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ポツリ

ポツリ…

途切れ、単語の羅列になろうとも

気長に相槌をうちながら聞く教授



「…だから剣術は…教授の顔が見れなかったのもそれが原因です」


言い切った…全て

温くなった…

握りしめて手の体温で温くなったのか…残っているその水を飲み空ける

膝に置き空になったそのマグの空洞を眺める





沈黙が落ちた

風がそよそよと足元の草を靡かせる

これはなんだったか…資料の挿絵にあった物に似ている…


無意識に片手をマグから離し手を伸ばそうとしていた、

その時



「…顔を上げなさい、私の目を見れますね?」

「っ…」


「オリゼ君」

「…はい」




「見なさい」


足元の草から視線を無理矢理に引き剥がして…

…目を恐る恐る窺うように横の教授に向ける


侮蔑の視線などない

…真っ直ぐ目を射抜くように向けられた視線に視線をずらせない

蔑んだものは含まれていないそれ

ただ、ここにいる俺を一人の人間として見る目だ



「そんな目を私がしていますか?」

「…いいえ」

「確かに何度か言い聞かせはします。それでも努力しない、放り投げる生徒には私もそういう目をするかもしれません。ですが、貴方はそうではないでしょう?」





「…評判、聞いていないのですか?」


…その目をされることは一通りやっている


そうしてきた…だからクラスは今学年も最下位だ

自棄になって放り投げて…努力だってしなかった

そして、それは少なからず教授陣の噂に…


この教授の耳にも入っているはずなのに何故…

何故そんなことを言えるのか

何故、侮蔑の視線を向けないのか…




「私は私の目で見た事から判断します」


…マグを返しながら言われた台詞

そんな事を言う…

人を見る目がない、無さすぎる


「…たった数回の講義です…それが続くとは限りませんし

今後化けの皮が剥がれるかもしれません…」

「そうであったとしても、"今"侮蔑の視線を君に向ける理由足り得るとは思いません」



「自発的に、今も努力しているとは言えません」

「この選択講義を取れと誰かから指示でもあったのですか?」

「いいえ…」

だからなんだ…



「ならば、何故選択講義を取りましたか?」

「…後学の為に取りました」


「今日の講義内容、苦手で避けたかったと分かっています。

ですが言い訳も嘘も、逃げもせず君は受講した」

「…言い訳も、逃げも…しようとしました」


「が、していない」

「…その算段が間に合わなかっただけでしょう」


だからなんだって言うんだ

結果論、

俺が矮小で意地が悪い策を練ろうとしたことに変わりはない

立派に言ってくれているが、

そんな人間ではない




「理由は何であれ、自発的に学ぶ意思を捨ててはいないではありませんか。言い換えればそれを意欲とも向上心とも言います…それは努力に繋がりますね」


「…そんな人間…じゃないです」

「そうだとしても貴方ならなれます」

「何で…何でそんなこと言いきるんですか?俺はそんな人間じゃないっていってるのにも関わらず…何故?」


「私がそう判断したからです」

「なっ…」


「どうしました?」



「…教授、基礎講義の剣術は今だって手を抜いています。私を買いかぶり過ぎではありませんか?」


「それがなにか?

私はその講義の担当ではありません、

教授である私が生徒を評価判断する材料は、今受けている選択講義の間の君です、その基礎講義ではないことは自明ではありませんか」


「…話にならない…どちらにせよその判断は間違ってるって言ってるんだ!」


なんなんだ…

勝手に俺をそんな人間に仕立て上げるな…

否定しているのに、

何故理解しないんだ…




そもそも、

人間性をとやかく言うならば


不真面目に受けてきた講義や

これ迄の普段の褒められる処か悪い生活態度…

判断材料を取捨選択すべきではない。

それをするならば評価判断して良いのはこの間での生徒

その部分の俺だけだ。


たまたま…この数回受けた講義間はましに見えていただけ

成績の判断だけで人間性まで評価してはならない

…良いように言うな


知ったような口を利くな

俺は…

今してはならないミスを犯しただろうが…

この講義間だけですら、

…未熟者だ




「…休憩は十分ですね…再開しますよ、剣を手に取りなさい」

「…」


「続けますよ」

「はい…」


そう言っていつの間に片付けたのだろう

一纏めにした荷物を置いて立ち上がる


異論は聞く気などない

続けるしかない…


そんな教授の様子に

同じく

…丸太に立て掛けていた鞘のない剣を手に立ち上がり続いた




合い対せば平然とした表情…

此方がなんと思っていようと気にもならないとばかりの顔

俺程度どうとでもなる、

脅威なんかではないとそう思ってすらいるように見える

面を睨みつけていれば、怒りに変わっていくそれに身を任せる




「そちらからどうぞ」


「っ…参ります!」


そんなに言うならば買ってやろうじゃないか、その言葉!

そして精々…見込み違いだったと呆れれば良いんだ!





勢いよく

切りかかりに足を踏み出した


力任せ…感情のままに振るう

力量の差を見せつけられるような剣捌き…ただ、俺の打ち据える剣をただ流していく


教授の剣はただ合わせるだけ…

力任せに打ち据えている筈のその力もなんのこともない…ただただ受け流していく


振るえど振るえど…

力を乗せた剣も手応えがない…打ち合う気はないとでも言うように



涼しい顔

何処かのティーパーティーに出席しているような…

髪も呼吸も乱れず、汗もかかず


此方が必死に

全力で打ち込んでいるというのに…

汗だくで着衣だって乱れているだろう…それなのに

怒りも怒り、憤りに変わった…


型もなにもない、その剣筋も重心もなにも定まらない

裏も読まない…思考なんて最早働いていない

血の上った頭でがむしゃらに…


鼻を明かしてやろうとその一心で

目の前の教授に切り込み、向かい続けたのだった…



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