調整32
「…やっぱりね」
「…ん」
「寝ぼけてるの?起きて、オリゼ」
「!…ぐっ…っ!」
体を揺すられて起きれば
目の前にはラピスの姿
自身の姿を確認して、覚醒する
「動かないで。今外すから…洗いざらい吐いて。
ルークを庇ったりしたら駄目だからね、オリゼ」
不味い…
繕ったところでルークの責が増えるだけなのは分かるが、
寛いで眠っている姿を見ても好印象は残らない
起き上がろうと、
せめて快眠をしていた様を払拭しようともがくも
易く胸に置かれた手で諌められる
ソファーと背の間に腕を差し込んで上半身を起こされる
枕を抜かれたのか、
代わりにラピスがそこに座り…頭を戻される
頭を浮かせようとするも肩を軽く押される
表情を見れば…
勝手は許さないとばかりに目で制される
仕方なく力を抜いて預けた頭
膝枕状態で口枷を外していくラピスを
他人事のように静観していれば漸く外された
外気に触れる口元
数時間ぶりに自由の効く口で部屋の空気を胸一杯に吸い込んだ
「……ラピス」
「なーに?」
「心配させて悪かった…身に染みた」
「そう、なら許すよ」
「…なら」
「でも未だ全部は外さないよ?
事情聴取が終わってない。庇いだてするのは分かってる、ここで解いたら言わないでしょう?」
「…確かに言わないが」
「やっぱりね…それはそうと、手枷の具合はどう?」
「ちっ……一ミリ足りとも遊びはない、痛みもない…上出来なんじゃないか?」
「ならよかった、仕事はこれで終わったかな
足枷も口枷もずれてないし、見たところ擦れたり過度な圧迫もなさそうだ」
「…待て、手枷だけだろう?」
「冗談、今後の事を考えるなら少しでも媚売っといた方が賢い。それと、手枷だけで大人しくなる玉じゃないでしょう?
勿論、これ全部セットで献上するつもりで用意したんだ」
「…必要ない」
「なら、ルークが昨日なにしたか言って」
「知らない」
「…だから足りないって言ってるじゃない
もっと増やしても良いかな…」
弄ぶように腕の拘束をなぞる手に鳥肌が立つ
…実際にやりそうで怖い
多分、昨日俺を放置して寝たのも
この拘束が未だ甘い方だからだ
危険ならば、決して目を離したりはしない
「…勘弁してくれ」
珍しく…直ぐに白旗を上げれば
何が楽しいのか笑うラピスに目を閉じる
これ以上になれば確実に醜態を晒す
自我を保って、自制も効く様に…
そのギリギリを見極めてこれらを施すラピスの手腕は流石だろうが…褒めたくはない
「まあ、本人から聞けば良いだけの話。
そもそも情状酌量の余地はない、俺が折角考えがあってラースを表に出してたのにそれを無理矢理戻させたルークが悪いし」
「…なにを…言ってるんだ?」
「あのルークが理由なしにオリゼに情を掛ける訳ないでしょう?仕事の流儀を折って、俺に逆らってまで
オリゼに俺を戻せって頼んだってことも想像するのは簡単だよ」
「…ラッセが俺にしたことは計画内、折り込み済みだったなら何故泣いた」
「んー?嘘ではないよ、演技が大半だけど…
それと別人格の自己認識も、切り替わりもある程度管理できるから安心して?」
「てめえ…」
「そうでもしないと心配掛けられる側の痛みなんて分かってくれないでしょ?お陰で身に染みたんじゃないの?」
「…騙しやがって」
さらりと言われた真実
どれだけ俺らが心配したと思ってるんだ
…
ギリっと歯を軋ませても
にこにことした表情は変わらない
「…で、反省した?」
「ちっ……離せ、したからもういいだ、うぐっ…」
「ん?聞こえなかった、何て言ったの?」
飄々と戯言を言う
…頭に来て言い返せば
首を押さえ込まれ、
辛うじて呼吸ができる程度に気道を絞められる
体を捩り、逃れようとしても
拘束された枷の上から、自覚を促すように
自由の効かない体であることを再認識させる為だろう
緩みもしないそれを無駄に確認する手先が…
身体中を這うようだ
「げほっ…っ」
「…それで?」
「…けほっ…反省、している」
呼吸が戻ったことを確認して再度問われる
…仕方なく答えれば、
満足そうに頷いて軽く置かれた首元の手を引いていく
「で、何時までそこで立っているの?ルーク」
やっと終わったか
そう、安堵しかけたのも束の間
戦慄が全身を走った




