現実はいつも、残酷だ
長くお待たせしました。遅くなってしまい申し訳ありません。ここから読んでくださる方は思い出してくださりありがとうございます。
最終回まで止まらぬよう投稿しますのでよろしくお願いいたします。
しばらく歩くと、そこでは猛獣が跋扈していた。
鳴り止まない悲鳴。俺たちは救おうと手を伸ばすが――救っても掬ってもこぼれ落ちていく命。
赤く染まった地面には人とも魔獣ともつかないぐちゃぐちゃに踏み潰された死骸が転がる。
ここはまさしく悪夢の光景。
その中で、俺はひとつの肉塊に目を奪われた。
「ネーゴ!」
ためしに呼びかけると、それはぴくりと反応する。
「……彼女はまだ生きている。行くぞ!」
アリスに怒鳴るように告げると、俺は脚に強い力を込め、駆け出す。
しかし、すぐに俺は絶句した。
彼女の右腕と左足は引きちぎられていた。そこからは今も激しく血が噴出しており、さらに首筋やわき腹などに食いちぎられたかのような大きな傷。ところどころ筋肉が露出しており、あの美しく凛々しかった顔などは見る影もないほどに破壊されていた。
「あ、あ……じゅん、や、か」
見るも無残な姿の彼女は、声なき声で俺の名を呼ぶ。
「よくきた、な……時間が、ない。……よく……聞け……」
俺は全力で回復魔法をかけながら、叫ぶ。
「おい! ネーゴ! お前、そういうやつじゃなかっただろ! なにが“時間がない”だ!? こんなのただの冗談なんだろ!?」
「冗談、なら、よかったん、だけど……アタシ、もう、だめみたい」
「はぁ!? 馬鹿なこと言うなよ! もうだめだなんて……」
「本当は、わかってんだろ? アタシのマブダチなんだからさ」
……心臓を射抜かれたような気がした。
本当は、わかってた。自分の力では彼女を助けられないことを。わかった上で、それを否定したかった。
なぜなら、彼女はここではじめて出来た友達。短い間だが、ともに笑いあった朋友。拳を交わしたマブダチ。
失いたくない、特別な友達だったから。
「わかりたくなんて、ない……まだ生きていてほしかった……!」
頬が濡れていく。現実を否定するかのように、とめどなく目から雫があふれ出す。
「わかってくれ……わかりたく、なかったって――現実は、いつも、残酷だ」
どうしてなんだよ。
俺は、どうしてなにも守れないんだ。
己の無力な拳を地面にたたきつけた――そのときである。
「よく……聞け……マブダチ……」
ネーゴは俺に話しかけようとする。
黙って彼女のほうへ向くと、彼女はゆっくりと最期の言葉を紡ぎだした。
「お前は、強くなれ。何もかもを、守れるくらい……」
できるなら、そうなりたいさ。だけど、どうやったって……。
「お前なら、できるさ。……だって、アタシの認めた……唯一の、マブダチなんだから、よ」
本当に、できるのなら……なんて、ガラでもないことは考えないことにしよう。
「そんで……あと、失っても前を向けるくらい……強く、なれ」
……ああ。これも、できるかどうかなんてわかんないけど。
失ったものも、守れなかったものも……殺したものも……全部抱えて……それでも前を向いて、生きぬいてやる。
そして、彼女はか細く。
「最後に」
こう言った。
「……あたしの分まで、強く生きろよ、ジュンヤ」
ぼろぼろの顔面は、どこか微笑んでいるように見えた。
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「お別れは済んだの?」
「ああ。行くぞ」
そうして先に進むと、そこには。
「あっ、デストロイヤー……先生」
「デストロイヤー言うなっ!」
竜巻の前、ちょうど表彰台のあったところに、先生が横たわっていた。
体に多数の傷。だが、それもこれもそんなに深くはない。軽傷。
俺はため息をつきながら回復魔法をかける。
「ああ、お前たちか。助かった。感謝する」
「ええ。それはよかったです、デスト……じゃなかった。レニウム先生」
「で、先生。どうしてこうなったんです?」
アリスが聞くと、レニウム先生はため息をついて答える。
「……あの魔獣たちにやられた。あと、ラジウムという教師の流れ弾でも少しばかり」
「ああ、なるほど」
いまノアと交戦中の彼か。竜巻の中から剣戟と銃の音がかすかに聞こえてくる。
とりあえずここから避難させようとしたその時、ビー、ビーと奇妙な発振音のようなものが耳朶を叩く。
「なんだ、この音」
「ああ、あれだな」
そう言って、レニウム先生はポケットから一枚の紙切れを出す。
「これだ。通信魔術。遠くの人間と会話することができるという軍事用魔術……の応用だ」
なるほど、まさに電話だ。おそらく普及しているわけではないんだろうけど。
「とりあえず、応答してみてくれ」
「まあ、わかりました。……ところでこれどうやって操作するんですか?」
レニウム先生はまたため息をついて、俺に操作法を教えたのだった。
次回「セイカイ」