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覚悟しろ

 

 さて、どうしたものか。

 どうやら俺はまた死んでしまったらしい。二度目の人生は約半年ほどの短い命であった。

 いろいろあったなぁ。楽しかったなぁ。

 ……悔やんでももう遅い。

 もう、俺は死んでしまったのだ。

 しかし、何故なのだろう。はじめに死んだときとはずいぶん気持ちが違う。

 俺は今、どうして蘇りたいなどと思ったのだろう。

 前に死んだときはこんなことほとんど思わなかった。しかし、今はどうだろう。

 走馬灯のように、さまざまな記憶がまぶたの裏に浮かぶ。

 ああ、楽しかった。この半年が、空虚に過ごしていた十六年間よりも……格段に。

 出来ることなら、もう一度、苦しくも楽しいあの暮らしを、残酷で美しいあの世界を、楽しみたい。

 生きていたかった。いや、もう一度生きたい。

 希望が俺を突き動かす。

 身をよじらせ、ここから抜け出したいと足掻く。

 一縷(いちる)の希望に瞳を輝かせる中、モニターの画面が移り変わった。


 **********


 銃声が鳴り響く。

 放たれた巨大な弾は、あっさりと、風をまとった剣に弾かれる。

「畜生ッ!」

「僕にそんなのは効かないぞ! 覚悟しろ!」

 剣を差し向け叫ぶ少女。凛としたその声に、復讐者はつばを吐く。

「お前に俺の気持ちなどわかるまい!」

「確かに、僕にはお前の気持ちなんてわかりはしない」

「そうだろう!」

「だけど、お前のやったことがいいことじゃないのはわかる! 見ろ、この地獄を!」

 ――辺りは、もはや凄惨という言葉では片付けられないような、文字通りの地獄絵図。

 血と肉塊で彩られた地面に、鳴り響く悲鳴。今も命が散らされていく。

 それを形作るのは、未来があったはずの年若き少年少女の血肉であった。

「これが、お前のやったことだ」

「うるさい! 黙れ! 私は悪魔を殺せれば――」

「今、お前がその悪魔と同じことをしているということに、なんで気づかない!」

「――!」

 ラジウムは射すくめられたかのように目を見開いた。

「殺して、殺して、殺して――彼らの未来を、奪った」

「……それがなんだ!」

「お前がさっき言っていた、悪魔にやられたことと同じじゃないか。自分の苦しみを他人に味わわせたくないとは思わないのか!」

 叱責するノアに、ラジウムは黙り込み――やがて、笑い出した。

「ははは……ははははははは……ははははははははは」

「なにがおかしい」

「いやぁ、お前の言うことがあまりに幼稚でな……! 今は、自分の味わった苦しみを他人に押し付けるな? それをせねば成し遂げられぬことがあるのだよ!」

「幼稚なのはお前のほうだよ。そんなにも成し遂げたいことなら、ほかの方法を探ればいいじゃないか! それを探さずに、結果、残酷な出来事が起こった。お前はただ、殺戮したかっただけじゃないのか!?」

「だ、黙れッ!」

 男は青ざめた顔で後ずさった。

「大体、この殺されたゴミどもに生きる価値も意味もない……」

「誰がゴミだって? 生きる価値も意味もないだって? そんなわけ、あるはずがない!」

「黙れッ!! どうせ遅かれ早かれ死ぬ奴らだ! どうしたって俺の勝手だろう!」

「それは実に傲慢な考えだ! お前は自分が神にでもなったつもりなのか!? 笑止! お前も、僕も、お前や魔獣に殺された人々も、同じ人間だろう!」

「それがどうした! 同じ人間でも、俺は教師でお前らは生徒だ!」

「教師が生徒の命までもを好きにしていい道理なんてないだろう!」

「ぐっ……」

 ノアは叫び、ラジウムはさらに後ずさる。

 そして、ラジウムは口では勝ち目がないと感じたのか、銃を構えた。

「それでまた惨劇を繰り返すつもりなの? いい加減にしろよ!」

「知ることか! まずはお前を殺す!」

「……これ以上、誰も殺させない! シルフ!」

 呼ばれた精霊の少女は、一瞬でその場に現れ、ノアの目を見た瞬間にその真意を悟った。

「……わかったわ。でも、大丈夫なの?」

「ああ。必ず、彼を止めてみせる。リリスちゃんにもそう伝えて」

「私はいなくて平気?」

「うん。それよりも、魔獣を止めることに専念して。一人でも多くの人を救いたいから」

 シルフは、ゆっくりと頷いた。

「……死なないでね」

「ああ、もちろん。だれも殺しはしないよ」

「じゃあ、いくわよ。風よ!」

 シルフが叫んだ瞬間、向かい合うノアとラジウムの周りに風が渦巻き――たちまち巨大な竜巻が現れた。

 周りに被害を及ぼさないように。流れ弾で誰も殺すことがないように。そんなノアの配慮が生み出した、風の結界である。

「ノア……絶対に死ぬなよ……。――絶対に、殺せよ」

 リリスの呟きがその少女に伝わることはなかった。



 次回、「かすかな希望と――」

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