帰還
それから二日たち、純也たちは帰還した。行きよりも早く到着した。
町は大盛況。お祭り騒ぎだった。彼はもはや町の人気者と化していた。
そんな大歓迎もそこそこに、純也は鍛冶屋へと向かった。
「久しぶりっす、鍛冶屋のおっちゃん」
「お、その声は。何ヶ月ぶりだ?とにかくお疲れさん。とりあえず、茶でも飲んで行きな」
「ありがとうございます」
「まあ、ゆっくりしてけや、黒い剣士さんよ」
二つ名呼びはもう気にしない純也である。
「で、用事は何だ?」
「ああ、例の杖のこと」
「あれか。あの、装備した人の魔力が跳ね上がる短杖か。そのためにアレーに行ったんだもんな」
「そうっす。作者ですらしばらく忘れてた解説ありがとう。ちゃんと世界樹の葉とかミスリルのインゴットとかも(金に物言わせて)買ってきたから、素材もそろった」
「あ~。それが・・・素材はもう少し少なくてもよかったみたいなんだ」
鍛冶屋のおっさんが申し訳なさそうに言った。
「・・・は!?」
「すまねえな。よくよく調べて見ると、数字がおかしくなっていたみたいなんだ」
じゃあ、今までの苦労の日々はいったい・・・。なんだか悲しくなってきた。余りの素材はどうしようか。金はもうすでに大量にあるし、売る必要はないな。・・・いや、今後の生活のことも考えて売っても良いのか?そもそも売らなければこの大量の素材は?ああ、わからなくなってきた!
しかし、それも取り越し苦労だったようだ。
「ああ、でも心配するな。余りの素材で剣も作れるようだ。今まで二本目は安物の剣を使ってただろ?これだったら性能がものすごく良いから長持ちする。今ならまけとくぜ。どうする?」
よし。
「じゃあ、それでお願いします!」
「へい、まいど!よっし、今から作るからちょっと待ってろ!」
そういって、鍛冶屋のおっさんは工房の奥に行った。あのいろいろとすごいひとのことだ。きっと良いものが出来上がる。
やっと安物の切れ味が悪い剣じゃなくてすごく性能のいい剣×2で戦える・・・!しかも魔力も上がる・・・!
期待しながら、待っていた。
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そして、3時間たった。
その間はしばらく街中をぶらぶらと散歩していた。冒険者ギルドの酒場に顔を出したり、そこで酒宴を開いたり。気づけばもう夕方である。
もうできたかなと工房に行くと、まだおっさんは居らず、代わりにバイトらしい青年が店番をしていた。奥から金属をたたく音がする。まだ作業中らしい。バイトの青年が話しかけてくる。
「あ、いらっしゃいませ―――あ、あなたはあのジュンヤさんですか!?」
「うん、いかにもそうですけど・・・」
「握手してください!あなたのファンなんです!!」
「え!?あ、いいけど・・・」
「ありがとうございますっ!」
彼は強引に俺に握手して来た。なんか腕がぶんぶんと上下に振られる。よくわからないが、俺のファンらしいな。増えてきたな、俺のファン。
「いつも噂をよく聞いていたのですが、こうして会うのは初めてですねっ!ああ、神よ!われに聖なる出会いを与えてくださりありがとうございますっ・・・!感謝いたしますっ・・・!!」
涙を流して神に祈りをささげている・・・。俺ってこんな、会えた事で神に感謝されるような人間じゃないよ?どちらかというと、友達に「ああ、何だ、お前か」って言われる程度の男だよ!?
盛大に戸惑う俺。涙を流し跪き神に感謝する青年。鍛冶屋の店内はカオスな空気が流れた。
こんな空気を壊してくれたのは、青年のほうだった。彼はひとしきり神に感謝し終えたのか、立ち上がり、顔を上げて、こう言う。
「そういえば、親方からこんな伝言を預かっていたんでした。『完成は明日の朝になるだろう。それまでゆっくりしていな。フウウッ!ノってキタァァァァァ!』とのことです。うっかり忘れるとこでした」
「ああ、ありがとう。じゃあな」
そういって、俺は鍛冶屋を後にした。
さて、早く帰って寝よう。旅の疲れで足がパンパンなんだ。