絶望、そして悪魔
純也はラスボスから紅の魔石を入手した。しかし、純也の表情は晴れやかなものではなかった。
何で俺だけが生きているんだろう。
俺のほかにも異世界転生者はいた。どう考えても彼らのほうが強くて、役に立つはずだったのに。
俺はダンジョンの階段をゆっくりと上っていた。生き残った6人で。
警戒はしていなかった。というより、できなかった。気を抜いたらそのまま倒れて死んでしまいそうだったから。比喩ではなく本当に。
いや、そのまま死んでしまってもいいかな。でも、報告だけはしなきゃ。死に場所はその後で探そう。この世界なら死に場所はいくらでもあるし。
ん?この世界?何かがおかしい気がする。そもそも俺は何でここにいるんだっけ。
まあ、そんなのどうでもいいや。
俺は何もかもがどうでもよくなった。
思い出せるのは血、肉、赤。頭に浮かぶは惨劇、恐怖、悪夢。
ただただ俺は階段を上がり続けた―――。
**********
しばらくたった。
俺は宿屋にいた。何も考えずに窓の外を見ていた。
宴会の声が風に乗って聞こえた。何も知らずに。あの惨劇を知れば、ああは騒いでいないだろう。
俺は誰も守れなかった。守る力がありながら。後悔が渦巻く。
守る力・・・いや、そんなのなかったな。何を思い上がってたんだ。馬鹿みたいだ。俺が殺されなかったのはただ単に殺すだけの価値が無かっただけなのかもしれないな。まさに虫けらだ。
自己嫌悪が最大に達する。生きる理由など何も見出せない。抜け出すことのできない闇の迷宮。それは心の中で広がり、すりつぶしていった。
夜は更けていった―――。
**********
宴会はいつの間にか終わり、朝になる。しかし、何をするやる気も起きないからと、純也は寝てしまった。
一方、その頃、エンテの町では―――
ぎゃあああああああ!!
いやあああああああ!!
助けてくれーーー!!
阿鼻叫喚だった。そこにいたのは悪魔。本物の大悪魔である。
「おい、リリスという娘を出せ!出さねばこの町を滅ぼすぞ!」
人を狙ってここに来たようだ。理由は不明だが。
ハゲ頭に長く大きな角を持つその悪魔は手当たり次第に魔法を撃っている。今のところ人には当たっていないが、それも時間の問題である。
そんな状況に変化が起こる。
「もう・・・うるさいなぁ・・・。何事だい?」
ユウが現れた。そして、
「何なの!?リリスは渡さないよ!絶対に!」
狙われた少女の姉、アリスが来た。
悪魔は魔法を撃つのを止め、彼らに対峙する。そして・・・・・・・・・突然表情が固まり、震え始める。
『え?』
数人の声がハモる。恐らくこの場のユウを除く全員は思っただろう。
その理由は、ユウたちの背後にいた、幼女にあった。
「おお、おはよう。ユウじゃないか。それにお姉ちゃんも。どうしたんだ・・・ん?」
彼女はその狙われていた少女、リリス。ウェービーな金髪に赤い目。そのちっちゃな体からは膨大な魔力と・・・悪魔を屈服させる威圧感が染み出していた。
「来ちゃ駄目だよ!戻って!」
アリスの忠告も聞かずに、彼女は悪魔に体を向ける。悪魔は「ヒイィッ」とあからさまに怯える。
「何なんだ?このハゲ」
「君を狙ってきたらしいんだよ。つれてこなきゃ町を壊すぞ~ってこといってた」
「物騒だな。よし、ぶっ飛ばしておくか」
ユウは状況を知らせた。リリスはそれを聞いてから悪魔に近づく。
悪魔の前に立つと、その細い足が光る。そして、そのまま―――
「とんでけー」
悪魔を蹴り飛ばした。それはきれいな放物線を描いて飛んでいった。恐らくこの大陸の外までは飛んでいっただろう。
一同は唖然とした。