調整28
「ん?」
「…俺に…着けてくれないか」
「なにを?」
「ぐっ…口枷を…着けて欲しい」
「足りない」
万年筆を置き、紙面から漸く目を離す…
続く言葉を待つように、それを手に取り扱うラピス
「…購わせてくれ、お前を心配させたこと。
省みなかったこと…だから…お前の手で反省させてくれ
…っ…頼む」
軽く下げた頭
「良いねえ…可愛いよ、オリゼ」
「…」
「これはね…僕が試験的に作ったものなんだ
昨日の着用感を見て手を加えた…より効果的になるようにね」
「」
昨日とは違う
被されたそれ。
手際良く…それでいてゆっくりと着けられていく
その圧迫感、
じわりじわりと真綿で首を絞めるように追い詰める手法
対象が俺でなければ…
仕事の手腕が良いと、そう褒めても良いものだろう
「ん"…ふっ…」
「動かない。オリゼが望んだことでしょう?
なんで抵抗するのかな…ね?」
首を軽く触られ、
思わず身動ぎすればすぐに制止される
…
執拗に時間をかけて首のベルトを締める
その手は丁寧ながら動きを制限するもの…
酷いもんだ、
緩みを確認する指が引いて…
最後であろう金具が鳴る音がカチリとやけに耳についた
「さて、終わったよ…
あれ?もしかしてオリゼ…被虐的になってるの?
目が溶けてる…拘束感に酔った…いや、倒錯したのかな」
俺の心情を知ってか知らずか、上げさせられた顔を覗き込むように見てくる
…
物理的にも心理的にも答えられもしない
それが分かった上での質問
目を背ければ、
本当反抗的だなあとボソリと呟かれる
窺えば…気に触った様子はない
その口元は弧を描くように満足げだ
なんだって言うんだ…
俺がそんなに折れたのが嬉しいのか
こちとら疲労困憊だ
耐えきれず、目の前のソファーに顔を埋めるように倒れ込んだ
…
意外にもそれを咎める事はされなかった
「失礼します」
「ルーク、ありがとう」
暫くして…
間が良いのか良くないのか、ルークの入ってくる音
自意識過剰か
…視線が背中に刺さる気がする
「…スモークサーモンのパテとカナッペ、紅茶をご用意致しました」
「うん、良いね。暫く書類の続きやるから、構わずに退出してて良いよ」
「畏まりました」
紅茶の良い香りが立ち込める
その匂いを深く吸い込む
俺に構わず、
万年筆の紙を引っ掻く音が続く
時折途切れ
クラッカーを咀嚼する音と紅茶を注ぎ足す水音
心地良い生活音に耳をやっていると
微睡んでくる
…このまま寝てしまえば良い
…
「!…ぐっ…ぅ…」
「オリゼ、なに気をやってるの?
…もしかして反省もせずに寝ようとしてた?乗馬鞭でも用意すべきだったかな…ね、オリゼ?
ま、拷問じゃないし…匙加減としては、この辺で丁度良いと思っていたけど足りなかった?」
背中を叩かれる感覚に意識が覚醒する
それを宥めるように撫でる手に一度力を抜くも…
びくりと反射的に動く体
首のベルトに指を引っ掻けて後ろへと引っ張られる
…
殆ど緩みのないそれに
指一本分が差し込まれれば…
当然喉仏に食い込み、締め付けられる
呼吸が浅くなる
抵抗らしい抵抗も出来ない
体を引こうとしても、動きはしなかった




