表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/184

夢の中で

 

 妙な浮遊感。

 暗い、宇宙のようなところ。

 ここは、どこだ。

「やぁ。久しぶりじゃのう」

 脳内に直接響く声。

「誰だ!」

 つい、声を荒げた。

「わしじゃよわし。ハデスじゃ」

 それでようやく、この声が自称神のクローンこと、ハデスの声であることを思い出す。

 俺は問う。

「何の用だ」

「いやぁ、慌てて伝えなければならない事が出来てしまってのう。夢通信がいつもより不完全ですまんな」

「いいんだ」

 というか、これが夢であること自体いま知ったのだが。なるほど、この浮遊感とかも夢だからなのか。

 何故か納得しつつ、続けた。

「で、話ってのはなんだ?」

「単刀直入に言おう」

 俺は息をのみ――――

「今度の武闘大会に出なさい」

「何故」

「そこに、運命を歪ませた犯人がいるようなのじゃ」

 正確には、犯人のうちの数人、だそうだが。

「じゃから――」

「そいつらを倒して、運命の歪みを正せってか?」

 ハデスは息を吐いた。

「話が早いのう……」

「正直、面倒くせえ」

 だが、それが俺の使命ってやつであるならば。

「それでもやるしかねえんだろ。わかってるさ、そのくらい」

「その通りじゃ」

 誰かがやらなければいけないこと。

 それをやるべき、最高のチャンスが、偶然――いや、もしかしたら必然だったのかもしれないが――俺にめぐってきた。

 ならば、それを逃すわけにはいかない。

「やるよ」

 俺が決意したそのとき、世界は歪みだす。

「あっ、もう夢通信切れそう」

 視界がぐるぐるして、酔ってくる。

 俺は悲鳴をあげ――。


 **********


「――ああ――ッ! はあっ、はあっ……」

 目を開けた。

 そこには、いつも通りの木製の天井。吊り下げられた魔導式のランプ。太陽光が窓から差しこむ。

 上半身を起こし、背伸びをしながら深呼吸。

「はあ……すう……はぁ……。ああクソッ、頭がガンガンする! 痛い!」

 何故だか苛立って、怒鳴り散らした。

 あの夢通信とやら、心身に結構負荷が掛かるらしい。

 どたどたと足音が聞こえた、そのとき。

「大丈夫ですか!? いったい何があったのです!?」

 ラビが部屋のドアを勢いよく開けて入ってきた。

「お、おう。おはよう……」

 俺はその勢いについていけず、とりあえず引き気味に挨拶する。

 それを見たラビは、ほっと息を吐いた。

「大丈夫そうでよかったです……。悲鳴が聞こえたので、何事かと……」

 そういうことか。

「ただ夢でうなされてただけだ。大丈夫」

 そう言って俺は微笑んでみせた。間違ってはいないし。

「それはよかったです……。とりあえず、そろそろ下に下りてご飯食べましょうか。学校の準備もしなくちゃいけませんし」

「え、もうそんな時間なのか!?」

「そんな時間ですよ」

 笑うラビのちょうど背後に掛けてあった時計の針は、学校の始業時刻およそ30分前を指していて。

「まずいじゃん!」

「あはは、そうですね」

「笑い事じゃないだろっ!」

「急いでご飯を食べて準備しましょうか」

「そうだなっ!」

 大急ぎで準備して、猛ダッシュで学校に向かった。

 チャイムが鳴る寸前に校門に滑り込めたのは幸運だったといえる。

 比較的陽キャじみているラビと圧倒的陰キャの俺が同時に教室に入る様は、クラスメイトから珍しがられていた。


「そういえばですが」

 珍しく、ラビが教室で俺とチェシャを呼んだ。

「なに~? いきなり呼びつけて」

「さっき、先生が話していた、武闘大会の話です」

 俺はどきりとした。

 理由は二つ。

 まず、今朝の夢でハデスが言っていた事だから。

 そして、二つ目。

「それ、聞いてなかったっす」

 ラビは溜息を吐いた。

「はぁ。ルールとかも話されてたんですが……。とりあえず、説明しましょう」

 ラビによれば、その武闘大会は、一つ、四人から六人のチームで行う団体戦とのこと。

 相手チームの全員にそれぞれ一定以上のダメージを与えることが勝利条件らしい。

 また、試合時間というものが決まっていて、その試合時間終了までに勝敗が決定しなかった場合、与えた総ダメージ量の高かったチームが勝ちとなる。

 なお、殺害は禁止となっており、もしもやった場合は、それが試合内外問わず、棄権とみなされるらしい。逆に、それだけで済んでしまうのが恐ろしいところなのだが。

「それで、本題なのですが」

 ラビが神妙な顔して俺たちに告げる。


「僕たちとアリスの四人、つまり、“ワンダーランド”の四人でその武闘大会に出てみませんか?」


「俺は賛成だ。だが、なんでだ?」

「賞金です」

「なるほど」

 こうして、俺たちは武闘大会への参加を決めた。


 **********


 深夜、純也たちの屋敷、地下隠し牢屋。最奥部。

 買い手である純也すらも知らなかった小さな部屋で、彼らは話していた。

「……ってことなんだけど、どうかな」

「いいね、それ」

「私たちでも勝ち目はあるし」

「こ、こんなボクでも、やれるかなぁ」

「大丈夫だよっ! できるって思えばなんでもできるからっ!」

 そこに響く足音。

「へぇ、こんなところがあったのか……。この屋敷、広いから探索し切れてねーんだよなぁ……」

 響いた独り言は、純也のものであった。

 五人は慌て、口をつぐもうとする。しかし。

「わー! まずいよまずいよ! 黙らなきゃ! 黙って! 静かに! シャラップ!」

「しー! あなたが黙って」

 一人が小声でいさめるも、時すでに遅し。

「うわっ! うるせーな……。この声は……ルミナか?」

「ほらばれちゃった――!」

「自分のせいでしょ!」

「ルミナと……あとアリスの声も聞こえたな。今の声は、この前話したスズだな。おーい、いるんだろ? 出てこいよ!」

「ああああ、見つかる――――!」

「いまのうちに逃げちゃおう! あっ、こんなところに運良く脱獄用の穴が!」

「ボ、ボクが邪魔なものをどかしておいたんです」

「セレンちゃんとテネシン! 二人ともでかした! いまのうちに逃げちゃおう!」

「なんでルミナが指揮取ってるのよ」

「いいでしょ!」

「いいから行こう!」


 そしてわずか数秒後。

「おーい……すごい騒がしかったのに……」

 純也が訪れたときには、誰もいなかった。

 食い散らかしたお菓子のカスなどは大量に残っていたが、それだけであった。

「で、脱獄用の穴ってのが、これか」

 完全に話は筒抜けであった。

「アリス、ルミナ、スズ、セレン、そしてテネシン。この五人が密談してたのか。というか、テネシンって誰だ?」

 純也にはその程度しかわからなかった。彼は思案した。

(何故、こんなところで密談していたのだろうか。何故、俺に見つかったとたんに逃げる必要があったのか。そして……)

 一体、何を話していたのだろうか。

 その謎は解けるはずもなく、純也は自分の部屋へと戻ったのであった。


 次回予告!


 純也とアリスが初めて恋人っぽいことを――「ま、まだ恋人じゃないから!」


 次回、「買い物デート」!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=258419453&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ