何度でも何度でも
吹き荒ぶ強風に守られし戦場。
竜巻の中では、鉛の銃弾と鉄色の閃刃が飛び交う。
「はははははッ!」
「くっ……!」
哄笑する男と、睨む少女。
その少女ノアは現在あまりにも劣勢であった。精霊の力を使わない彼女は、あまりにも無力だったのである。
風の力のないノアは銃弾の軌道をそらすことは出来ない。どうにかかわそうとするが、八割以上は当たっている。
才能はあっても使えなければ意味がないのだ。
また、銃使いの男ラジウムが獲物を変えたのもまた大きい。
「その手元のものはなんだ!」
「拳銃さ。片手に収まる程度の大きさだが、人を殺すのには十分すぎるほどさ」
懐に忍ばせていたそれは、先ほどよりも初速などが高く、当たったときの傷も大きい。
無力な少女にはあまりにも強力な武器。援軍はない。
少女は、もはや満身創痍であった。
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「なるほど……本当にひどい」
「ああ。人のすることじゃねーよ」
俺こと純也はアリスに夢の中で見た今の状況を語る。
あの闘技場には魔獣たちが解き放たれている。その下手人はラジウムという教師。俺を気絶させた男だ。
それによって、生徒たちは大量に殺されていった。
ラジウムとノアが闘技場の中心に渦巻く竜巻の中で今も交戦中。
というわけである。
「さて、これからどうする?」
「どうするも何も、助けに行かなきゃ!」
……やっぱ、そう来るよな。
俺は口端をゆがめた。
今なら、助けられる力はある。全部を救うことは出来なくても……。
もうすでに失われたものは取り戻せない。けれども、これからなるべく犠牲を減らせるように動くことは出来る。
「じゃあ、行こうぜ。俺たちなら、どんな困難だって越えていける。そうだろ?」
「えっ、初耳」
「あはははは……」
……一度言ってみたかっただけだったんだけどな。俺は笑ってごまかす。
しかし、アリスは目を細めた。
「でも、本当にそんな気がしてきた。一緒に行こう」
「ああ」
アリスが手を差し出し、俺はそれを握る。
俺たちは一度笑いあって、それからドアを開けた。
**********
そのころ。
テネシンは純也を狙撃した狙撃手を探していた。
「こ、ここにいるのはわかってるです……で、でてきなさい……」
「声が震えてるよー。腹から声出しなさいッッ!!」
「ぼげふっ」
ルミナの強烈な腹パンを食らってうずくまるテネシン。
「いだいでず……」
彼が涙目で訴えるのに気づかずに、ルミナたちはのんきに話す。
「でも、どうして見つからないんだろう」
スズの疑問に、どうにか回復したテネシンが呟く。
「嫌な予感がします……。そもそも、もともと、可能性は二つに一つだった……。こうでこうでこうだから……」
「ええっと、つまり?」
セレンが首をかしげると、天才策士は青ざめた表情でとても重大な可能性を告げた。
「……間違えたかもしれない、です」
『は???』
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「うう……。何度見ても気持ち悪いよね……」
「ああ。不謹慎かもしれないけど、確かに……」
目の前に広がるあまりにも凄惨な光景に、俺たちは二人で青ざめる。
闘技場に戻ってみると、やはりそこは地獄であった。
命の価値があまりに低く感じる。生命が冒涜的に抹殺されていく。壊されていく。
そんな光景に、俺はやはり嫌悪感を示すのであった。
しかし、その中でも、救える命が少しでもあるならば――。
そういって周りを見渡したそのときであった。
「誰か、たすけて」
か細く助けを求める少女がいた。
小等部の生徒なのだろうか。まだ幼い少女であった。
まずは手始めに彼女を助けよう。
決意して手を伸ばした瞬間。
突如、彼女の体が何かに貫かれた。
吐血する少女。俺は回復魔法をかけるが。
「効かない……」
それは、すなわち。
「……また、助けられなかった」
俺は深いため息をついて、うつむいた。
少女を殺した虫型魔獣がケタケタと笑うように近づいてくる。
俺なんかが人を助けるなんて、傲慢だったのか……?
蟷螂のような腕を振り上げるその魔獣。俺はそれでも自分を守るために剣を抜き――瞬間、その魔獣は爆散する。
「それでも、悲しんでる暇はない。そうでしょ」
「……ああ、そうだな。アリスは強いな」
俺を諭す少女の頭をなでると、彼女は顔を赤くして少し微笑んだ。
「えへへ……」
照れくさそうに笑う彼女は、俺の暗くなりかけた心を、あたかも暖かな暖炉の炎のように照らしてくれる。
――この光、失わせはしない。
決意を新たに、俺たちは歩き出した。
次回、「現実は、いつも、残酷だ」
執筆用のパソコンが壊れてしまい、続きを書くことが出来なくなってしまったため、しばらく休載させていただきます。次回更新は未定となりますが、なるべく三月中の連載再開を目指してまいります。
物語の続きを待ち望んで下さる読者様方に、作者として、お詫びを申し上げます。
最高の物語を描くよう、全身全霊努力いたしますので、どうか、純也たちの旅路の続きを期待してお待ちください。お願いいたします。