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責24。



まるで…

達の悪い風邪を引いた時みたいだ


高熱で頭はぼうっとするのに5体はガタガタと寒気で震える。

そんな変な体温上昇と冷や汗で、

…寒気と熱が入り交じって体が変になりそうだ



この場から逃れたい

正直、このまま会釈でもして退室したい


そんな意思に反して身体を無理やり動かしていく。

油が注されていないブリキ、

錆び付いたような音がする動きになりながらもたどり着く


それでも殿下の座るソファーまで、

手置きの右横にまで足を進め


…片膝をついて殿下に目線を合わせた






「…御用命ですか?」


そんなはずもないのにな…


今までの話の流れ等全く関係なく、

俺は侍従として単に用を聞く振りをする。




…何も知らぬ存ぜぬ体で呼ばれたと考えるようにしたのだ。


そんなことを思っていたからか、

…頼み事かとお伺いの定常文をただ義務のごとく口から滑らせた言葉に、

座る殿下の眉間が皺を寄せていく変化を見取る




「…話の流れから携帯食料を食べても食事管理をしているとはならないことは分かっているな。

その上での発言、"出来ます"と言った言葉に本当に嘘偽りはないか?」


「…いいえ、虚偽の申告をいたしました」


「虚偽の申告をした侍従の末路は?」

「責ならば規定通りに…申し訳ありませんでした」


「で?」

「…食事管理を……お手数かけますが…よろしくお願い、いたします」



声も、

寒気を覚える身体の震えと共振するように震えていく


末路は?

なんて…酷く恐ろしい響きを放った言葉と、

言わねばならなかった台詞。

それが意味することを想像すれば、次第に恐怖心が増していく




「…はぁ、最初からそう言えばいいんだ」


「申し…訳ありません」

「懲りてないだろ…折角だ、能面が届いたら責を負って貰うか?」


「な…」


これだけ、やらせてまだ殿下は俺に追い討ちをかけるのか?

黙殺したくとも

しらばっくれたくとも正直に答えた


理性で必死に抗って自白しただろ…

謝罪もの意思は、

最初から膝を付いていることで示している筈


侍従の立場から、

抗うことが出来ないから…

それだけでここまで誠意は尽くさない。


そんな俺の人間性を、

知った上で…まだ足りないと言いたいのか?




「オニキスに仕えた一週間、あれはお前の贖罪の為。

その間…お前は主人である俺を、放置したも同然だな?」

「…その通りです」


「許可したとはいえ、その埋め合わせ分も一括で済ませた方が良いだろうと思いやっての提案だったんだ」



「左様で…したか」


…許可?

俺を思いやっての提案?


そのお心遣いのお陰で

俺はその一週間、

オニキスの怒りによって形成された針の筵に…

ずっと座ることになったんだ。





加えて毎日毎日薬の調合


それも苦手な薬を…飲みたくもない俺自身の為の薬を作らされ続けた

その行程で、

余計なことまで知る羽目になった…


貴重で高価だと名前と効能は知っていた、

俺自身も今まで何度も処方されてよく知っていると思っていた冬虫夏草が

あんなにグロいものだと認知することに…

それを乾燥させて、

加工して磨り潰して…調合して

飲ませられる俺の身にもなってくれ…


お陰様で確かにオニキスへの後ろめたさはなくなったが、

恨めしく思う気持ちも生まれかけた。



そう、

地下の懲罰房に戻された方がずっと楽だったんだよ

あんな形でのオニキスへの埋め合わせは…

とんだありがた迷惑だ。



…と、思っていれば

肘掛けから浮かせた殿下の手が俺の肩に置かれる




「おかしい、有り難そうに見えないが?」

「っ…そのよ…うなことは決して」



…確信を突かれたこと、

急に触れられたことによって

びくりと反応した体



「くくくっ…」


「…ぅ」


その俺のざまを見てか、

殿下は笑いだした…

此方の心情もお構い無しに笑う声が部屋に響く

反面俺の表情筋はひきつっていく…



「不満を抱く…なんて事はないだろうな?」

「…っ、恩情に感謝しております」



…不満は抱いている、

だからそんなことはない等と欺く言葉は返せない


オニキスに薬を作らされ続けたことも、

日に幾度も飲ませられる薬に逃げたくなったことも

…そして冬虫夏草の実態を知ることも避けたかった。

殿下のあの言葉がなければと、

この一週間…不平に思わないことなどなかった



「嘘をつくな。

不満だろう…顔に描いてある」

「…申し訳ありません」


「だが、異論は認めるつもりはない。

いくら見習いになって数日だとは言え、俺の侍従であるなら意向を有り難く拝命するのが当然…分かるな?」


そう言いながら


つぅ…と

肩から移動した殿下の手が俺の首筋を弄ぶように撫でる

膝を付いていることで、

残念ながらそうするに好ましい高さになっているのだ…


ぞわりと寒気…

そして鳥肌が立っていくのが分かる


…本当に何でこういうことするかな?

効果覿面なのは認めるが…

それに、良いな?と念押ししてくる殿下に否と言えるはずもない



「…っぐ、承知しております」


「ならいいよ」


承諾すれば

少しだけ空気が弛む…



コンコン…


「失礼致します」


「アコヤ、淹れてきたか?」


「はい」


そして救いか、

丁度アコヤが戻ってきた

…運ばれた紅茶を受けとることで、

なぶるように触れられていた手…

結果として俺の首筋から離れていったのだ



助かった…


余計な力が抜けて

音を立てないようにゆっくりと息を吐く

一足遅く、ビショップもオニキスにコーヒーを持ってきたようだ

サーブする姿を低い視界から何気無しに眺める




「アコヤ、監視は今より俺がすることになった。

今晩から明日1日は2食用意してくれ」

「…宜しいのですか?」


「構わない」


「本当に宜しいのですね?」

「しつこい、決めたことだ」

「…御随意に」



そんなに2食用意するのが負担なのか…

殿下に金銭的な負担をかけることを忌諱しているのか分からないが、渋々承るアコヤ



"殆ど癒えたのに"

と…

つい口から余計な一言が落ちる



刺さる視線に目をやれば、

ビショップがオニキスに薬箱を手渡している最中だったらしい。

が、

オニキスが薬箱に入れている手が止まっている…

見事に聞こえたようだ


勿論オニキスより近い位置にいる殿下も、

俺の声を拾えたに違いない。

その証拠に俺の視界の端で…

傾けていた紅茶のカップが動かなくなっている




「抜糸後も、杖の傷跡も経過良好。行水まで認めたが…まだそんな口を利くか」

「オリゼらしい…まあ、気になるならまた月曜日に確認すれば良い。

それに悪化していれば友人の手枷でも利用すれば良いんじゃないか、オニキス?」



「ビショップ、ご苦労」


「はい」


「で…マルコ、そういう問題でもないんだが?」


「信用ならないか、俺は傷を悪化させるような馬鹿ではない」

「くくっ、それはそうだな。

それとこれが食後の薬だ…要り用だろ?」


「そうだな」



そう言いつつ、

薬包紙に包まれた物を箱から取り出して一旦机に置くオニキス

そして滑らせるように、

向こうにやって殿下に差し出していく。


オニキスに貸し出されていた、

それが元の殿下の管轄に戻れば

薬の管理も引き継がれることになったらしい…




嫌だなあと思いながら殿下の挙動を見守れば

これまたそう返答しつつ、

包まれたそれを改めもせず掴み上げ

…そのままアコヤに手渡している姿。


食後に漏れなく給仕されるだろうそれの終着点

目で追っていた俺を見据えたアコヤの表情が、

…こちらを見る視線が険を帯びているようだった。




それもそうだ、

俺はとんだ見習いなんだから…



一週間主人を放置したも同然の見習いに、

良い感情を抱く筈がない事に。

そして入れられた反省室で失言をして、

恩情をかけられた身

その上それが不満だと顔に感情を出した俺…



そんな出来が悪い見習いの世話役になったがために…

何故か俺と主人が共に食事をとる手伝いをする形になった。

侍従が主人と席を同じにすることはない、

アコヤとしても許容出来ることでない筈だ


そしてそうなれば、

傍仕えであるのに格下の見習いの俺にも給仕することになる…

止めには薬の管理までしないといけない。



気に入る筈がないと、

まだ片膝をついたままの姿勢で…

その傍仕えの視線の圧に晒される道理を考えさせられることになったのだった…





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