殺陣7
「遅い」
「…悪かったって」
オニキスの部屋に入れば
既に二人とも食べ始めようかというところだった
それでも待ってはくれていたのだろう…
「とりあえず座って食え」
「…分かった、馳走になる」
ぶっきらぼう…
座るなり、オニキスが食べ始める
ラピスも手にフォークとナイフを持ち食べ始める
部屋での食事…つまりはオニキスの奢りだ
金欠の上、
侍従も連れていない俺はこんなこと出来ないが…
ラピスにしろ奢られてばかりいる
…何かで返さないとな
さて…メニューは
目の前の皿に乗るのは…ニョッキか
急に忘れていた空腹が襲ってくる
その欲のままフォークを手に取り一つ突き刺す
ナイフでソースを乗せて口に運べば…
…旨いな
パスタなんて久々だ
バジルの香りも色合いも鮮やかで心が踊る
美味しいものは正義だ…
「まあ、そう怒らないでよ」
「ラピスだって怒ってただろ…何言ってるんだ?」
「夜の四時間…」
「ああ…そう言うことか」
「それでさ…」
「…ああ…で?」
「…」
暫く食べ進めていると
静寂を破り、ラピスが放った言葉
なんだ…?
顔を上げれば、
…なるほどな
何かを思い付いたとばかりに二人でニヤリと笑いながら耳打ちし合う
…
…
「夜が楽しみだねー」
「ああ」
「勿論、拒否権はオリゼにないよ?」
「…はぁ…オニキスに対してはあるだろ」
此方を見て言い放つラピス
…
確かにラピスに対しては、ない。
だが、オニキスへの拒否権は残っているはずだ…
フォークを置き、ビショップが注いでくれたコーヒーを飲みながら答える
「…ないって分かってるでしょ?僕が許可すれば言いだけの話、ね?オニキス」
「そうだな」
「ったく…煮るなり焼くなりすれば良い」
随分と長い間二人でこそこそとしていたが…
まあ、俺にとって録でもないことに間違いはない
諦めが肝心だ
午前の時間を
半分ほど無下にしたのだから…まあ仕方ない
飲み終わったカップを置き、
背もたれに髪を広がせてずるりとだらしない座り方をする
…後30分後に出れば間に合うな
髪が散らばるのも構わずに頭だけ向けて時計を見た
「はい…オリゼ」
「…あ?」
満腹感と、普段しない運動
それが相まって軽く眠気が襲ってきていた所
うたた寝から起こされ…薄く目を開けて、ラピスを見る
「とりあえず平紐は返すよ」
「まだ約束の時じゃないだろ…ラピス」
「結わえるもの…やっぱりないじゃない。こんなことだろうと思ったんだよね…」
「だからといって…」
机の上に置かれた
そして此方に進めてくるそれを見ながらも、
…動こうとは思わなかった
「返す前に週末になるよ?
これ、着けてないと殿下に何か言われるんじゃないの?」
「…でも」
「だから、でも…?返して欲しいの?欲しくないの?」
「…返して欲しいに決まってる」
「でしょ?なら受け取って。
そんな姿で外を歩かせるわけにはいかないよ」
「…」
「風紀の世話になるよ?良いの?」
「…良くないな」
苦い記憶が蘇る
下手をしたとき…兄上にやられたことはトラウマに近い
自然と眉間に皺が寄る
…思い出したくない記憶
「…はい、ここに置くね」
「分かった…」
だめ押しの言葉に体を起き上がらせ、
机の上のそれを取る
時間がない…
時計を確認すればもう定刻だ
雑に髪を纏め、立ち上がる
もういかないといけない…
このままだらりとしていたい、そう思う気持ちを抑え
隣の座面に放っていたバックを取って肩に掛ける
「行ってくる…また20時に部屋に行く」
「いや、部屋で待ってて。こっちが行くから」
「…分かった」
何をする気か分からないが…
とりあえずは講義だ
昨日の教授の顔を頭に浮かべ
…溜め息が漏れた




