…根菜が浮いた…お湯でした」
「…青龍」
「…見間違えならばと、小生もそう願いたいところでは御座いますが…」
悲愴…そのもの
青龍は、
信じがたいが…その言葉通りの物を目にしたのだろう
庶民でもまだ…
裕福でなくともそれよりはましなものを食べている
粗食に慣れているから、
余りあると言いたいのか?
だが、食堂には顔を出していた…
胃が豪華なものに拒否反応をすると言うこともないだろう…に
「…オリゼ、昼食は何を食べたの?」
「…っ」
「怒らないから…」
「…水を飲みました」
「その…スープは?」
「…夕食に…頂きました」
「なんで…賞金を貰っただろう?仕送りがなくても…食事くらい買え…る?オリゼ…その根菜は何処で買ったの?」
「…」
「そう…仕方ない…、二人を呼ぼうか…」
「兄…上…、二人は…知りません」
「そう?情報は持っていそうだけど…じゃあ殿下かな?」
「…お…やめを」
目に見えて体が震え始めた…
つまりは知られたら困るってことかな?
…ああ
怒りたくなってきた
これは流石にくるな…だが…怒らないと言ってしまった手前
仕方ない、か
隣の膝の上で白くなるまで握られた拳、
それを見ながら溜め息が漏れた




