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「"ラピス"を戻してあげるよ」

「…なに?」


「だから、"ラピス"を取り戻したかったら俺の要求通りに動いてよ。ほら、手枷つけてくださいってさあ!」


訝しげに返答すれば、

相対する表情から俺の知りうるラピスらしさはなくなった。

ゲラゲラと声を大きくして残虐とも見える薄笑

怖いには怖いが…何処か寂しげな目がその顔と口調から浮いて見える


「断る」

「…え?」



「聞こえなかったか?」

「…なんて?今なんて言ったの?」


面食らったとはこういうことを言うのか

その表情に溜め息が漏れる…

そんな痛々しいもん、隠せると思うのか?


次々に変化する感情と表情…危ういそれ。

怖いと思う一方で…

そのどれも辛いと、痛いと叫んでいるようにしか見えなくなってきたのだ



「はあ…だから断るって言ったんだ。それにお前だってラピスなんだろうが、それを俺は否定しないよ」

「…俺はそんな名前じゃない」


痛々しさを増した、

ラピスだと言って欲しそうにも関わらず否定する


「なら何て名前だ?」

「…ラース」


「じゃあ"ラッセ"って呼ぶぞ」

「愛称でなんかで呼ぶな!」


「俺は折れたぞ、ラピスと呼ぶのを辞めたんだ。

それくらいの条件は飲んでくれてもいいだろ?」


「…交換条件か」


「そうだ、だからそう呼んで良いな?

で、つまりラッセはラピスを表に出さないようにしてるって言いたいのは分かった。ラピスの別人格である、ラッセに…主導権が握れるとは思わない」

「…」


痛いところを突かれたのか、苦虫を噛んだような顔をする…

口をつぐむラッセをよそに話を進める




「どうせラピスが耐えきれなくなって、その肩代わりで仕方なく出てきたんだろ?

それにな、ラッセ…お前に引きこもったラピスを説得できるのか?出来るならとっくにやってる筈だ

流石に一週間余り出ずっぱりできついだろ…」


「お前に俺の何がわかる…ラピスの何がわかるって言うんだ、

偽善も大概にしろ!」



「偽善ね…否定はしないが、それだけで予想範囲内のこの状況下にのこのこと身一つで来るほど博愛主義でもないな。それと、ラピスやラッセのことが分かるなんて一言でも俺は言ったか?」


「分かるような口を利いた…言っているも同然だろう!」


「…分かると言えたらどんなに楽だろうな。

…そう聞こえたなら謝るよ、ラッセ。それにラピス」

「お前…」


「どうせ聞いているんだろ、ラピスも。

で、俺の予想が合ってるとしてだ。ラッセはラピスに止めて欲しいのか?俺をいたぶれば見かねて出てくるって算段か?」

「…そうだ、"ラピス"をあんなに悲しませてただじゃ済まさない。俺に表を任せたってことはそういうラピスの意思もあるってことだ」


「やはりな…で?俺は乞わないぞ?どうする?」

「その余裕寂々って顔、歪ませてやる」


テーブルの上の何かを掴みながら立ち上がるラッセ



「くくっ…余裕綽々?

そう見えたなら行幸。褒めてくれてくれるなんてありがたいな」


それを見とがめつつも、単にそう見えているなら案外俺も役者になれるかもなと、場違い、勘違いも甚だしい考えが過る


余裕なんてない。

ラピスが、主人格がこのラッセを御せている確証もない

その予想をラッセは否定しなかったが、

それがラピス…の主人格が戻ってくる証明とはなりえない。


それと…

俺の顔を歪ませるらしい。

何をする気かは、

何となく…

いや、机のものを余すところなく使われる事は分かりきっている

だが、他にこいつに切り札がない限り、

俺はお前の好きなようにされるつもりはない


ラピスでないと否定したが、

このラッセがラピスの一部であるからこそ…俺は友人として此処に来た。

ルークの願われた事や、オニキスの疲れきった顔も理由の1つ


が、

…知りうるラピスらしくなくてもラッセはラピスの一部だ。

それが辛そうにしているならば、

ラッセが内に戻りたそうにしていたとしても…察しても主導権を握るラピスは戻ってきていない



だからきっと…これはラピスが作り上げたこの状況

ラッセが本音では戻りたそうにしても

それを無視した上で…


それを望まなくなるのは、きっと

ラピスの何かしらの欲求が満たされた時か…

ラッセが耐えきれなくなると内から判断した時だ。


そのきっかけを作り出さない限り…

そしてそれは怒らせた俺の役割であるのだろうと理解している


だから余裕など、微塵も無いのだがな…



「なんだそれ、俺を舐めてるでしょ」

「いや、逃げたくなるほど怖いぞ?」


「なら逃げればいい…惨めたらしくな!」



左耳が痛い

これ見よがしに手に持った物の金属音を鳴らしながら

俺の横に立ってきたラッセが発破をかける…


「舐めてなどいないって言ってるだろ…

ラピス…いやお前の方とだな…約束は約束だ。朝食の件を破って言えた立場じゃないが…後三時間余りか、付き合う約束だからな」



取り合わず、

落ち着いた声音で答えていれば…

ラッセの背後、

体をずらし時計を確認してそう言えば、

ついに頭に血が昇った様だった





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