光と闇はいまだ平行線
ふう。
もう王都は目前だ。
この町ではどんなことが俺を待ち受けているのか、楽しみだ。
しかし。
「あと半日か……」
「近くなりましたね」
「カイさんたちとの別れも近いな」
「そうですね」
馬車の中で話している。近くには敵もいないようなので、特に警戒していない。
アリスがこんなことを聞いてきた。
「そういえば、ジュンヤ君ってどこ出身なの?」
「っ!? ……ああ、すっごく遠くの村だよ」
「いま動揺したよね」
「どっ、どどどどッドウヨウシテナイヨ?」
「明らかに動揺丸出しだね……」
まずい、疑われてる!
軽く忘れかけてた設定だけど、俺はいまだに異世界人であることを隠しているんだった!
異世界人だってばれたら……からかわれるかもしれん。
異世界から転生した人間は何らかの特別な能力を有していることから、それを持たない俺は期待はずれだと言われるかもしれない。というか、異世界人だというだけで文化の違いや先述のチートなどのせいで嫌われる傾向があるのにここ最近気がついた。だから、何の能力も持たない俺が“異世界から来た”と告げることはリスクでしかないのだ。
そんな俺の辛い考えを全く知らないアリスはまだ聞いてくる。
「じゃあ、なんて名前の村から来たの?」
「すまん、それは言えない」
「え? スマンソレワイエナイ村?」
「違うから。でも、村の名前は言えない」
「何で?」
「いろいろあってな」
「……あえて聞かないことにするよ」
「そうしてくれ」
「せめて、どの地方から来たかは教えてくれない?」
「……東のほう。というか、東の果て」
「と、いうことは、アレスのさらに東にあるペルセウス王国かな」
「知らんなそんな国」
アリスの頭にクエスチョンマークがいくつか飛んでいる気がする。推測しないでくれ。
しかし、そんな逡巡もすぐに終わり。
「まあ、ジュンヤ君かっこいいからいいや」
「そんなこと言うな、照れるだろ……」
そんな可愛いこと言って推測をやめた。はあ、助かった。
「相変わらずラブラブだね~、お二人さん」
『ち、違うから!』
「それならそれでいいけど~」
チェシャ、お前は何を言っているんだ。俺とアリスがそんな関係なわけないだろ。あえて言うとすれば、ただの冒険仲間で、ただの友達だ。……そこで「それはガールフレンドじゃん。ヒューヒュー」とか言ってからかわないでくれ。
――ちなみに、アリスはこう思っていた。
(やだっ! 恋人同士だと思われたの!? ああ、何で否定しちゃったの、私。でも本当にどこで生まれ育ったのか気になるな。ジュンヤ君のお父さんお母さんにご挨拶したいな。そしてゆくゆくは結婚……えへへへへ)
――そのことを純也は知らない。
ん? いまナレーションが聞こえたような。俺が何を知らないって? まあいいか。
何はともあれ、目的地はすぐそばであった。
その目的地に見えざる闇が忍び寄っていたことは、まだ知らなかった。
**********
「いまこそ、魔王を復活させる時――」
「それはまだ早いんじゃないの?」
「――しかし、新たな魔王は頼りなさ過ぎる。人を殺さぬ魔族など、魔族ではない」
「まあ、それには同意するね。でも、まだ5年だよ? 時間が圧倒的に足りなさ過ぎるんじゃない?」
「ああ、現実的ではあるよな。だが、魔王様の意思はまだ我らの心の中に……」
「現実を見ようよ」
「話の途中で口を出すでない。さて、魔王様の意思は我らの心に残るゆえ、それを実行するのだ。いつか、魔王様が復活なされたとき、たいそうお喜びになるだろう」
「つまり、人類を滅亡させ、魔族の蔓延る大地を作り出すってこと?」
「そうだ」
「でも、魔王様はあの忌々しい勇者どもに殺された。もう復活することは……」
「甘いな。魔王様は死んだが、その因子はどこかに存在するのだ」
「それが?」
「その魔王様の因子――言うなれば魔王因子にしかるべき処置をすれば、魔王様は再びこの世に復活なさる。現に、魔王様はいままでこうして人類を何度も滅亡に追い込んだ。いや、その野望を決める以前から数々の野望をかなえてきたのだ」
「へえ、それは初耳」
「今の魔王は信用ならん。だから、いまの生温い魔王を暗殺し、新たな、我らの魔王様を復活させようぞ」
「できるの?」
「ああ、きっと、できるさ。まずは、手始めにこの町を壊滅に導こうぞ」
「あ、それはすごく現実的。乗った!」
「それでいい。実行は――」
「そこら辺は任せて。そういうのは得意だから」
「――……わかった。任せよう」
「へーい」
「すべては、我らが魔王様のために。魔族の栄光のために!」
「魔王復活プロジェクト、第一弾、始動!」
とある魔族たちの会話の一部始終である。その魔の手は着々と忍び寄っていた――。