調整24
…
「…ラッセ、戻ってこい」
何時までも呆然として固まったままのラッセ
大丈夫かと…
手を持ち上げ、目の前に翳し振る
「…っ」
「…大丈夫か?」
目の焦点が此方に戻ってくる
が、様子がおかしい
…
先程までの威勢も、圧もない
毒気が抜けきってこれじゃあ…まるで…
ポタリ
頬に冷たいものが当たる
手をやって触れれば…濡れる感覚
パタ
パタパタ…
その指を…何か確認する事なく降るように次々と雨が
いや、涙が頬を穿ってくる
「…泣くな、ラピス」
「うっ…なん…で」
膝から崩れ落ちるのではないか、
そんな不安定に揺れる体
糸が切れたら終わるな…
行儀は…まあどうでも良いか
体の方向をかえ、肘置きを枕がわりに頭を預ける
靴のまま足をあげソファーに文字どおり横になった
「来い…垂れかかって良いから力抜け」
腰に腕を回し、此方に引き寄せる様に倒す
殆ど力なく倒れてくる体を
そのまま自身の体を緩衝材の代わりにした
衝撃で肺の空気が抜ける
ぐっと思わず声が出たのを聞いたのか、体を浮かそうとする
その動きを腕で押さえ込み、
足をかけて固定した
「…離して」
「嫌だね、お前が落ち着くまでは離さない」
「離し…て…」
「駄目だ、力抜け」
「…合わせる顔…ない」
「それを判断するのは俺だ、良いから無駄な体の力を抜け。
離す気はないって言ってるだろ?」
身動ぎする…
逃れようとするラピスに言葉を重ねていく
制していく
暫く
漸く力を抜いて動かなくなったラピス
嗚咽が…
胸に埋もれさせた声はくぐもって聞こえてくる
足はそのままに
手を頭にやる…ゆっくりと
ゆっくりと安心させるように綺麗な碧色の髪を撫でる
「…資格…ない」
「資格?」
「酷いこと、した」
「あの程度気にしてない」
「でも…あんなこと…するなんて」
「くくっ…確かにな、あれは倒錯するほど屈辱的だった」
思わず手を止めて笑ってしまう
そりゃあ手をあれだけ羞恥にまみれる経験はしたことがない
格好などつけられるはずもなかった
過呼吸になりかける程、余裕も刈り取られた
無様そのものを晒し尽くした
「…ご、ごめ…もうしない、出さない…絶対。
そんなつもりは…なかったんたよ…だから、だから…」
「そんなもんどうでも良い、例え昨日と同じ事をされると分かっていても俺はここに来た。
…ラッセの事だって嫌いじゃない。また出てきても周りがどう言おうともその程度でラピスを見限りはしない、そもそもあれだってお前だろ?」
「…僕は…あんなに残忍じゃ…」
「別人として肩代わりさせてるのか…まあ、まだ認められないならそれでも良いが…それとな、友人をやめるなんて言うなよ?」
「…オリ…ゼ」
「この前のお前の気持ちが良くわかるよ…そして今のお前の気持ちもな」
「でも…」
「辞めるつもりは毛頭ない。ラピス…
もうお前の悪友の立場から、俺は退くつもりはない」
「いい…の?ラース酷いこと、またするかもしれないのに」
「構わない」
「…本当に、本当にいいの?」
「どんなお前でも…例えラピスがラッセを己だと認めなくても、俺はお前の友人になれたことを自慢に思うよ」
暫くの無言
ふふふ…
ふふっ
胸に振動が伝わる
なんだ?壊れたか?
乗せていた足を退かし、
所在なさげに
ラピスの頭にやっていた手を泳がせ困惑していると…
「ぐっ…っ」
突如、俺の胸に手を。
それを支えに…がばりと起き上がるラピス
馬乗りになったその表情は…
腫れ上がった目、
その印象も飛ばすような…晴れ渡った笑みが浮かんでいた




