調整21
言われるがまま、魔力を注ぐ
なんの問題もなく発動した魔方陣
小さな火が目の前に…表れた
「…教授」
「やはりな…
注いだ魔力量に対して、効果が小さすぎる」
「効率的でないことは…自覚しています
魔方陣の仕組み、言語理解と…練習が足りていません」
「そうやな…自覚なく努力しないやつも嫌いだが…
自覚した上で手を抜く輩には、俺は無駄な時間を割くつもりはない。講義と言えど教える気はない」
「…」
「向上心も、努力もないやつだと思っていた。
魔力量にも恵まれているのに、卑屈になって投げ出していると評判だった」
「私は…教授の嫌いな種類の人間ですね
それと、魔力量は並以下です。恵まれてなどいません」
講義をしてもらえなくなるリスクも承知
証拠は目の前の小さい火
言い訳したところで…
どうにもならないことは明白だからだ
周りから考えれば、
貴族子息としては多いとは言えない魔力量なのだろうと…
兄上はD+
マルコは…D+++の最高ランクだ
生活魔方陣ならば俺のE-でも、ほぼ事足りる筈だ
そう何処かで舐めて諦めていたことが…
伝わったのかもしれない、
不快に感じたのかもしれない
基礎講義の内容もままならない
そんな状態で選択講義など受ける資格はない
…そう言いたいのだろう
「その勲章もコネと他人の功績を奪ったもの
実際は発動すら覚束ないと、正直考えていた」
「不正だと…仰りたいのですか
陛下を欺いたと、侮ったとそう解釈も出来る発言ですね」
「殺気を御前で放った貴様には負けるわ…
それに裏はない、深読みしても何も後ろめたい思念は出てこない」
そう言いながら、失笑
…俺が注ぐ魔方陣の隣の余白に
同じものを描いていく
描き終えた陣に、教授が魔力を注ぐ
驚くほど少ない…
圧も感じないほどの細い供給線
それでいて、
色がつくほどに濃度と質の高いそれ
目の前で、
陣に浮かぶ火は…
俺の何倍も大きい
火と言うより炎だ
強い火力、火花を散らすほどの立派な物だ
さぞかし恵まれているのだろう
教授になれるぼどだ
俺より魔力量も多いはず…
感心する一方、嫉妬で胸が焼けるような感覚に陥る
「勘違いしているようだが、俺の魔力量はF+++
…貴様に比べて3ランクも劣る。それで?魔力量を言い訳に努力しないことを正当化するのか?」
「…いえ」
「上限に限りはある。確かにランクだ才能だで、それに差は生じるだろう。
で?その壁にもぶち当たることを怯んで、投げ出す。
努力すれば出来ると言い訳を用意して…己を守って非行に走るか?」
「…っ」
「どうだ?図星やろうが…
ん?悔しかったら何か言い返してみろ、聞いてやる」
「だっ……いえ、反論も異論もありません」
つい…口についた"だって"
教授の目を見てハッとする
駄目だ
それは最大限、己の力量を理解してからだ
限界を知るまで…足掻き、血と汗を流してから言うものだ
それすらしない内に
己の至れなかった境地に対する惜別も
嫉妬も
…惜敗も口にする資格などない
資格など、ない。
それが分かってしまった
教授の言葉の真意が…理解、出来てしまった
火の粉がはぜるような音
それについ、視線をやってしまう
比べることをしたくない…
しかし、強制的に視界に入る己の小さい火種
悔しい
悔しい
魔力量の評価に腐り、努力しなかった自己が恥ずかしい
それを埋める努力も捨てた弱い心が恨めしい
そして、才能の限界など
見えも、見ようともしなかった今までの行動
駄目だ
ありとあらゆる手段、知識、方法
調べも、試しもしてこなかった"今"の俺が…何を言っても許されはしない
言ったら…
教授を愚弄することになる
さぞかし恵まれているのだろう…なんて一瞬でも思った俺を恥じる
その裏打ちされた過程
それを尊敬すれど、揶揄する気持ちなど微塵も起こりはしない
魔力量が豊富ならば…
技量も努力も要らずに、すぐこの大きさを発現されられる者も居るだろう
でも…
ギリッ…
"自信と誇り"
それを体現するように揺らめく炎
似て非なるものだ
容易に会得できるそれとは…
大きさのことではない
俺の火とは大きく違うそれをまぶたの裏に焼き付ける
強く、
強く閉じた目
歯を食いしばって、意思の込めた視線
見開き、返した
「よく飲み込んだな、合格点や。
せやな…今日から"ちゃんとした"講義をしてやるからきっちり付いてこい
くれぐれも…見直した我を失望させるなよ、な?」
「…心に留め置きます」
軽い口調で返されたそれは、
普通に言われるよりも何倍も…
何倍もずっしりと重みのある言霊に
…のしかって感じられた




