殺陣8
しごかれた…
"マシになったな、昨日の今日で復習してきたのか"
その言葉の後
更に要求されるレベルが引き上げられる…
もしかしなくても、
履修終了までこの繰り返しか…
何処まで今の実力、限界ギリギリを求められたか分からない
これが…
少なくとも一年近く続く
耐えられるのか?
堪えられるのか…
そんなことを思いながら
漸く着いた寮
疲れた…
自室に入るなり椅子に座り、腕を後ろにだらりと下げる
他の選択講義も厳しくなっている…
遠征の講義で剣術
生活魔方陣では魔力鍛練
…サバイバル術と保存食は実戦というより…
生活面で切実に迫られていて、活用出来る情報の会得に必死だ
技術変遷…これだけが今のところまだマシだ
基礎講義の予習復習に加えて
侍従の勉強
…
目の前の風呂敷が目に入る
とりあえず、行水ついでに給湯室で洗ったままだ
…処理しなければ
感覚を忘れないうちに…練習もかねてやるか
溜め息をつく…
描き溜めていた魔方陣の紙を引き出しから出し、
魔力を細く凝縮しながら熊笹を乾燥、粉砕する
大量に摘んできた…
粉になってもこの量ではやはり棗には入らない
空瓶に全て入れていく
お次は…蒲公英
サバイバルナイフで花と葉、根に分けて…
花と根をそのまま乾燥
根は乾熱させて粉砕して…
香ばしい、焙煎した香りがするまで魔力を注ぎ続ける
…
これも空き瓶に纏めていれて…と
さて、問題の葉は…
摘まみ、食む
…食べれなくはない
何か肉料理のソースにでも付ければ旨いかもしれないな…
実現はしないが
本で見た通り…食用可能ではある
たまに困ったときはこれで凌いでも良いな…
勿論一品としてだ
そうでなければ主食がないだの栄養価だの言われかねない
買い物…明日にでもしよう
乾燥野菜のストックもトウモロコシ粉も…ビショップに提供して一欠片もない
明日の講義は座学だけだったはず…
魔力的にも体力的にも、余裕があるはずだ
そうと決まれば、予備で予習をしておこう…
明日の買い物時間分はしておかなければ
瓶を二つとも手に取って、
勿論肩掛けも携えて…使用人部屋へと向かった
…
使用人部屋
あれから四時間余り…か、
集中力が切れ、
本から目を上げて時計を見ればかなり時間は経っていた
だが、
約束の時間まではまだ時間がある。
一息つこう…
そろそろ前期テストも近い
軽くではあるが…
疲れた中で、
座学の総復習がここまで出来たのは自身でも褒めてやりたい
明日の講義分の教本だけバックに入れ、
机の上を軽く片付ける
先程持ってきた瓶
手繰り寄せ、その蓋を少しずらせば鼻腔を擽る香り…
これは紛れもなく焙煎したコーヒー豆そのもの
蓋を閉め直し、軽い足取りで給湯室へと向かう
濾すものなどない
…
シェラカップで沸かしたお湯に直接、
瓶から目分量の蒲公英の根を入れる
摩耗した…
知恵熱か…少しぼうっとした頭も疲労があった体も
一口、
また一口含めば消し飛んでいく
美味い…
確かに本物のそれには及ばない
だが、好きなように飲めるコーヒーに勝るものはない
給湯室に立ち込める香り
日々の喧騒も緊張も…忘れ解れていく
…
さてと…
空になったシェラカップを洗い、
予め熊笹茶の粉を入れてきた水筒に水を注ぐ
振れば出来上がりだ
…多分、この後何かしら喉が渇くことになるだろうことは自明
あの二人が悪巧みしたんだ、無事では済まない。
ならば…せめて水分を持っていこうと用意したんだ
普段好き好まない
布団でゴロゴロしていた方が好きなのを…
あの悪友二人は良く知っている
何をさせる気だろうと、思えば溜め息が漏れる
慣れてきた筈の姿勢が崩れたらしい、
ぐらついた頭に乗せた本を落とさないように
気を付けながらも部屋に戻る
そういえば帰ってきてからずっと制服のままだった…
着替えは…
午前と同じ服装で良いか
洗濯して置いて本当に良かった
そう思いながら
頭の上から本を取り、
服に袖を通し、仕上げに返して貰った平紐で髪を結わえ直す
…身支度を簡単に済ませると良い頃合いだ。
水筒だけを持ち
一階の自室へと降りていった




