表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/300

調整5





どれ程の時間切り込み

切りかかりにいっただろう…

疲れからか段々と大振りに…流石に隙だらけだ

妙に冷静な頭の片隅でそんな考えが過った…


その時だった



「…っ」

空を切る…

避けられた!

そう思った時にはもう遅かった

体勢を崩し、その勢いのまま教授の横を数歩通り抜ける


殺しきれないそのスピードを

右足で土を抉るように無理矢理に止まる


直ぐに切り返し

振り返り、

再び教授の方へと踏み込もうとした




刹那、木漏れ日に反射した光りに目が眩む


反射

何故か踏みとどまった体…

足が止まった…


その一瞬、

光に慣れた目に、細めて映ったその視界には…

…その目前には


(きっさき)

教授が向けた剣の先端が数センチと離れずに向けられていた




「…っあ」


踏みとどまらなければどうなっていたか…

教授が半歩進むだけで俺の眉間にそれは刺さる

その剣との距離…

構えも出来ていない剣

今から振り上げたって間に合いはしない

…ここから起死回生の機会なんてない



言葉にならない声が出た

怖い…死んだ…

その気迫と覇気に押される


どうしたらいい…

どうしたらこの状況を回避できる?

殺されずにすむ?

何時間にも感じるこの体勢

微動だにしない目の前の鋒…どうしたら

どうしたらこの状況は打開できる?




チィン

止まったかに見えた時間は

すんなりと引かれた剣に…鞘に納められた音と共に動き始めた



「向かってくるだけ、休憩前よりはマシになったとも言えますが…」


その言葉に…含まれた毒にもなにも返せない

ただ、急に力の抜けた足を…

震える膝を懸命に宥めるので精一杯


剣を地面に刺して、杖がわりに踏みとどまる

ぶわりと冷や汗が伝う

死ぬと思った…自殺しようとした筈なのに

いざその捨てようとした(それ)が危ぶまれたら惜しむなんて…

本当に浅ましい…浅ましい…




「本気で私に挑んだ事は褒めましょう、ですが講義中であることを忘れていましたね?…教授に対しての先程の言動、それは褒められたものではありません」

「…っ」


先程までの空気はない

殺されるとまで思った覇気もない


選択講義中…あの気だるそうな何処か剣呑な雰囲気の教授

バクバクと波打つ心臓の音が聞こえる

いつの間にか止めていた呼吸も浅く繰り返す…





「それと…

剣筋の乱れ、状況把握の欠如等々…感情のままに動くことは一番剣を扱うことに限らず一番に避けなければいけません」



「そ…れ、は…」


ただ講義内容を説明するように冷静な声

俺だけが変みたいだ

心臓の音が煩い

呼吸も煩いままに声を出す



「感情のままに流され行動する、その楽な道を君は迷いなく選択しました。

結果、それが己の命を危険にさらすとわかっていた上でさえも」

「…」


「そして、晒された時惜しみました。

自身が手放した(それ)を。

…いい加減認めなさい。生に抗うことも執着することも至極真っ当なことです、何ら恥じることはありません…いいですね?」 


「…何故それを知っている…んですか」

「初講義からずっとそんな目をしていたでしょう、分かりやすいほどに」


「…」

「ともかくいいですね、理解しましたか?」

それくらいは見通せなくて教授が務まるかと

大人を見くびるのも大概にしなさいと念を押される


「…は、い」


「よろしい」

ではこれで講義は終わりですと

一纏めにした包を掴み、一人歩き出す

そのまま見送っていれば振り返る教授


何を呆けているのだと…

帰りますよと促される、

途中通る寮の前まで付き添いますと…


いや、現地解散でと反論するが

そんな疲れきって笑った膝の君を置いていくわけないでしょうと一蹴

何処と無く怒っている声



それでも食い下がれば

こんなところで何をするのですかと怪訝な目をされる

蒲公英の根を採集しようと…と当初の予定を

言うも即座に却下される

今日は禁じますと、寮前で別れた後。

戻ってやろうとしても

それが分かったなら…どうなるか分かっていますね?と…


何をするつもりか分からない…が

分かったならそれはそれで困るし怖い

頭を上下に即座に振る


ため息混じりに

分かったならば付いてきなさい…と顔を戻し歩き出す教授に付いていった





道中…

絶え間無く指導という名の説教が続く、


そんな疲弊した体で…採取等出来る筈もありません

満足に出来ない上、怪我をする可能性も高くなります

それに、前回教えた講義内容を実践しようとする気概は評価します

勉強熱心なのは分かりますが…

深く根を張った蒲公英は、掘るだけで体力を消耗します

傷つけずに掘り進める注意力が…どちらも今の君に残っているとは判断できません


帰る道すがら…こんこんと説教される

付いていくしかなく

何処かで辞したかったが、制裁が怖い…

相槌では満足してくれない…

内容を踏まえて返事を、それが滞れば

更に断及されるのでしっかりと聞かざる終えなかった。





漸く、寮前につく


これで漸く解放されると、

早くこの状況下から脱したい…その一心で…

"見送り…講義ありがとうございました"と言い放って、

踵を返し歩き出す

教授の返事など待つはずもない…




「それと、先程言ったことは本心ですよ。

認めがたいと怒ることを予想して、

君を怒らせて本気で私に立ち向かわせるために…気を逆撫でするために使いました」




「…教授?」


なに…何て言った?

背中からかけられた言葉に足を止め、振り返る…

本気で俺が殊勝な人間になれると思っている?

冗談はもう聞き飽きた、

それに何で怒らせた…そこまでしなくたって俺は本気で立ち向かっていた筈




「戦法の一つ…基礎の基礎です。知らないはずも、回避する手立ても基礎講義で習った筈です」

「…それは…そうですが…」


それすら覚えていないのかと問う

馬鹿にするな…それくらいは知っている


だが何故…

再び気をやらないように、

考え事をさせないため、俺に手合わせに注意を向けさせるためか…

…それに加えて発破を掛けるためだったのかもしれない。


だが…

剣術の教授でもないのに…

野営の講義の教授が何故そこまで俺に求めるのだと…

説明まで態々してくるんだと、

疑問も湧く


それを強い目線で見返して示せば…



「何故そこ迄する必要が、と言いたいのですね?

感情を揺さぶる事で剣術を苦手だと意識すること、

…それと私に対する遠慮を吹き飛ばす意図がありました。

まあ…彼処まで激情に身を任せるとは思いませんでしたが…ね。

オリゼ君、いいですか?

平常心を保つことは生き抜く上で必須です。

予想外の事態になった際、こんな体たらくでは…野営したとしても帰還することなど出来はしませんよ?」

「…」


黙れば

精神面も…今後折を見て己を律することも課題にしましょうか…

ぼそりと付け加えられた…独り言のようにそれ…



「…精進…致します」

もうなにも…反論気力も湧いてはこなかった


その為に何をさせられるのか、

何をもって折と見なすのか…

今日の講義内容よりも酷烈になることは火を見るより明らか。


それでも了承した…


黙っていれば…

更に過酷になることを察した、

自己防衛の警鐘が鳴り響いたからだ。




そんな俺の返事に満足したのか…

今度の講義は此処に直接来てくださいと、


呆然とした俺をそのままに…

教授はそれだけ言い放つと颯爽と特別棟へと姿を消していった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ