調整26
「誰が出すか、どうせ昨日と同じ物だろ」
「…昨日された程度、なんでもないって言うの…
ふうん…もしかしてラッセを見て推測した?僕が仕事してる時ラッセになってると」
「…違うのか?」
「ラッセにさせるときもあるけど…基本は俺だよ?
折角友人のよしみで手心加えてあげようかと思ったんだけど…」
そこで不自然に言葉を切った
けど…なんだ?
言葉を継がず、
此方に顔を近付けてくるラピスから視線が外せない
そんな気遣いは…要らなかった?
言っておくけど血を過度に見るような外傷は負わせない…苦手だからね。
でも…安心して
家業を遂行する位の技量はちゃんと身に付けてるから
心配してくれなくても大丈夫
精神をズタズタにする手法は得意だ…
オリゼにとっては
俺の方が苦手なんじゃないかな?
今、折れておかないと…酷いからね?
それでも良いの?
背筋が凍るような事をさらりと耳元で囁く
一瞬、恐怖に流されかけた
その時、教授に言われた注意事項が頭のなかに再生される
感情的になりすぎるな
理性を取り戻せ
筋肉を硬直させるな…
深く深呼吸しろ
「…良いわけ、無いだろ!」
首に腕をかけ、一気に体制を崩し
床に落としこむ
その隙に…
腕をねじりあげるように持ちながら
うつ伏せにさせた
見事、成功したか
そう思った
しなるように腕が引かれ、
その勢いのまま床に転がり落ちる
激痛が走る腕
痛みに気をやっているうちに…
腕を庇っていれば
目の前に足が…見えた
「オーリーゼ?俺は忠告したよ?
それを…良くも無下にしてくれたね」
「なに…っ…」
やばい…早く起き上がらなくてはと思う間もなく
足が振られるのが…
回避しようとするも
間に合わない
足蹴…転がされ、仰向けにされる
身をよじる間もなく、
躊躇なしに降ってきた足に胸を踏まれた
「…いっ…てえ」
「俺、本気で怒ったからね」
…あれは何時だったか
いつも穏やかな筈の雰囲気が消し飛んだ
あの激昂したときに似ている
ラピスと歩いていたとき、
オニキスの悪口が聞こえてきた。
普段なら顔をしかめる程度、
俺が怒れば抑え役に回る筈のラピスが…
あれは怖かったな
友人側で良かったと心底思ったものだった
それが…
それに似た圧力が己に向けられている
足を手で掴み、浮かそうとする
外そうとするも…重心を傾け体重をじわじわとかけてくる
「ぐ…ぅっ…悪、かった」
「そう…なら上着脱いで」
薄い酸素…
力なく落ちた手
外されないと思っていた重しが、足が退けられる
ふらつきながらも体を起こし、
上着を脱ぎソファーに投げ捨てる…
「…これで良いか?」
「上出来…そのまま動かないでいてね」
「分かった…」
何をするかと思えば…
…
ずっと手に持ったままだったのか…
屈んだと思えば、手枷を片方ずつ嵌めてくる
黒いシャツに、スラックス
昨日とは違って洋装…
その選択が、俺にとっては良くなかったようだ
上腕、腕…そして胴体に巻かれたベルト
各々緩みなく繋がれる
終いには、
腰にしていたベルトと手枷、左右体の側面に沿うように環で連結された
終わりだ
そう思った…が
各々きちんと繋がっているか確認した後、
ラピスの手は…テーブルの上に向かう
「足、揃えて」
「…まだ足りないのか?」
「オリゼ?」
「…分かった、揃えれば良いんだろ…」
足首を揃えれば
昨日とやはり同じ物だった
同様に履かされ、固定されていく
これで終わりだ
流石に…
そう思うも、テーブルに再び伸びていくラピスの手に
血の気が引いていく
ガチガチに拘束する気だ…
「…正座して」
鎖を片手に…そう言い放たれたのだ




