日常5
次に足を止めたのは…パン屋
ガラス越しに様々な惣菜パンやサンドイッチが並んでいる
暫く、食べたそうに見つめていたが
ついに入りもせず離れていった
最後に生地屋で店先の大きめの端切れを買うと
買ったものを纏めて包み、
商家が連なる方向へ向かっていく
途中、
立ち止まったかと思えば、道端で上着を羽織り
…何処から出したのか
綺麗な風呂敷に上から包み直していた
それからは足を止めることなく突き進む、
その後ろ姿をそのまま、
青果店の店先から見送っていたが…
見える限り、
貴族向けの店には人目もくれずに消えていった
「…なあ」
「ん?」
「夢か?」
「現かもね…結局使ったのは15ルース位?」
「ああ…それにあの様子、
確実にあれら以外何も買わず…そのまま帰ってるよな」
「そうだね…」
「小銭入れも、さっき羽織った上着も…荷物を包み直した風呂敷も上等なものだったが…」
「…確かに、子息であることはやっぱり間違いなさそうだね」
「そうだよなあ…」
「まあ、面白い物が見れたかな」
「…俺らも帰るか」
「そうしようか、明日は宿直だし…俺も早めに帰るよ」
何か裏がありそうだ、
仕事柄そう思って付けてみたが…蓋を開ければ
悲しくなるほど慎ましい買い物をしているだけだった
途中別れたマスターも…
なんとも言えない顔で、店へと戻っていった
………
一方、そんなことを思われているとも知らず
軽やかな足取りで学園に戻ってきたオリゼ
寮監に帰寮を伝えると
直ぐ様、自室に向かった…
さてと
風呂敷を机に置き、包みを広げる
紙袋から根菜を取り出し、
出掛ける前に上の使用人部屋から持ってきていたコッヘルに入れていく
それと…
彫刻するのに良さそうな小刀
合わせて選んできた天然石に魔方陣を刻んで、ペンダントにすれば便利だろうと思って買ってきた
何を刻もうかな…
とりあえずは引き出しにしまっておこう
これまたお買得だった端切れと言えど、
この大きさで1ルース!
最後はボロにしても良いし…
そう思いつつ、それらを端切れに纏め…包み仕舞い込んだ
後は…インクと雑紙
これこれ!
部屋で使うにはこれで充分
気兼ねなく予復習の暗記するにしても、
計算用紙としても使える
この際、選択講義もこれで良いか…
その分を基礎講義用にまわせるし一石三鳥
…
雑紙と安インクをガラスペンの隣に置く
代わりに机の上にあったインクと紙を肩掛けバックに仕舞った
後は…
そうそう石鹸
丁度無くなりかけていたところで
本当に目ぼしいものが見つかって良かった
これだけあれば、
長期休み後…半年位は持ちそうだ
無駄使いしなくて済む
…
蒲公英コーヒーを入れていた瓶を引き寄せる
匂いも軽くつくだろうしと、無くなって空になったそこに纏めて入れる
これでいつでも使える
今度買いにいくならあそこまで行こう
もし特売品がなくても…
ちらりと見た店の中の石鹸もインクと紙も安かった
あの値段ならば、最悪…
何とか後4年強分は買い足せるだろう
初等部での消耗品の目処は立ちそうだ
後は…食料だな
何とか学年末の訓練や行事で上位に食い込むしかない
その賞金があれば…遣り繰りできる
これでいい。
ふう…
ずっと頭の片隅に懸念としてこびりついていた
これで一安心できる
ほっとした…
そう思った瞬間、腹の虫がぐぅ…と鳴った




