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…目隠しをされて

それから何か手出しをしてくることもなく放置される

ラッセの気配が消えたわけではない、

だから気を抜くことも出来ず…無駄な身動ぎもせずにいるしかなかった。


体感では何時間も経ったように思えた、

その時…立ち上がる、

衣擦れの音と近付いてくる足音が聞こえる




「さて、頃合いかな…口枷、外して欲しい?」

「ふっ…ぐ」


外せ

そう言った…勿論

くぐもって意味のある言葉にならなかった


必死に頭を上下に振れば

その頭に触れる感覚がした

察してくれた様だ…



「ぐったりしてるね…

良いよ、良いよ…普段の生意気な雰囲気が影もない。

…で、そろそろ…話す気になったでしょう?」


「ぐっ…何…を、話せ…と」


目隠しと口枷

順に外されるままに従えば、外された視界にご満悦の顔が広がる

そんなに人様を拘束して楽しいか…

いや、俺を支配下に置くことが楽しいのか?


「手枷の加減」


「はぁ…充分に効果はあるのはわかったろう」


呆れた顔をすれば勘に触ったのだろう

口調を強めるラッセにぞんざいに答える


背後の時計を見れば三時間余り…どれだけ鬼畜なんだこいつは?

長時間耐えた俺も俺だが、

仮にも友人だろうが…別人格の、ではあるが





「それはそうだよ、何せ俺の渾身の作品だもの」

「…親指の若干の遊び、手首回りの緩み

それと連結部分…引っ張れば手首周りが緩む。歪んで抜けやすくなるぞ」


鼻を折ってやろう

そんな気持ちが無いわけではない

自慢げに言うから、つい口から出てしまった…



大男ならば、力があれば抜け出すことも可能

そこまでの力は俺にはない


ただ、無理に力を込めはしなかった

こいつのため、そして手枷の出来上がりが遅れることのないようにだ

それがなければ、使用に支障が出る程には壊せただろう

その意思の選択まで見越して委ねたならば…

性格が悪いにもほどがある





「素直に教えてくれて…おまけに壊さないでくれてありがとう?

お陰で作り直す手間が省けるよ」


「ちっ…」


嫌みたらしく言われた言葉

これに欠陥があること、未完成であることはわかっていたらしい

その上で、

やはり…俺に言わせるためだったかと

そして性格は悪かった…やはり手の内だったか



例えそれが最善の選択肢であっても

選ばされたようで


…気にくわない


屈したようで癪に触る

簪と平紐…その価値が分かっているのだろう

口を噛めば


手枷の具合を確かめるように触る手を止め、

楽しそうに俺を見てくる

…本当、良い性格してるよ、お前

流石、ラピス…ラッセなだけあるよ


そうこう考えれば

構わずに何やら…手枷を見て思案している…

何度も緩みや強度を確認しているのか、まだ外してはくれなさそうだ



力も抜いて…

人形のように立ったままのルークを観察しながら

…何も言わず

ラッセの好きにさせていれば時間制限まで後10分程…





チャリ…

外れる音


やっとか…

手首の具合を振って確かめる

…いける


「いっ…っつ」


自由になった手腕を支えに起き上がろうとして失敗した

血流が一気に流れ込む

お陰で痺れ、力を込めたはずの腕と手は

針金の入っていない結いぐるみのように…ゆっくりと流れる視界

その使えない両腕を下敷きに

ソファーに体を沈めることになった




「危ない、急に動かない。

…ラピスにも言われるでしょ?これ片付けたらマッサージしてあげるから大人しくしてて」

「…」


「分かったの?」

「…ちっ」


振り返り、問いただすラッセ

テーブルに並べられた使われなかった得体の知れない物を、棚に片している


自重で押し潰された腕

痛い…

変な方向のままソファーと体の間で悲鳴をあげている

何とか体を浮かせて…





「ひっ…」


気を反らせた…油断した

片付けしているからと、

…少し距離があると、慢心した


陰が差したと思った瞬間には

首を絞められるように掴まれていた

体ごと持ち上げられ、片手で腕を引きずり出され静かにソファーに下ろされる…





「分かったね」

視界に映る自身の腕

感覚がない手がソファーの縁から投げ出されるように延びたまま…

そして首から離れない手

視線をそのまま受け止めざる終えないように…

そして疑問符もない問い…



「…知らな…ぐっうっ…い」

「本当、油断も隙もない…苦しい?」


「ぐ…っうっ」

「…反骨の精神だけは一人前なのは認めるけど、好ましくはないね。もう少し絞めようか」

「や…ぐっ…ぅ」


反論も空しく強まる力

再び持ち上げられ、体が持ち上がるほどに吊られていく


気道が押し潰される

重力に従う体が重りとなって更に絞まっていく



苦し…い

息が、出来ない…



鯉のように口だけが

酸素を求めて…






「返事」


「か…っ…ごほ……

げほっ…ぅっ……っ」

ソファーに打ち捨てるように離された…




腕は動かない

喉を押さえようもない…

背を丸めて

ただ咳き込んでいれば、首に向かってくる腕

…手が喉に触れる

また絞める気…だ…

反射的に警戒音が脳髄に鳴り響く


「っ…ぐっ、わ…分か…った」




「…宜しい」



理性を総動員して絞り出した肯定の返事

一拍

離れた指先

背を向け、作業に戻る姿



生命の危機から脱した安堵なのか…

生理的な涙が溢れ

頬に伝う感覚…拭う気力も腕を上げる力も湧いてこない

ソファーに投げ捨てられた体勢のまま

ただ、ただ喉が痛むほどに呼吸を繰り返す






「さて、…体起こすよ」


平然と目の前に戻ってきて言う台詞がそれか


俺の顔を一目見て

茶化しも、言及もせずただ頬を袖口で柔らかく拭う

肩に回された腕は

ゆっくりと体を起き上がらせてくれる

首を締めた手とは…同じ手とは思えない優しさ…


その手から身を引く

途端、

ぐらつく体

腕はただ体の横にぶら下がっているだけで役に立たない

体幹も支えられないのか…

それでも維持しようと腹に力を込める



「ああ、無理だよ。首締めたばかりだし録に座れないはず。力抜いて俺に体預けて」

そう言いながら…

伸びてくる手が肩に置かれる


支えるようにしながら

此方側を向いてラッセが隣に座った


そのまま凭れかかるように背中を押され

…抱き合うように肩に頭を乗せられた



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