表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/300

調整23




さて、疲れも少しはましになった

だが無理をすれば…明日まで疲れはとれないだろう

伸びをしながら時計を確認する


選択講義は長く感じたが、

まだ16時過ぎ…

基礎の予習も足りていなかった…まとめてしっかりと予習をしておこう


週末、殿下に教える際…

またあんな思いをするのは、

授業に追い付けなくなるのも避けたい


そんな事を考え、重い風呂敷を開く。

借り直してきた本と…

肩掛けから基礎講義の教本を取り出して、

ひたすらに没頭した





ふぅ…

こんなものかと大方の予習復習を終え、ガラスペンを置いた


コキ…

先程緩めた筈の凝りが…

長時間、同じ姿勢でいたせいか




頭に手をかけて首を横に伸ばす

ひきつる筋

その痛みに耐えながらも何度も繰り返せば

…じわりと温かく血の巡りが良くなっていく


肩を掌で揉むように擦る

骨と皮膚に張り付いた筋肉を剥がしていく

じわり


じわりと全体が温まっていく

頭皮まで来ている凝りも、指の腹と節を使って…


頃合いか…

首を回す


ゴキゴキとなる骨の音


鳴るだけまだ軽い

鳴らなくなればもう自身でマッサージして収まる程度を越える

今の段階で解消しておかなければ…

更に入念に首と、

肩甲骨を意識して回せば肩も緩みましになった




多少気だるげではあるが

これで支障は出ないだろう…

手短に机の上を片付けてから立ち上がる


給湯室に寄って手酌で水を飲み、

ラピス…ラッセの部屋に気の進まない足を向けた






問題は…また凝らないか、だな

ラピスならともかくラッセが確実に解放後、

…マッサージしてくれるとは限らない


扉の前にたどり着いてしまった

懐中時計をポケットから取り出して確認するも、

時刻は20時10分…


仕方なしに扉をノックした…





「ああ、来たのか」


「ええ、お約束ですから…」


「…まあいい、そこに座って。準備するから」


ルークによって開かれた扉

遠慮なく…いや、遠慮はしたいが通り中には入れば

何か作業をしている最中のようだ

机に向かっていたラッセが振り向き、指し示された昨日と同じ場所




そこに座るも…

こちらにくる気配はない


この部屋から続く隣の書斎…

机に座ったまま熱心にこなしている、その背中を何をすることもなく眺めていた




ルークと何か喋っている

耳元に顔を近づけ受け答えするその様子


家業の手伝いか?

壁と化した本棚にはぎっしりと専門書や人体構造や医学書が並んでいる…


オニキス同様、こいつも何だかんだ嫡男してるよな…

それも…ラッセの状態でもするのかと

呆れを通り越して感嘆する





しかし…眠い



自室にも使用人部屋にも革張りのソファー等ない

ただ木製の椅子があるだけ


何故か豪華になった自室のベット…

…改め二人の寛ぐ場所は別にしてだ。

俺がそこを利用しても文句は言わないだろうが、使っていない


…それに暇がない


その暇があるなら、買い物やら野草採取でも

…唯一出来ていない剣術の復習でも…やることはいっぱい

節約も限界があるな…


食費分位、やはり稼ぎたい…

未だ来ない二通の返信

実家は…置いておいて、陛下への弁明をかねたラクーア卿の返信は重要

明日の朝にでも売店で確認してみるか…






ふわぁ…

欠伸しながら、腕を組む

…家業かなんか知らんが終わりそうにもなさそうだ

目くらい閉じてたって良いだろう


そう…

寝ていたって、勝手にやるだろう

気にくわなければ起こすだろう…


この待ち時間を有効に使いたい…

足りない睡眠を補いたい

疲労を少しでも回復させたい




そしてなにより…

それに適した様にソファーの座り心地がいいのが悪いんだ


姿勢を崩し、背もたれに深く体を預ける




微睡み、

眠りに落ちるのは直ぐだった…








…ん?




「…起きたか?」



「んん…ラ、ピス、なん…でここにいるんだ?」

うっすらと開けた瞼

状況が把握できないままに答える



「…寝ぼけているのか、それと俺はラースだ」

怒気混じりの声と魔力に少しずつ記憶が戻ってくる

…そうか



「…あ…あぁ、ラッセか」


眠気覚ましのせいか、此方に真っ直ぐ当ててくる魔力

お陰で頭も覚醒した様だ…


そう言えば、待つ間に寝たんだった

ぐっすりと良く寝れた…

怠さも疲労もない


最近は惰眠も昼寝も…ぐだぐだもできていなかったせいか

効果は抜群

寝れ…



「ちっ、俺の目の前で…こんな無防備な姿を晒す奴など見たことがない」



「無防備?」

はて?

自身を見てみるも特に変わった所もない


若干…いやほとんど滑り落ちた体勢だが

座って待っていただけだ

少々目も瞑っていたくらいで…


別に…友人

まあ別人格だが、もう気にするだけ疲れるしと寛いでいただけなんだが…




「怖くないのか?」


「ラピスの一部でしょ?ならもう良いかなって、危害が加えれたところで恨みはしないし?

…まあ、怖くないと言えば嘘だけど…そこは怒った"ラピス"でも同じようなもの、かな…と」


「…別人格って意味分かってるのか?」


次第に増していく圧力

目も鋭くなっていく様子に体を直すこともしない

半場寝転んだ体勢のまま

仰ぎ見る形…まあただ上を見てるだけだが


ひりつく空気



それでも、もう別に構わないと決めた

そう決めた


愚かだろうと、それでいい




「さあ…でも少なくともこの一週間は保証されている。簪と平紐を返してもらう迄は命くらいある筈だ。

…それに多分怒っても過度なことは殿下に顔を売るためにしないだろうから、少なくとも"ラピス"のために抑えるだろ?」



「そんなゆるゆるな前提と仮定と想像…俺が本性を発揮しない保証など何処にもない。

良くも安心出来たものだな」


揶揄、馬鹿にしているのは分かるが…

そして怖いことは怖い

殺気に似た魔力が上から降り積もってくるように


重い。



ただ…

何故か手も下さない

昨日のようにルークに指示も出さない

これ見よがしに得たいの知れない物体をちらつかせも、俺に使おうともしない


…上から見下ろしているだけだ






「…はぁ…ならなんでそんな風に威圧する?

必要ない、やりたければやればいい。やらないから脅してるんだろ?」




「…言わせておけばゴタゴタ抜かしやが「それと、"もう良いかなって"言ったよね。疲れるんだよ…気を張るのも邪推するのも。別人格だろうとなんだろうと友人でいい事にしたんだ」」



「な!?」


豆鉄砲とはこの事か

鳩ほど可愛いとは良い難い…

フリーズしたラッセ


ぶわりと暴発した魔力は跡形もなく霧散した

隙だらけ、これこそ無防備そのものではないか…


苦笑しながらも…

まじまじとその様子を見る

こう見てみると…愛嬌すら感じられるが…

寧ろ凶悪とでも表現した方が本来、的確な人格だったのだろう


ただ、

他人格が融合したことで"ラピス(主人格)"に近い所も多い


自制も効く



あんなに怯えていた筈のルークが会話の際の行動

耳元で囁く、

つまり顔を自然に近付けられるくらいには安心できるなにかがある


やはり…

恐怖感、威圧感はあるが実害は無さそうだ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ