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日常9




「入るぞ、オリゼ」

「…はい」


殺気が、魔力が出ているわけではない

…それでも体が無意識に震えるくらいには怒っている


ラピスとオニキスを通してから…

…名残惜しく、扉を閉めながら狭まっていく視界の通路

溜め息を深くついて、心情と反対の行動…無理矢理に鍵を閉める

…詰めが甘い、とは思わない


既に悪友二人が人質だ

ここで表通路から逃げても状況は悪くなるだけ

…加えて、あんな様子の兄上から逃れても…

いや、一声で御される自信はある

…だから到底無理なのだが


重く動かない足を部屋のなかに向けた






「ごめん…オリゼ」

「悪い、バレてたんだ。握りつぶしてきた規律違反の処理を盾にされた」


矢継ぎ早に話しかけてくる悪友

ベットに腰かけて此方を見てくるが

視線切り、兄上に顔を向ける



「…構いません、それで兄上。この二人をどうされるおつもりですか?」

「今さら問うつもりはない。まあオリゼの態度次第だけど…分かっているね?」


「…はい。ではもう二人は帰して構いませんか?」



開け放たれた使用人部屋の侍従二人に視線をやる

ばつが悪い…を通り越し、

…項垂れてショボくれた主人を早く回収して行って欲しい


毒にしかならない

慣れた弟の俺でもキツイ…

監視ならば、兄上の傍仕えだけで事足りる


まあ…兄上がいればただそれだけで過多ではあるが…

これ以上この四人をこの場に留まらせる理由は兄上にもない筈だ

俺に扉を開けさせて、

この状況下を作れたのだ

要済みの筈…



何か考えているのか?

間が空く。

ただ一つの椅子に足を組み、思考を巡らせている



「いいよ…但し今から聞く事に対する返事は"はい"しか認めない。それをオリゼが守れるならば、二人は問わないし、帰してもいいよ?」


「…分かりました」


「そう…なら帰って良いよ、愚弟の為に足労かけて悪かったね。

ラピスくん、オニキスくん」


「いえ…」

「…その…ようなことは」


返事もままならない二人

侍従二人に催促する視線を送れば、漸く立ち上ち治りかけた主人を部屋から出ていかせてくれた





扉の鍵を閉める

振り返れば今から始まる詰問に…逃れる術も道も無いことを知りながら、模索し始める思考を止める

"二人には問わない"

規律違反、元は俺を含めて問わないつもりだったのだろう…


が、度重なる目に余る行動も含めて正すつもりだ

普段は優しい…

呆れながらも何かと俺を庇う兄上だ


しかし…

一線を越えれば、その優しさも意味を変える

震える体を押さえて、簡素な椅子に座り待つ兄上の目の前に立った




「…さてと、悪いことをした自覚はあるね?」

「はい」


「叔父上の件、いつ俺に謝罪してくるのかと思って待っていたが何時まで経っても来なかった…中等部とて初等部から10分も離れていない。学業や見習いは理由にならない。

…それくらいの時間は取れた筈だね?」



「っ…はい」


「その気がなかった訳でもないだろう…やはり先送りにするつもりだったね?」

「…はい」



それは…

だって…

そう口について出てこようとする

否定も釈明も求められていない

言い訳など、もっての他だろう…

そして、"はい"と答え続けても許されるわけでも納得されるわけでもない

…ゆっくりと腰を落とし、兄上の前に両膝をついた




「まあいい…元より反省してない訳じゃないのは分かっている。

ただ、帰省してから先伸ばしにした理由も事件の時の話も、規律違反の件も…後でじっくりと聞くからね?」


「…はい」



ならば…今問われる議題は


馬車

…分かってはいたが、やはり納得してもらえなかったか…

想像通り、

帰省してから詮索も謝罪も待ってくれる心積もりではあったようだ…

だから先伸ばしにした、それは兄上も分かっているはず

それを態々、今ここで明言した


遂に馬車の件で腹に据えかねたのか…

実家に帰ってからと、

待つまではしてあげようと甘い対処をしてきた。

それを察し、甘えさせた上で…


それだけに留まらず、

帰省する手段まで甘やかすつもりはない

沸点はそこで超えたのだろう…





顔を見る勇気はもう…湧いてこない

ここまで何とか奮い立たせてきた心ももう限界だ

視線をずらしてももう、耐えられない


一層の事…

謝罪にかこつけて、頭を下げてしまおうと

両手をついて床に頭を落とした…




「分かっているね、今日の本題はどうやって帰省するつもりだったかってこと。俺の侍従をはね退けてまで…

ところで…頭が下がってきているよ、オリゼ」


「…はい」


「…誰が視線を下げて良いなんて言った?顔をあげてこちらを見なさい」

「…っ」



上から落ちる的を得た指摘


…返事をしなければ

…上げなければ

…そう思うも口も体も既に制御力を失っていた




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