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日常6



さてと…

これまた空になった、どくだみ茶を入れていた瓶

コッヘルと…

魔方陣を描いた紙を数枚



サバイバルナイフを持って、と

腹の虫を宥めるために給湯室に向かった








煮れば食べられる…出汁の出る物もない

旨味のある肉や魚もない

講義や本で付けた知識…前回は茸から

今回は…



腹が満たせればそれで良い

今日動けるだけのエネルギーが摂取出来れば良い


朝の美味しいメニューを思い返しながら

ため息をつき

水洗いした根菜をナイフで薄目に銀杏切りにしていく




1食分

切ったそれらから

ジャガイモを多めに選び

コッヘルの中へ…



水を多目に張った理由は腹持ちのため


例え…安かったとは言え、

今後の学園生活は長い

一ルースとは言え…

積もり、積もればルース単位で済むわけがない




明日は講義がある

つまり3食貴族向けの食事にありつける

だから…今日の昼夜、

間の2食は腹が持てば良いのだ


節約、ケチらなければ…

どうみても美味しくはならなそうだ、

煮込んでも味は変わらない

その味を想像して溜め息を付きつつも残りの材料を魔方陣の上に置く







コッヘルの中

煮え具合をみれば…やはり明らか、

水と根菜の比率は合っていない


大袈裟に表現すれば水に泳いでいる

…沸騰する気泡に踊っている。

隙間の多い液体の部分

やはり貧相…その物だ


だが、別に構わない

誰に振る舞うわけでもない

見咎められる訳でもない

一番の懸念としては、あの3人の侍従に見られること…か?



だが…

人気のない使用人スペース

万が一の可能性もないだろう



きっと…

講義が休みの主人についていっているのだ。


そう言えば…

買い物を終えて通った貴族向けの店先

そこには、

沢山された買い物の荷物を持ち、世話をする侍従

視線の先を追えば…更に買い足そうとする店の中の主人だろう姿


そんな光景を至るところで、

…傍目にしながら帰ってきた。  



…本心では…紙袋で痛む腕や手を感じながら

主人を、

いや…主人改め物欲の化身として見ている事は想像に固くない

親の金で必要迫られた買い回りをしている人は居なさそうだった



娯楽

実家の財力

コネクション作り

"生活"のための必要性はない

"貴族"のための必要性



多分に漏れず、オニキス達も外出しているだろう

お陰様で

十中八九その侍従らに見咎められる心配は無い

悪友達と殿下

ビショップ達をこの寮から引き連れて行ってくれている筈だ


楽しんでいると良いな…

何を買っているんだろうか

どんな会話をしているのだろうか

そう思いつつもまだ残る材料を

魔力を注ぎ乾燥させていく




……


終わった

後は瓶に仕舞えば終わり…

嵩のあった材料も目論見通り一瓶に収まった

さて、

そろそろ煮えているかな…


片付け終わり、

そう、昼食の出来具合を除き混んだ時だった




「オリゼ坊っちゃん」

「…っ」


聞き慣れた…その声




「何をなさ…「用事はなんだ、兄上からの伝言か?」」


煮崩れしたジャガイモ

それはそうか…あれだけ泳げば崩れもするよな

必然の結果、それでも頭の何処かで自嘲しながら…

火を止め、

背にそれを隠しながら振り返った




「はい、長期休みの件でございます。"帰省すると聞いているが屋敷の馬車の手配をしていないと聞いた、本当に帰って来るつもりか"と仰られていました。

確認のため私が参った次第です」



「…文の言葉を反故にする気はない、帰るから心配するなと伝えてくれ」

「畏まりました…馬車の手配は如何致しましょう?」



「…俺付きの侍従でもない、やる必要はない。寄るところもあるから無用だ」


構ってくれるな

当然のように迎えの馬車の算段を仰いでくる

要らない。

そもそも勘当一歩手前の次男に経費など掛けるわけがない

仕送りも無くなった身分


帰省しろと言う父上の言葉は、

命令は…

ただ叔父上の件について家長として…

男爵家として問い質す義務があるからに過ぎない


確かに寄ってみたいところがあるのは事実

嘘ではないが、




「オリゼ坊っちゃんの…傍仕えは屋敷でしょう?何の指示もないと言っていました…侍従の一人も付けず…どちらにいかれるのですか?何かあればとアメジス様も心配なされます」


「くどい」

「…申し訳ありません」



「いや、傍仕えとしては正しい…謝る必要はない。

…悪いが今から昼食にする、兄上がこの返答で納得しなければまた足を運ぶことになるだろうが…出直して来てくれないか」


「昼食…で…これは?」

「ちっ…勝手に見るな、お前には関係ない」



顔をしかめた

俺の背が低いせいか…少し体をずらせば見えたのだろう

兄上と父上の命だけ守れば良い

…些末に気をかけるなんて、

俺のことなど気にかけるな

必要以上に俺に目をかければ…屋敷の侍従としてきっと謂われなき中傷を浴びる


昔から…

そう、叔父上の件がなくとも…出来の悪い俺付きの侍従には

きっと肩身狭い思いをさせてきた筈だ


陰で何と言われているか…想像はつく

貧乏くじだと、兄上付きになれれば良かったと。

兄上付でそんな素振りを見せたら…




「確かに私はアメジス様の傍仕えです…

ですが同時に男爵家の侍従でもあるのですよ?」


まだ言うか…

つまり、兄上や父上の意向に反しなければ

…俺の命もまだ聞くと?

心配も世話もすると言うような口振り

流石は傍仕え

次期男爵家を背負う兄上の傍仕えだけはある

こんな立場になった俺にも、

手本になるような使用人の鑑のような発言と対応、態度だ



だが…

この様子では諦めて帰りそうもない

ならば、いっそ

それを逆手に利用すれば良いだけの話



「兄上からの命は済んだ筈。

成る程、男爵家の侍従であれば…父上(主人)や兄上と抵触しない指示ならば子息の命も屋敷の使用人として従うと?

…そうかそうか、つまり(次男)の言葉も未だ有効であると言い張るならば…帰れ」


「…それは」

「認めないならそれはそれで良い」


「いえ、畏まり…ました…」

「そうしてくれ」


渋々…それでも命の通り、

俺の前から去っていった



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