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手を取って

 

「おい、少しよいか」

「は、はぁ。なんでしょう」

「ここはどこだ?」

「……すみませんちょっと確認してきます」

 そう言って逃げていく人間を見ながら、不良のような風貌をしたヴァヴァコンガーは呟いた。

「これで何人目だ?」

「確か23人目っす。人間ってものすごい臆病なんすね。み~んな無意識的に恐怖してましたもの」

 ホームレス風の青年ヴェルオリは呆れたように後ろを見る。

 そこには、街灯の光をその何もない頭で反射させている、ビジネススーツという異世界の服を着た男、ハーゲンがいた。

 何度か登場しているはずの彼らは、魔族。そして、ハーゲンは悪魔である。

 彼らは魔法で皮膚の色を調整したり、魔法を使って角を人間には見えないようにしたりして、どうにか人間に擬態している。

「とにかく、早く飯を探さないといけないですねぇ。悪魔といえども、肉体を維持するためには食料が必要なのです。まして、魔族となれば、なおさら」

「だからそれを探すために連日探し回ってんですよ! 人間は頼りになんねーし……」

 尋ねるハーゲンに、ヴァヴァコンガーは溜息を吐く。

 そう、彼らは数日間何も食べていなかったのだ。

 ヴァヴァコンガーの話したとおり、彼らは数日間街中をさ迷い歩いていた。そして、その中で出会った人間は、(主にヴァヴァコンガーの迫力と、ハーゲンの隠しきれぬ悪魔オーラ的なものによって)ことごとく逃げていったので現在地や近くの市街地の場所がわからず、途方に暮れ続けているという状況だ。

「はぁ、さっきの人間とって食えば良かったっすね」

「その手があったか! しかし、最近の人肉は不味いらしいしな……」

「味なんてどうでもよくないっすかねぇ!? 僕たち魔族だし!」

「それも……そうか……」

 実際、魔族でも一部の食人種族を除いて人肉を食べる文化はない。無論ヴァヴァコンガーもヴェルオリも食べたことはないはずなのだが、もはやなりふりかまってはいられなかった。

 というか、二人とも空腹で思考がおかしな方向に向かっているようであった。

「どうするべきでしょうかねぇ……」

 ハーゲンが呟いた、そのときである。

「ん!? おやおや!? また知らない人がいる!」

 なにやら、やかましい声が聞こえた。

『飯ッ!』

 三人は叫び、近づいてきた人影に襲い掛かる。しかし、それは全ての攻撃をさらりとかわし。

「なになに? みんなこのルミナさんにホれちゃった? やだわ~照れるわ~」

 そんなことを言いながらくねくねした。

「およっ!? これはこれはもしや魔族とか悪魔とかそういうもんなんじゃないですか!? あら? 魔族? あと悪魔も? うわやべーじゃんかよ魔族とか悪魔とかめっちゃクソやっベーじゃんかよ! 襲われちゃうわキャー!」

 そのルミナという少女はそんな風にまくし立て――三人は魔法が解けて肌の色が元に戻っていることに気付く。

(しまった、うっかり掛けなおすのを忘れていたか!)

(効果時間が無限じゃないのは……いくら仕様とはいえ、面倒ですねぇ)

「だがしかしルミナちゃんはジユービョードーハクアイに生きる女の子! 意味はわかんないけど! 何はともあれ、そこの異種族の人、お困りのようですな。この私が話を聞いてあげようではないか!」

 そう言って三人に手を差し出すルミナ。

 ハーゲンとヴァヴァコンガーは黙ってヴェルオリを見た。

 ヴェルオリには他人の思考を読み取る能力があるため、相手に悪意があるかどうかを判別出来るのだ。

 彼は果たして――ルミナの手を取った。


 **********


 ところ変わって、俺の屋敷。夕飯の食卓にて。

「なぁ、アリス。あれって……」

「な、なんでもない! あれはなんでもないから……」

「……」

「……」

 俺たちは顔を赤くしながら黙り込んだ。

「一体、何があったんです?」

 あの場に居合わせなかったラビが聞く。

「あ~……。今日ね、クラスメイトのスズちゃんとセレンちゃんが来たのよ~」

「あの、度々ジュンヤのことを見ている二人組ですか」

「うん~。でね~、アリスが、自分のことを『ジュンヤくんの彼女』って言っちゃってね~」

「言わないで……恥ずかしいよぉ……」

 そういいながら顔を手のひらで隠し頭から湯気を出すアリス。本当に大丈夫なのか気になるところだがこっちもこっちで似たような状況なので何もいえない。

「すごい……なんともいえない雰囲気ですな」

「そうね~。ちょっとやらしくしに行きたいくらいね~」

「いや、もうやらしくするのも出来ない……。この雰囲気を壊す気にはなれないです……」

「ああ、尊い~」

 そんなチェシャとラビの会話が聞こえなかった程度には俺も戸惑っている。というか、もうどうしたらいいのかわからない。

 ともかく。

「ごちそうさまでした!」

 この混乱した脳みそと急速に鼓動する心臓を落ち着けるために部屋に戻ろうとしたそのとき。

 Tシャツのすそが引っ張られた。

 振り返ると、そこにはアリスがいて――。

「ねぇ、大事な話があるから……あとで、私の部屋に来て?」

 そう言ってアリスは駆け出し、自分の部屋へと戻っていった。

 俺は唖然とした。

 心臓の鼓動はピークに達し――俺も小走りで自室に戻るのであった。


 その後、リビングではラビとチェシャが「あ゛――――!」と悶絶して床を転げ回っていた。



「なぁ、話ってなんだ?」

 アリスの部屋。

 俺は尋ねた。

「……私、どうやっても治らない病気があったみたいなんだ」

 息を呑む俺を一瞬だけ見て、アリスは続けた。

「学校のクラスメイトに、こういう病気に詳しい子がいてね。調べてもらったんだ」

 一瞬、呼吸を整え、アリスは告げた。


「病名は、“恋”だった」


 そのあと紡がれる言葉を予想し……落ち着けたはずの心臓の鼓動は、また加速する。

 アリスは、赤らめた顔をこちらに向け――告白した。


「私と、付き合ってください」


 ――次回、「コクハク」

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