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責25。





「…アコヤ、下がれ」


「殿下?」



そんなアコヤの視線と圧に晒されていると、

左から殿下の指示が飛んでいく


オニキスが来客している、

ここは殿下の部屋、

もてなす為に傍仕えのアコヤを控えさせて置くべき状況。

紅茶はまだ二人とも残っているようだが、

そういう問題ではないと…俺にですら分かる。


勿論失態等そうそう、この傍仕えがするわけもない

それなのに下がれとは…なんでだ?


アコヤが疑問に感じたことも、

至極当然の反応だ…




「オニキスと話している間、休憩してこい」


「有り難くはありますが…」


「2、3時間自由にして良いぞ?

ついでにオリゼのことも好きに指導すればいいだろう」


「心得ました。

御配慮、有難う御座います」



何が配慮なのか、

その全ては理解出来ない



だけと、

含みがあることは分かる…

俺にとって好ましくない事になるのも分かる…


殿下の声に一瞬外れていた

アコヤの…

その俺を責めるような視線に再び晒されることになって

身体が再び動かず、固まっていく感覚


予想だにしない指示

快諾するアコヤの声





好きにしていいと…?

何をどう好きにするというのか…と円滑に動かない思考で停止していれば、

殿下に一礼するなり

早速その傍仕えが俺の方に近付いてきていた…




「オリゼ、立ちなさい」


「っ…」


理解することを、

動くことを拒否したのは脳だけではない。

身体もだ…


この人が横になって休憩する筈がない。

そもそも殿下はそのためにアコヤを退室させるのではないし、

俺は今から何をされるか分かったものではないのだ。



退室すれば、

こんな居心地が悪い視線と圧力で済まされないことも…

むしろこの状況が安寧だと

そんな風に感じることになりそうだとヒタヒタと迫り来る悪夢に悪寒しかない



「立ちなさい」


「…ぃ…」


いやだ、

…立ちたくなどない

そんな地獄に自ら進んで足を進められる勇気など、

俺には残ってなんてない


アコヤに向けた殿下の指示は、

俺にも関わる…


休憩してこい、

その間俺を好きにして良いって指示は

俺はこの傍仕えと同様に退室して、

少なくとも2時間はこの人の使用人部屋に居させられるってことだから。



俺には拒否権なんてない

本来なら立ち上がってこの傍仕えの部屋へと共に辞さなければならない


嫌だと、

拒否することは出来ない…



だけど…


「…殿下、では失礼させていただきます」


「ああ」




「…痛っ」


そんな様子に、

痺れを切らしたのか…


退室の定型文を言ったアコヤは、

躊躇すること無く動かない俺の右腕をとり、

引き上げ引っ張り連れていくつもりらしい



その強い力で引き摺るように、拐われていく

…遠くなっていくソファーと殿下の姿、

一時…収まっていた筈の寒気が振り返してきたのだった








バタン


部屋に投げ入れられるように通されれば背中越しに聞こえる扉の閉まる音


一週間振りにみるアコヤの部屋と机を見れば疼く左腕の傷

座り込み、

心理的なものと分かっていながらも思わず腕を擦っていればはたと気づく


既に椅子に座っているアコヤ

その視線が痛い…怖い…


通路に続く扉を見る

殿下の部屋に続く扉…

俺の使用人部屋に接する扉にも全て陣が発動している





「オリゼ、そこに直りなさい」

「…」



「オリゼ」

「嫌だ」


虚栄心、自尊心…

むくむくと自身の内で沸き起こってくる。


そもそも命令されるのは大嫌いだ


逃げられないように陣を発動させて…何をする気だと、

此方を見下ろしてくる視線から目を剃らした




「嫌だじゃないでしょう…直りなさい」

「…」


「直りなさい」


黙殺する

こんな風に引っ張ってこられて、

素直に直れだって?


教育を任せられたからって、

殿下が好きにしていいって権利委譲したって…

俺がそれをはいそうですかと、

…受け入れて納得させる事までは出来ない。


好きにされてなるものか、

此処には主人である殿下はいない。

オニキスもいない…

だから…

此処には二人侍従が居るだけ。


立場が上であろうが同じ主人をもつ侍従相手に

俺が反抗しようが

抵抗しようがそれは俺の勝手。


…意思のまま振る舞える




「直れ」

「…断…る」


初めて聞く低い蛇の這うような声に感情が振り切れた

青筋がプツリと切れる音

散々オニキスにもマルコにも折れたんだ…アコヤにも悪いとは思ってはいるがそれとこれとは別問題

嫌なもんは嫌だ


尊敬に値すると数日付いて回るだけでも思った。

だからと言ってかしづく事もそのふりをするのすらそもそも普段なら絶対しない、目上だろうが立場が格上だろうが…敬意を持とうが関係ない。


度重なるらしくないふりも行動ももう限界だと、

ここ何週間かの鬱憤が一気に吹き出してくる






「主人に対する態度、目に余ります。

殿下の好意に甘んじて反省仕切れていないでしょう?」


「そんなことはない」

「その反抗心も要りませんね?」


何が反抗心だ

充分過ぎるほど譲歩した

からかいにも指示にも従ったじゃないか、言って欲しいだろう言葉だって…

信条や意思に反してでも言ってやった。


オニキスに侍ったことだって、

殿下の意思がなければ…放置することになったとしても

それでもいいと判断して、許可したからじゃないのか?




「長くても3時間、そう思ってはいませんか?

主人に願え出れば直ぐにでも延長できると思いますが…試してきましょうか?」


睨み付けるも、全く意に介さない…

足を組んで座るアコヤ

頭に来た…




3時間?


脅しならもう充分だ

例え出来たとしたって、

主人を長々と放っておいて俺の相手をするわけがない

アコヤに限って…そんなことする気はないだろうに




「ちぃ…部屋から出せ」


「魔方陣は解きませんよ?」

「なら破るまでだ」


そう言って立ち上がり背を向ける

自分の部屋に続く扉

そのかかれた陣に右手をかざし魔力を注ぐ


少ないか…

弾かれる感覚

注ぐ魔力量を増やして増やして…自身の限界量を注ぎ続ける

これでも…



「っ…くっ…」


直ぐに少なくなっていく魔力量…細くなる供給線

苦しくなる胸の痛み


左手で右手を押さえながらも目の前の陣が解けることを一心に願い注ぎ続ける


変わらない効力、

アコヤの魔力が煌めいて見える

…その様子に憎いとまで思う

解けろ…解けろ…そんな切なる思いも通らず変わらないその魔力の輝き、発光…



「…ぅ…あ…」


再び弾かれる感覚

注ぐ量が足りない…遂にバシッという音に遂に手ごと弾かれる


床に座り込むことになろうとも

それでも陣に注いだ魔力を無駄にするわけにはいかない…

目を見据え手を翳し直し…歯を食い縛り絞り出しながら注ぎ続ける





「…解けないと思いますよ。まず練度がなってない、修行も魔力量を増やす努力も足りない…そんな今のオリゼが闇雲に注ぎ続けても無駄ですよ」


いよいよ髪の毛程になった供給線

最後には体ごと弾かれて倒れ込む俺に近づいてくる足音



「諦めて大人しくなさい」

「…誰が大人しくするっていうんだ?

やれるものな「オリゼ…懲りないですね?」…っ」



「良いですか?

主人は私にオリゼを如何様に扱っても良いと仰られた。

この意味が分かりますか?」

「…分かるつもりもない!」


足音が止まる…

背後に立たれたのだ。

アコヤの圧力に、

背中が粟立つようにその危険な空気を感じている


それでも、

ああそうですかと素直に納得できるような大人にはなれない




「…そうですか、良く分かりました。

手加減は一切致しませんので覚悟をきめてくださいね」



「ひっ…嫌…だ、離して…嫌だ嫌だ嫌だ!」


肩に手が置かれるのを感じてまだ諦めていないと

振り落とすように前に進み出て手を翳そうとするも

無情にも襟首を捕まれて後ろに引き摺られる



扉に手を伸ばしすがるような行為も意味を成さない、離れていく距離

遠慮無しに引き摺るその力は

成人男性の力強い物…

まだ俺は成人まで幾年も足りない、身長はまだ小さい

力で勝てるわけがないことは分かっている。


…それでも

床に靴底を押し付けて摩擦で抵抗しようとした。

でも、一瞬も止まりはしない


…引き摺られていく速度も変わらない。

…俺の決死の抵抗は何の意味も成さなかったのだ





「…きっちり心の底から反省が出来るまでは許しません」

「…っ」


強制的に、

椅子の前に向かされて落とされる。


魔力は殆ど残っていない…

限界近くまで陣を破るために注ぎ込んだ為に、

身体の怠さも動きも既に緩慢だ。

力だって満足に入らない、

足も立ち上がるために動かした筈だった

でも筋肉は俺の意思に反してなんの反応も返してくれはしない…



俺は近距離から降り注ぐ圧力に押し潰されるように、

落とされたままの体勢で…ぎしりと椅子に座わり直したアコヤの足元を眺める他なかった





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