殺陣5
「で、どうするんだ?」
二人の雑談も落ち着いた頃、ラピスに問いかける
何のこと?と首を傾げる…
その様子に溜め息をつく。
「赦してるんだろ、とっくに」
「隠してたのになあ…何で分かったの?」
「勘、それに分かってなかったらあの場で擁護しない」
「オリゼって…鋭いとこあるよね。
本当、普段はなんにも気づかないのに…どういう脳の回路してるの?」
「おい…」
「俺もそう思うわ…何でだ?」
「オニキスまで失礼だな…」
「で、ラピスは気付いてるのか分からんが…
俺らを寮の入口に先に行かせたのは荷物を置くのが理由だけじゃないだろ?」
「…ちっ」
「んー、変だとは思ったよ?
あの時はオリゼに付いてくのが重要だから、些末だと思ってさ…
ルークになんか言ったの?」
「…些末なんだろ」
「まあね、オリゼが下手なことしないって分かってるから。
だから些末で済ませられるけど…で?」
「昼迄は帰らないから寝ておけって言った」
「…なんでそんなこと言ったの?」
「赦してても、戻ったらけじめはつけるだろ?
俺はもう口出ししないが…あの疲れきった状態じゃもたない。
それと極度の緊張と罰云々を差し引いても…顔色が悪かった、睡眠不足だろ」
「まあね…でも、越権だよ?僕の侍従なのに指示だしてさー」
「昨日分、四時間分でどうだ?」
朝まで延長された、
その延長された時間を帳消しにする。
つまりラピスのために無くなった筈の後2日、ほぼ八時間近くの夜の時間を空けたままにするとそう言ったのだ
お茶やらの使いっぱしりで勝手にルークを使ってきた…
だが、それとこれとは話が違う
解雇する
そこまでの言葉を口にした、大事な局面でだ
主従関係に…それに口出しした事と同義
それも主人の居ない隙に、だ
何かを囁く…
今回は俺だ、探られて痛い腹も無い
だから些末
ただ、同じような状況でその様な情報を知るものが居れば、
別の人間ならばそうはいかない。
何かを囁く…その意味も変わる
弱みや策を練る、
何か思惑をもってルークに近づく輩だっている筈だからだ
「…良いよ、後でルーク本人に確認はするけど…オリゼだからその条件で飲むんだからね?」
「責めるなよ?」
「…この件についてはね、既に罰はオリゼによって払われてるから…ルークには問わないよ」
「…ん?」
嫌な予感がする
その八時間で何かするつもりか?
漸くラピスの仕事が終わったから…ただ残りの約束の時間は談笑で終わるかと思っていたが…
引きつった顔でラピスを見れば…
駄目だな…これは
「オリゼ、馬鹿だな…」
他人事のようにニヤリと笑いながら言ってくるオニキス
まあ、オニキスにとって実害はないか
…だが
「少しは擁護してくれたっていいだろ、オニキス」
恨みがましい目で見れば
「俺の侍従にも何か言っただろ?
聞かない上に不問にしてやってるんだから充分だろ…まだ何か言えるのか?」
どう見ても何の懸念もないのに…
確かにそうだけどさ?
ラピスの状況とは違うが、敵対関係にでもあれば…
主従関係が拳固でない侍従に探りをいれるとか、確かにあるけど
そもそも侍従としてもビショップには関わっているのだ
それ以外にも…
ああ、これのことを言いたいのか?
この前のオニキスがビショップを罰したときに勝手に手出ししてる
その時今のラピスより甘々な対応だったろうが…
勝手に侍従の部屋に出入り、
主人の許可も取り付けず
その侍従に毒かも分からない食事を差し入れ続けた
こうやって確認のため、
甘言でも囁いたのかと聞きもしない…
自室に繋がる侍従の部屋への出入りの自由
暗黙の信頼だと
確かにそれをしたのは友人だ。
それも他家の侍従…でもあるにも関わらずに、だ。
確かに…
情勢に左右されにくい王家の…それも世継ぎ問題ももう起こることは少ないであろう皇太子の侍従見習いであっても
…不問もなにもないだろ
聞く気もない
そして今もそんな雰囲気を微塵にも出していない
そんなんで…今からでもそれを問うって言うのか?
「今更それを言うのか…オニキス
ったく…分かったよ、ラピスの好きにすればいいだろ」
呆れた…溜め息とともに言葉を紡げば
変わらず、ニヤリと笑いながらオニキスに言えば…
「まあな、脅す位のネタにはなるだろ?」
「…オニキス、君もなかなかだよね」
「ラピスには負けるけどな?」
「冗談が上手くないよ?」
本当、胆が座ってる
下手したら自身に振りかかる災にでもなるんだぞ?
それを…からかう材料にすらするのだから…
脅すとか…本当
それレベルの話の筈なのに
あの時持ち出してこなかった
だから甘えた
だが、持ち出されれば最悪殿下まで類が及ぶこと
多分、オニキスと殿下でこの件に関して何らかのやり取りはあっただろう
ビショップにも確認はしたのだろう
"脅す"
その単語で
…漸くそれに今、気づいた…
ただ、俺には何も問わなかったこと
それが信頼だとしても…かなりの物だと言うことに
オニキスに対して笑っているラピスも
言わずがな…
本当、勝てない
そういうところは…
苦笑しながらも二人のそのやり取りを聞いていた




