始まる戦闘、幼女を抱えて
新章開始。
物語は急転する!?
その晩はもはや俺の親父といっても過言ではないマッチョウさんと酒を飲み交わした。いろんなことを話した。初めてのダンジョン攻略のこと、途中で会った強敵のこと、最後に出くわしたトラウマ、それで精神を病んでしまったこと。調子に乗って神様に自殺を止められたことまで話してしまった。
マッチョウさんは笑いながら聞いていた。それはさながら親子のようであった。
翌朝、騒ぎ声で目が覚めた。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」「おたすけぇぇ!」「ああ、神よ、ついにわれを見捨ててしまったのですか・・・!」
町中に鳴り響く悲鳴。爆発音が聞こえる。血のにおい・・・いや、戦場の臭いか!?なぜ?
マッチョウさんはいない。
俺に考える暇はなかった。俺は迷わず、剣を持ち、武装して、町へと――戦場へと繰り出した。
町はひどい有様だった。黒い鎧を着た男がいたるところにいる。俺は持ち前の影の薄さをフル活用して、その鎧の男たちを気づかれずに殺していく。
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金髪の少女がおびえている。鎧の男がその少女に迫る。
「ヒッ・・・!誰か助けてよ・・・!」
鎧の男は鉄の刃を少女に向けかまえる。幼き少女は無残にも切り殺される―――そのとき。
その黒い鎧の男は、倒れた。その後ろには黒髪の少年が立っていた。銀色に煌く刃は血に濡れている。
「大丈夫だったか?」
「う、うん。ありがとう」
「早く家に帰りなさい」
「ごめん、それはできないんだ。あたしは早くあそこに行かないと・・・」
「だめだ!」
黒髪の少年――純也は、一喝した。
「君のようなまだ幼い少女を危険にさらすわけには行かない!」
「だから行くんだ!ほかの人を犠牲にしないために・・・」
この少女は断じて譲らない。仕方がないので、純也は彼女を連れて行くことにした。
「ほら、乗りな。しっかりつかまれよ!」
「ありがとう。お兄さん」
純也はこの幼女――リリスをおぶることにした。
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俺は前へ走っていく。行き先は戦場の最前線。幼女を連れて。剣一本と魔法だけで敵を屠りつつ。全速力で。
そのうちにいつの間にか草原にたどり着く。そこは昨日通ってきたところとは思えないほどに、荒れていた。そこは戦場。血の臭い、雄たけび、死の気配。赤く、黒く、人々は戦う。
正直言って幼女には刺激が強い光景だと思う。俺でさえ軽い眩暈がするほど、グロテスク。鎧の首が飛んでくる。俺はそれを蹴ってどかした。
それよりも、早く、前へ、前へ、前へ!
しかし、戦場の先へ向かうにつれて、次第に人が増える。そこかしこで戦いが起こる。俺は目の前の敵だけを切りどんどん先へ行く。
そして、前には一際大きな悪魔がいた。見た目は角が生えた禿げたおっさんだが、強い力を感じる。
「あいつだよ!あいつのところに!」
「オッケー!どうなっても知らないからな―――!」
ラストスパートをかける俺たちの下に仲間が集まってくる。アリスを筆頭に、ユウや、カイ、ファイ、チェシャやラビ。
しかし、現実はそう甘くはない。
俺たちは目の前に現れた大量の鎧に止められた。囲まれた!
・・・さて、こうなれば当然。
「ちょっと、降りてくれ。ここは俺がやる」
「え?」
奥にまで黒鎧のやつが固まっている。こうなればいっせいに大量の攻撃を放てる俺が有利。
「ということで、何の準備もしてないけど行くぞ!魔法力強化。魔法強化・隕石!!」
鎧男の群れのど真ん中に特大の隕石が墜落。それが爆発し、群れの中には巨大な穴が開く。そして、それでも道をふさぐやつには斬撃を食らわせてやる。そして、道がふさがらないうちに、言う。
「お前らは先に行け!俺はここでこいつらの足止めをするから!」
うわあ、なんて見事な死亡フラグなんだ。とても自分が言った台詞とは思えない。
「うん。がんばって」
そしてなんて微妙な返し。この幼女、意外と冷酷なのか?
俺以外の仲間たちは俺を置いて、先に行った。くっ、薄情なやつらめ。
しかし、アリスが振り返って言った。
「必ず追いついてきてね!私たちは仲間なんだから!」
「おう!絶対追いつく!」
俺はアリスに手を振った。そうか。これは「俺になら安心して後ろを任せられる」という信頼なんだな。
さて、アリスとの約束を守るためにも・・・・・・まずはこの大量の敵をどうやって倒そうか。