表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/300

責31。




余程俺が己を利用するとは思わなかったのか…

という質問が癇に触ったのだろう…


やぶ蛇をつついたことに気付いたのは、

反芻してから口に出すべきだと後悔したのは

既にその言葉が口について出てしまった後




「…」


「それとさ…そもそも必要なところで悩まないくせに

何で変なところでいつも気にするの?

大体オリゼは器用に人を騙せる性格してないよね…

その上で"この俺を"騙して掌で転がせるなんて懸念、なんでしてるの?」


「…いや、懸念するべきだ。

お前なら普段からしてるだろ?」


「馬鹿なの?

オリゼに対してするだけ無駄だと思わない?

今回もそうだったよね…直ぐに分かったし隠せなかったよね?

で、そんな野心や下心持ってたとしてさ…本当にオリゼはそんな本音を俺にずっと疑われもせず隠しとおせるとでも思ってるの?」



何分経ったのか…

時計を確認する気持ちを押し込める。

その挙動をマルコに見咎められれば…更にこのお小言の時間は延長されると分かっている


…マルコの友人、

つまり俺が皇太子の友として利用目的で近づいてきたならば

そもそもここまで関わりを持とうとはしなかった。

概略で纏めるならば

そんな事を針の筵宜しくずっと聞かされる羽目になっている






そして遂に、

俺は愚直で器用じゃないと…

だから俺に対して、マルコは己が利用されるような疑いは持つだけ無駄だと言いきりやがった


「…マルコ、

そこまで言うなら此方からも言わせてもらう。

そんな駆け引きも出来ない馬鹿な友人だとしてもだ、それがブラフで油断を誘うものだとは少しも思うことは無かったのか?」




「これだけの事をして、

ブラフで油断を誘うものと考えるには無理がある。

俺から見て、面倒過ぎると思わないのかな…?」


「…それでも利用出来ると傍におくかもしれないだろ?」



確かに

皇太子として相応しくないから関わるなと言う声も出た筈だ。

どう取り繕っても品行方正とは言えない俺だ…今後も苦労すると思った筈だ


だけど…

馬鹿は馬鹿なりに使い道はある筈

使い捨てだろうと、

その時の為に友人でいることは考えなかったのだろうか…



そう思って聞けば、

しかめていた眉が更に険しくなっていく




「はぁ、オリゼ?

あのね…もしブラフとしてしていたとして、

俺が油断を誘われることはない。

類が及ぶと危険視するし…そんな頭が足らない奴を逆に利用することも俺は考えない。

足がつくし利用しづらい…まやかしの友人として関わってあげる価値もないと切り捨てる。

使い捨てだろうと、もう少しましな馬鹿を使うよ?」




「…馬鹿って…」


「今更なにかな?

学園では素行も悪くて、

引きこもって単位ギリギリだった初学年のこと?

確かに苦労したよ、講義にも出てないし自室に引きこもって食事もベッドで寝てばっかりで疎かにして…

心配したし部屋に入れて貰うだけでも相当苦労した。

少し立ち直ったかと思えば、

親族の罪を被って自殺しようとするし…現に繋ぎ止めるために友人の時間を犠牲にする覚悟で侍従見習いにしてみても

身体を大事にしな「耳が痛い、十分…」…何が十分なの?」




「色々と面倒かけたことは分かっ「分かってないよね、そもそもその理論だとさ…オリゼが俺がオリゼの友人であることを切望してないと無理だよね?

何でそこに疑問や自身を持てなかった馬鹿がそれを考えるのかが俺には全く分からないよ。

ああ、勿論都合の悪い駒を利用するような考えはおれはしない前提ね?」…っ」



馬鹿だと言われたようで

これだけ散々に言われっぱなしのまま口を閉じてはおけない。

そう少し頭にきて言い返してみれば

…即座に何倍にもなって返ってきた


どれも言い返せない

利用云々、

それ以前の問題だと言いたいのだろう





苦労や心配ばかりかける奴が、

利用する目的ですり寄ってくるとは思えない



それでも俺がマルコを利用するために友人をしていると仮定するならば…

そしてどれだけの面倒と体裁や体面を犠牲にしても、

利を見出だしにくい俺とマルコが関係を続ける理由は3通り。


1つは、

すり寄ってきた俺を扱いやすい駒として逆にマルコが利用するため。

だけどマルコは

駒として傍に置いておくにしてももっとましな馬鹿を使うといった…

苦労に見合わない利用価値しかない、

切り捨てる前提の者を傍には置かないと2度もその可能性はないと言及した




そして2つ目

マルコが俺に利用されていると思わず騙されている場合

…これについては

想像以上にケチョンケチョンにされたな…

お前みたいに馬鹿じゃないと、

俺に騙されるほど、

易々と利用されるような玉ではないと。


まあ、

言われて当然といえば当然だけど…




「何か反論でも、ある?

してみても良いけど…もうこれ以上は容赦はしない。

俺はオリゼを利用しようとも思ってない、面倒かけても心配ばかりさせてきても…手放さない。

それは俺がオリゼの友人でいたいから騙されてあげてるからでもないし、俺の利用なんてしようとしたことはない。

そんなの分かってのに…あまり変なことを言い続けるつもりならこちらにも考えがあるよ」



「ぐうの音もでない…」





そして一番可能性のあるのは

この3つ目。

マルコが俺に完全に騙されないとして…

薄々勘いても騙される覚悟の上、俺の友人である事を選ぶこと。

だけどこれを主軸に、

マルコはもう少し俺を疑えと言ったこの俺の理論は、

マルコが利用されると懸念すべきだと忠告した大前提には…

俺が慢心でもマルコの友人としての確固たる自信を持っていた時に成り立つ…


だけどその肝心の前提はなかった。

利用しようとする俺がその自信を持ってていなかったのだから…

気にすることすら無駄な事だよねと、

断言されてしまったのだ





「…悪い」


「そんな理論を振りかざすならさ、

最初から俺がオリゼを大事な友人だって思ってるって、自信を持ってよ」


「…ごめん、そんなつもりで言った訳じゃ」


「分かってるよ…

でもそんな人間なら、僕の本性出すわけないでしょ…?」



百害あって一利もない俺に、

そんな利用される心配など微塵もないと辛辣な言葉で畳み込まれていく


そうか、

改めて俺はまだ心のどこかでマルコの友人であることに不安があった。

無意識て自信を持ちきれていなかった…


だから疑えと、

信用しきってくれるなと…そんな言葉を俺は口にしたのかと気付く

一番マルコが癇に障ったのは…

馬鹿な俺ごときに謀られたり、騙されるほどだと侮られたと思ったからじゃない。

前提に不安を覚えるくせに、

友人と胸を腹ないくせにそんな心配をするなと…


愚直で、

猪突猛進ならば…

俺に友人として見られていることに自信を持てと

いい加減俺はお前の友人だと理解しろと…


そうマルコは怒ったのだ







「…俺が認められなかったのはマルコのせいじゃない。

兄上のせいでもない、…ただ、釣り合う迄に己はなれないと諦めて努力もしなくなったからだ」


「…そう言う変なところだけ気にするのは止めた方がいいよ?

それと友人に釣り合うもないでしょ」



再三、

こんなことを言い出す俺に

仕方ないなと、

多分心底呆れ、相当に

面倒だと思いながらも…俺に向かって話を続けてくれていたのかもしれない


俺に向けられた苦笑が10割の笑みが、

それを言外に示している。

面倒で馬鹿だけど、

心底も苦労も存分にかけてくれる俺を対等な友として見ている証拠として…


俺が心の底から、

マルコのことを友人だと思えるように






「…」


でも、

一応皇太子の立場もあるよな?


それに俺は侍従見習いでもあるから、

あまりその扱いも誉められたものではないのではと…

性懲りもなく考えてしまえば

何故かそれすらも見透かされたような発言を突きつけられる



「…」

「オリゼ、僕の立場云々は言わないでね?さっきオニキスから聞いたけど」


「…あいつ要らないこと言いやがって」




「で、認めたんでしょ?」


ここに居るってことはちゃんと受け入れたってことで間違いないよねと続ける…

その表情は悪戯が成功したと言わんばかり




「悔しいけどな…認める。これで満足か?」

「もちろん」


破顔…嬉しそうに言う…

そんなに俺が友人であるのが嬉しいのか…

なんなんだ、そんな価値はないと言ったら怒るだろうから言わない。

この僕が選んだのに文句でもあるの?

きっとそう…

次は冗談なく本気で圧をかけてくるに違いないから言わないでおく








コンコン…


アコヤだ

タイミングを図ったように会話の切れ目…

いや随分話し込んだから、

確実に折を見ていたに違いない




…やはりか。

確認すれば俺の分も、

どう見ても二人分の食事を運んできている


侍従服ではなく…私服であるのがせめてもの救いか?

マルコの恩情ではあるのだろうが気まずい…

テーブルの上に料理を並べ終え、

マルコの背後に控える様子は普段と変わらない




「…オリゼ?食べないの?」


「いや…頂く」


マルコの背後に控えている、

つまり見習いである俺のほぼ正面に…傍仕え、

もとい上司がいる位置関係だ


この状態で平然と食べ始められる程、

先程の指導の記憶も薄れない内に堂々と構えられる位…

俺の心臓に毛は生えていない



マルコに自然を装って返した言葉も、

そのせいでぎこちない…半端な敬語になってしまう




「オリゼには普通かもしれないけど…好きなものは揃ってるでしょ?」


「…ん?」


言われてみて、改めて並べられた料理に目を落とす

並べられた料理は…普通?

まあ普通といっても見慣れているという点ではだ。

そう、和の国では

確かに珍しくはないが…簡素でもないし普段から口に出来るものでもない




和の料理から

懐石料理を連想…

いや、精進料理か?

苦手尽くしだった、何週間前かの青菜3種盛りを思い出して顔を歪める


マルコは俺がそれを思い出すことも意識して、

セレクトしたに違いない…

そして

今俺がその意図通りに落ちたことに、

…絶対に気づいていないはずもないマルコは平然としている




「好きじゃない?」


「いや、好みだ」



そもそも俺の好み云々を調べもせずに用意させるマルコじゃないし…抜かりなく準備をする侍従なら皇太子の傍仕えにはなれないだろう。


まあ…

気にしても仕方ないかと、箸を手に取り食べ進めた






…こういうさっぱりとしたのも良いな


おこわに、蕪の幽庵仕立て

鮎の塩焼きと筍の天麩羅…海老真薯(しんじょ)の御澄まし等々




いい、

見ているだけで清流の水音が聞こえるようだ…


しっとりと朝霧が降りた深々と冷たい空気、踏みしめる土と草の青い香りが立ち込める


先ずは汁物、と椀に手をつける…

ふわりと出汁の香りと上品な味が口内に広がる

真薯(しんじょ)を食めば、

独特の歯触りとプリプリした海老の歯応え

…遅れて三葉の香りがたつ



美味い…

身体に染み渡る。

これを学園で食べられるとは思わなかった


そもそもこの国では母が連れている使用人や、

屋敷の侍従たちしか作れないと思っていた。

他では見たことも、外で目にすることも…勿論食べたこともなかったからな…





「…ねえ、この魚なに?」


「鮎…清流に生息する川魚だ」


味わっていれば引き戻された…

箸…いや、フォークとナイフをつけている光景を一目


解説をすれば不満げ…

なんだ?

慣れない味だったのか…そもそも何故馴染みにくい懐石?

もっと親しみやすい和食でもよかったんじゃないのか…

そして食べやすいものでも。



向かいの皿の、

すっかり無惨になった鮎を見て眉を潜める



「…どうしたの?」

「悪い…少し手を出させてくれ…これじゃあ鮎が可哀想だ」


椀を置いて、

まだ手をつけていなかった自身の分の鮎…

その尻尾を折って外し、

カマ横を返した箸で押さえ頭ごと骨をスッと抜き取る



こうすれば、

小骨を一気に取り去ることが出来る



「…」


「ほら、これと交換してくれ…無作法だが俺はそっちの鮎が食べたい」



了解も取らず皿を交換する。

マルコによって、

可哀想なことになっているそれに箸をつけていく。

ナイフとフォークでやられたそれを丁寧に…

切り刻まれた多少の小骨は仕方ないと諦めて解した身と共に口に運んでいく


まあ

固い骨ではない…子鮎で程でも無いにしろ食べられないわけではないしなと、

更にその美味しさに

箸をまたつけて身を取り分けて食べていく






「オリゼ?」


「ん?ああ…悪い、やっぱり交換して気に障ったか?」


無心で食べていた…

見上げれば折角食べやすくしてやったと言うのに、手をつけていない

俺が手を加えた鮎が、

さっきのままの姿でマルコの前に鎮座している…



「いや…そう言うところあるよね、オリゼって」


「…無作法か?礼儀知らずか?」



先程馬鹿だと散々言われたし、

食事の作法やら…会話を楽しむこともなくマナー的な面で許容範囲を越えたかといぶかしむ


無礼講で言い筈だから、

滅多なことで口を差すことはないと思っていたが…

まあ、

色々とやらかしたあとだ



「違うよ…命を大事にするよね」

「まあ…食べられるためにこいつらは死んだんだからな、人の手によって。

無駄にされたら浮かばれないだろ?」


「まあ、うん。

それに本当に美味しそうに食べるよね…」


「?

そりゃあ…好物だからな」


そもそも、

このメニューはお前の指示だろ?

好物を美味しそうに食べるのを、何をそんなに不思議に思うのだろうか…


そもそも

手間のかかる料理だ。

味わって食べなきゃバチが当たるし、お前の気持ちもくめないだろ…

俺の好みにあわせてかなり…材料から無理言ったんじゃないのか?

と疑問が湧く



「…まあいいけど、その幸せそうな顔見れただけでもいいよ」


「気に入った寝具と好物に対しては良い表情になるって昔からよく言われるしお前も知ってるだろ?…てか食え。骨はとったからそのまま切り分けて食べられる」


何だ?

沁々と今更言うことでもないだろうと完全に手を止めたマルコを相手にするのも無駄だと

目の前の…鮎に戻る。



うん、

堪能したいし…

好きな順番で食べられるのも楽で良い。

…次は筍

添えてある塩をつけて口に運べば柔らかい穂先

えぐみなんてない、

甘味が塩の塩味で更に引き立つ…ただただ旨い




シャクリ…


そうそう、

穂先

だけじゃなく根本も美味しいんだよな…





良い仕事をするなあ…


からっと揚げた薄い衣、

黄金色のその色も咀嚼しながら口に広がる香り

炊き込むもよし、炒めるのもよし…鰹節を大量にいれて炊くのも良いな…

あ、半分に割って皮のまま炭火で焼くのも良いな…あれは最高に旨かった




次々に箸が進む

そして最後は…デザート


成る程、

清流の鮎になぞらえて…良い水で作ったのだろう

葛きりとは粋なことをする。


そう言えば少し最近暖かくなってきたし…目で涼める水菓子も良いな

透ける餡の色も…竹の楊枝で真ん中から切り分けて二口…





最後の一口を口に収めれば


コトリ


いつの間にか気にしていたはずのアコヤのこともすっかり忘れていた…

食後を見計らって…緑茶が出てくる

その手の持ち主の存在…忘れてた




「…ありがとうございます」

「いえ、御堪能頂けたようで…主人も喜んでおります」


あ、

そして忘れていたのは上司だけでなく

主人もか


ヤバイと、

…目の前の顔を伺い見れば苦笑しているマルコ




「悪い…がっついて…」


「いいよ、もう少し話したかったけど…」


「…機会はまだ沢山あるだろ」

「そうだね」


ふわりと笑う…

年相応、何の鎧もない無防備な笑み

…本当に心臓に悪い


茶をすすりながら、

マルコが食べ終わるのを待つ


例えもっと話したかったとこぼしても、

それでもマルコはこの食事の時間を引き伸ばすつもりはないらしい。

つまり

これが終われば、また気を引き締めないとな…と

再び友人のなりはおさめ、

見習いとして侍従に戻らないとと思いながらも


暫しゆったりとした時間を過ごしていったのだった…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ