再
こんこんと説教された
『…まあいいでしょう。
つまり、指導や見習い業務に関して齟齬や問題が発生した際には、互いに意見を出し合いながら進めていく。そう理解するが相違ないですね?』
怒気が眉間だけに残ったままだ
「ん?…ああ、相違ないですね。」
急な話の方向転換に、
一瞬戸惑う…
ああ…当初なんの話をしていたか失念していたと、
アコヤは話を元に戻したのだと気付く。
そういや見習い指導に関してトラウマがあるのか、躊躇していたアコヤに発破をかけたんだ。
すっかり食糧確保とギルドでどんな探索ができるか頭がいっぱいだったわ、
置物と化した間が長すぎて時間軸ずれてたんだった。
そして扉の閉めて音を立てた、
アコヤをからかったことに付随して主人に対して呼び捨てをするなとか
侍従同士でも丁寧な口調をとか…
真っ当な意見をつらつらとするものだから本来の論点を失念していた
『ならこの方向で指導していきます』
そう話は区切りがついた
゛その様に゛
そう一言発したはず
終わったはずが代わりに滑り落ちた言の葉が自身の声が耳に入る
…聞こえる
「あの…留意してほしいことが。
偉そうに講釈をたれた矢先で、格好がつかない上に情けないことですが…言ってもいいですか?」
…
『まだなにかあるのですか?』
眉間の皺の代わりに、怪訝そうに細めた目と潜められた眉
自然と視線が落ちていく。
ペルシャ絨毯の綺麗な紋様がぐるぐるとした思考と相まって現実との境がぼやけていく
喉につかえる
ただ、喉を押し上げて空気を震わせることが意識的に行う程難しくなってゆく
「ソツナク…そつなくこなせない。飲み込みが、悪い」
「…」
「不出来だ。皆が普通に理解して会得できる事が何倍もの時間を費やさないと出来ない。回り道をしてやっと会得したとしても出来が違う。更に時間を費やして費やして費やして…それでも平均値に達するのもままならない」
「…それがどうしました?」
「俺には…普通がとても難しい。
そんな場合でも、そんな相手の指導に…貴方は忍耐がもちますか?」
一方的に投げつけた言葉
言い終えてアコヤの乳白色の目を見やれば…
『…貴方が貴方を見捨てない限りは』
静かにたたえた力のある視線と温度のある返答
…
内まで見透かされそうで溶けそうで目を閉じる
人が人を責めるような時は、
己を守るためだ。
先程アコヤが俺にしたように…
同時に俺も俺を…
「…感謝します」
纏めきれない感情と言葉で伝わったか分からない
それでも生まれて初めて、誰にも明かさなかった劣等感と焦り
自身の許容範囲を越えた事象の連続と疲れからか、ついに口から出てしまった
…ずっと張っていた気が言葉と共に出ていった気がする
「あの、兄上と殿下だけには…」
ぐうぅうう…
「…」
『…』
「……アコヤさんからは報告せずに内密に、
ぐううぅ…
…願えますか?」
話している時に…間が悪い
そして吹き出したアコヤの視線に居心地も悪くなっていく
それでも
盛大に鳴った胃に、
鳴り響く音は止まることを知らず…空気を読めと力を入れてとめようとするも鳴り止まらない
『…さあ、如何しますかねえ…先程の事もありますしね?』
にやりと黒く笑いながら未だ鳴り止まない腹を凝視される
「…」
先程の空気は何処へやら
別人に成り代わったアコヤを睨み、腹を手で押さえつけながら見返せば
『ああ、そういえばすっかりこんな時間ですね。相当耐えかねているようですし…大人しくお待ちくださいね?』
白々しい…
更に深くなった笑みと含みのある敬語口調で
こちらのことなど相手にもせず、扉から出ていった




