殺陣9
とりあえずまだ少し時間はある…
椅子に向かい、
乾燥や刻んだ塵が散らばった机を片していく
そして先程の残り
蒲公英の葉を乾燥させて、放置していた花と一緒に瓶に入れる
これでお茶になる…筈だ
数種類
飲物はこれで心配ない…
問題は主食がないことだ
買い出しに頼らずになんとかならないだろうか…
書庫から隙間時間を活用しようと
辞典のような厚みの借りていた本のページを開いた
…
ガチャ
「少し早いが」
「…ああ」
扉の開く音と共にオニキスの声
こうなることを想定して鍵はかけていない
予想通りだった
入室許可もへったくれもない
本から目を上げて確認すれば、
此方も予想通り
動きやすい服装に、帯刀している
ガチャ
「あれ、遅かった?」
「いや、今来たところだ」
「そう…」
同じように入ってきたラピスに本を閉じる
人の部屋の扉を何だと思っているのか…
朝よりも軽装なのは、
…手合わせする気分になったのだろう。
俺への嫌がらせなのかもしれないが
…
ただ剣を合わせるだけでは無いだろう
先ほどの悪どい笑みは…
何かある
「…はぁ、さっきの場所で良いのか?」
立ち上がり、立て掛けてあった剣を取る
素朴な木の肌触り…その鞘の感触を掌でしっかりと感じながら、ベルトに差す
水筒を最後に手に取ると、
立ったままの二人を外に促した
「外出届けも要らないから楽だな」
「…見つかれば処罰ものだけどね」
そんな軽口を叩く二人
半歩後ろに何も特に言うこともなく続いた
開けた場所につく
…
風呂敷に包んで持ってきた携帯用のランタンを組み立て、
刻まれた魔方陣に魔力を注ぎ…
蝋燭の芯に火が移ったことを確認する
灯ったな…
手頃な木の枝に引っかけて二人を振り返る
「…それで?」
「僕らの気がすむまで、かな。オニキス、僕からいっていい?」
「ああ、まあ大差ないしな」
「…鬼畜め」
単に手合わせではない
体力的にも技術的にも、格下も良いところ
その俺に対して…
交代しながらずっと手合わせさせるつもりだ
「手枷の調整でも良いけど?」
「二対一でも良いな」
さらりと返された言葉に顔が引きつる
体力作りとは聞こえが良いな…
リンチに近い
それも手加減されながら…
じわじわと削られていく
休憩しながら余力を残して。
…そもそも交代や休憩が必要なのは俺の方であって、
二人には必要ない
きっと
先程同様…一対一でも俺の息が上がる方が早いのだから…
「畜生が…」
「やるよ?オリゼ」
動こうとしない
そんな罵声を吐露する俺に、
剣を抜いたラピスが催促する
対峙しなければ…
言葉の裏には、部屋で"別のこと"をしても構わない
そんな副声音が聞こえてくる
オニキスはとりあえず倒木に座って観戦者…か
…負けはない
地面に伏そうと、参ったと例え言ったとしても終わらない
そんな手合わせ
基戯れ
此方の心情が分かった上で、負けず嫌いでプライドが高いことを知っていて本気を…全力を搾り取るだけ搾り取る気だ
本当に煮るなり焼くなり、か…
啖呵を切った少し前の俺自身を責めたいが甲斐はない
溜め息を…
深く細く息を吐いていく
余計な力を抜け
雑念を棄てろ
スッ…
腰を落とし、
鍔尻を下げて右手を掛ける…
親指を跳ね上げて抜刀準備をする
「…準備できたみたいだね、行かせて貰うよ?」
「…お好きに」
ギィーン
初手を受け、距離を取る
顔を上げれば
スウッ…細められた目が処刑人のそれに見えた




