過去、そして未来
冒険者ギルド。ここにはあまり人はいなかった。酒場を併設しているわけではないので、そんなににぎわってはいないのだ。だから、ここでは気兼ねなく話せる。
「ふう、疲れた。あんなに注目されるとは思わなかった・・・」
「そりゃそうさ。今まで引きこもってたんだからな」
俺が引きこもっていた間、アレーのダンジョンラスボス討伐のことは一気に広まっていた。いまだかつて無い大量の犠牲。相対的に「残された彼らはとんでもなく強い」というイメージが染み付いてしまった。しかも、俺は16層ボスを少人数で撃破したことや、それ以前は一人で連日完全踏破し続けていたこと、人付き合いが悪く無口かつ無表情なところなどのせいで、“彼は強いが、孤独を好む無感情な謎の多い人物”というイメージが定着。そして、伝わる間にだんだんイメージがずれていって、今に至るということらしい。
実際そんなこと無いのに。感情ならあるし。確かに一人でいるほうが好きではあるけど。
「で、今では立派なダークヒーロー扱いだよ。まあ、有名人なんて、そんなものさ。気にしないほうがいいよ、“悪夢の体現”のジュンヤ君」
「そうさ、気にすんな。俺たちも変なあだなつけられて大変なんだ。みんなそうだ。だから悩むのはやめとけ、“闇に舞う暗殺者”のジュンヤ」
「ちょっと待て、二人まで俺をからかわないでくれ!」
俺の精神のライフが削れていく!
そこで、ギルドの受付のお姉さんに呼ばれた。
「あ、すみませーん。“暗殺王の再来”ジュンヤさん、ちょっと来てもらえますか~」
え、もうギルドでも二つ名つけられてるの!?
とりあえず、受付の元に向かう。
「ああ、こんにちは。お久しぶりです、ジュンヤさん」
挨拶した。よく見たら、仲間集めのときにお世話になった人じゃないか。
「あれからちゃんと生きて帰ったときは思わず亡霊かと思ったことが懐かしいですよ。自殺するつもりじゃないかって心配してたんですから。・・・ところで、サインくれませんか?“漆黒のアサシン”さん」
この人は俺のファンになっていた。・・・そんな物好きがいるとは。世界は広いな。
―――純也は知らない。もうすでに“ジュンヤ君ファンクラブ”なるものが結成されていることを。そして、その会長がアリスであることも・・・。
そんなことはともかく、俺はサインに応じた。
「ありがとうございます!大事にしますね!・・・・・・っと、すみません、話というのはそれではなく・・・」
まあ、そうやって感謝されるのはうれしいし、二つ名のことも気にしないでおくか。で、話ってなんだろう。
「ジュンヤさんにアレーダンジョンラスボス討伐、およびアレーダンジョン完全踏破の報奨金が入りました!王国政府より500万G、冒険者ギルド本部から150万G、アレー冒険者ギルドからは50万G。合計700万Gがあなたに報奨金として与えられます!」
なにこれ、今まで見たことの無い金額だ!ゴブリン大討伐のときは50万だったし、それでもだいぶ多かったけど、今回はそのさらに14倍だと!?まさかまさかの大金持ちデビューだ!!
やけに大きな箱が手渡された。トランクケースのようになっている。中には大量の札束が入ってた。これが700万・・・!
「ありがとうございます!」
「うふふ、いいんです。今後もさらにがんばってくださいね!応援してますから!」
「はいっ!」
そして、二人の元に戻った。
「何だって?」
「報奨金だって。700万」
「「700万!?」」
ライケンとフォリッジはやけに大きなリアクションで驚いてた。え?ライケンたちは同じことしてたんだし、同じくらいもらえてたんじゃないの?
「まじか・・・。俺なんて400万ぐらいだったぜ・・・」
「僕もだよ・・・。すごいね、ジュンヤ」
マジか!?何でだ!?・・・完全踏破報酬か。レッサーオーガ撃破以降も完全踏破しまくってたもんな。なんかすごい優越感。
「それはともかく、俺はエンテに帰るよ。今帰る場所はそこにあるから」
「そうか。エンテか・・・。・・・よし、俺もあそこに行こう。俺の友達がそこに住んでるんだ」
「ああ、ちょうど僕もそう思ってたとこだよ。お世話になった先輩がそこで暮らしてるんだ」
俺たち三人の意見が一致した。
俺たちは三人でエンテの町に戻ることにした。
いよいよ素材集め編も終盤。
このあと何もないといいけど・・・。