戦いの予兆
俺の前には大きな石の扉があった。
両開きの、彫刻が施された立派な扉だ。
後、探索されてないのはここだけだ。
ここに魔石があるのだろうか。
石の扉を前に押した。
しかし、びくともしなかった。
(どういうことだ?)
押して駄目なら引けということで、石の扉を今度は後ろに引いた。
しかし、何も起こらなかった。
(・・・・・どういうことだ?)
5分ほど考えて、やっと思いついた。
(ああ、横に引けばいいのか!)
横に引くと、ガラガラと音を立てて扉は開いた。
どうやら引き戸だったらしい。
(さて、ここは何があるかな)と探索する。
見た感じは何も無い、固い土の地面が広がるただ広い部屋だ。
しかし、臭い。
焦げた肉と、血。その強いにおいを感じた。
あまり嗅ぎ慣れない――嗅ぎ慣れたくは無い、戦場の匂いである。
ついさっき、誰かが戦って、誰かが死んだ。それは確かだろう。
しかし、死体が無い。どういうことだ。
(・・・・・素材を剥ぎ取った後・・・・でも死体はある程度残っているはずだ。いや、ギルドに回収された後かも・・・・・・だったらこんなに匂いが残っているわけ無い。ついさっき戦闘が行われたような感じだし。じゃあ・・・・・考えたくは無かったけど・・・)
そこで、ひとつの可能性を見つける。
(もしも、ボスが死体を食べたのならば、そして、まだここに潜んでいるとしたら・・・・・!)
辻褄が合う。
そして、辛い戦闘の幕開けは近い―――否、もう避けられないことを悟った。
俺の直感が危険を伝えてきた。
新しく入手した魔力感知スキルの効果で、直後から迫ってくる魔力のエネルギーに気付いた。
とっさに体を横に傾ける。
そのすぐ後、ちょうど俺の頭があったところにエネルギーの矢が飛んで来た。
ここのボスは魔法も使うらしい。
すぐさま振り返り、剣を抜き、構え、警戒する。
現れたボスは、筋骨隆々の、頭に角を生やした、まさに鬼といったやつである。
一瞬、一ヶ月前に戦った、ゴブリンの亜種であるキンコツゴブリンを思い浮かべたが、違う。
あれには角は生えていなかった。
そこで、ボスは口を開いた。
「我は、レッサーオーガ。ここのボスだ。ここまでたどり着いた実力は認めてやろう。しかし、貴様の命運もここで尽きた。おとなしく我が糧となるがいい!」
こんな厄介なやつと戦うことになろうとは思っていなかった。
しかし、出会ったからにはやるしかない。
そして、戦いは始まった。